第28話 新米騎士爵は、海の家で異世界ファンに囲まれる。
「ラーメン、美味しいのじゃ! タケ、其方の焼きソバも分けて欲しいのじゃ!」
今は昼食中、朝行った海の家で食べている。
なお、女性達はパーカーなどを羽織っている。
「はいはい。では、こちらをどうぞ」
「タケよ。余にも分けるのだ!」
僕がリーヤに少し焼きソバを分けると、少年皇帝からも催促が来た。
「陛下、別に追加注文しますね。もう僕の食べるのなくなりますから」
僕は苦笑いしながら、店員さんを呼んで追加注文をした。
……しかし、周囲の視線痛いなぁ。
周囲の店員さんは流石に仕事中なので、こっそり。
しかしお店で食事しているお客さんや、周囲の観光客の視線は、はっきりと僕達に迫る。
「タケ、なにか今日は視線が痛いのじゃ!」
「確かにそうだな。まあ、余は気にせぬが」
「ごめんなざい、皆さん。皆さんが珍しくて注目しちゃうんです」
近付きたくても怖くて近づけないのだろう。
僕も異世界について詳しく知らなければ、そうなってしまっていただろうから。
……特にウチ&マユコさん組は美人さんばかりだもの。
「先日もそうだったけど、この国の人って恥ずかしがり屋さんなのね」
「そうですね、マム。今も皆さんとお話したくて困っているんです。でも僕達が異世界語で話しているから、どうしようと思っていると」
今、僕達は異世界共通語で会話をしている。
日本語では陛下に通じないからだ。
「では、余を気にせずに日本語で話せばよい。今回、余、いや僕はお忍び。害が無ければ良いよ」
「陛下、宜しいんですか?」
陛下は僕に、笑いかけながら自分を気にしないように言う。
「はい、私もいますからね。タケ様は皆さんと日本の方を繋いであげてください。大丈夫、こちらのスマホに翻訳アプリありますし」
今日は涼しいアロハシャツのアレク、自慢げにスマホを見せてくれる。
「はい、分かりました」
僕は言語を日本語へ変える。
「皆さん、まだ食べたいもの無いですか?」
「此方は、カキ氷をもっと食べたいのじゃぁ!!」
リーヤは日本語の大声で叫ぶ。
その声を聞いて、周囲の人達はびっくりしてザワザワし出す。
……だよね。まさか羽と角、尻尾生やした魔族の女の子が日本語話すとは思わないものね。
「なんじゃ? 此方が日本語話すのが不思議なのかや?」
「ええ、日本語は『そこそこ』難しいですからね」
リーヤは、小首を傾げて僕に問う。
その可憐で可愛げな様子に、ますます周囲が動揺する。
……その姿、大抵の男の子撃沈ですよ。
「そうなのかや? 聞いたり話すだけなら楽なのじゃ。漢字は難しいのじゃがな」
「そうそう、アタイも漢字はわかんないよ。話し言葉は楽なのに、文字の種類がいくつもあって多いんだもん」
「拙者も時代劇から勉強したので、読むのは苦手でござる。けれど、先日貰った漫画で楽しく勉強中でござる」
ウチの実戦部隊、全員日本語会話は出来るものの、読み書きは苦手らしい。
「わたしは、すぐに覚えられたよ。漢字も意味が分かったら、英語や共通語よりも文章の意味がすぐに分かるし」
「それはフォルちゃんがすごいのよ。わたくしは、大分苦労しましたわ。主語からして沢山あるんですもの」
「そこは英語圏のワタクシでも同じですわ。英語なら『I』と『You』で済むのが、何個あるのかしら。確か兄の呼び方で13個あるんでしたっけ?」
言語の天才なフォル、何かと凄いマム、そしてアニメから日本語を学んだキャロリン。
彼女達も流れで日本語で話す。
……キャロ姉さん、それは特殊なアニメ用語ですよ、ふつーは、そんなの知りませんって。でも聞いた話ですと、あの作品も英語版があるんだそうな。翻訳は、すごく大変なんだろうねぇ。
後から調べると、「おにいたま」が「bro-bro」だそうです。
「リタちゃんも最初大変だったよね。あの頃は、やっとドイツ語とアルフ神聖語が同じって分かった頃だし」
「うん、でも今じゃ日本語の方が話すの楽だもん。科学とか政治関係でも日本語の方が用語も多いしね」
「そこはあるかもなのじゃ。ワシも日本語を主に話し出して、面白さや奥深さに気が付いたのじゃ」
異種族姉妹も昔話をし出す。
聞くところによると、リタは最初念話中心で会話をしていたものの、ナナと一緒に過ごしているうちに日本語を覚えたんだそうな。
そして、日本で中学高校と通い、4年制大学まで学んだ。
その為に、母国語よりも日本語の方が得意になったとか。
「私も知らぬ間に日本語の会話は覚えましたのじゃ。日本とは今後とも長い付き合いになりますし、何より姫様の内緒話が気になりますのですじゃ。何悪巧みしておるか、分かりかねますので」
「えー! わたし、悪巧みなんてしないよぉ!!」
そして御付のルーペットも、主であるリタとの付き合いで日本語を覚えた。
内緒話が気になるというのも面白い。
そんなこんなで日本語でガヤガヤ話していると、店長らしい方がこちらの席に歩いて来た。
「あのー。もし宜しければ、皆様のお写真とサインを頂けないでしょうか? もちろんタダでとは申しません。皆様が当店で食事なさった分、朝のも含めて全部無料サービスと致します」
「えーっと、すいません。ちょっと相談しますのでお待ち下さい」
僕は、話が分からない陛下に説明をしてみる。
「うむ、構わぬ。ただ、余は皇帝では無い。僕はただの魔族の少年と言う事で頼むね」
少年皇帝はいたずらっ子っぽい顔をして、僕に話す。
「御意! あ、これも違いますよね。はいです!」
それから、マユコ達もいっしょになって僕達は一枚の写真に納まった。
なお、リーヤ、サインをひらがなで『りーりや・ざはーろぶな・ぺとろふすかや』と書きましたとさ。
……ひらがなで書くと、いつも以上に可愛いんですけどぉ。
日本語の場合、同じ言葉でも漢字、ひらがな、カタカナで雰囲気が変わります。
特に、女性文字として平安期から使われた「ひらがな」。
それは柔らかいイメージがあり、名前をひらがなで書くと、海外名でも可愛く感じてしまいます。
こういうのは、海外翻訳時に難しいですよね。
しかし、最近は日本のラノベ翻訳が盛んだとか。
世界的に原作不足の今、日本ラノベが注目だそうですよ。
「ワシも、翻訳に出資したいのじゃ! 世界に広がれラノベ文化なのじゃ!」
はいはい、チエちゃん。
それは作者も同じ思いですよ。
では、明日の更新をお楽しみ下さいませ。




