第26話 美幼女は、カキ氷で頭痛を起こす。
「これがカキ氷なのかや? まるで雪を集めたようなのじゃ! この赤いのはナニなのじゃ!」
まだ海の家が開店したばかりの朝9時過ぎ、眼についたモノを食べずにはおられない、ウチ&陛下の欠食児童共が、カキ氷に挑戦している。
お店の方も、とっても珍しい異世界からのお客を見て、おっかなびっくり。
日本語が通じているので、まだなんとからしいが、ナナ達含めて可愛い子達が多いので、そういう意味でも店員やお客方の目が僕達に集中している。
なお、僕は泳ぐ前からお腹を冷やしたくないので、温かいコーヒーを頂いている。
マユコ達家族・ルーペット&マムとフェア君・キャロリン・フォルにアレクは無難にジュースを飲んでいる。
……どうぜ、止めても分からないんでしょうから、現実に体験して頂いた方が良いでしょうねぇ。ここはちゃんと綺麗なトイレもあるから安心だし。
「赤いのはシロップですね。赤いからイチゴ風味でしょうか? 後、白いのは練乳。砂糖と牛乳から作られています」
リーヤ、カキ氷を前にして、どう食べたら良いのか分からないらしい。
スプーンを突っ込むも、口に入れる雰囲気が全く見られない。
「皆さん、これはとても冷たいですから氷が融けない程度のスピードでゆっくり食べて下さいね」
「こうなのかや?」
そう言ってリーヤはスプーンに救った氷を一口、口に含んだ。
「これはナニなのじゃぁ!! ただの氷では無いのかや? アイスクリームとは全く違うのじゃぁぁ!」
「だよね、リーやん。氷が滑らかで、地球人向けスーパーで売っているのと、全然違うね」
「うぉん!あ、歯に冷たさが響くでござるぅ!」
「うむ、ただの氷がここまでになるとは! 日本恐るべし!」
空気を含まず透明で、ミネラル分豊富な氷を専門の機械で削った一品。
値段以上に美味しいものである事は僕も知っている。
歯に染みたヴェイッコ以外は、どんどんと氷を口に含む。
しかし、そうなったら、後に起こるのは……。
「あ、頭がきーんと痛いのじゃぁ!」
「うん、あー痛いよぉ」
「なんだ、この痛みは! タケ、これは一体なんだ!」
リーヤ、ギーゼラ、少年皇帝は頭痛を訴える。
「陛下、大丈夫ですか? タケ様、これは一体!」
陛下の頭痛にうろたえる御付のアレク。
「皆さん、慌てて食べすぎですよ。最初に言いましたよね、ゆっくり食べて下さいねって」
僕は苦笑しながら、アレクや他の頭痛もちに説明する。
「冷たいものを急いで食べますと、喉の神経が刺激されるのと、頭に送る血液が増えて頭痛になるそうです。でしたよね、キャロリンさん」
「ええ、その通りですわ。個人差もありますから、無理はし無い方がよろしくてよ」
「そうなのかや。でもタケ。此方は、このカキ氷とやらが気に入ったのじゃ! そういえば他の色のものも見たのじゃ!」
頭を抱えながらも、なおも氷を口に運ぶリーヤ。
「確かに他の味のフレーバーもありますね。一般的なのは緑のメロン、黄色のレモンなどなど。練乳だけでなく、餡子を乗せたものも一部ではありますね」
「なにぃ! 何故それをもっと早く申さぬのじゃ! 全部持ってくるのじゃ!!」
僕がカキ氷のトッピングについて説明したら、興奮するリーヤ。
「はい、興奮するのは、そのくらいにしてくださいな。さて、リーヤさん。今日、僕達はココにナニをしに来ているのですか?」
「そんなの、海で泳ぐのじゃろ?」
頭痛に可愛い顔をしかめながらも、小首を傾げるリーヤ。
「氷は美味しいかもしれませんが、身体を冷やします。また海も夏とはいえ、水温は空気ほど高くありません。なので、海に入っても身体を冷やします。そうなると、どうなるのでしょうか?」
僕は、他の異世界組にも分かるように、異世界共通語で話す。
それをナナは家族に通訳している。
「身体を冷やす過ぎるというのは、……! あ、冬と同じになるのじゃ!」
「はい、正解です。リーヤさん、寒いのは苦手って言ってましたよね」
……寒がりな女の子が沢山お腹冷やしちゃダメでしょ。流石に今回は止めなきゃね。
「女の子達に言うのもなんですが、トイレも近くなりますし、体温下げるとお腹の調子も悪くなります。なので、今回は一個で我慢してくださいな」
「しょ、しょうがないのじゃ。タケがそういうのなら、今日の処は我慢するのじゃ。その代わり、近いうちにもう一度カキ氷を此方におごるのじゃ!」
「はいです!」
とまあ、海に入る前の「海の家」で早速ドタバタしてしまう僕達だった。
「タケシ君、僕以上に大変そうだね」
「はい、そちらは皆さんしっかりなさっていますから、良いですよね」
マユコの夫、マサアキは僕の肩をぽんと叩き同情じみた事を言う。
……パワーからしたらチエさんやマユコさん筆頭に非常識レベルだけれども、マユコさんはしっかりお母さんなさっていらっしゃるから安心ですよね。
〝母様はすごいのじゃ!〟
〝タケシ君、ありがとうね〟
毎度のごとく、僕の内心呟きに干渉する親子。
これ以上ややこしくなりたくない僕は、ため息一つついてこう言う。
「さあ、皆さん。今日の保護者はマユコさん達御家族です。皆様にご迷惑かけないように御願いしますね」
「はーい!」
妙に返事だけ良いウチの面子に不安が募る僕である。




