第24話 新米騎士爵は、科警研に行く。
「こちらの冷凍庫に飛竜の標本を保存しています。バラバラの方ですが、あまりに微細に砕けています上に種族の正確な解剖・骨格標本等がありませんので復元は不可能でしょう。ただ、薬物検査やDNAサンプルは採取できました」
僕は警察庁科学警察研究所に来ている。
ここは千葉県柏市にある国の組織、各県警の科捜研とは協力関係にある。
今回、僕ひとりで行くには不安だったので、一緒に科捜研の先輩になるマサト、そしてチエに来てもらった。
なお、リーヤは大人しくお留守番、戦乙女達に捕まって「尋問」中らしい。
「いってらっしゃいなのじゃ! 此方は、こちらでノロケておくのじゃ!」
……僕は、まだ警察での扱いは科学警察研究所所属なんだけど、肩書きだけで一度も来た事無いんだよね。
僕は県警科捜研から警察庁科警研経由で異世界の異界技術捜査室へ巡査の階級で出向した形になっている。
それが気が付いたら、半年弱で皇帝直属帝国保安官及び騎士爵・アンティオキーア伯爵令嬢婚約者となっているのは不思議な事だ。
……僕って巻き込まれ体質なのかなぁ。高貴な方々に気に入られて、どんどん立場が凄くなっていくよぉ。
「こちらは、もう一匹の標本です。頭部以外は破損が少ないので解剖などが行われています」
僕達は研究室の仕切りガラス越しに、解剖室を見る。
「IDタグは、どうでしたか?」
「今、データの読み取り中です。かなり高熱に晒されたので一部データ欠損しているらしく、データ読み取りには、しばらくお時間を頂けたらと思います」
僕達は、しばらく解剖しているのを見学して、応接間に移動した。
今回、研究所の多分中堅以上の壮年研究員が僕に丁寧に相手をしてくれている。
「僕に対しては、あまりお気を使わないで下さいませ。確かに異世界貴族の肩書きは貰っちゃいましたが、日本警察では巡査。この研究所所属のヒラ研究員でもありますから」
僕は歳上の研究員の方に悪い気がして、事情を説明する。
「はい、その辺りは既に聞いていますよ。ウチから若くして大出世した人が出たと話題ですもの。2領地の保安官になられたとまでは聞いていましたが、爵位まで貰われたのですか?」
どうやら僕の身の上は既にご存じ、研究職からの出世組として好意的に見てくれているらしい。
「昨日、飛竜退治チームを指揮するために、皇帝陛下から騎士爵、一代貴族の称号を貰いました」
「まあ、それはおめでとうございます。確かに日本では巡査、指揮権なんて無理ですよね。それを治外法権で覆す為に貴族になられたと」
さすが科警研の職員、どうして僕が騎士爵になったのかまで少しの会話から理解してくれた。
「で、こちらの方々、特にお子様は何方ですか? モリベ閣下のお供ですからタダモノでは無いですよね」
半分僕をからかいながら、興味わくわくの好意に溢れる眼差しでマサトとチエを見る研究員。
「こちらは、伊藤 雅人さん。科捜研の先輩で、今回の事件でもお世話になっています」
「○○県警の伊藤です。いつも業務でお世話になっております。今回は後輩の御付できました」
「あ、お名前は論文で見たことがあります。あのSNS捜査システムは興味深かったです」
マサト、既に警察研究者の間では有名人らしい。
僕も、色んな論文読んで勉強しなくちゃいけないなと思った。
「そして彼女が、……」
「ワシは、岡本チエじゃ。お主達が使用しているイルミネーターシステム等の開発者といえば分かるかのぉ」
「え、まさか貴方が!? でも、そのお姿は?」
チエを見て眼を白黒させている研究員。
今、チエはアニメ柄Tシャツにショートパンツ、ニーハイ、ポニーテールという夏の小学生女児って感じの外見。
給仕されたジュースを美味しそうに飲んでいる。
それを見て、数々の発見、研究・開発結果を生み出した才女とは思えないのもしょうがない。
……その上、真の正体がアレだもんね。
「この姿は余を忍ぶ姿なのじゃ。ワシの真の正体は、異界からの来訪者。魔神将なのじゃ!」
そして、ぼわんと煙を出して変身したチエ。
僕も二度目になる、その美しいお姿に感動する。
どこかリーヤの限界突破に似ているが、こちらがオリジナルなのだろう。
その姿は身長2m程度。
肌は青黒系、こめかみ部に2本のややねじれた短めのヤギ角、額に第3眼、顔や身体には意匠豊かな隈取がある。
背中には悪魔らしくコウモリの羽、1m程の尾は細長く先が尖っている。
そして、つややかで腰までの長い黒髪、やや釣りあがった金色の眼と端正な鼻、そして色気たっぷりな唇、八重歯とも言えなくもない牙。
「え! では、世界を救った女神様が貴方様なのですね。9年前はありがとうございました。私の部署も貴方様のおかげで命拾いした者が多いのです。あー、感動です! お写真撮って良いですか!?」
すっかり興奮状態で拝み倒す研究員に対し、すこし引き気味のチエ。
話によるとチエは教団や他の各所で「生き神様」として信仰をされているらしく、それが少し苦手らしい。
「ま、まあ。他所にデータを流さないという条件なら写真は構わないのじゃが……」
「でしたら、研究所サーバ内でしたら良いですか? こちらでも貴方様に直接助けてもらい信者になった者がおりまして。あ、すいません。その者達をココに連れてきて良いですか!!」
もう止められないくらい暴走状態の研究員。
この後、研究を放置して研究所内の全員がチエに会いに来るという事になり、イヤとも言えないチエは会議室を借りて全員と写真を撮ったり、お話ししたりした。
「こうなるのは想定外なのじゃぁ。作者のばかぁぁ!」
チエは意味不明の叫び声を出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「つ、疲れたのじゃぁ」
再び応接間に戻り、新しく入れてもらったアイスフロートソーダをへばりながら飲むチエ。
もちろん幼女モードである。
「お疲れ様でした。これで、研究もますます捗るかと思います。私も一生の家宝にさせて頂きます!」
逆に元気一杯の壮年研究員、結構いいお歳のはずだけれども、その眼は少年の輝きを失っていない。
……こういう人だから、研究も進むのかもね。僕も最初にチエさんに出会った時は興奮したし。
僕はマサトと顔を見合わせて苦笑いをする。
「チエちゃんは、何処でも人気者だものね」
「マサト殿ぉ。ワシ、好かれるのは構わぬのじゃが、崇拝されるのは重すぎるのじゃぁ」
そうこうして休憩をしている間に、応接間に内線が入る。
「あ、今連絡がありました。IDタグの情報が読み取れました。チエ様宛にデータをお送りいたしますので、再確認御願いします」
これで事件解決まで近付ければ良いなと僕は思った。
「こりゃ、ワシを弄んだのじゃな! 作者よ、簡単には許しはしないのじゃあ!!」
お怒りのチエちゃん。
でも、チエちゃん人気者の上に、有名人でしょ?
うかつに正体ばらしたら、こうなるのは予想していなかったの?
「うー! まさか警察内部に、ここまでワシのファンがおるとは思わなかったのじゃ! そりゃ、9年前には手の届くところで沢山人助けに救助はしたのじゃがな?」
そうやって縁を繋いで、人々を助けているのだから今があるんでしょ、チエちゃん?
「確かに以前よりもワシ、魔力がパワーアップしているのじゃ! 人の『縁の力』はすごいのじゃ!」
とまあ、人気者のチエちゃんでした。
では、次こそはリーヤちゃんの出番ですよ!
更新をお楽しみに!
「ワシよりもリーヤ殿を可愛がるのじゃぞー!」




