第23話 新米騎士爵は、事件の真相を推理する。
「遅くなってすいません」
「すぐ下なのに、遠いのじゃ」
僕とリーヤは、撃墜されて小河内ダム堰堤直下にある浄化センター前の空き地に墜落した2匹目の飛竜の元へ、自動車へ載せてもらい移動した。
……堰堤内の階段やエレベーターを使わせてもらえば直線移動だけれども、深夜だし無理せずに車使ったほうが早いもん。
「モリベさん、飛竜の死体はこちらに安置しています。現地での確認が終わり次第、警察庁科学警察研究所へ搬送致します」
「ありがとうございます」
僕は現場担当をしている鑑識の方に礼を言う。
……本当は僕の方が歳下で階級も下なんだけど、歳上の方に丁寧に扱われちゃったら困るよぉ。
「こっちは頭が無い以外は、そこまで損傷が無いのじゃな?」
「ええ、皆さんうまく攻撃なさってくれましたし」
本来なら全身こんがり焼かれた上に地対空ミサイルの近接爆発を喰らったら、戦闘機でも形があまり残らないはずだ。
しかし、強固な鱗は、それらの大半を弾き返していた。
因みに大抵の対空ミサイルは、対象が高速移動するので直撃を狙わずに近接信管による爆発範囲への巻き込みを狙う。
対戦車ミサイルなどの対地仕様や対弾道弾仕様のミサイルは、その運動エネルギーすら破壊力に利用するので、直撃を狙うのだが。
「どこかに何か証拠になりそうなものがあれば良いのですが?」
「でしたら、こんなものがあります」
鑑識の方が飛竜の死体の羽の付け根を指し示す。
「これはマイクロチップ型のIDタグですね?」
「はい、これが装着されていたという事は、地球の業者がコイツを異世界から持ち込んだという事になりますね」
飛竜の翼付け根部分が膨れており、そこに付いた傷から人工物が露出している。
「IDタグとは何かや?」
「元々は、兵士や漁師等身元不明になりやすい方の身元確認用に遣われていた物で、この小さな部品の中に所有者の情報が記載されています。犬猫とかの飼い主確認用にも最近では使われていますね。専門の機械で読み取れば、詳しい事はすぐに分かります」
僕はリーヤにIDタグについて説明した。
「つまり、これから情報が読み取れれば、飛竜がどうやって帝国から地球へ送られたのか、分かるかもなのじゃな?」
「はい、その通りです」
僕は、得意げに答えるリーヤの頭を撫でようとと一瞬思うも、周囲の眼を気にしてやめる。
僕の挙動に気が付いたリーヤ、
「此方を褒めるのは、宿に帰ってからなのじゃ! まずは情報収集なのじゃ!」
「はい!」
僕の仕事は、これからが本番だ。
……今日は、鑑識作業で徹夜かな? まあ、リーヤさんと一緒なら何でも楽しいや!
◆ ◇ ◆ ◇
「おはようございますぅ」
僕は、昼近くになって起き出した。
「あら、おはよう。昨日はお疲れ様でした」
マムは、機嫌よさそうに息子を保養所のロビーでをあやしている。
「他の皆さんはどうされましたか?」
「昨日戦闘に参加された方々は、先程まで皆さんお休みだったわ。因みに一番寝ぼすけだったのはタケね。まあ、戦闘後鑑識作業もしたのだからしょうがないわね。観戦なさった方々で帰宅なされる人はチェックアウト準備中よ」
ロビーには数名の方々が荷物を持って移動準備中。
近所の方は自家用車等で、遠方の方はチエ製作の転送門での帰宅になるそうだ。
……ホント、ご都合主義キャラだね、チエさんって。
〝ご都合主義で悪かったのじゃ! これは第四の壁の向こう側が悪いのじゃ!〟
僕の脳内呟きに頻繁に反応して、念話突っ込みをしてくれるチエ。
理解しかねる部分もあるが、今は好都合なので気になる事案を僕は聞いてみた。
……チエさん、今回の飛竜事件、どう見ますか?
「おそらく、地球の業者が違法輸入したのじゃろうて。まだIDタグの情報は、こちらにあがっておらぬが間違いあるまい。ただのペット輸入なのか、戦力としての輸入なのか、その辺りは調査が必要じゃな」
僕が声に気が付いて振り返ると、そこには寝不足っぽいが得意げな顔のチエがいた。
「チエさん、昨日はお疲れ様でした。ウチの子達のフォロー大変でしたわよね。ごめんなさいね、まだまだ、お子ちゃまばかりなのよ」
「いえいえなのじゃ。これでも楽しくやらさせてもらっておるのじゃ。最近、ウチの面子は賢く落ち着きだしたので、少し面白くなくなっておったのじゃ。バカでお子ちゃま結構! 新鮮で楽しいのじゃ!」
マムに僕達の不出来を謝罪されたチエであるが、逆に嬉しそう。
……人々の喜々とした感情が好物の魔神様、だからこそ自らの好奇心や楽しさも嬉しいんだろうね。
「その通りなのじゃ! ワシは皆が楽しく笑っておるのを一緒に楽しむのが一番なのじゃ!」
僕の内心にまた干渉するチエ。
まったくサービス過剰である。
「あ、おはようなのじゃ!」
もうひとりの「のじゃ幼女」も、眼を擦りながらロビーに来た。
「おはようございます、リーヤさん。ちゃんと眠れましたか?」
「まだ眠いのじゃ。贅沢言うのならタケに添い寝してもらいたいのじゃ!」
すっかり僕へ対する好意を隠そうとしなくなった色ボケリーヤ。
「そういう訳にもいかんでしょ。ご飯食べたら、事件の情報纏めて、後は観光の続きです。チエさん、今後の予定は?」
「大分、時間が遅れたのじゃから、今日はもう一晩こちらで休憩しつつ情報収集じゃ。明日は、朝から海辺へ移動して海水浴じゃ!! なに、事件があった分、陛下から休暇を延長してもらっておるのじゃ!」
チエによると、明日は海へ泳ぎに行くらしい。
更に皇帝陛下は、太っ腹にも僕達の休暇まで延長してくれている。
……陛下、自分が一緒に遊びたいからという気もしないでもなく。
「チエさん、僕達は水着の準備していませんが?」
「そちらは母様が既に準備済みなのじゃ。伊達に全員の身長体重、3サイズ確認しておらぬのじゃ!」
ご都合よく全て準備済みのチエ、非常にありがたい存在である。
「タケや、海水浴とは何じゃ? 海で何かするのかや?」
「海で水着着て泳ぐんですよ。チエさん、リーヤさんの水着はもちろん可愛いの準備済みですよね?」
どうやらリーヤは海でというより泳ぐという概念が無いらしい。
ポータム周辺以外は内陸の帝国、こと貴族内では泳ぐという事が無くても可笑しくは無いだろう。
「もちろんなのじゃ! リーヤ殿、可愛い水着でタケ殿を悩殺するのじゃぞ!」
「なに! 水着じゃと? どんなのじゃ! 可愛いのかや? 此方、地球の服は着心地良いし、可愛いので大好きなのじゃ!」
きゃっきゃと、はしゃぎ合う美幼女2人。
これは明日が楽しみだ。
「あら、タケ。貴方にはお昼からお仕事あるのよ。遊ぶ前に仕事してね」
「はいです!」
僕は浮かれながら、ブランチを食べるべくリーヤを誘って食堂へ移動した。




