第19話 新米騎士爵は、戦乙女達と語らう。
今、僕達は奥多摩湖畔ダム堰堤近くにある「奥多摩 水と緑のふれあい館」に陣を敷いている。
深夜12時ともなれば、人家が少ない周囲は真っ暗。
「ふう、荷物重いでござるぅ」
「ヴェイッコや、情けないのじゃ。一番重い機関銃は此方が魔法で運んだのに、しょうがないのじゃぁ」
へっぴり腰で武器を運ぶヴェイッコに文句を言うリーヤ。
「では、作戦会議をします。今回の作戦ですが、まずダム北方山中に居る飛竜を挑発し、ワナのある場所まで誘導します。この役をギーゼラさんとカンナちゃん、お願い致します」
「あいよ、タケっち!」
「はーい!」
僕は皆を集めて作戦会議を開始した。
元気に返事をするギーゼラとカンナ。
ギーゼラは、既に戦闘スーツに変化したカンナを装着しており、戦隊ヒロインブラックという感じだ。
「次は、ルナさん。この先にある『八方岩展望台』周辺に糸を張って蜘蛛の巣、ワナを仕掛けてください。そこで飛竜を引っ掛けて落とし、ふれあい館駐車場で仕留めます」
「了解! ふーん、タケシさんって良い作戦を考えるのね。コウタお兄さんよりは、じっくり構えるタイプなんだ」
ルナは、僕を興味深そうに見る。
ルナも既に変身済み、その姿は指先、舌先に糸を吐く発射口を持ち、お尻には蜘蛛の腹部、腹部に二対四本の短めの蜘蛛の脚。
しかし顔周りは、こめかみに小さな複眼と口元に八重歯っぽい小さな毒牙が見える他は変身前と同じスレンダー系美女。
手足やお腹が筋肉質で身に着けたスポーツ系ブラとスパッツが良く似合っている。
「あ、わたしの何処見ているんですか? わたし、そんなに胸大きくないのに。タケシさんのえっちぃ」
ルナは胸を両腕で隠しながら僕を茶化す。
「タケ! 此方が居るのに、何処を余所見しているのじゃぁ!」
そんな僕をリーヤが後から蹴る。
「リーヤさん、痛いですぅ。僕はリーヤさん以外とは何もありませんし、余所見もしませんからぁ!」
「あら、そうなんだ。ナナちゃん、リタちゃん。イイ事聞いたよね。これは後からリーヤちゃんを捕まえて尋問だね」
「うん、ルナちゃん。ボクも楽しみなの」
「ね、お姉ちゃん。わたし、今晩はリーヤちゃん抱っこして離さないよぉ!」
僕の「うっかり」発言に食いつく乙女達
マムは、僕達の後で苦笑している。
「コウタさんとナナちゃんも面白かったけど、タケくんとリーヤちゃんも良いわね。あー、わたしにもこんな可愛いカレシできないかなぁ。シンミョウ、貴方良い話ないのかしら?」
「わたしぃ、今度見合いしますぅ。父の友人の息子さんだそうですぅ」
他の皆と同じく僧衣では無く、戦闘ジャケットを身にまとう尼僧2人。
2人とも僕らを茶化しながらも自分の婚活について、こんな場所で話している。
「タケ! 何でこうなるのじゃぁ!」
女性達に囲まれて、からかわれているリーヤ。
僕に対して悲鳴を上げる。
「僕に言われても困るんですよぉ。皆さん、まずは作戦を優先してくださいよぉ!」
「はぁい」
笑いながら持ち場に着く戦早乙女達。
実に頼もしく可愛く、美しく困った人達だ。
「タケ殿ぉ。機関銃とミサイルが重いでござるぅ。手伝ってくだされぇ!」
1人、重機関銃等に押しつぶされそうになっているヴェイッコ。
「はい、ごめんなさい。今から行きます。すいません、リーヤさん。一時軽量化呪文とか無いですか?」
「しょうがないのじゃ!」
近くには駐在所があり、そこから初老の警察官が来て、僕達が乗ってきたマイクロバスの運転をしてきてくれた公安の方とお話しをしている。
また、徐々に警察、自衛隊の車両が駐車場に集まってきている。
ここ、奥多摩湖周辺は、キャンプ場などが点在し、山中にはツキノワグマすら生息しているほど自然が豊かだ。
「ここなら獲物も多いし、水場もある。飛竜が繁殖地として選ぶのには最適な場所ね」
「はい、マム。だからこそ、ここで退治をしないと危険です。彼らにはかわいそうなんですが……」
◆ ◇ ◆ ◇
「今回の作戦を指揮します、異世界帝国 異界技術捜査室のモリベ タケシです。今から作戦概要を説明いたします」
ヴェイッコや自分用銃座の準備を終えた僕は、警察や自衛隊の方々含めて他の方に説明をし始めた。
「すでに飛竜を追い込む囮とワナ仕掛けの2人は行動を開始しています。それ以外の方は、ここから遠距離攻撃でワナに掛かった飛竜を退治します。防御はシンミョウさんとナナさん。前衛にはカレンさんとマム。他の方は密集しすぎないように散開しつつ、基本的には一匹ずつ退治します」
僕は異世界&チエ組の皆に再度説明をした。
「警察は民間の方が戦闘区域に入らないよう警備御願いします。自衛隊の方々は、無理しない程度の攻撃で宜しくです。なお、ターゲットは既に人食いとなっていますので、捕獲では無く躊躇無く殺します。以上、質問はありませんか?」
僕は警察や自衛隊の方々にもざっと説明をし、質問を待った。
「はい!」
「では、カズミさん」
元気に手を上げたカズミを、僕は指名した。
「タケくんは、リーヤちゃんと何処まで行っているの? どうやらAは、やっているっぽいけど、Bはどう? Cは流石に、まだだよね?」
「ぶぅー!」
カズミからの予想外の質問攻撃に、口を潤していたお茶を思わず噴出す僕。
周囲の警察、自衛隊関係者も、ぎょっとして僕とリーヤを見た。
……あーん、僕ロリコン扱いされちゃうよぉ!
「げ、げほげほ。こんな時に一体何聞くんですかぁ!!」
「だってぇ、気になって戦闘の邪魔になったらヤダだもん。ネー、皆」「そうそう!」
「タケや、AとかBとかCって何なのじゃ?」
戦場の空気を台無しにするカズミ達戦乙女、そして言葉の意味がつかめないリーヤ。
「あー、もう皆さん! 疑問は戦闘終了後にちゃんとお答えします。ただ、先に言いますけれども、僕とリーヤさんは決してフシダラな関係ではございません!」
まだ「未遂」なのだから、僕達は「清い」関係なのだ。
そういう事になっている。
ああ、何も起きていないのだ。
……頼むから、これ以上追求しないでよぉ! この会話内容も中継されているんでしょ。陛下にバレたら大変なんだからぁ! それに警察関係者に聞かれたら、僕逮捕されちゃうよぉ!
「そういう意味なのかや。キスは確かに数回したのじゃ。此方からは3回したし、今日は嬉しい事にタケからしてくれたのじゃ!」
そんな僕の思いを踏みにじり、真っ赤な顔で正直に話すリーヤ。
「うわぉ!!」
騒然となる戦乙女達。
そしてとても冷たいジトメで僕を見る警察・自衛隊関係者達。
「もー勘弁してぇ!!!!」
僕の悲鳴が深夜の湖畔に広がった。
なかなか戦闘シーンにまで到達いたしません。
戦乙女達に囲まれて、遊ばれるタケ君です。
「じゃから、ワシ励ましたのじゃ。こうなるのは想定内なのじゃ!」
チエちゃん、忙しいのに楽屋裏まで来なくても良いですよ。
「じゃって、この話ではワシの出番無いのじゃぞ!」
もー、貴方はゲストキャラでしょ。
ホント、困った魔神さんですよ。
では、明日の更新をお楽しみに。




