第12話 新米捜査官は、宴会で皇帝の通訳をする。
「では、何処から行けば良いか、タケよ」
「そうですね。では、近くにいらっしゃる教祖様とご老人の席から行きましょう」
僕は周囲を一瞥して、一番格が高いと思われる人物を探した。
「教祖殿、今日は盛大な宴をして頂き感謝である」
「へ、陛下。誠にもったいないお言葉でございますぅ」
教祖の黒田、少年皇帝が自分が座る席まで来たのでびっくりして立ち上がる。
「良い、今日は無礼講だ。座ってよいぞ」
「は、はい」
大汗をかく黒田氏、陛下のオーラに圧倒されている様に見える。
……あれ、黒田さんって魔力持ちだよ。
「ほう、その方魔力持ちか?」
「はい、その為に悪行に身を染め、その際にチエ様達に調伏され身も心も救われました」
「陛下、私は黒田翔太と申します。この度は父が準備しました宴でご満足なされましたでしょうか?」
黒田の横に、彼に似た20歳くらいの青年が居て陛下に挨拶をした。
「ああ、楽しませてもらって居るぞ。その方が教祖殿の子息か。うん、横に居るのが守護精霊だな。親子共々見事なり」
青年、ショウタの横にはウンディーネというかセルキーというか水系の精霊の女の子が待機している。
……なるほど、この教団でカンナちゃんを保護していた理由がこれだね。これだけ自我がはっきりしていて強い精霊と一緒にいるんだもの。
「マリを褒めて頂きありがとうございます。今は姿を隠していたのですが、流石陛下でございます」
……主従が笑いあって揃って頭を下げているのが可愛いや。
「今回は、日本にお越し頂き、ありがとうございます。私は引退した身ではございますが、かつて政治に係ったものです。今後とも帝国とは良しなにさせて頂けたらと思います」
おそらく80歳くらいだろうと思われる少し弱った老人、内藤広重。
地元の資産家&政治関係者だとか。
「祖父はもう引退しており、今は私が後を引き継いでおります。これからも宜しくお願い致します」
たぶんナナと同世代の青年男子、しかし魔力量がヒト族にも見えない。
まるでチエと同じくらい。
「和也殿は事情があって、魔神族の身体を持って居るのじゃ。まあ、ワシの舎弟じゃな」
「チエちゃん、辞めてよぉ。イイ加減僕も大人なんだからぁ」
いきなり現れてカズヤをおちょくるチエ。
彼女の周囲には非常識しか無いのかもしれない。
その後、そこに居た各界関係者と政治的な話をした。
警察上層部の方とか医療関係、考古学会の先生とか。
「あれ、リーヤさん。ずいぶんと大人しいね?」
「此方、ヒト族の年齢が良く分からん時があるのじゃ。先ほどの席の方々の大半は老人や壮年なのじゃろ?」
……なるほど、相手の年齢が分からないと話題も分からないんだよね。
「そういう時は、にっこりと笑っていたら良いと思うよ。リーヤさんの笑顔はステキだものね」
「タケや、恥かしい事を言うで無いのじゃ」
リーヤ、お酒を呑んでいる訳でも無いのに顔を真っ赤にした。
「タケ、リーヤを可愛がって惚気るのは、自分の席に帰ってからにしてくれぬか。余まで恥かしいぞ」
少年皇帝も、白い顔が赤く染まっていた。
「は、はいですぅ」
◆ ◇ ◆ ◇
「マユコ殿、先日は助かったぞ。また昨日から世話になりっぱなしだ。其方の子等にも以前から随分と助けてもらっておる。本当にありがとう」
陛下は、マユコには皇帝としてでは無く、友人の母へと感謝の言葉を述べた。
「いえ、良いんですのよ。困った時はお互い様、陛下にはバカ義理息子がご迷惑をおかけしちゃってますから、その代わりですの」
「えー、マユ姉ぇ。俺、今回はそれなりに頑張ったぞ」
「でもコウ兄ぃは普段がダメだもん」
「コウお兄ちゃん、ずぼらすぎ。ね、アンズちゃん」
「うん、リタお姉ちゃん。コウタ兄ちゃんはもっとしっかりするの」
「おいおい、皆、コウタ君を虐めすぎだよ。ただでさえ、ウチは女性が多くて男は僕とコウタ君だけなんだからね」
ここはコウタの家族の席、すっかりとコウタが弄られている。
唯一、マユコの夫、ナナやアンズの実父マサアキがコウタを庇っている。
「そうじゃ。まだまだ人生半分なのじゃ。コウタ殿には更なる修行を準備するのじゃ。朧よ。準備するのじゃ」
「御意!」
……魔神の作る特訓コース、知りたいような知りたくないような。
〝タケ殿用には今度準備しておくのじゃ〟
内心の呟きにまで突っ込んでくる魔神、実に困る。
「なあ、朧さんや。ワシも少し参加したいのじゃが……」
「正蔵さん、貴方おいくつになったのか忘れたのかしら。もう90近いんですよぉ」
「だってぇ、ウタさん。最近、誰もあそんでくれないんだものぉ」
とても90近くには見えない老夫婦がお互いを窘めあっている。
そして2人の放つ魔力は絡み合い、とてつも無い量となっている。
これがマユコの両親にしてコウタやナナの祖父母である。
……この親にこの子、この孫ありという事ですね。十分バケモノ級です。
「父さん、年寄りの冷や水って諺知っているよね。言いたくないけど、棺おけに半分以上脚突っ込んでいるんだから、優雅に老後送ってくれよぉ。もう9年前みたいな事は起きないんだから」
「そうでございます。御爺様にはもっと長生きしていただきたいものです。リタ様には、数少ない家族でございますし」
マユコの兄、カツヤが苦笑いしながら話す。
そこにルーペットも同意している。
……この家族だからこそ、コウタさんは立派になったんだね。幸せな家族、見せてもらってありがとうございました。
「リーヤちゃん、今晩も一緒に寝ない? ボク楽しみなの」
「えー、お姉ちゃんはコウ兄ちゃんと一緒じゃないのぉ?」
「リーヤお姉さん、先日はお話できずにごめんなさい。わたしはナナお姉ちゃん、リタお姉ちゃんの妹のアンズです。宜しくお願いいたします」
3姉妹が姦しくリーヤを囲って話している。
「ナナちゃん、わたし達にも紹介してよぉ」
「そうそう。可愛い女の子は皆で共有しなきゃ」
「お風呂でも抱っこしたけど、詳しい話聞きたいし」
ナナの友人と思われる妙齢の女性達がリーヤを囲む。
すごい巨乳な女性に、女優真っ青の美人さん、スポーティな短髪美女に、これまた良いものをお持ちな小柄お嬢さんに、お供に不死鳥を従えた可愛い長身女性などなど
「ちょ、いきなりで困るのじゃ。タケ、助けてなのじゃぁ!」
「あら、チエちゃんと似た話し方だけど可愛いのぉ」
「悪うございましたのじゃ。ワシはひねくれモノじゃからな」
女性達に一斉に囲まれたリーヤは、僕に救いを求める。
……うん、僕では無理だよ。このパワフル乙女達には勝てるはず無いじゃん。
「ごめん、リーヤさん。僕では無理です。チエさん、宜しく御願いします」
「任せておけなのじゃ。リーヤ殿悪いようにはしないのじゃぁ」
「タケのバカぁぁぁぁ!!」
僕はリーヤの悲鳴をバックに次のテーブルへ移った。
……がんばれ、リーヤさん!
すっかり人気者のリーヤちゃん。
暫くはお姉さん方に捕まってしまいました。
まだ続く宴会シーン、明日の更新をお楽しみに。




