第11話 新米捜査官は、宴会で料理を堪能する
「どれもこれも、美味しいのじゃ。どうしてなのじゃ、旨すぎなのじゃ。此方幸せなのじゃぁぁ!!」
リーヤ、料理のあまりにもの美味しさに半分泣きながら笑っている。
「良かったですね、リーヤさん。これがプロの料理。僕ではとても出せない味です」
僕も久方ぶりの日本宴会料理を堪能している。
……あー、美味しいよぉ。そろそろ冷酒貰おうかな。麦酒は最初は美味しいけど、炭酸でお腹膨れちゃうんだよね。
「タケよ、これはどのようなモノなのか。一体何から作られているのか余では分からぬ」
少年皇帝、こわごわと一品ずつ試し食べをしては感動をしている。
今日も毒見の必要が無い上に給仕も宴会会場のスタッフが行ってくれているので、御付のアレクもゆっくり食事を堪能している。
「陛下、それは茶碗蒸しにございます。卵と出汁をあわせた液の中に少し塩や味醂、一種の料理酒を入れて蒸気で蒸した一品でございます」
茶碗蒸しは、まだ僕も挑戦をしていない料理だ。
後からレシピを確認したところ、出汁を卵の3倍程入れて濾すのが、滑らかな茶碗蒸しを作るコツらしい。
「このふよふよしているのは、プディングに似てはいるが甘くない上に鶏肉などが入っていて上手いぞ。これはタケが良く言っているダシのうま味なのだな」
「はい、その通りでございます」
中の具材を一品ずつ堪能する少年皇帝。
緑色の大きな豆らしきものを見て一瞬躊躇する。
「タケ、これは?」
「銀杏と言ってイチョウという樹木の種です」
僕はスマホでイチョウと銀杏の写真を陛下に見せた。
「ものすごく栄養がありまして、食べ過ぎると身体に悪いくらいのものです」
「ふむ、では一個なら……」
「はい、美味しく食べられますよ」
ふむ、という顔でぱくりと食べる陛下。
幸せな顔をして味を堪能している。
「フェア、美味しい?」
「はい、おかーたまぁ。あまくてしょっぱくておいしいのぉ」
フェアの前には、子供向けプレート。
俗に言う「お子様ランチ」が置いてあり、フェアは口をケチャップで赤くしながらニコニコとご飯を食べていた。
……お子様ランチのチキンライスの上には通常国旗が置いてあるけど、今回は帝国旗と日の丸が一緒なのが芸が細かいや。
「フェア、その赤いのはなんじゃ? 此方にも一口……」
「リーヤ、貴方はウチのコから食べるもの取るのぉ!」
リーヤはチキンライスが気になるも、その要求をマムに止められる。
……マム、ちょっと目がすわり気味なんですけどぉ。
マムの前には白ワイン、確か甲州の名品の瓶が置いてあり、半分ほど呑まれている。
「ま、マム。冗談じゃよ。フェア、お姉ちゃんが悪かったのじゃ。存分に食べるのじゃぞぉ」
マムの気迫が怖くなったリーヤは自分の前の料理を食べる。
「タケや、これはエビの揚げ物じゃろ。なんでマヨネーズがかかっておるのじゃ?」
「まずは、食べてみてくださいな。そうすれば理由も分かりますよ」
だいぶ扱いが慣れた箸でエビマヨを摘むリーヤ。
ちいさなお口で一口に齧りついた。
「これは、エビのぷりぷり感とマヨネーズのまろやかさが合うのじゃ!」
「でしょ。日本のマヨネーズは卵黄だけを使っていますから、コクが違うんです」
よく異世界モノで稼ぎ策として使われるマヨネーズ、これが実は難しい。
日本の様に完全に無菌洗浄した卵でないと、サルモネラ菌に汚染されていて食中毒の危険性がある。
「そういえば、ポータムでもタケはマヨネーズはスーパーで買って来た物しか使わぬのじゃな」
「ええ、日本製の味が良いのもあるのですが、自作は食中毒の危険性も高いですからね」
鳥類には一個しか排出口(総排出口)が無く、糞、尿、卵、精子は全部同じところから出てくる。
そして鳥類の消化器官内にはサルモネラ菌が腸内細菌として存在している。
だから卵表面にサルモネラ菌がついていて当たり前なのだ。
「卵に毒があるのかや?」
「この場合は、毒を出すバイ菌が居るかもという事です。マヨネーズは、沢山のお酢と塩を入れて殺菌と調味をしていますが、加熱殺菌をしないと絶対安全でもないし、日本産ほど長持ちもしないんです」
……僕は捜査室でバイオテロをする気は無いからね。
「タケっち、アタイたちにも料理の事を教えてよぉ。なんでも美味しいんだけど、何か分からないから後から買ったり出来ないの。」
「そうでござる。拙者も知らぬものばかりでござるぅ」
「えー、わたし全部分かるよぉ。あー、お寿司にお吸い物美味しいのぉ」
「ワタクシも分かりますよ。タケ、こっちは任せてね」
横の席では、ギーゼラとヴェイッコが大騒ぎをしながら料理を味わっている。
幸い日本食に詳しいフォルとキャロリンがいるので放置しても大丈夫だろう。
「ギーゼラさん、ヴェイッコさん。ごめんなさい。詳しい事はフォルちゃんやキャロリンさんに聞いて下さい。僕は陛下のお相手しなきゃですから」
本当なら各席を回って新参者として挨拶をしたいのだけれども、今この席で通訳が出来るのはマムと僕。
日本語は僕のほうが間違いなく上なので、僕が今ここを動くわけにもいかない。
「タケよ、これで料理は一区切りか?」
「えーっと、品書きを見ますにまだ天ぷらとお吸い物、デザートがありますね」
僕はテーブルの上に置いてある品書きを見て、陛下に答える。
……あー、この神戸牛とフォアグラの組み合わせは絶品だよぉ。
「では、余が各席に挨拶に行こう。通訳をタケ頼むのだ。アレクは、ここに待機だ。疲れて居るのだろう。今日はゆっくりとして明日から頼むぞ」
「御意。ありがとうございます、陛下。お言葉に甘えさせて頂きます。タケ殿、陛下の事を宜しくお願い致します」
僕は陛下の言葉にびっくりして、頼んでおいた冷酒を急いでぐっと呑んだ。
「は、はいです」
「面白いのじゃ、此方も一緒に行くのじゃ!」
……なんか大変な珍道中になりそう。
まだまだ続く宴会シーン。
明日からは皇帝陛下と列席を回ります。
本来なら、じっと座っていられる立場なのに腰が軽いのは、陛下の凄いところですね。
では、明日の更新をお楽しみに。




