第9話 新米捜査官は、美幼女達を看病する。
「ふぅー、此方暑いのじゃぁ」
「ふぇあ、ごめんなさいぃ。わたくしダメなお母さんでぇ」
「ボク暑いのぉ」
「アタクシ、たまりませんですわぁ」
「拙者、辛いでござるぅ」
「へいかぁ、申し訳ありましぇん」
ここは保養所内、2間続きの和室である。
半分は女性4人、そして半分は男性2人に分かれて茹で上がった人達が寝ている。
「このくらいなら皆さん大丈夫よね。じゃあ、ワタクシは陛下のところに報告に行ってきますの。タケ、皆様の看護を宜しくね」
「はいです」
キャロリンは皆に処置を終えた後、部屋を後にした。
扇風機でゆっくり寝ている人を冷やしている中、僕はリーヤとマムの間に近付く。
「お2人とも気持ち悪くないですか? 経口補水液とか飲まれますか?」
「タケぇ、どうして暑いのじゃぁ」
「ええ、温めのお湯なのに、どうしてぇ」
2人の異世界美女はすっかり茹で上がっている。
「それはねぇ、元の熱量が違いすぎるって話なの。普通の浴槽と違ってお湯の量が多いし、どんどんお湯が入れ替わるからお湯が冷めずにずっとあるの。それで茹で上がっちゃうのよ。うぷ!」
マム達の横で同じく茹で上がっているナナ。
ふらふらしながらも、彼女は異世界共通語で2人に説明をしてくれる。
「で、そんな賢いナナさんはどうして茹で上がっているんですか?」
「だってぇ、油断していたんだもん。チエ姉ぇは胸揉みに来るし、横のクロエさんは久しぶりに会ったからって離してくれないんだもの」
ナナ、すっかり赤い顔でふーふーいいながら、僕のツッコミに対して異世界共通語で話してくれる。
「ナナちゃん、アタクシに分かる言葉で話してくださらないかしら。どうせアタクシの事を悪く言っているんでしょ。アタクシも昔ほど暇じゃないの。子育てもあるし、研究もあるの。アナタだって忙しくなったんだもの。久しぶりに会った時くらいオタク話したいのよ」
その時、ナナの横で寝ているダークブロンドのアラフォーっぽい白人女性が綺麗な日本語でナナに話す。
「あ、クロエさん、ごめんなさい。でも事実でしょ。クロエさんがボクを離してくれなかったから2人ともダウンしちゃったんだもん」
「それはその通りですけどぉ……」
クロエはアメリカの某国立研究機関の研究員、事件を通じてナナ達の仲間になった。
今は違うが一時期はチエの妹と身体を共有していたんだとか。
「まあ、皆さん今は無理に動かずにゆっくりなさっていてくださいな。夕食までにはまだ1時間以上はあります。その間に復活なさってください」
僕は、ここで一番分かる人が多い日本語で話した。
「タケ殿ぉ、拙者死ぬでござるぅ」
一番症状が重いヴェイッコ、今は点滴を受けている。
湯船の中で月見酒とかしていたのが悪い。
「キャロリンさんが点滴をしてくれているでしょう。後は経口補水液飲んで身体を冷やしてくださいな」
そして僕は言語を異世界共通語に変える。
「アレクさん、気持ち悪くないですか。水一杯飲んでくださいね」
僕は経口補水液のペットボトルを、同じく点滴を受けているアレクに差し出す。
「タケ殿、ありがとうございますぅ。陛下は如何なされていますか? あ、これ美味しいです」
ゴクゴクとペットボトルを空にしながら僕に陛下の安否を聞くアレク。
仕事熱心なのは分かるが、無理しすぎではないか。
……経口補水液が美味しいということは、かなりの脱水症状だぞ。アレ、普通は美味しく感じない味だもの。
「陛下は、今子供達と遊んでいますね。フェアくんだけでなくて、地球の子供達も数人いますので、彼らと仲良くやっています。フォルちゃんが通訳をしているので安心なさってください」
「そうですか。では、しばらくお言葉に甘えさせて頂きます」
ぐったりとしたままのアレク。
彼に僕は助言をする。
「アレクさん、日中も炎天下で黒い服を着たまま、水分あまり飲んでいなかったですよね。それで半分脱水症状なのに、湯船でゆっくりしていたらダメです。これは僕からの提案です。明日からは涼しい格好で水分を取りつつ仕事なさってください。明日は今日よりも暑いという気象予報ですから」
「え、まだ暑くなるのですか! はい、タケ殿の提案に従います。陛下のお守りは私がすべき仕事ですから」
僕はアレクの元から去り、リーヤの枕元へ移動する。
「リーヤさん、額の冷却材張り替えますね」
「おうなのじゃぁ」
僕は弱弱しく答えるリーヤの額に張っている冷却材を新しいものに変えた。
尚、ヴェイッコ以外は全員氷枕と冷却材、ヴェイッコは毛皮の関係で氷嚢と氷枕で頭を冷やしている。
「気分どうですか?」
「少しはマシになったのじゃぁ。温泉は気持ち良いのじゃが、凄く疲れるのじゃぁ」
僕はリーヤの額を撫でる。
「リーヤさん、結構無理しているから疲れが出たのでしょ。たまには僕に甘えてくださいな」
「そうするのじゃ。タケだいすきなのじゃぁ」
僕は一瞬耳を疑う。
「え、リーヤさん。今何を言ったのですか?」
「くー」
しかし、リーヤは寝息を立てだした。
「全く言う事だけ言って、僕どうしたら良いんですかぁ」
顔が大分ほてっているのを実感する僕。
リーヤの湯辺りが、まるで僕に感染でもしたようだ。
「あら、タケちゃん良かったわね。リーヤは随分悩んでいたようよ。タケちゃんと釣り合いが取れるグラマラスな身体で無いって」
マムは赤い顔で僕を茶化す。
「え、そんな事を悩んでいたのですか! 僕はリーヤさんとは便宜上は婚約していますが、そういう事は考えていませんから」
僕は魔神形体時のリーヤのメリハリのある体型を思い出して、更に頬が熱くなった。
「オンナノコは気にするものなのよ。ボクだってお母さんと良く比べちゃったよ。でもね、愛する人が大事にしてくれるのならそれで十分。ボクもコウ兄ぃに一杯愛してもらったの」
ナナは、赤い顔のままノロケ話をする。
……確かにマユコさんの方がナナさんよりもスタイルは凄いけど、笑顔は親子ともステキだよ
「あら、ご馳走様ね、ナナさん。わたくしもオロフェアには随分愛してもらったわ。だからね、タケ。今はどうか分かりませんが、将来リーヤを存分に愛してあげてくださいね。あ、今の幼女姿の間はダメよ。それとザハール様に納得させてからね」
マムも赤い顔で僕を温かく弄る。
……ザハール様を納得させるのが一番難しいんですけどぉ。中途半端にリーヤさんと『そういう』関係になったら、娘を傷物にしたって殺されそうだもの。
「そこのボーヤが、悪魔っ子のカレシね。異種族恋愛は大変だけど、がんばるのよ。後でおねーさんにいろいろ聞かせてね」
クロエは赤い顔でにやりとして僕を見た。
「タケ殿ぉ、なんまんだぶでござるぅ」
僕に対して手を合わせるヴェイッコをジト目で見ながら、僕は赤い顔を冷ますべく、冷えた経口補水液を飲んだ。
……あれ、美味しいぞ。僕も結構危なかったんだね。
すっかり湯当りしちゃった方々でした。
しかしリーヤちゃん、すっかり素直にタケ君に甘えます。
「実に良い傾向なのじゃ。何事も素直が一番なのじゃ。因みにワシは全ての欲望に素直なのじゃぁ!」
こういう所が魔神、悪魔なのでしょうねぇ。
では、明日の更新をお楽しみに。




