第4話 新米捜査官は、日本へ帰る。
「いつも遠くから見て居るが、通過するのは初めてじゃな!」
「ええ、そうですわ。わたくしも楽しみ。フェア、あそこから日本へ行くのよ」
「おかーたまぁ、ぼくたのしみぃ!」
僕達、捜査室一行は魔神将チエを先頭に、異世界門へと歩んでいる。
異世界門、ゲートは柱部分が真っ白な石状、高さ20m、横幅15mくらいをしていて、『門』の向こう側は虹色の「影」に遮られていて全く見えない。
「チエさん、貴方が『門』を開いたのですよね。なら、どうして地球側の『門』をあんなところに設置したのですか? ポータムのは既存のを利用したのは分かるのですが」
僕は以前から疑問に思っていた事をチエに聞く。
こういう大事には必ずチエが絡んでいるに違いない。
直接本人から答えを聞くに限る。
「そんなの場の勢いじゃ。あの時はワシも焦って居ったのじゃ。何せ、地球の到る所に異界への門が出来て魔物が暴れておったのじゃ。それを閉じる代わりに時空のゆがみを一つの『門』の形にしたのじゃ! まあ、力を込めすぎて常時解放形になってしもうたがな」
9年前の時空融合大災害、地球へは異界の門が世界中に展開され、多くの異界魔物が飛び出した。
僕の父は、魔物の一匹と相打ちになり亡くなったのだ。
「『門』をせっかく作るのじゃ。なれば、敵の親玉のいる星に繋ぐのは当たり前じゃろ。ちょうど過去に地球に繋がった事がある『門』があったので利用したのじゃ!」
ポータムにある異界門、チエが地球と繋ぐまでは数千年程休止状態だった。
ここ異世界惑星は、銀河単位の転送システムのハブユニットがある星。
各所に遺跡として別の星々に繋がっていた『門』が残っている。
「それで、地球側の『門』設置場所が海上だった理由は何ですか?」
「じゃって、何が出てくるか分からないのじゃ、街中では危険なのじゃ!。海上なら最悪、海に叩き落せば解決なのじゃ!」
分かったような分からないような説明をするチエ。
とにかく慌てて作業をした事は理解できた。
「さっきから、タケはチエ殿と何を話して居るのじゃ? 『門』は『門』と繋がって居るのじゃろ?」
リーヤは不思議そうな顔をする。
門についての基礎理論は理解しているのだろうが、設置場所については考えた事がないのだろう。
「ええ、その通りなんですが、地球側には元々『門』は無くて、今の話ですとチエさんが力技で作ったようなのです」
「そうじゃ、ワシが頑張ったのじゃ!」
チエは「無い」胸を張ってドヤ顔アピールをする。
その仕草が、どこかリーヤに似ているので僕はつい笑ってしまう。
「で、地球側の設置場所が海の上なんです。今からゆっくり見てくださいね」
「それは楽しみなのじゃ!」
僕達は「がやがや」と話しながら「門」へと進む。
「フォルちゃんは久しぶりに通るのよね」
「ええ、そうなのぉ。キャロリンお姉さんは向こうへ帰っていないの?」
フォルとキャロが仲良さそうに話している。
「うーん、ワタクシあんまり母国には良い思い出ないのよ。もちろん両親とは最近は毎日テレビ電話しているけれど」
キャロには、わざわざ監察医になった事情があるらしいが、僕達はそれをあえて聞いていない。
今の話しぶりだと、アメリカにいる間に何かあったのだろう。
一度、酷い失恋があったとも聞いたが。
「ヴェイっち、楽しみだね。今の日本の事は詳しくねーんだろ?」
「そうでござるね。ニュースとかで見るくらいでござるよ。未来と古代が混在する日本、夢の土地でござるな」
ギーゼラとヴェイッコのデコボココンビも楽しそう。
2人とも日本通だから、見たい場所が一杯なのだろう。
「はい、確認致しました。では向こう側の係員にも書類をお見せ下さいませ、チエ様」
次元門管理局の方が僕達を一瞥した後、書類にサインをして返してくれる。
「ありがとうなのじゃ!」
チエは、にっこりとして書類を受け取る。
そうやら顔パスレベルの付き合いらしい。
因みにチエは異世界共通語もペラペラ、その頭脳は計り知れないのだ。
「それでは良い旅を。今、向こうは真夏気温35℃と聞いています。お早めにお着替えなさる事をお勧めします」
「忠告、いたみいるのじゃ! そこは大丈夫、すぐにワシの家へ行って着替えるのじゃ!」
僕やキャロ、フォルは地球のカレンダーや日本の夏を知っているが、他の面子は日本の暑さにピンと来ていないようだ。
「チエ殿、そこまで日本は暑いのかや?」
「まあ、それは体験すれば分かるのじゃ!」
今、ポータムは秋口。
そろそろ夕刻が肌寒い季節、そこから湿気が多く猛暑の日本では大変かもしれない。
「では、通るのじゃ!!」
チエは虹色の影に潜ってゆく。
久しぶりの日本に、僕はワクワクしていた。
……リーヤさんを母さん達に紹介できるのは嬉しいけど、恥ずかしいなぁ。
そして僕達も「門」を潜ったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「これは、一体何なのじゃぁ!」
「噂には聞いていましたけれど、すごいですわ。フェア良く見て。ここ海の上よ」
「はい、おかーたまぁ。これがうみなのぉ?」
リーヤとマム、「門」を越えた先に広がる風景に立ち止まる。
「これは凄いでござる。横に見える橋も絶景でござるよ!」
「アタイらドワーフの技術は凄いって思ってたけど、上には上がいやがるんだね。カンナちゃん、見える?」
「うん、前もここからギーゼラお姉ちゃんのところへ行ったの。わたしも最初はびっくりしたよ。数百年もしたら、こんな凄い建物作るんだもん」
ヴェイッコは横に見える「海ほたる」と千葉県木更津市を繋ぐ海上橋に感動している。
ギーゼラも、びっくり気味に横に居る影の精霊カンナと話している。
「いつ見ても見事よね。日本の建築技術を早くアメリカでも取り入れて欲しいですわ。耐震技術は世界一ですもの」
「凄いですよねぇ。わたしも、もっと勉強して日本の良いところを帝国に取り入れたいですぅ」
比較的見慣れているキャロ・フォル組は大して驚きもしない。
「チエさん。このメガフロートは、『門』設置後に作ったのでしょうけど、何処の企業が出資したのですか? 国主体にしては設置が早かったのを覚えていますが」
僕は、再び疑問をチエに聞いた。
ここの「門」は、東京湾木更津人口島「海ほたる」に隣接して海上に浮いているメガフロート内に安置されている。
確か大災害の翌年には建設開始されて、翌々年には完成していたはずだ。
「海ほたる」との間には歩行者、自動車用の高規格道路橋で繋がっていて、日本と異世界帝国との物流を全て担っている。
「そんなのワシに決まっておろう。色んな処にワシ開発の技術パテントを売ったのじゃ。おかげでワシ億万長者なのじゃ! なお、通行税もワシに一部入るのじゃ! これでも政治家やいろんなところにコネあるのじゃぁ!!」
ドヤ顔のチエ。
彼女に対しては、もう呆れてもしょうがない事を理解した僕であった。
……うん、気にしちゃダメなんだね。
「ワシ、大金持ちじゃが、無駄使いはイヤなのじゃ。美味しいものは好きじゃが、成金贅沢はイヤなのじゃ! アニメ円盤やらラノベやら、劇場などエンタメに出資課金するのじゃ!」
前作最終話くらいには既に大金持ちになっていたチエちゃん。
でも、貧乏性と派手なのが嫌なのでひっそりとオタク活動とグルメにのみ課金してます。
「では、次の話を待つのじゃ!」
チエちゃん、作者の言葉を取らないで下さいな。(苦笑)




