第1話 新米捜査官は、皆に振り回される。
いよいよ始まる新シーズン。
今回も10万字越えの長編をお楽しみくださいませ。
では、異界技術捜査室の面子によるドタバタ日本観光、はじまりはじまりー!
「すっごいのじゃぁ!」
「うむ、余もそう思う」
「そうねぇ、文字通りの摩天楼だわ。フェア、ちゃんと見るのよ」
「はい、おかーたま」
異世界組は、ぽかんと口を開け、顔を上に向けて東京都内の高層ビル群を眺めている。
……まあ、その気持ちは良く分かるよ。僕も初めて上京した時に同じ感想だったからね。
「そうでしょ。ボクも皆を案内できて良かったの」
「ワシも色々と動いたから、今回の旅行が実現したのじゃ」
「またコウお兄ちゃん逃げちゃったけど、わたし捕まえておくね」
都内案内をしてくれる異種族姉妹は大変だと思う。
なぜならば、……。
「すいません。今回の休暇は、捜査室に対してのモノだったですよね、陛下」
「うむ、その通りだ」
赤髪の少年皇帝は、自慢げに胸を張る。
「では、その休暇旅行に陛下が何故に同行なさっているのですかぁ!?」
「そんなの余の都合だ。せっかく仕事が一区切りしたのだ。余もバカンスしたいのだ!」
わはは、と大声で笑う少年皇帝。
それを周囲の方々は、微笑ましく見守りつつ、スマホで美形少年魔族の姿を撮影している。
今は地球北半球では夏、8月初旬。
都内は多くの観光客で、ごった返している。
一時期は、世界中を襲ったウイルス禍により「三密」がどうとか言われていたが、ワクチン・治療薬の開発、更にウイルス自体が弱毒化し、ちょっと困る風邪レベルに落ち着いた。
なので、真夏にマスクをしている人も少ない。
なお、異世界の方々は地球の感染症に弱いため、存分にワクチンを投与してもらった。
「バカンスするなら、帝国内では煩い外野も多い。しかし、異世界地球であれば、それなりの注意で問題も無く、また捜査室の面々と一緒であれば日本・アメリカで言葉に困る事もない上に警備も万全。よって余は其方達と行動を共にしたのだ!」
背中を開けた白い半袖ポロシャツに薄い生地の薄茶色チノパンを着こなすミハイル2世。
後に立つは、熱いのに黒ずくめの礼服を着こなす執事、アレク。
「陛下、それは大義名分ですよね。本音は?」
「そんなのタケ達と一緒に遊びたいんだもん!」
少年らしい、あどけない笑顔で僕を見上げる少年皇帝。
「タケや、もうどうにもならんのじゃ! いきあたりばったりで行くのじゃ!」
これまた背中を大きくあけた白いオフショルダーワンピースに大き目の麦わら帽子、そしてポニーテールのリーヤ。
涼しげかつ可憐さが目立つファッション、こちらにも遠目に囲む人々の視線が集まり、「なに、アレかわいー」という声とシャッター音が聞こえてくる。
「はぁ、僕のバカンスは何処へ行ったのぉ!!」
僕は、つい天を見上げて愚痴をこぼした。
◆ ◇ ◆ ◇
事の起こりは、帝都大動乱の直後から始まる。
「ラーラ、こっちじゃ! フェアもおいでなのじゃ!」
ここは帝都中央神殿。
まだ帝都内がゴタゴタ状態で、僕達も陛下に協力して治安維持のお手伝いをしている。
「おねえたん、まってぇ」
「ぼくもあそんでぇ」
リーヤが2人の幼児と遊んでいる。
1人はマムの息子フェアノール、そしてもう1人はリーヤの姪、クラーラ。
実年齢は2人ともそう大きく違いも無く、ラーラの方が種族的にやや小さめ、地球人でいったら3歳児くらいだろうか。
羽も尻尾もちょんまり、角もぽわっとした感じで濃い目の金髪巻き毛の中に埋もれている。
金色の眼はキラキラとして、久しぶりにあったお姉ちゃんを捕まえようと一生懸命だ。
「リーヤちゃん、あんまりウチの子引き回さないでね」
「そうよ、リーヤ。フェアもラーラちゃんもまだ小さいんだから」
リーヤの姉、オレーシャが娘クラーラを連れてリーヤに会いに来たのだ。
「此方は、2人と遊んでいるのではないのじゃ。逃げて居るのじゃぁ!」
リーヤ、幼児達にあまりに付きまとわれているので、逃げ回っているとは本人談。
しかし、その様子はどう見ても遊んでいる、いや幼児達に遊ばれている。
仲良い姉弟妹といった風景だ。
……血縁的にはリーヤさんはラーラちゃんの叔母さんになるけど、絶対オバさんって呼ばせないだろうねぇ。そういえば、サザエさんのところのタラちゃんとワカメちゃんの関係だよね。
「こりゃ、髪を掴むでない、ラーラや。フェアもスカート引っ張のでないのじゃぁ!」
疲れて座り込んだところに、幼児2人と縺れ合うように遊ぶリーヤ。
リーヤ自身、まだまだお子ちゃまサイズなので、幼児たちから見たら良いお姉ちゃんだ。
怒っているように見えて、実は笑っているリーヤである。
「申し訳有りません、急に来てしまいまして。ウチの主人や兄が忙しくて、せっかく皆様が帝都にいらしているのに今まで妹に会えず。無理して都合をつけましたから、ご連絡も不十分で」
リーヤの姉、オレーシャ。
リーヤによく似た大人の美しい女性、金色の瞳に茶色のゆるい巻き毛とリーヤよりも長めの角、羽はゆっくりと羽ばたく。
青いドレスを纏い、優雅にマムの隣に座り、2人でお茶を楽しんでいる。
「いえいえ、わたくしもリーヤをお預かり、せっかく帝都に来ましたのにお姉様やお兄様と会わせていないのですから、お気になさらずに」
マムも今日は優雅だ。
「そういえば、そこの男の子。タケ君って言ったかしら。いつもリーヤを守ってくれてありがとう存じます。父やリーヤから話は聞いていますの」
オレーシャは、僕に態々頭を下げてくれる。
「いえいえ、僕のような非力な地球人、リーヤさんを守りきれているとは思えませんです。逆に先日は僕を守ってくれましたし」
僕は先日、殺人による罪の意識からリーヤによって救ってもらった。
……僕がリーヤさんを守るのは当たり前、だってオトコだもの。小さな女の子の1人守れなくてどうしますか……。まあ、踏み入れたら不味い沼にどっぷりな気はするけどねぇ。
この後、僕が作ったデザートを堪能したオレーシャ親子にマム親子とリーヤであった。
……よし! これでレシピが更に増えたぞ! バニラが残っていて良かったぁ。ミントもあったしね。




