第46話 新米捜査官は、円満の笑みで食卓を囲む。
「ぎぃ、ぎゃ、ぎぃ。一体、これは何かぁ! 毒では無いのかぁ!!」
邪神は眼を両手で押さえて、もがき苦しむ。
その隙に、僕のハンドサインを見て両目を塞いでいた少年皇帝は、急いで邪神から離れてマムに保護された。
「バカだねぇ。毒物じゃないからって油断しすぎ。コレって一応食品、調味料だったよね、タケ君」
「はい、世界一の辛いものバカが作った調味料ですね。スポイトで入れる調味料とは世界でもこれだけですね」
コウタは、剣を床から抜き、苦しむ邪神に歩み寄る。
そして、コウタは苦笑しながら僕に、邪神が苦しむ事になった原因を聞いた。
「うわぁ、近付いた俺でも眼が痛いや。介錯してやるから、とっとと逝け。調味料に負けた邪神!」
コウタは、サクっと床で暴れる邪神に剣を刺して、金色の魔力を放った。
ピカリとした閃光が終った後、コウタの剣先には何も残っていなかった。
「ふぅ、うわー眼が痛い。早くなんとかしてよ、チエちゃん」
「すまぬ、コウタ殿! ワシも眼が痛いのじゃぁ!」
「タケ、コレはなんじゃ。余も眼が、眼が痛いのだぁ!」
「ああ、わたくしも眼が。それに口の中が痛いのぉぉ!」
ソースの散布範囲に入った皆が絶叫する。
「あ、ごめんなさい。効果抜群すぎました。リーヤさん、空間を正常化する風の魔法あったら使ってくださいな!」
僕は予想以上の効果に困り、リーヤに救済を求めた。
「タケ、其方はアホかいな。そんな都合の良い呪文なぞ此方には無いのじゃ。ギーゼラや、水の精霊術で空間を洗えぬか?」
「アタイ、そんな高度術使えないよ。第一、今は水の精霊つれてきていないし。カンナちゃん、無理だよね」
「うん、わたしでは無理だよ」
ウチの面子&影の精霊カンナは困り果てた顔をする。
ヴェイッコに到れば、口をポカンと開けて、台詞すら出てこない。
「お姉ちゃん、わたしどうしよう?」
「ボク達もお手上げだね。チーム、調味料で邪神と相打ち。うーん、困ったね」
異種族姉妹もお手上げ。
「皆、ごめんなさい。早く上に出て、シャワー浴びましょう。早くしないと大変になりますぅ!」
僕は皆に平謝りをしたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケよ、邪神に喰らわせたアレは一体なんだったのだ? 調味料と言っていたが、アレは毒ではないのか?」
全て事件が解決した後、城の食堂にて質素ながら温かい晩餐会が行われている。
そこには僕達捜査室だけでなく、チエ、リタ姫、マユコにアンズ、モエシア辺境伯夫妻の一家、アンティオキーア伯爵夫妻、クレモナ伯など等事件関係者が勢ぞろいしていた。
そして、ちゃっかりと魔神将「槍」に上級悪魔「朧」も席に座っている。
マムはマムで、息子を連れてきており、お姉ちゃん達に可愛がられている。
なお、ジェミラ伯オレークは、今だ重度の怪我にて治療中。
マムの完全治癒術を受けるには、本人の体力が圧倒的に足らない。
治癒術とは本人の治癒能力を加速して行う、体力生命力の前借りで、決して万能ではない。
なので、近日中に僕達と一緒にポータムへ向かい、そこから地球で高度医療を受ける予定だ。
陛下曰く「早く治ってもらわねば、罰も与えられぬ。今は治療に専念して痛い思いをしてこい!」と励まし半分のお言葉を受け、涙を流していた。
しかし、事件が終っても僕の仕事は終らなかった。
次の戦場にて、僕は死にそうになりながら料理を沢山作ったのだ。
濃厚なコンソメスープ、野菜や鶏肉のコンフィ、ピザ、パウンドケーキ、等など。
ネットレシピと睨めっこ、素材を並べて苦戦をした。
毎回、同じ料理を陛下にお出しできないのには、酷く困ったものだ。
……魔族の調理人に睨まれながら調理をするのは怖いよぉ。また、後で料理教室するのぉ! 僕、もーヤだぁ!!
「アレですが、一応調味料でございます。地球はアメリカの会社が作っています世界、いや宇宙でもっとも辛いソースの一つです」
赤唐辛子の辛味主成分、カプサイシン。
それの抽出物のみから作られたソースで、辛さを示す値、スコヴィル値710万。
警察用の催涙トウガラシスプレーの約12倍辛い、熊すら悶絶させてしまう恐ろしさ。
「辛いのは此方も存分に理解したのじゃ。でも、何でそれをタケは戦闘中に持って居ったのじゃ?」
リーヤは、可愛い顔を顰めて僕に聞いた。
「それはですね。前、カレーを作るときにアレクさんに色々頼んでいましたよね。その材料の中に赤唐辛子があったのですが、何故かこのソースが購入されていたんです」
「はい、私もこんな商品があるのを初めて知りまして、珍品と思いタケ様に進呈したのです」
何の因果か、帝都にこんなバケモノが輸入されていたらしく、僕の手元に来てしまった。
来た以上、何か使いたいとは思っていたが、幼児が居るので神殿では使えない。
もったいないなと思うも使う機会が無いまま、僕はソースを雑嚢に放り込んでいた。
そして何故か、戦闘服の内ポケットにひっそりとソースが入っていたのを僕が気がついたのは、服を着替えてから。
何かの時に催涙や気付けに使えるかなと思って、そのまま持っていたというのが真相。
「何! そんな適当な理由で持っておったのか? そんなので余は助かったが、痛い目に負うたのか! タケ、この怒りはどうしてやろうぞ!!」
少年皇帝は、イタズラ心半分、怒り半分で僕を睨んだ。
「へ、陛下。申し訳ありませんでした。僕もあそこまで効果抜群とは思いませんでしたので」
僕は陛下に頭を下げ、誠心誠意謝る。
邪神に隙が出来れば良いくらいに思っていたが、あそこまで皆が苦しむとは僕は思っていなかったのだ。
……熊をも悶絶させる防犯スプレーと同じくらいかなと、あの時までは思っていたけど、調べたらそんな威力では無かったのを知ったんだよね。ああ、食事に使わなくて良かったよぉ
「そうか、では、其方にも同じ苦しみを味わってもらおうか。アレクよ」
「はい、こちらに」
僕は陛下の言葉に頭を挙げ、驚愕の光景を見る。
少年皇帝の手に、配膳を行っているアレクより、どこかで見た小瓶が渡される。
小瓶を持つ陛下の顔は、イタズラ少年そのものだ。
「ちょ、なんでマダそんな危険物が帝都にあるんですかぁ!」
「すまぬ、ワシがイタズラ用に準備したのじゃ。多分、それが市場に流れたのじゃな」
チエはテヘって顔をするが、僕は気が気では無い。
冷や汗がどっと背中を流れる。
……アレ、スポイト一滴でも死ぬんだよぉ!!
「へ、陛下。そ、それは一滴で邪神すら打ちのめす凶器にございます。な、なにとぞご勘弁をぉ」
僕は急いで食卓の席から立ち上がり、少年皇帝へ土下座をする。
「いやぁ、許さぬぞ。僕を存分に虐めてくれたんだ。タケにもその痛み共有してもらわないとね」
僕は少年皇帝の言葉に思わず顔を上げる。
そこには、楽しそうに笑う歳相応のあどけない笑顔をした少年が居た。
「タケ、僕とキミはトモダチだよねぇ?」
僕は思わずリーヤの方へ顔を向けて助けを求めた。
「た、たすけてぇぇ、リーヤさぁーん!」
「手遅れなのじゃ。タケよ、陛下に遊ばれるのが良いのじゃぁ」
僕は、その後この世の地獄を見た、いや味わった。
なお、僕が口の中の「火山」に悶絶する横で、興味本位にも僕よりも多くソースを舐めたヴェイッコは、命の危機に陥ったのは余談であろう。
どっとはらい!
……幸せで安全な食卓は、いずこやーー!!
(第5章完結!)
10万時越え、全46話の帝都動乱編。
如何でしたでしょうか?
旧作キャラが勢ぞろい、その濃さはリーヤちゃん以上です。
「どうじゃ、ワシ。大人しかったじゃろ?」
あれでですか、チエちゃん?
出来たら隠しキャラくらいで良かったのに。
「コウタ殿は影が薄かったじゃろ。前作の主人公はあの程度でヨイのじゃ!」
でも前作のサブヒロインやヒロインが目立つのは、どーかと思うぞ。
とまあ、チエちゃんに引っ掻き回されるも、筆が進んだ第5章でした。
次の第6章は、「日本ドタバタ観光編」。
ちょっとお休みを頂いて、7月11日から連載再開致します。
では、新シーズンをお楽しみに。
ブックマーク、評価、感想、レビューは私の大好物です。
良かったら、くれると嬉しいなぁ。




