第43話 ドワーフ娘は、影を纏う!
「ほい、そんな攻撃でアタイを倒せるかってんだい!」
アタイは白い部屋の中、壁から飛び出す棘をひょいと交す。
たまに天井や床からも攻撃をしてくるのがイヤらしい。
アタイは攻撃を避けながら、昨晩チエに貰った策を何処で使うのか考えた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ギーゼラ殿の場合は、隠密には十分じゃが、攻撃力が実は4人の中で一番弱いのじゃ。それを打開する策を今回準備したのじゃ!」
チエは、アタイの攻撃力不足を指摘する。
確かに対人では今まで十分戦えていたが、邪神なんてバケモノ相手では、散弾銃程度では心もとないのも確かだ。
「チエさん、どういう策があるんだい。アタイ、魔力もそう多くないし攻撃魔法は苦手だよ」
「そこは任せておけなのじゃ!」
アタイやリーヤよりも、背が低いチエ。
しかし、その身体から溢れる魔力、深い知性が垣間見れるイタズラっぽい黒い眼差し。
慈愛を醸し出す表情にバイタリティ溢れる姿、これを見てチエの正体が魔神とは誰も思うまい。
アタイも正直信じられないのだけれども。
「これがギーゼラ殿にぴったりの相棒なのじゃ!」
チエがアタイの目前に召喚したソレは、アタイの予想を斜め上に上回った。
◆ ◇ ◆ ◇
「もう、そんなものか。最初の大口は何処に行ったのやら。息が切れだしたでは無いか。これでお終いかな?」
邪神は好き放題言ってくれるが、アタイの息が切れだしたのは確かだ。
でも、なんとなく攻撃のリズムは見え出したし、アタイに油断し始めている。
そろそろ動くタイミングだろう。
……驚け、アタイも知らなかった精霊の使い方を!
「じゃあ、こっちも仕掛けるね!」
アタイは足元の影に、とぷんと潜った。
「影の中なら攻撃できぬとでも思うたか。この部屋はワレそのもの。何処に潜もうとも一網打尽だ。では、シね!」
邪神はアタイが潜っているはずの影を床から大きな棘、いや槍を生やして貫いた。
その槍の太さは影を全部蔽い尽すほどだった。
「ん? 手ごたえが無い? どこにいった?」
「ここだよ!」
アタイは部屋の角に出来ていた影から飛び出し、槍を手刀で切り飛ばした。
「なにぃ。一体その姿は!?」
「ひ、み、つ! 何もわかんないうちに倒れちゃいな!」
アタイは壁に渾身の拳を撃ちつけた。
◆ ◇ ◆ ◇
「これがギーゼラ殿へのプレゼントじゃ。影の精霊、カンナ殿じゃ!」
アタイの前に現れたのは、アタイよりも小さな可愛い女の子の姿をした精霊だった。
「このコはな、地球のとある教団で保護された精霊、いや本来は自縛霊じゃった」
見た目は、黒い和服を着ていて黒髪おかっぱ黒目のヒト族、多分日本人に見える。
ここまではっきりと姿を現している精霊はアタイは見たことは無いし、聞いた事も無い。
普通の精霊は、ぼんやりとした形状で意思も希薄だ。
幽霊にしても姿形や意思の強さ、そして魔力が違いすぎる。
「どうも数百年程前に水害防止に人柱にされた子供らしいのじゃ。それを祠に祭り安置管理しておったのじゃが、その祠があった村がダム工事で湖の中に沈む事になり、教団関係者とコウタ殿が地鎮祭に赴いて、彼女の存在を知ったのじゃ」
アタイにはダムとやらは良く分からないが、人柱の存在は良く知っている。
アタイのひいお爺ちゃんが現役だったころ、近くの村で鉄砲水が多発して蛇神様のタタリじゃと言われて人柱が送られた事があったそうだ。
結局、蛇神様なんてのが原因では無く、地盤や河川の状態が原因とドワーフ族の土木技術者によって判明し、改良工事が行われて生贄も必要なくなった。
「最初は、ただの子供の霊じゃったのじゃが、長年地脈からのエネルギー供給を受けて、精霊、または地方神クラスまでなっておったのじゃ。しかし、祠を失えば元は自縛霊。あっというまに霧散してしまう。それがあまりに可哀想とコウタ殿が回収し、関係教団で保護しておったのじゃ」
女の子はアタイの顔を見て、にっこりとする。
もしアタイが彼女と同じ目にあっていたら人を呪っていただろうに、彼女の瞳には一切負の感情が見えなかった。
「カンナ殿は、ワシらに助けてもらった恩を返したいと言っておって、ワシやコウタ殿、ナナ殿は彼女の預け先を考えて居ったのじゃ。彼女の属性は闇、影を司っておる。ちょうどギーゼラ殿との相性が良いと思い、今回連れてきたのじゃ!」
「ギーゼラさん。アタシせっかく人柱としてカミサマになったのに今まで何も出来なかったんです。それなのに、コウタさんやチエ様はアタシを可哀想と助けてくれたの。このご恩は皆さんを幸せにして返したいんです。でもアタシは、1人では何も出来ない不安定な影。もしギーゼラさんが良かったらアタシと契約して欲しいの」
カンナは、真剣な目でアタイの顔を見ながら日本語で話す。
アタイの頭の中に、1人寂しくしているカンナの姿が映った。
人柱になる前からでも、彼女は村で1人ぼっち。
そして人柱になって奉られた後は、誰にも見えず話せず、完全に孤独。
それなのにカンナは誰一人恨む事をせず、村の平穏を祈った。
こんな良い子を生贄にしたオトナ達が憎らしいけど、もうそんなバカ共は遠い昔にこの世から去っている。
なら、この子は今から幸せになっても何も問題ない。
彼女を縛るものなんて今更何も無いのだ。
アタイと一緒に戦うなんて別にしなくてもいい、一緒に遊べば良いんだ。
「本当にアタイで良いのかい? ガサツだし、ドワーフだし」
「うん、だってアタシの為に涙流してくれたんだもの。ギーゼラさん、ありがとう」
アタイは、ふと頬を涙が伝うのを感じた。
「アレ、どうしてアタイ泣いたんだろう?」
「そうか、今シンクロしてカンナ殿の過去のイメージをギーゼラ殿が見たのじゃな。なら相性は最高じゃ! ワシからも頼む。カンナ殿を救ってくれ、ギーゼラ殿!」
アタイは袖で涙を拭い、涙目でアタイを見上げる女の子の頭に手を置き、撫でた。
「よーし、アタイと一緒に楽しんじゃおう。もう、カンナちゃんを縛るものは何も無いよ。おいで、カンナちゃん!」
「うん、ありがとう。ギーゼラお姉ちゃん!」
そしてアタイの中にカンナは宿る事になった。
◆ ◇ ◆ ◇
「カンナちゃん、いくよ!」
「うん、お姉ちゃん!」
アタイは身体に影を纏っている。
影の精霊、カンナはアタイの身体に普段宿っているし、別行動も出来るが、ここぞという時にアタイの表面に着衣として出る事ができる。
そんな時、アタイの身体は黒い「ぼでぃすーつ」とかいう身体にぴったりとしたカッコいい服を着た感じになっている。
この状態の時、アタイの身体能力は数倍になり、魔力も倍増する。
更に影に潜む、潜る能力も向上し、異次元に潜む邪神すら捕らえる事が出来る。
……アタイは、ヒト族やエルフ族みたいに綺麗なスタイルじゃ無い、短足で頭でっかちだけどね。
「一体、オマエはナンなんだ!」
「さっきから言っているでしょ。アンタみたいな悪者に言う必要ないの!」
アタイは部屋を重力関係なく天井や壁を走り回り、時々蹴りや手刀を壁に突き立てる。
アタイが攻撃をする度に、邪神が悲鳴を上げる。
「ど、どうして捕まえられぬ。ドワーフが何故こんなスピードで動き、ワレの障壁を敗れるのだぁ!」
「そんなのアタイに聞かれてもしらねー!」
「うん! そうだよね、お姉ちゃん」
アタイの中のカンナも邪神に突っ込む。
アタイを狙って邪神は棘や槍、不可視の障壁を繰り出す。
しかし、それが発生するよりもアタイが走り抜けるほうが早い。
アタイの速度は、どんどん速くなる。
空気が妙にねばっこく重く感じ出した。
そしてアタイが走った後は、切り裂かれ床も砕けて行く。
「や、やめろ、やめてぇ!」
「オマエは命乞いをした人を見逃した事あるのかい!」
アタイは走りながら、邪神の弱点を探す。
「お姉ちゃん、あそこ!」
カンナが示した場所、天井のど真ん中に紅玉が埋め込まれていた。
「じゃ、いっくよー!」
アタイは三角飛びの応用で、壁を蹴り上がり、天井に飛びつくと紅玉目掛けて蹴りを叩き込んだ。
「ぐぅぎゃひぃぃ!」
妙な悲鳴を上げて邪神は部屋ごと悶えた。
そして壁や天井が崩れだした。
「ふぅぅ。カンナちゃん、やったよ!」
「うん、お姉ちゃんすっごーい!」
アタイは心の中でカンナとハイタッチした。
カンナちゃん、コウタと馴染みの深い光輝宗に保護されていました。
あそこにはマリちゃんという水の精霊の子もいますし、霊的保護に関してはノウハウがあります。
詳しくは前作をどうぞ。
「ワシ、ここまでカンナ殿とギーゼラ殿の相性が良いとは思わなんだぞ! 最初のプロットから大きく変わったのじゃろ? まあ、可愛いは正義なのじゃ!」
書いていて、カンナちゃんがとても愛おしくなっちゃいました作者です。
では、明日の更新をお楽しみに!




