第42話 わんこ警官、戦う!
「これは各個撃破でござるね。拙者なら簡単に倒せると思ったでござるか?」
「ああ、そういう事さ。他のヤツらは魔法が使えてやっかいだが、オマエは『からっきし』。そんな豆鉄砲ではワレの障壁は破れまい。チェックメイトという訳だよ」
白い壁の部屋に、拙者は閉じ込められている。
邪神の話しぶりからして、全員バラバラにされているようだ。
そして目の前に、漆黒の魔族の姿をした邪神が佇んでいる。
「確かに、銃でオマエは倒せないでござるな」
拙者は銃を床に下ろし、ゆっくりと刀の鯉口を切った。
「銃でダメなら剣でか。野蛮人よのぉ。もっと効くはず無かろう」
「それはどうかな、でござる!」
拙者は邪神に大きく踏み込み、向かって右上へ斬撃を疾らせた。
その一撃は、キンという音を立てて、邪神を取り巻く障壁に弾かれる。
「ほれ、効かぬわ……ん! 何故、魔法が使えぬオマエに我が障壁が傷つけられるのか?!」
邪神は、目の前にある無敵なはずの障壁に傷が付いた事に驚く。
「それは内緒でござるよ!」
拙者は、足を止めずに邪神に切りかかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、次はヴェイッコ殿か。ふむ、お主よ。過去腰付近に大怪我をしておらぬか?」
「はい、そのとおりでござる、チエ殿。どうして分かるのでござるか?」
昨夜、チエは拙者達が邪神に負けぬよう様々な策を授けてくれた。
「そんなの千里眼のワシじゃからなのじゃ。さて、ヴェイッコ殿が魔法アレルギーになった原因が、その腰の怪我じゃ。その怪我で歩けなくなる寸前ではなかったのかや?」
チエは、拙者の腰周りを眼を細めて見る。
「そのとおりでござる。子供の頃、崖から落ちて腰周りの骨を折ったのでござる。背骨にもヒビが入り、あと少しで脚が動かなくなっていたと言われたでござる」
拙者の出身地は北方の山岳地帯。
雪深く険しい山の麓に村はある。
そこでは獣人族が細々と狩猟・採取と畜産を営んでいる。
拙者が幼い頃、家族の手伝いで山に採取に行ったときに、足下が崩れ高い崖から落ちた。
家族で採取中だったので、拙者は早急に救助され、村に唯一在った治療院で治療を受けた。
その傷は大きく、命は取り留めても歩行不能になると医師から両親は言われたんだとか。
幸い、しばらくして地域巡回の神殿神官が村を訪れ、拙者は高度な治癒魔法ににより、快癒したのだった。
「その時の治療は、まずますじゃったのだが、体内チャクラの流れ、魔法を使う際の魔力回路が大きく傷ついたままじゃったのじゃ。それでヴェイッコ殿は魔法を扱う際にアレルギーを発症しておったのじゃ」
拙者はチエの答えに驚愕する。
今まで拙者を悩ましていた魔法アレルギーの原因が過去の怪我にあったとは思ってもみなかったからだ。
「ということで、コウじゃ!」
突然、チエは拙者の後ろに回りこみ、腰に指を文字通り差し込んだ。
「グ、あァァァァ」
チエは、拙者の背中に差し込んだ指をぐりぐりする。
その度に、拙者の背中に電流が激しく流れるように痺れと痛みが走る。
拙者は、その痛みで体が金縛りにあったように動けない。
「一体なにをするんですか、チエちゃん。ヴェイッコが壊れます!」
マムがチエに文句を言っているのが聞こえるが、拙者は痛みで一切動けない。
「大丈夫なのじゃ。少々痛いのじゃが、これで治るのじゃ! ほい!」
「ぐぎゃぁぁぁ」
拙者は、背中に走る激痛で絶叫した。
「これで終いじゃ。それ!」
チエはチュポンと拙者の背中から指を抜いた。
「い、一体何をするでござるよぉ」
「すまぬな、時間が無いので荒療治になったのじゃが、お主の障害は完治したのじゃ!」
拙者は背中に右手を回し、チエが指を刺していたところを擦る。
「え! あ、そういえば痺れは取れたでござるし、身体が軽くて熱いでござる」
チエに文句を言った拙者だが、荒療治後の身体が軽い事に気がつく。
「すぐに魔法は使えぬであろうが、ヴェイッコ殿なら闘気法をすぐに身に付けられそうなのじゃ! 拳や持つ刀に闘気を纏わせて、魔法剣と同じ効果を出せるのじゃ」
それから拙者はチエに体内魔力の動かし方を聞き、体内の熱、魔力を刀に伝える事も半日くらいで出来るようになった。
「ヴェイッコ殿はとても優秀なのじゃ。実に教えがいがあるのじゃ。どこぞの風来坊とはオオチガイなのじゃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ど、どうしてだ。オマエは魔法が一切使えぬし、魔剣が使えないはず。何故、オマエが持つ刀が魔力で輝くのか!」
「タネは秘密でござる。このまま滅びるでござるよ!」
拙者は邪神を切り刻む。
慌てて逃げ回りながら拙者に攻撃をする邪神だが、殺気が「まる分かり」なのでとても避けやすい。
「これが邪神とは。ただの妖魔以下でござる」
拙者は邪神を煽る。
そうすることで邪神に隙を作らせるのだ。
「く、何故にケモノ如きに煽られねばならんのだ。せめて本体ともっと繋がれば、こんな事をせんでも良いものを!」
邪神は拙者に煽られて、どんどん攻めが大味で甘くなる。
「くそぉ、死ねよぉ!」
邪神は両腕を触手にして伸ばし、上から叩き付けて拙者を叩き潰そうとした。
……ここでござる!
拙者はフェイントを入れた歩法で邪神を惑わして、邪神の懐に踏み込む。
そして邪神の胸の中に深く刀を平突きで差し入れた。
「ぐぬぅ!」
ぐちゅりとした感触が刀越しに拙者の腕に伝わる。
「哀れな邪神、滅びるでござる!」
拙者は刀を180度捻り、右へと薙ぐ。
拙者の気力で光る刀は、やすやすと障壁ごと邪神の身体を引き裂いた。
「トドメ!」
拙者は振りぬいた刀を上段に構えなおし、体重をかけて唐竹割りで邪神を両断した。
「ぐをぉぉぉ!」
器用にも半分になって咆哮を上げる邪神。
暴れ周り、触手を振り回す。
「危ないでござるぅ」
拙者は急いで邪神の近くから離れる。
「ぐぎゃぁぁぁ!」
邪神は声にもならないような咆哮を上げつつ、周囲を破壊してゆく。
「うむ、トドメがさせぬでござるよ。何処が弱点でござるか?」
拙者は触手を避けながら邪神をじっと見る。
頭から胸まで縦に両断され、胸も半分切り裂かれている。
普通の生き物なら確実に致命傷だ。
「ヴェイッコ殿、己の中の魔力の流れが見えたら、他人の体内の流れも読めるのじゃ。気配を掴めれば勝ちなのじゃ!」
拙者の頭の中にチエの教えが聞こえた。
「そうでござった! ありがとうでござる、チエ殿!」
拙者は邪神の中の魔力の流れを読んだ。
「あそこでござる!」
拙者は大型拳銃を取り出して、魔力が集まるところに全部弾を叩き込んだ。
もはや障壁を持たない邪神の肉体に50口径の拳銃弾がドンドンと突き刺さった。
最後の弾を撃ち終えた時、邪神の動きは止まった。
「正真正銘、トドメでござる」
拙者は邪神に歩み寄り、弾が当った部分に刀を突き刺した。
剣先にカチリと何か当った感触がした。
邪神の背中に突き抜けた剣先には、紅玉が刺さっていた。
「ふん!」
拙者が刀を振りぬくと紅玉は真っ二つに両断され、それと同時に邪神は砂の様に崩れた。
「これにて一件落着でござる! 後でタケ殿に熱燗をリクエストするのでござるよ!」
ヴェイッコ君、大金星です。
あ、チエちゃんはコメントいらないからね。
では、明日の更新をお楽しみに!




