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第11話 新人捜査官は、異世界の不思議さに感動する。

「おほん、では話を続けますわ。DNA鑑定の結果、ガイシャとメイドのヘレナに性的な関係があった事は確かです。ただ、これが常時継続的だったかは不明です」


 一回だけなのか、複数回行われていたのかは、ガイシャに残る証拠だけでは判別は不可能だ。


「すまぬ、キャロ。そのDNAとやらはどういうモノなのじゃ? 此方(こなた)達に詳しく教えてはもらえぬか?」


 まだ顔が赤いリーヤは、手を上げてキャロリンに説明を求めた。

 確かに異世界人にDNAとかをいきなり話しても通じはしないだろう。


「あら、そういえばまだ説明していませんでしたわね。マム、簡単にですが説明して宜しいでしょうか?」

「ええ、ショーネシー検視官。わたくしも大体でしか知りませんからお願いしますわ」


 マムからも促されたキャロリンから説明がなされる。


「DNA、地球の英語でデオキシリボ核酸の略語です。これは皆様の体内にもあるもので、生命の設計図の部品とも言える物質ですの。このDNAからなるのが遺伝子という設計図です。子が親に似たりするのも、この遺伝子が理由です。そして、皆さんはご両親から遺伝子を半分ずつ受け取って、生まれていますの」


 ふむふむと話を聞くリーヤ達。

 ガイシャ宅で子供達に脳血管障害が遺伝したら大変と話していたので、分かりやすいのだろう。


「この遺伝子、命の設計図があるから皆様、それぞれの姿をしているのですわ。そして遺伝子は指紋や顔形のように皆さん微妙に異なるので、そこを個人の区別に用いるのがDNA判定という訳ですの」


 既に指紋の重要性は皆知っているので、これも理解してくれるだろう。


「いつもタケやキャロが口の中を綿棒で擦っているのは、比べるDNAを取るためなのじゃな」

「はい、そうですわ」


 リーヤが言う通り、今回も関係者全員からDNAサンプルは取得している。

 そうする事で犯人を絞れる訳だ。

 こちらの人達には、中々説明が難しいけれども。


「質問宜しいですか、ショーネシー検視官?」

「はい、マム」


 マムが挙手して質問をする。


「わたくしたちは、人類という『くくり』で一緒という事なのでしょうか? 似ているとはいえ、体質寿命、その他多くの違いもありますもの。違うのならDNAが判定に使えないでしょ」


 ……エルフ種から見たらヒト種なんて似てはいるけど、あっというまに歳を取る生物だものね。


「ヒト、エルフ、ドワーフ、獣人族、魔族その他人類として分類されている方々。皆姿形は確かに微妙に違いますが、生物学的に言えば全部ヒト種、ホモ・サピエンスとして亜種から隣接種くらいの関係ですの」


 キャロは皆の顔を見ながら話す。

 ここ捜査室は、ある意味人種の坩堝(るつぼ)、異世界を良く表している。


「雑種、混血といわれるハーフ種、有名どころですとハーフエルフ。このような存在が生まれるという事は、私達は同じ種、仲間なのです。違う命、例えばライオンと猫では似ていても子供は生まれません。ライオンとヒョウですと、一代限りですが雑種は生まれますけど。ここの人達は子孫多いから関係ないですね」


 ヒョウの父親とライオンの母親からレオポン、逆がリパード、ロバの父親と馬の母親からのラバ、ライオンとトラからライガー、タイゴン等隣接種間では雑種が生まれるけど、それらは大抵生殖能力が無く一代限り。


 しかし、エルフ種とヒト種では必ずハーフエルフとなり、ハーフエルフは生殖能力を持ち、エルフ、ヒト、ハーフエルフのいずれかを生む。

 どうやら血縁的にはクォーターエルフは存在するものの、種的には3パターンしかないらしい。

 他の種族も似たり寄ったり、しいて言えば獣人種の間にヒトに近いフォルと獣に近いヴェイッコ、そのまた中間タイプがいるくらいか。


 そして、先祖がえりして両親と全く違う子が生まれるのが「取替え子(チェンジリング)」と言われるんだそうな。


「ここのヒトは、私達地球人、実は古代ギリシャ・ローマ系の末裔なのです。男性遺伝子でいう所のハプログループR1bが殆どという事から、都市や地域一つくらいの狭いところに住んでいた人達が転移してきたものと類推できますわ。遺伝子の乱れ方から約一万から5000年くらい前とは思いますの」


 この異世界、正確には超古代、「(いにしえ)のもの」と呼ばれる異形の先史文明種族によって作られた宇宙転移ネットワークのハブにして基幹システムの存在する惑星である。


 様々な惑星から転移等で移り住んだ人々が居る事で、多種多様なファンタジー世界を形成しているらしい。

 またもしかしたら、逆にこの星から宇宙全体に人類種のタネが撒き散らされたのかもしれない。


 ……あー、ロマン溢れるよぉ!


「他の人類種もオリジナルに近い方々は比較的遺伝子の多様性が低いらしいですから、同じように都市単位で移り住んだのでしょうね」


 最近、地球では別のエルフ種が住む(アルフ)と国交を結んだ。

 なんでも、美しいお姫様(リタ)が時々日本に現れるらしいというゴシップを聞いた事がある。

 そこのエルフ種は、地球人類等と過去幾度も交配をしたらしく、原種(オリジナル)に近いらしいマム等この星のエルフと比べて寿命は地球人寄りだそうな。


「つまり此方人等(こちとら)は、皆どこぞのセカイ(母星)からここに集められたという訳じゃな」


「ええ、そこにナニカの意図があったかどうかは不明ですけど」


 地球との恒常的なゲートが開いたのは、9年前の時空大変動。

 そこから世界は大きく変わっていった。


「確かに此方(こなた)の実家にも、他の遠く離れた地から移り住んだという記録が残っているのじゃ!」


「それは学術的に見てみたい気もしますわね。さて、少し脱線しましたが、皆様わかりましたか?」

「はーい!」


 皆、見かけはバカっぽいけど、それぞれの分野のエキスパート。

 ちゃんと説明を受けたら分かる頭脳持ちなのだ。


「ありがとう、ショーネシー検視官。つまりガイシャと最後に関係していた女性がメイドのヘレナで間違いない訳ですね」

「はい、その通りです」


 説明が終わったキャロは、再びホロリと崩れる豚肉と対決を再開した。


「うーん、美味しいですわぁ」


 ……これもギャップ萌えなのでしょうか。キャロ姉さん、美人には違いないんだけど。

(追記)


 今日は、遺伝子、DNA及びヒト族「ホモ・サピエンス」について解説致します。

 DNAについては、小説内部でも説明していますし、もう日常的になってきました。

 しかし、どのように法医学で用いられているのかは、広くは知られていませんので、今日はそこについて解説致します。


 DNAは、4種類の塩基、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、チミン(C)の配列によって構成され、二重らせん構造をなしています。


 このDNAから、片側の塩基配列を複写コピーしたRNA(転写)が出来て、このRNAの塩基配列を元にアミノ酸が結合し、たんぱく質を形成します。

 この流れを「セントラルドグマ」と言います。

 ええ、エヴァの用語も「これ」が由来です。

 この転写時にコピーミスをすると、発ガン等の原因にもなります。


 さて、この遺伝子、人類の場合には細胞核内に2対44本+性染色体2本、合計46本の遺伝子が存在しています。

 そして、私たちは両親から1対23本の遺伝子をそれぞれ貰い、生まれてきます。

 この生殖細胞(精子・卵子)において遺伝子が半分になるのを、減数分裂と言います。

 この際に、もともとの遺伝子に加え、分裂時の複写ミスや放射線等による遺伝子の傷があれば、それは致命的ではなければ突然変異として子孫へと受け継がれていきます。


 後、実は細胞核DNAだけでなく他にも受け継がれてゆくDNAがあります。

 それはミトコンドリアDNA。

 ミトコンドリアとは、細胞内の小器官で酸素からエネルギーを生み出すところです。

 これは人類だけでなく、真核生物(細胞核を持つ生物)すべてが持っています。

 実は、このミトコンドリア、バクテリアの一種が真核細胞に寄生、共生するようになったらしいのです。

 なので、もうミトコンドリア単体では増殖できないものの、独自のDNAを持っています。

 小説「パラサイト・イブ」は、この学説を題材にして、ミトコンドリアが反乱を起こしたらどうなるのかと構想し作られました。


 ミトコンドリア、生殖細胞の卵子・精子ともに持っていますが、受精時に精子のミトコンドリアが排除されてしまうので、卵子のものしか基本残りません。

 よってミトコンドリアは、母系にしか遺伝していかないのです。

(ごく一部、排除ミスが起こる例もあるそうです)


 このミトコンドリアDNAについて変異具合から調査をすると、人類はアフリカに20~30万年程前に居た「とある女性」が人類すべてのミトコンドリアの「母」、「ミトコンドリア・イブ」になるそうです。

 もちろん、これは彼女が全人類の母、祖先であったのでは無く、今まで彼女の女系家系が途切れたことが無いという意味です。

 この仮説は「人類アフリカ単一起源説」を支持しています。


 他にも遺伝を見るのに利用されるのが男性性染色体、Y遺伝子です。

 こちらも男性にしか遺伝しないので、調査が簡単で人類の起源や各民族の流れを把握できます。

 ちなみに「Y染色体アダム」も遺伝子のハプログループ(型集団)調査によりよりアフリカ起源だと考えられています。


 閑話ですが、ここまで書いた通り、現世人類「ホモ・サピエンス・サピエンス」はアフリカで生まれました。

 その後、一部グループが6万年程まえに「出アフリカ」を行い、各地方の気候の影響を受けたり、同時代にはまだ生存していた他のヒト族亜種(ネアンデルタール人やデニソア人など)と交配を繰り返して地球上に広がっていきました。


 そういう事で初期のホモ・サピエンスは今で言うネグロイドであったようで、一部はこのままアフリカに残りました。

 このために、ネグロイドは殆どネアンデルタール人の遺伝子を持たず、更に多様性が多いそうです。


 この後、ユーラシア大陸、イラン付近へと進出したホモ・サピエンスは太陽光の減少によりビタミンDを得る為に肌が白くなりました。

 これがコーカソイドとモンゴロイド、オーストラロイドの共通先祖です。


 そして、現地に居たネアンデルタール人と交配を行い、彼らの遺伝子を取り込んでいきます。

 ネアンデルタール人、最近の学説では筋肉質で言葉を扱うのが得意ではなかったものの、古典的サルの「原始人」というイメージでは無く、白い肌、金髪、赤毛、青い眼、そしてインフルエンザ耐性といった特性は彼らからの贈り物らしいです。

(研究からネアンデルタール人の男性と現世人類女性のカップルが多かったとか。あと、幼少期の女の子は、現世人類と外見的にほぼ見た目が変わらなかったとも。)


 ヨーロッパに残った現世人類は、乾燥した空気から鼻が高くなり、多毛で肌が白く大柄になります。

 これが、コーカソイドの先祖です。


 そこから先、更に東へ進んだホモ・サピエンスは、現在のロシア・アルタイ地方で更に別の人類、デニソア人とも交配を行います。

 また、寒冷な気候から凸凹が少ない顔、俗に言う「平たい顔」となります。

 これらがわたし達日本人を含むモンゴロイドの先祖です。

 モンゴロイドは、日本列島、そしてアラスカを通って南北アメリカ大陸まで進出をしたのです。


 なお、イランからインド、更にオーストラリアに進んだ現世人類は、再び肌が黒くなりオーストラロイドの先祖となりました。


 長々と書いちゃいましたが、実は人類の進出した端っこの日本。

 ここに住む我々は、ネアンデルタール人とデニソア人という化石人類の遺伝子が最も残っている民族になるようです。

 あー、ロマンですぅ


 という事で、亜種くらいの差しかない、魔族種と地球人類は交配可能。

 タケくんとリーヤちゃんは安心してね。


 以上、解説御終いです。

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