第29話 新米捜査官は、踏ん張る。
「とにかく今回は、なんとかなったが、一体何が起こったのだ!?」
少年皇帝は、玉座で不機嫌そうに叫ぶ。
今は襲撃が終わり、翌日の午後である。
「今のところ分かっているのは、敵は邪神神話生物。帝都よりも北から進行してきたとしか分かりません」
マムは、玉座前に情報端末を設置し、そこに帝都周辺の被害状況を表示した。
「北方の村が壊滅か」
「ええ、悲しい事ですが。いきなり襲われたと生存者は言っていますわ」
帝都を囲む中央管区、その北側にある村々の内怪物達が通った後は、灰燼とかしている。
「北方から来たとすれば、ジェミラ領はどうだ? オレークは何処にいる?」
帝都北方の守護をしているジェミラ伯オレーク。
確か、ナナの意見に賛同してくれていた老齢重鎮といった感じのオジサン。
「今のところ、伯の存在は確認されていません。ジェミラ領の状況も一切不明です」
アレクからオレークが不在な事を報告される。
「うむぅ。もしかしたら伯は戦場に消えたのか? ここから先、余は一体どうすれば良いのか! 次に襲撃を受けたら、もうもたないぞ。帝都は、いや帝国はどうなる! 余の命はどうでも良いが、他の民をどうすれば守れるのだ!」
皇帝陛下は大声を発した後、顔を落とし、両手で頭を抱える。
「陛下、大丈夫ですよ。今は、帝都にわたくしたちもいますし、リタ姫もナナさんも居ます。大丈夫ですからね」
そんな落ち込む少年皇帝に近付き、彼の肩に手を置き、慈愛の表情をするマム。
「エレ。すまぬ、余は情けない姿を見せたな」
「いえいえ、陛下も言っては何ですが、わたくしの愛する子供達の1人ですものね」
……マム、ものすっごい事を言っているけど、実際どうなの? 実年齢は似たようなものだと思うけど、不敬じゃないかなぁ?
陛下は、顔を上げて周囲を見回す。
玉座の周辺には、僕達捜査室とアレクにアルフ組しかいない。
「エレ、いつもありがとう。僕はいつも、貴方には無理や我侭ばっかり言って駄目な息子だね。ここで踏ん張ってみるよ」
陛下は皇帝の仮面を外して、涙を溢しマムに甘えた。
「はいはい、ミハイルちゃん。わたくしや他の皆が貴方の事を心配しているし、貴方を助けたいと思っているの。だから、安心してね」
「うん!」
マムは陛下の頭を、よしよしする。
陛下、多くの被害を出した上に頼りにしていた将を失ったのが辛かったのだろう。
以前の大災害時は自分が前線に出て戦えたけれども、今回は玉座から離れられず、ただただ被害が出て行くのを見守るだけ。
それは辛かった事だろう。
「エレ、もう大丈夫だ。余はもう皇帝に戻るぞ」
「うふ。では、陛下。一緒に頑張りましょうね」
「うむ!」
僕達は後ろの方で、陛下とマムの様子を温かく見守った。
……そうか、陛下は早くに両親を失ったんだよね。母親の温かさを欲しかったりしてもおかしくないんだ。
「頑張ろうね、リーヤさん」
「うむ、そうじゃな」
リーヤも少し涙ぐんでいたのか、涙声になっていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「マム、消耗した弾薬をどうしますか? もう僕達は、このままでは戦闘できません。燃料的にも厳しいですけれど」
今、僕達は神殿で休憩中、神殿には帝都周辺からの避難民が「ごったがえし」ており、神官の皆は彼らの世話で忙しくしている。
僕も入手した米を炊いて、炊き出し用のオニギリを沢山作った。
「それは、帝都に入る前に注文しているの。輸送トラックは明日には帝都に到着予定ね。食品はわたくし達用にしか積み込んでいないけれど、武器も弾薬も燃料も一杯来ているわ。特にお米は沢山注文したから安心してね」
マムは先手で物資を注文していた。
流石、兵站に詳しいマムだ。
「で、次があると思いますか?」
僕は、あえて答えが聞きたくない質問をマムにした。
「ええ、間違いなく。今度は、更に動いてくると思うの。裏に邪神がらみの者がいるかも知れないわ。そうなれば辺境伯に来て頂けたらと思うのですけれど」
マムは、膝の上で眠る息子をあやしながら、避難民の世話で疲れて食堂の床で雑魚寝している仲間達と異種族姉妹を見た。
「これは僕のカンですが、きっとコウタさんは来てくれますし、たとえ来なくても僕達は負けません。だって皆一生懸命に陛下を守り立てて、頑張ろうとしているし、陛下も下々の事まで心配なさっています。こんな素晴らしい国は滅ぼさせたらダメなんです!」
「そうね。わたくしが希望を忘れて弱気になっちゃダメね。明日、北部の調査に行きましょう。そして敵の本陣に繋がる情報を得るの。待っていたらダメね。こっちから攻めるの!」
「はい、マム。この償いは必ず悪党どもにさせましょう!」
僕はマムに敵の逮捕を誓った。
「じゃあ、今のタケの仕事は休む事。何処でも良いけど、ちゃんと寝るのよ」
「はい」
僕は寝袋を準備して寝ようと思った。
すると2人の乙女に捕まっているリーヤが寝言を言う。
「タケぇ、此方は負けないのじゃぁぁ」
「うん、絶対負けないよ」
それまで興奮して眠れなかった僕は、リーヤの顔を見ながら眠りについた。
多大な被害に苦悩する少年皇帝。
この子も良い子で、作者は心配しちゃいます。
でも、大丈夫!
ゆかいな仲間達が居る限り、負けはありえないです。
では、明日の更新をお楽しみに。




