第28話 新米捜査官は、敵の正体にびっくりする。
「今度は、びーっといくの。光よ集え!!」
リタ姫の右手に持つ魔法少女ステッキの前にすさまじい魔力が溜まる。
「いっくよー。必殺とらんざむ・らいざーそーどー!!」
そして真っ赤に変色したステッキを左側に向け、一気に魔力を放出した。
まばゆいまでに強力なピンク色の魔力ビームは、一瞬で遠方にいた射線上の数十匹の敵集団を蒸発させた。
「おりゃぁぁ!」
リタ姫は、可愛い掛け声でビームを出したままのステッキを右へ薙ぎ払った。
そしてビームもステッキの動きに連動して動く。
そして薙ぎ払われるビームは残っていた敵軍団を、ほぼ消失させた。
「えーっと、これ何?」
僕達は、開いた口が閉じれない。
あまりに圧倒的な展開に付いてつけないのだ。
「こら、オマエら遊ぶな!」
その声は、闘技場でリタ姫にやられて気絶していたクレモナ伯グリゴリー。
街門へ近付く残敵を排除している。
「はい、ごめんなさい! 皆、大物は姫様達に任せて、街門周辺の小物片付けるよ!」
「ほいな!」
「御意!」
「あいよ!」
それから僕達は、残敵掃討を頑張った。
◆ ◇ ◆ ◇
「皆様、お疲れ様。よく頑張ったわ。流石、わたくしの子供達ね」
「みんな、凄かったよ。よく銃だけであんなにも頑張ったと思うの」
「そうだね、リタちゃん。ボクもすごいと思うよ」
マムは、僕達を労ってくれた。
そして、息も切らさずにピンピンとしている異種族姉妹も僕達を褒めてくれる。
その間にフォルが皆に飲み物を配ってくれているし、キャロリンは怪我人の救護に走り回っている。
どうやら2人の乙女と追加戦力を運送するのにシームルグ号を活用した様だ。
「そ、そんな事ないですよ。お二人が来なければ撤退していましたし、一つ間違ったら死んでましたから」
「此方は、魔力切れでどうにもならないと思っておったのじゃ! お2人はどうしてそこまで魔力が多いのじゃ?」
「銃を撃つしかできぬ拙者ではどうにもならなかったでござる。助かったでござるよ」
「アタイも、もうダメだと思ったよ。姫様、あんがとー!」
僕達はヘロヘロだけど、助かった事に安堵し、リタ姫達に感謝した。
「お前ら、もっと鍛えよ。ワシはあの後、即時に戦線復帰したぞ!」
リタ姫にゲロゲロにされちゃったグリゴリーは、案外元気そうな様子だ。
……すいません、普通の地球人に無理言わないで下さい。あれ、ナナさんって一応は普通の地球人だよね。ねぇ、頼みますから普通の基準上げないでぇ。
「マム、アレは一体何だったのでしょうか?」
「そうねぇ、わたくしは分からないの」
「うむ。余も知らぬし、城内でも誰も知らぬのだ」
イルミネーターから陛下の声が聞こえる。
どうやらここ異世界でも未知の敵らしい。
「ボク、あいつらに心当たりあるよ」
「え!」
僕達は全員ナナの方を見た。
「あれ、皆。何びっくりしているの? リタちゃん、アイツらボクとコウ兄ぃとで戦ったよね」
「うん、南極遺跡でも戦ったし、こっちの大災害の時もだね。あの時はもう街中に敵が入り込んでいたから、今回みたいな大技使えなかったから困ったよね」
姉妹は楽しそうに話す。
……敵と戦った昔話が楽しそうなのは凄いというか、恐ろしいというか。死線を潜った場数が違うのかな?
「すいません、ナナさん。一体敵は何なんですか?」
「あ、ごめんなさいです。マムさん、陛下。アレは異界邪神の配下、神話怪物達です」
僕は驚く。
まさかアイツらが悪名だかき邪神神話の怪物達なのか?
「俗に言うクゥトルフ神話のバケモノなんですか?」
「ええ、タケシさん。よくご存じですね。全部が全部話が通じないバケモノでも無いんですけど、さっきのヤツらは暴れるしか能がないやつら、だから普通の武器でも殺せたの」
ナナ達の話によると下級でも邪神に分類される相手には普通の武器は効かず、魔法も効き難い。
多重次元結界を周囲に展開し、いかなる攻撃をも防ぐそうなのだ。
「いわばザコだけれども、数があんなに多かったら大変だよね。皆が街門に入らせないように頑張ってくれたから、リタちゃんは大技使えたし、ボクも大暴れ出来たの」
「タケや、一体邪神神話とはなんじゃ? 」
リーヤは僕に聞いてくる。
「簡単に言っちゃえば、宇宙には邪悪な神様と言われるバケモノが幾柱もいて、彼らを崇拝するザコが沢山いるって話ですね」
H・P・ラブクラフトが20世紀初頭に描いたコズミックホラー。
それをA・ダーレスら友人達が作り上げたシェアワールド的な新たな神話。
そこには数多くの邪神と魔物が出てくる。
その力の前には、ちっぽけな人類では風前の灯。
戦う前に姿をみるだけで正気度が磨り減って、最悪狂うとの事。
「あれ、僕達いっぱいバケモノ見たけど、SAN値あまり減っていないかも?」
「こっちの人とか日本人は、割りと大丈夫っぽいよ。こっちは怪異生物多いし、日本人は海産物や『光の巨人』や『ごじぴー』で怪獣慣れしているからって話なの。どうやらアレは海産物嫌いなラブクラフトとか、キリスト教以外を信じられなかった前世紀の欧米人の話らしくて」
「うん、わたしはタコとかイカ美味しいから怖く無いもん。それにヒラムさんはお友達だしね」
僕の疑問に姉妹は答えてくれた。
そういえば「光の巨人」シリーズで大ボスが海底神殿に眠る邪神だった作品もあった事を、僕はふと思い出した。
それと話にでたヒラムさん、なんと「古のもの」の生き残りらしく、姉妹やコウタ達と家族ぐるみで仲良くしているそうだ。
「とにかく、なんとかなって良かったですねぇ」
「そうですね」
ナナの声と「ひまわり」の笑顔に、僕は安堵した。
敵を殲滅して、一安心。
リタちゃんのアレは悪乗りですね。
まあ、魔法の威力は精神テンションの影響大きいから、ノリノリでブッパした方が効果的ですが。
さて、敵の正体が見えてきました。
前作から続く、邪神との因縁。
物語はスケールアップしてきました。
では、明日の更新をお楽しみに。




