第49回配信「晶園都市」
「ラジオの前の皆様、こんにちは
さちです。」
「……ノワよ。」
「ウィッカラジオ、おおよそ1ヵ月ぶりの放送やって行きますよ。」
「思ったより……間が空いて、しまったね。」
「途中の村のどこかで1回放送しておけばよかったですね。」
「そこは、まぁ、色々と……仕方ない。」
「例の大人の事情って奴ですね。」
「とりあえず、今は、今日の放送を、考えよう。」
「はい。それでは開始して行きましょうか
ウィッカラジオ、スタートですっ。」
「改めましてこんにちは
ウィッカラジオ、本日は晶園都市ホトハースよりお送りしております。」
「とりあえず……この1ヵ月弱の、期間の、報告から。」
「はい。前回深谷都市を出た私達は大陸の北西部へと向かいました。」
「基本的に、住んでいる人も、少ない、辺境の、地域だね。」
「はい。小さな村が点在はしてますがひたすら雪原が続いてるだけの感じでしたね。」
「後は、ひたすらに、一面の銀世界と、野生の獣に、魔物の類ばかり。」
「おかげでこの地域の探索はほとんど戦闘ばかりで大変でしたね。」
「それでも、他の地域の人との、接触も、少なそうな村に、ラジオの事を、広められたのは、収穫。」
「えぇ、私達の旅する目的ですからね
少しでも多くの人に知って貰えたらそれだけでも行った甲斐がありました。」
「少しでも、リスナーが、増えてくれると、良いね。」
「で、ついでに大陸の北西の端であるワカーニー岬にも寄って来ました。」
「ここは、氷海に突き出た、小さな岬で……周囲には、人も住んでいない、本当の辺境。」
「本当に何もなかったですね、雪が積もった陸地と後は海ばっかりで。」
「特に、大陸の、端から端まで、開発する必要もないし……あそこに行く理由がないから、そうなる。」
「最低でも住めるような環境ではなかったですからね
海沿いとは言え結構な高さがありましたから港も作れないでしょうし。」
「そもそも、流氷が多くて、船の出入りをするには、邪魔だし
海自体も、荒れやすいから、そう言う意味でも、向いていない。」
「景色自体はよかったんですけどね、見渡す限り海ですから。」
「ただ、海を見たいだけなら、南部地方の方が、綺麗だった。」
「えぇ、流氷の沢山浮かんだ海もそれはそれで趣はありましたよ。」
「ちなみに、あの岬、下には氷蝕洞穴と言われる、洞窟が、あるらしい。」
「そんなのあったんですね。知りませんでした。」
「どうせ、洞窟探索は、旅の目的じゃないから、特に知ってなくても、問題なかった……。」
「入ったところで中に住んでる魔物に襲われるだけでしょうからね
希少戦利品でも狙って狩りをするなら別でしょうが、その方面は興味ないですし。」
「旅の目的からは、離れるからね。」
「そんなこんなでワカーニー岬を後にした私達は、今度はこの雪国地方の中央部へと移動を開始したのです。」
「相変わらず、人外への、風当たりが強い、街が多くて……難儀は、した。」
「えぇ、手に入る場所で保存食とか多めに買っておいてそれでしのいだりと
今までの旅にない苦戦は続きましたね。」
「食べられそうな、植物とか、木の実とか……そう言った物の、採集も、あまり出来ないのが、辛い。」
「野草の知識とかあんまり私達にないですし、そもそも雪に覆われた中に生えてるのが少ないですからね。」
「一応、動物とかは、遠距離から、魔法で狩る事は出来るけど、それだけでは、食事の限界も……。」
「ノワさんが透明化の魔法で気付かれないように捕まえるとか
いくらでも手段はありましたからね。」
「まぁ、結局は、私の魔法頼み……のわけだけど。」
「すみません。狩りとかそう言う技術は何もないです。」
「以前もそうだったから、気にはしてない。」
「かれこれもうすぐ旅をして1年近くになりますからね。」
「だから、ある程度の事は、分かってる。」
「そう言うわけで少しずつ補給をしながら辿り着いたのがこの晶園都市ホトハースです。」
「この地方でも、上位に数えられる、大きい街
規模が大きい分、他の街や国とも、交流があり、異種族への、偏見も少ない。」
「おかげでここはすんなり入れて貰えましたね、ついでにラジオの放送許可も。」
「この地方に来るまでは、それが、普通だったからね。」
「えぇ。おかげで色々戸惑いましたけど無事に大丈夫な街にも辿り着けました。」
「じゃあ……この街の、解説。」
「はい、この街は雪国地方の西部では特に大きい街で
街の名前の由来ともなっている晶園と呼ばれる巨大な建物が所々に建っているのが特徴的です。」
「晶園……正式には結晶庭園
何かの結晶の、表面の様に、少しずつ角度の違う、何枚ものガラス板を、天井とした、建物。」
「ガラス張りでとても綺麗な建物ですよね。」
「そうね、独自の技術で、作られているらしいけど……外観は、かなり良いと、思う。」
「で、その晶園は何でこんなに沢山建てられているんでしょう?」
「あの天井は、少ない太陽光を、建物の中へと、効率良く、取り込める仕組み。」
「ふむふむ、太陽光を取り込むとどうなるのでしょう?」
「建物の中が、太陽の熱で、熱されて、暖かくなる。」
「なるほど、この辺りの地方は何処に行っても寒いですからね
でもそれなら何処の家ももっと取り入れていいのでは?」
「あの構造は、ある程度、表面積がないと、いけないから、小さな家では、上手く機能しない
……だから、大型の、施設でのみ、採用されてる。」
「せっかくの便利な仕組みなのに、何処でもいいってわけではないんですね。」
「ついでに言うと、特殊な技術による、加工だから……非常に、費用がかかる。」
「あ、たしかにあれは大変そうですからお金もかかりますよね
だとしたら一体どう言う施設があれを使っているのでしょう?」
「それは、暖かい必要が、どうしても、ある施設
さちは、何だと、思う……?」
「暖かい必要性ですか、私達が泊まった宿屋は違いましたし
他にも寄ったお店やレストランも全部普通の屋根でしたね。」
「……そうね。」
「うーん、そうなるとよっぽど特殊な……。」
「……。」
「ダメです、お手上げです。」
「正解は……動植物の、生産施設。」
「動植物の、生産ですか?」
「そう、言ってしまえば、畑や、牧場が、建物の中に、存在している。」
「なるほど、寒すぎて野菜とかが育てられないこの地方でもそれなら作れるんですね。」
「そうよ……だから、この街は、普通に、野菜も、牛や豚の肉も、手に入る。」
「おぉー、それは凄い事ですね。」
「しかも、自然の、太陽光を、利用するから、魔道器等で、熱源を確保するより
一度晶園を建ててしまえば、後は、低コスト。」
「そこまで考えられてるんですねぇ、ずっと暮らすならその方が安定して供給出来るでしょうし。」
「魔道器等で、熱源を確保すると、事故が起きた時が、怖いからね。」
「なるほど、分かりました。」
「じゃあ……現地紹介は、これぐらいで、いいかな?」
「つまりはこの放送が終わったら美味しいものを今のうちに食べておこうって事ですねっ。」
「いや……誰も、そんな事は、言ってない
それに、もう夕飯は、放送前に、食べた。」
「デザートですデザート、これだけ大量に晶園があるなら甘いものも作られているでしょうし
しばらく厳しい食生活が続いたからそれぐらいいいじゃないですか!?」
「ま、まぁ……たまには、甘いものぐらい、いいかもね。」
「よし、そうと決まればさっさと放送を終わらせましょう
以上、現地紹介でした。」
「それは、流石に……リスナーに、失礼だと、思う。」
「それでは、そろそろいいお時間ですしエンディングに入りたいと思います。」
「……そう言って、早く終わらせて、甘いものを、食べに行きたいだけ、じゃない?」
「そんな事ないですよ、ちゃんと最後までやりますよ。」
「それじゃあ、今後の予定から……。」
「はい。もう決まっているのでしょうか?」
「ここからは、この雪国の、首都の方へ向かって、移動する。」
「どんどん中心部へ移動するって事ですね、それならある程度安心ですね。」
「まぁ、道自体は、楽になると、思う
ただ……人外への、扱いは、どうなるかは、分からない。」
「出来ればここの街みたいに普通に歓迎してくれるといいんですけどね。」
「そればかりは、分からないから、とりあえず、進もう。」
「分かりました
それで、次の放送はどうするんですか?」
「まだ、詳しい、道程は、分かってないから、放送出来そうな、街に、着き次第に、なるね。」
「分かりました。視聴者の皆様には申し訳ありませんが
また放送できる環境が整い次第放送しますので、それまでお待ち下さい。」
「その間に、いつも通り、お便りは、募集
感想や、企画への応募、何でもいいから、送ってくれると、嬉しい。」
「現在募集強化中のお題は
今年になって自分のここを変えたい場所
冒険の疲れを取るための視聴者さんお勧めの方法
ノワさんの女子力をどうやって上げたら良いか
の、3つとなっております。」
「以上……お知らせは、終わり。」
「はい。ノワさんも視聴者さんもここまでお疲れ様でした。」
「さちも……お疲れ。」
「次回以降もまだ不明な点が多いですが、よろしければ次も聴いていただけると嬉しいです。」
「また、間は空くかも、しれないけれど……聴いて、欲しい。」
「では、またお会いいたしましょう
お相手はさちと。」
「……ノワでした。」
「ここまでありがとうございました。」
「……またね。」




