第一話 転生
導入です。
「栄太郎、これから私の言うことをよく聞いて」
意識の中で聞きなれない女性の声が頭に響く。
夢の中にいるみたいだ。
「これからあなたは、今生きている世界とは全く別の世界で生きていくことになるわ」
聞いてて心地の良い声。
でも、何を言ってるのかさっぱり意味がわからん。
別の世界?
いや、そもそも
「あなたは、誰?」
「私の名は、イーシュ」
「イーシュさん?何故俺が別の世界に行かなければいけないんですか?」
なんとなく、タメ口を使うのを躊躇ってしまった。
「こちらの世界、あなたにとっての異世界の住人の祈りがあなたの魂を引き寄せてしまったのよ」
「え?」
本当に意味がわからない。
祈られたからって、わざわざ別の世界に行くのか。
何しに行くんだ。そもそも、何で俺なんだ。
デリ何なんだ俺は・・・。
「えーっと、あなたは、さっきスーパーから帰る途中に事故で死んだわ。本来なら魂は霊界へと導かれるのだけど、その前に異世界からの祈りに呼応して、彼らの主神である私のもとへ来てしまったの。別に、あなたを狙ったわけじゃないと思うけど、何故かあなたがリンクしてしまったのよね」
説明がくどいけど、俺のためにわざわざそうしてくれているのだろうか。
って、えぇ!?
「え?俺、死んだんですか!?」
「そう、スーパーから家に帰る途中に事故で。いつもは買わない高級な牛肉とカレーの材料を買って浮かれていたのね。信号無視する車に撥ねられたわ」
なんたる間抜け。
そういや、今日は給料日だったような・・・。
いつもより高級な肉を使った贅沢なカレーを作ろうとして、確かにスーパーに寄った。
「じゃあ、このまま異世界に召喚されるんですか?」
「え?えぇ、そうよ。いやに物分かりがいいのね」
「まぁ、よくありそうなパターンですしね」
俺も異世界もののアニメを見すぎて、ついにこういう夢を見るようになったか。
「で、どんなチートがもらえるんですか?」
「チート?」
「はい、あらゆるものを切り裂く剣とか、時空間を操る魔法とか、そういうスキル的な・・・」
「残念だけど、そういうのやってないの、ゴメンね♡」
いや、そんな急に可愛い声出しても・・・。
え、チートないの?
「あ、その代わりにスーパーで買った材料はそのまま異世界に持って行っていいわよ」
は?カレーの材料持って行ってどうするんだ。
ていうか、急にキャラ変わったな。
「いや、おかしいでしょ。あなた女神なんですよね?だったら、チートの1つくらい・・・」
「いくら女神でもできないものはできないの!あなたは、向こうの世界でもあなたのまま!彼女いない歴=年齢のアラサー営業マンのままなの!ただし、向こうの世界ではただのニートだけどね♡」
マジか、こいつ。
マジで言ってるのか。
チートも無しに異世界に行って何が楽しいんだ。
というか、カレーの材料持って異世界転生とか、何の冗談なんだ。
「では、あらためまして。栄太郎、あなたが異世界に呼ばれたのには理由があるはずよ。私の可愛い子どもたちを救ってあげて」
「いや、ちょっと待って。訊きたいことはまだ沢山あ・・・」
だんだんと意識が遠のいていく。
見るならもう少しまともな夢がよかった。
というか、夢で見るなら転生してからの楽しい生活の方を見たかった。
にしても、カレーの材料とともに転生って・・・。
「あら、栄太郎ったら夢だと思っているのね。まぁ、しょうがないかな」
こうして、レジ袋にカレーの食材を携えた俺の異世界生活が始まる、のか?
次回、異世界サイドに移ります。