表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 1
9/32

花と少女

「アダン、言い過ぎだ。」


 冷たく静かな空気が流れるデッキに挿し込んだのはレイの声だった。

 誰もがシエルの言い分を分かっている。アダンの言い分も分かっている。だからこそ、何も言う事ができない。彼らでさえ何が正義で何が悪で何が良くて何が悪いかなんて全てが全て分かっていない。彼らもまだ()()ではないからだ。


「レイ…俺は成さなきゃいけない事がある。そのためにはやらなきゃいけない事がある。アイツにも学んでもらわないといけない世界がある。」


「まだ14の子供だ。そこまでさせる必要が…」


1()4()()()()()()()


「それは…」


「お前が軍属になった歳はいくつだ?シエルよりも若かった12歳の時だ。アリシアとペンテアはどうなる?"特別"だからなんて言い訳にならない。」


 アダンの返しにレイの強い口調が止まる。覚悟を決めた瞳に人を固める瞳すら逸らさせる。


『おい、大変だ!』


 デッキにこだまするハスキーボイス。整備をしているガガの声だ。内線で彼が突然かけてきたのだ。


「どうしたジイさん?なんかアクシデントでもあったか?」


「ああ、なんか揉めてるとこ悪ィ。それより大変なんだ。」


「アニマがドッグに無ェ!」


「なんだって!?」








 意地を張るのは子供がすることだ。僕は子供じゃない。男だ。自分の行いにけじめをつけて頭を下げることだってしなきゃいけない事だ。自分の言葉ば間違ってるだなんて思わない。けれどアダンの言葉だって一つの正義なんだ。そこを認めなきゃいけない。

 デッキへと戻ろうとしたその時、曲がり角で誰かと強くぶつかった。


「っ!!」


「痛てっ!!」


 冷や汗をかき、焦りの表情を見せて急ぐ彼はこの間合流したダニエルさんだった。吃りが凄い上にそそっかしい人物だと初対面からどことなく思っていたが今回はそれに増して焦っていた。


「ああ、すみません。どうしたんですか?まだ作戦まで時間は…」


「いやこちらこそごめんよ!実はね!あのね!君が乗ってるね!イイイイージスがね!なななんていうかその!居なくなっててね!」


「…はい?」


「ダニエル!落ち着け!」


 背後から頭をコツンと叩きいつも以上に吃る彼を落ち着かせるのは兄のジャックさん。彼は危なっかしい弟を常に見守る活発で明るいみんなの思うステレオタイプな頼れる兄という人物だ。堂々とした態度は弟よりも東部都市国家の軍服が似合う。


「ごめんね弟が。端折って説明するとアニマが突然居なくなった。恐らく盗まれた。まだ遠くまで行っていないはずだから探知が効くってことでリゼット達が必死に調べてるよ。」


「盗まれた!?でもアニマはイヴがいないと…」


「そう、私が乗らないとアニマは言う事聞かない。多分シエルだけで乗っても動かないかも。」


 背後から話を聞いてデッキへと向かっていたイヴもアニマを動かした事に驚いている。アレは本当にジャジャ馬だ。


「ぼぼぼぼ僕が監視を怠ったからだ!!!どどどどうしよう…政府になんて言って帰れば…」


「だから落ち着けダニエル。トイレに行った1分2分は怠ったなんて言わないから。お前は悪くないからとりあえず一回水飲んで落ち着け。ほれ。」


 ジャックさんがボトルの水をダニエルさんに手渡し、それを一気に飲んだ彼はそれからゆっくり深呼吸して落ち着きを取り戻そうとする。


「とりあえず一番怪しいテラ教の連中と今リーダーさんが通信で話し合ってる。一応キミとイヴちゃんもあのイージスのパイロットだし、行った方が良いかもな。」


「ありがとうございます。」


 曲がり角を抜け、デッキの重厚なドアを開くとそれは僕とアダンが揉めた時とはまた違う深刻な空気が流れていた。


「なあレーニン、あんた達をあまり疑いたくはないが今回の件に対しては少しそっちに疑惑を持たざるを得ない。」


「助けを求めた挙げ句泥棒扱いか…!?テメェはどこまで性根腐ってれば済むんだ?動かせないイージスなんて盗んだって無駄な事くらいこっちも分かってんだ。それともお前らはテラの人間をそれすら分からない土人とでも言いたいのか!?あ!?言ってみろよ!?」


 青筋を立て、目を赤くして怒る彼の剣幕に流れ石の面々は圧倒される。それでもアダンは全く怒り煽りに屈せず淡々と答えていく。


「むしろ君たちだからこそアニマの特異性を知ってるんじゃないか?」


「馬鹿言うな。アニマは確かに特殊なイージスだが俺達はアレに興味はねえ。ガイア様への奉仕は俺達の思想じゃ異端だ。」


「そうか、それは申し訳ないな。とにかくそっちは関与に否定って事で良いかな?」


「当たり前だ!内地の人間はレッテル貼りしか脳が無ぇのか…!?切れ通信!」


「余計な事喋りやがって…」


 アダンは呪詛の様に測れた最後の言葉に少し苛つきを隠せなかったが、強く怒りはせず冷静に状況を伝える。

 これまでの状況をまとめるとアニマは何かしらの輸送機で持ち出された可能性が高いとのこと。テラ教からの武装補給の最中に起きたとの事で彼らが主犯で無くとも彼らの関係者かそこにスパイが居たと考えるのが妥当。長距離航空出来る輸送機はこの辺りの空域には見つかっていない為そう遠い場所には持ち込まれていない。探知中だが意図的と思われるジャミングがあってなかなか見つからないとはエリーさんの談。

 とにかく探知がうまく行かない分にはどうしようもできず、虱潰しに調べるにもこの辺りは原生植物の森でかなり視界が悪い上に北に行けば行くほど磁波がかなり弱くなる地域なので高度を上げてイージスを飛ばせない。何よりテラ教側が下手な動きを嫌ってイージスの勝手な出撃を許してくれていないとの事。


「どうにも見つからないとなぁ…」


 その時、リゼットさんのオペレーション端末から大きなアラーム音を立てる。探知が上手く行ったという音。かなり時間はかかったが見つかったようだ。


「アニマの固有周波、探知しました!方位は北北西、おおよそ6km!」


「案外近いな。ティーネ、あちら(テラ教)に探知成功と出撃許可要望の連絡したが?」


「やってるよー。あっちのイージス連れた状態で二機ならいいってさ。」


「二機ねえ…二人座れる機体は301と…601か。それじゃあヘンリーとモハメッドが乗って複座にシエルとイヴだな。ヘンリー、601乗れるか?」


「余裕サ!」


 ヘンリーが親指を立てて合図する。イージスの基本操作は変わらない上に同じKG社製、しかも新し目の601ならモンスターマシンのバナナヘッドよりも乗りやすいだろう。


「あっちは何で来るって?」


「レーニンさんがキタジマA03で来るらしいです。あとは201が二機…」


「おいおい…本人直々にかよ勘弁してくれっての…あっちはもう出れるって?」


「はい。いつでも行けるそうです。」


「それじゃ出撃準備だ。明星号も第二種戦闘配備!」






「なんだあのA03…ゴリゴリに改造し過ぎて原型留めてねえじゃねえか…」


 レーニンが乗るキタジマA03は本来装甲を少し減らして空気抵抗を可能な限り減らす高い機動力と安定性を持った機体だが彼のA03は全身武装まみれになっていて両手にはアサルトライフル、背中に大型ガトリングとバズーカが二丁、リアスカートにはグレネードが多く装備されまさしくゲリラ戦特化と言える仕様になっていた。色もシャングリラの原生林に紛れるくすんだ緑をしている。迷彩ということだろう。


「今回のは探知したポイントがパラディースの拠点と思われる場所に近いから認めた。この際見つかれば強襲をかける。お前ら変な動きしたら容赦しないからな?」


 パラディース教、テラ教とも敵対する過激派ガイアニズム系宗教。彼らはシャングリラの土壌がもたらした技術を使うことを禁忌としている為、イージスを使う事は無いという。

 しかし、イージスやエンジンを強奪して"神様"へのお召し物にするという噂がありアニマもそのために盗まれたというのが有力との事。何より最初のイージスというのが重要らしい。


「作戦はイージスで付近まで向かったら601で探知。精密な場所が分かったら少し離れた場所で降りて生身で潜入…白兵戦はアタシの華だねェ!」


「Oh…怖ッ…ヘンリー頼むわぁ…」


「馬鹿タレ!アンタも行くんだよ!イヴとシエルだって行くんだから年長者のアタシ達がしっかりしないと!」


「umm…」


 先行して601がポイントへ向かう。後を追ってモハメッドの301、最後にレーニン達が横に並ぶ形で追う。あちらの201もA03と同様、ゲリラ兵を思わせるカスタムが成されている。広がって追いかけるのはこちらを相当警戒しての事だろうか。


「シエル、気分はどうだい?後ろで吐かないでくれよ?」


「吐きませんよ!!!やめてくださいよ姉さん…」


「悪い悪い。……姉さんねえ。」


 姉さんという呼び名に彼女は複雑な表情をして遠くを見つめる。思えばこの呼び名は勝手に僕が呼び始めたものだ。イメージ的に姉さんっぽいし、アリシアとペンテアもそう呼んでたから必然的に良いものだと思っていたけれどひょっとしたらあまり喜ばしい呼び方ではないのだろうか。


「もしかして…この呼び方やめたほうがいいですか?」


「え?ハッハッハッ!そんなわけないでしょ!」


 声を上げて腹のそこからヘンリー姉さんが笑う。あまりに面白いものを見たか如く笑い飛ばされなんだか変なことを言ってしまった気分になった。


「いやさぁ、昔ね。弟が居たんだ。強がりで、悔しがりで、一度決めたらやめない頑固なやつで。カワイくない弟だったけど()()()()()さ。」


「その弟さんは今…」


「死んだ。」


「っ!………」


「七星災害。アタシが住んでた街はアタシを残してまとめて吹っ飛んじまった。家も家族も弟も…生きてたらアンタくらいかちょっと上だったかな。生きてた頃はナマイキでカワイくない弟だったけど居なくなって初めて自分が受け取ってきた幸せに気付くモンなんだ。そんで思ったんだ。"アタシは姉さんとしてやれてたのかな"って。」


「後悔したさ。でもあまりにも理不尽に全部全部奪い去られた。せめてアタシはみんなの"姉さん"として振る舞えれればいいかな、なんて。アタシのエゴなのさ。」


 悟るように彼女は語る。彼女は自分の振る舞い、優しさ、厳しさ、全ては自己満足だと言う。それでも僕は誰かの為になる自己満足を悪いだなんて思わせたくない。


「そんなこと無いですよ!みんなヘンリー姉さんの事を慕ってそう呼んでる訳で…それはエゴでも悪い事じゃないです。」


「そう言ってくれると有り難いよ!モハメッド!もうすぐポイントだよ!イヴに汚い言葉使ってたら容赦しないからね!」


「Ladyにそんな事するわけ無いだろ!」


「アタシはレディじゃないって言うのかい!?」


「本当にやかましいな貴様らは。着いたぞ。さっさと探知してくれ。」


 エゴだと言っても明るく接する彼女はとても楽しそうに見えた。自分が作った自分の像であっても、それが輝いていて誰かを幸せに出来ればそこに問題は何もない。僕にはそう思えた。


「探知…真下!?」


「なるほど…地下って事が…」


 601のレーダーが示したアニマの座標は真下。即ち地下。アニマを隠した連中が地下に本拠地を構えていたという事だろうか。


「灯台下暗し…とはよく言うがまさか俺達の本拠地からそう遠くない所にあったなんてよ…」


「とりあえず降りて付近調べるのがいいですかね。」


「みんなー念の為武器は持っとけよー!」


 姉さんの声でイージスを地上に降ろし、予め積んでおいたアサルトライフルを手に取る。考えてみると実銃なんて持つのは初めてだ。姉さんやモニターから見えるモハメッドさん、イヴの銃の扱いはこなれていて、ぎこちない僕が恥ずかしい。


「シエル、これの使い方分かるかい?」


「え〜っと…引き金を引く!」


「セーフティ外さないと出ないからな。慣れてないんだからあんまり前に出るなよ。アタシが前見てやっから。」


「…すみませんありがとうございます。」


 銃で警戒しつつ付近を調べる。視界が悪い。元よりこの辺りは背の高い原生林で光があまり差さず、今日は天気も悪い。北部は比較的日が沈むのが他の地域より早く、あまり時間を食いたくはない。


「ヘンリー、あそこの岩。なんか変。」


 イヴが少し先にある大きな岩を指差して言う。確かに平坦なこの辺りの地面に対して少し変な所にある岩に見える。近づけば何か分かるような気もするが…


「伏せろみんな!」


 小声だが強い口調で姉さんが言った。僕にはその時何が起きたか分からなかったが、少し経って目を凝らし岩の近くを見ると銃を持った男が二人そこに立っていた。


「…間違いない。パラディースの連中だ。」


「アレがそうなんですか?」


「隈のようなタトゥーを入れるのはパラディース教徒の特徴だ。俺達と同じでタトゥーを顔に入れるがあんな入れ方はしねえ。気付かれないうちに処理できれば良いけどな。」


 その時、イヴが頭を抑えて体勢を崩した。


「…っ!」


 苦悶の表情を浮かべ、苦しむ彼女に何かあったかと皆して警戒を強めるが門番らしきもの達がこちらに気付いた様子は無く、イヴも手で「大丈夫」とジェスチャーする。


「イヴ?大丈夫?」


「ありがとうシエル。ちょっと頭が痛くて。」


「どうしたガキ。ここに来て過去の事でもフラッシュバックしたか?」


「今そんな事言わないで下さいよ!」


「YoYoYo!喧嘩してる場合か!どうするか考えるんだよ!」


「この距離で気付かれなければ一方的に…っ!!!」


 しかし銃声は突然に空を切りヘンリー姉さんの頬を掠める。

 さっきの音でこちらに二人が気付いた。銃をこちらに向け撃ってきている。咄嗟に僕らは原生林の木陰に分かれて隠れるがこのまま二人を放置すれば人が呼ばれる可能性があった。


「アタシが一気に突っ込んで二人共殺る!」


 姉さんがライフルを担ぎ敵へと突っ込む。銃弾が容赦なく彼女の体を突き抜けていくがその程度で彼女は死なない。片方へ接近し頭に鉛玉を連射で撃ち込む。しかしもう片方に脳天を撃ち抜かれる。

 彼女はその場で倒れ込み、片方の門番は岩へと戻っていく。


「姉さん!?」


「…一瞬意識が飛んだが…」


 先程よりも小さな銃声が原生林にこだまする。頭を撃ち抜かれ倒れる門番と倒れていた姉さんの右手にはハンドガン。倒れたフリをして彼女は確実にもう一人を撃ち抜いていた。


「久しぶりに頭を撃ち抜かれた…変な気分だ。おえっ…弾丸抜けないし…」


 頭をトントンと叩き撃ち抜かれた弾丸と少々とは言いにくい真っ赤な血が彼女の頭からポトリと落ちる。彼女の再生能力を生で見たのは初めてだった。知っていても撃たれるのは精神衛生上宜しくない。


「…バケモノが。」





「Ah〜〜〜怖ぇ…俺はヘンリーみたいに丈夫じゃねえから怖くて仕方ねえよ…」


 岩の裏には怪しげな大きい扉と梯子があり、降りるとそこは洞窟を防空壕のようにした場所が広がっていた。

 ここはどうやら廊下のようでこの場所の何処かにアニマが隠されたのだろう。それにしてもこんな狭い入り口からどうやってアニマを入れたのだろうか。恐らくアニマを持ち込んだルートは別だろう。


「この洞窟、先にある滝に繋がってるな。方角的に先は崖と滝だ。あちらからは行けなかったのか?」


「無理ね。あっちはイージス飛ばせないくらい磁波が弱いし視界もここ以上に悪い。何より開拓前線に近いから連邦に見つかるかもしれない。」


 廊下を警戒しつつ歩いていくが僕は終始体調の悪そうなイヴが心配で仕方なかった。状況的に人の心配してる場合じゃない事は分かっているのだが風邪などをあまり引かないと本人自ら語っていた事を思い出したので何だかとても不安になってしまったのだ。


「イヴ、本当に大丈夫?」


「ちょっと、近づく度に痛くなってくる。でも私居ないとアニマに乗れない。」


「そうだけど…あんまり酷いなら言ってよ?」


「…ん?反応が近いな。」


 姉さんが601から持ち出したレーダーに強い反応が現れる。この先にアニマがいると言う事だ。それは戦闘も考えられる。緊張が高まる。

 広間への入り口へと辿り着くとヘンリーが伏せて隠れろと手でジェスチャーし、彼女が双眼鏡を用いて角から中を覗き込む。


「居る!アニマだ。奥に変なオブジェ…?と男の子…あと敵兵もかなり居る!」


 こちらはヘンリー姉さん、モハメッドさん、僕、イヴ、レーニンと連れの二人で七人。しかし僕はアサルトライフルを使ったことが無いし、イヴは具合が悪そうで銃を持てる状態ではない。つまりところ実質五人。


「殲滅は無理だ。テメェさんだって頭と胸同時に撃たれりゃ死ぬんだろ?さっきは運が良かったがこんだけ入ればマグレでも当たんぞ。」


「そうだねェ…アタシが突っ込むにゃ、ちょい無理がある。」


「俺のテレポートはここからだとギリギリoutだ。もう少し近づければ二人共連れたままイケそうなんだけどな。」


「アニマに乗ってしまえばこちらの勝ち…皆さんで突入した後にモハメッドさんと僕、イヴの三人でアニマに向かって範囲になったらテレポート、僕とイヴがアニマに乗って残りを殲滅…って感じですかね。」


「OK!それだ!」


「決まったならやるぞ。テメェらにかかってる。準備出来たか?」


 それぞれ銃の残弾やセーフティ等を確認し、姉さんのハンドサインでレーニン達三人が突っ込む。続いて姉さんが突っ込み敵の注目を集める。

 後からモハメッドと僕たちが入り込み、こちらに視線が注がないうちにアニマへと近づく。


「連続テレポートとか出来ないんですか!?」


「NO!アレは走るのより遥かに疲れるからな!二人も連れてたら体力が持たねえ!」


 全速力で走りアニマの方へと近づいていく。あと少しでモハメッドさんがテレポート可能と言っていた地点だ。


「急げモハメッド!四人じゃ食い止めるので限界だ!」


「紐頭…さっさとしやがれ…!」


 テレポート地点へと辿り着く。しかし、敵二人がこちらの動きに気付いた。こちらへと銃口を向けられ引き金に指をかける。そして撃ち込まれる瞬間…


「BANG!!!」


 モハメッドさんの声と共に三人はアニマのコクピット直上へと転移する。成功だ。テレポートで回避された弾は何もない場所に風を切るが、二人の敵はこちらへと照準を変える。


「アイツら!ガイア様の騎士を盗むつもりだ!」


「なんて卑劣な輩だ!許すな!許すな!」


「乗ってろ!俺がコイツらブッ飛ばしてやる!!!」


 モハメッドさんは銃を手に取りアニマから敵に向け飛び降りる。敵もモハメッドを撃とうと銃を向けるがその瞬間、彼の後頭部にあったのはモハメッドさんの脚。

 大胆な回し蹴りで頭を蹴り飛ばし、隣の敵兵をそのままノールックでアサルトライフルを撃ち込んで沈黙させる。


「…Good Luck」


 モハメッドさんはそう言い残して白目を剥き倒れ込んだ。


「…ううっ…!ああっ!」


 イヴが声を上げてうめく。明らかにさっきより様子がおかしい。アニマに二人乗り込むがモニターに移る彼女は酷く苦しんでいた。


「イヴ!?イヴ!大丈夫!?また頭が?」


「平気…それよりアニマでここを…」


「それよりって…分かった!」


 アニマを起動させ、四人と交戦したいた集団を一網打尽に払う。イージスの腕に弾き飛ばされ、小さい人間は無残に叩きつけられて沈黙する。残りの者も逃げ出し、最後に残ったのは奥で祈り続けていた少年一人になった。


「手を上げろ。お前、見たことあるぞ。ムーンだな?」


 オブジェのようなものに対して必死に祈りを捧げる少年は銃を突きつけられようが手を上げずにそのまま祈りを続ける。


「まさかガキをスパイに使うだなんてな。パラディースもエグいことしやがる。タトゥーがまだ無いのをいい事に上手く使いやがって。」


「使う?違う。僕はガイア様の意志に従うだけだ。」


 祈りをやめ、少年は立ち上がる。銃を突きつけられても命の危険など自覚がないかの如く無表情にこちらを向き、反論する。その狂信的に一つを信じる姿は不気味で目に光の灯らない視線が恐怖を感じさせた。


「意志だと?ガイア様は星そのものだ。神と人は関われないのがガイアニズムの共通だろうに。」


「彼女はガイア様の化身だ!彼女はガイア様の霊魂だ!彼女こそがこの星だ!」


「偶像崇拝はパラディースでも禁忌じゃないのか!ましてや現人神なんて言語道断だ!何言ってやがるこのガキ!」


 声を荒らげレーニンが少年に強く銃を突きつけたその時、背後のオブジェの花弁が開き、中から少女が現れる。その姿は誰かに似ていて…誰かに…誰か?


「何…?私に…何か…ううっ!!!」


 イヴが花弁の少女を見つめ、再び頭を抑え苦しむ。花弁の少女は青い瞳、人形のような顔とスラリとした姿。

 そうだ。イヴだ。イヴに似ている。兄弟?いや双子?というよりも全く同じ人物であるかと思えるように。髪の色も長さも違うが二人は同じ姿をしている。


「なんだ…?誰だ!」


「…神様。ではありません。ワタシは…」


「誰なのか。」


「ガイア様!ああガイア様!酷いお目覚めであったでしょう!卑劣な蛮族共にまたこの"罪"を奪われてしまいました!ああガイア様!どうか彼らに大地の罰を!」


「ワタシは…神様では…」


「なァ…あの花弁、よく見たらドールが精製される時の繭じゃないか…どうなってる…?これは?」


 花の繭から現れた少女は無の表情をしている。喜怒哀楽のどの位置にも属さぬ"無"。人形の如く命が吹き込まれない存在の如き表情をして、抑揚のない喋り方で答えていく。


「ワタシは…神様ではありません。ワタシは誰なのか分かりません。ワタシは…ここから出る事が出来ない。」


「楽園書記!!!!!古の楽園には少女の姿をした神が居た!しかし神は人が神の大地に降りた事で滅ぼされ今や失われた!!!しかし!ガイア様は記憶を失いながらここに残っていた!!!人類への復讐!!!大地を侵し女神を滅し!楽園を荒らした人類への復讐の時!!!!!騎士を取り戻し世界に叛逆を!!!人類に復讐を!!!!楽園の返還を!!!!」


 狂った様に早口で無茶苦茶に喋る少年にレーニンは言葉が通じないと頭を抱える。突然喋られる訳のわからない言葉の数々に僕には理解が追いつかない。一体この子は何の話をしているのだろうか。戯言と目前の神秘が混乱を招く。


「楽園書記なんて異端だ狂人め!!パラディースはイカれた連中だと思ってたがお前らは特にイカれてやがる!この人形も天岩戸モドキも全部ぶっ壊して分からせてやろうか…!」


「ガイア様に背く気か!貴様もガイア様を信仰する一人であろう!」


「俺が信仰するのはこの星そのものだ。ガキじゃねえ。」


 レーニンが再び引き金に指をかけ少年を撃ち抜こうとしたその時。けたたましい姉さんの端末の警報音とイージスに居ても伝わるほどの地鳴りを聞く。


「大地の怒り!大地の怒りだ!!!」


「…違う、外に連邦がいる!この音は…空爆!?みんな!さっさとずらかるよ!ここが崩れる前に出るんだ!狂ったガキは無視して行くよ!」


「僕たちは!?」


「アニマはその先の滝から出れるだろうけど…なんとかそこを壊して出て!」


「分かりました!」


 地鳴りと崩れ行く洞窟の中、狂いきって歓喜する少年は落ちた瓦礫と岩の中に埋もれていき、花弁の少女は儚げにこちらを見ていた。


「アナタは…誰?」


「…っ!!!何?私は…」


「イヴ?行くよ!」


「アニマが…嫌がってる…?なんで…?…っ!!!頭が…」


「アナタは…私の…」


 いつも以上に動きが重いアニマを起動させ、天井に無理やりバスターソードを突き刺し、"突き放し"て地上へと出る。苦しむ彼女が心配でならなかったが今はここから撤退するしかない。

 僕は花弁の少女が気になって仕方がなかった。イヴにとても似ていて、少なくとも彼女は"ヒト"らしくなかった。その印象は初めてあったイヴとそっくりで…考える度に頭が混乱していく。

 頭を痛める彼女、花弁の少女、ガイア、星、様々な要素が僕の頭に入っては暴れていく。






「全て焼け!焼き尽くせ!何一つ残すな!」


 七星連邦自治軍北部所属、北斗型二番艦「大空号」。デッキで手を振り指揮するのは年端も行かぬ少女。

 ストロベリー・ヴァレンタイン曹長。


「スティ、たかが宗教系ゲリラの追討だろう?張り切りすぎでは無いか?」


「馬鹿を言うなラジー。これはととさまの命だ。全力を尽くし我ら『ダスター部隊』の力を知らしめるのだ。」


 そこに話しかけるのも少女。ストロベリーと似た姿をした彼女はラズベリー・ディーヴァ軍曹。よく見ると大空号のクルーは全て似た姿を同じくらいの年頃の少女で統一されている。


「ととさまの神威号は後より合流する。それまでに我々が出来る限り戦果を上げるのだ。虐殺も辞さない我々の実力を魅せるときが来たのだ。」


 少女達の艦はその姿に似合わず、過激に暴力的に炎を広げ進む。

 彼女達はダスター部隊(塵へ返す者達)

・キタジマA03

キタジマ社のA03(形式番号)

東部のイージス製造をするキタジマ製イージス。高性能だが高価な上に基本的に東部都市国家にしか出回らない為に入手が困難なのが特徴。

A03は古い機体ながら空気抵抗等を考え尽くされた効率性の塊のような美しいボディーが特徴なのだが………

レーニンのA03はゴッテゴテにカスタムしたランボーモードなのでその利点が死んでる。

テラ教は東部とも敵対してるので恐らく鹵獲機か闇ルート


・植生

シャングリラにも植物はありますが、かなり変わったものが多い上に中心地にはほぼありません(人工的に母星の植物を埋めた森はある)

特に北部のは厳しい寒さも耐え抜く木があり、普通の木とは比べ物にならない硬度が特徴。葉も硬く、下手をすれば刺さって人が死ぬ。


・ガイアニズム

偶像崇拝は厳禁。大地そのものが神様なので。

楽園書記はガイアニズム系神話の一つだが偽典とされ異端扱い。あまり認められている説ではない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ