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少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 1
7/32

踊れ蝿たち

マ○オテニスACEの体験版やってたら落としかけたよ

 それはレイとシエルが買い出しに出て少し経った頃であった。


 「Foo!こいつが受領する601Eか!結構いいじゃんか!」


 「だろ?アダンはキタジマのイージスを欲しがってたみたいだけどキタジマ製イージスは今本国(東部都市国家)が調達しまくってるせいで外に出す余裕が無いらしくてよ。中古の601を揃えたんだ。」


 「所詮リーゼーと侮ってたがコイツはなかなかcoolだぜ!やっぱアンタんとこのチューンは最高だ!例の"アレ"の整備も助かるよ。あんなの艦内の設備じゃネジ一本変えるので精一杯のバケモンだ。ありがたいぜ。」


 「そう言ってもらえると嬉しいよ。ところでモハメッド、今さっきそっちの機体のメンテやってたんだけどバナナに変な改造してないか?」


 「What?なんの事だ?」


 「いやぁアレさ、背中の所見てくれよ。アンテナでも増設したのか?何年も整備士やってるが、あんなの始めて見たもんでよ。分からねえんだ…」


 バナナヘッドの背に付いた小さい謎の物体。それがモハメッドの目に入った瞬間、いつもおちゃらけている彼の目つきが変わった。そして彼は強烈な悪寒を覚えた。今の状況は最高最大に"ヤバい"。


 「オイオイオイ…コイツぁ…f…uckだな…」


 「ターナー、アダンに今すぐ戦闘配備する事を伝えろ!そんでそいつを今すぐぶっ壊せ!それはアンテナなんて可愛いもんじゃねえ!連邦の発信機だ!」







 「ここからバイクで全力で戻ればイージスより早く基地に着く。シエル、しっかり捕まりなよ。そこの兄ちゃんはどうすんの!」


 「俺は自分のバイクがありやす!そいつで追うんでアニキ達は先に戻ってくだせえ!」


 「なら遠慮なく…着いて来れなかったら置いてくぞ!」


 荷物を持ち、僕を後ろに乗せてバイクを急発進させる。電磁バイクは最大限まで加速させれば200km/hは余裕で出せる。しかしタイヤで走る乗り物よりも圧倒的にブレーキが効かない為基本的に出す速度というのは速くて60km/h。高速走行でのブレーキはかなりのテクニックを要する上にタンデムだと更に難易度は増す。つまるところこれはかなりの自殺行為だ。だが、市場の道は一本道で幸いな事にイージスが通ったことで全ての商店が閉まっている。人もいない一本道ならば話は別だ。なによりレイさんは自分の腕に最高の自信を持っていた。


 「行くぞ、速すぎて気失うなよ。」


 「大丈夫です。レイさん。」


 「"レイ"で良い。」


 急加速を可能とする電磁走行。数秒も経たぬうちに200km/hまで加速する感覚に彼の言葉通り気を失いそうになるが、これくらいのGはイージスに乗って何度も経験している。風の抵抗に体を押し込まれながらレイさん…改めレイにしっかりとしがみつき、僕は体勢を整えつつしっかりと買った物資を持つ。ふと後ろを見るとさっきの男がこちらの圧倒的な速さに追いついていた。なんて男だ。想像よりもクレイジーかそれとも優れた男だったのか。とりあえず言えることはベリルさんの言う様なタダの馬鹿じゃない可能性だ。


 「俺は元々南部最速のライダー…!色々あって干されたが今でもこの腕は訛ってねえ!しっかり後ろにつけてるぜ!」


 「チッ、そのまま見えなくなるまで置いていかれちまえば良かったものの…」


 本音出てますよ。

 市場だった一本道を超高速ど走り抜けて行くと、やがて景色が開けて基地が見えてくる。背後にはさっき見た連邦のイージスが見えている。こちらのバイクにはまだ気付いていないようだった。


 「気付いてるといいんだけどな…だが闇市の場所はギリギリ索敵圏外だ。」


 「待ってレイ!基地から何か出てきた!」


 「あれは…301!モハメッドの301だ!気付いたか!」






 「System、All green、KG-301CC発進準備完了だ。出れる。アダンは何か言ってたか?」


 モハメッド乗機、リーゼーKG-301CCが基地のカタパルトにセッティングし、発進許可を煽る。ネオンブルーの眩しい機体の左肩にある二連装レーザーキャノンが目立つ重装型に近い装備を持ちつつも走行を減らした高い機動力を発揮できる機体だ。


 「後から601で出るってサ。発信機は気付かなかったアタシのせいだ。お詫びと言っちゃ変だけど先頭出させてほしいよ。」


 「そうは行かないな〜!」


 「私達はチームだよ〜!今回はみんなで防衛しつつ基地の人達積んで逃亡ってのが作戦!」


 モハメッドの右側モニタにはヘンリー、左側にはシュタイナー姉妹が映り、彼へと話しかける。彼女らもパイロットスーツを着用し彼同様出撃準備が完了した状態にあった。


 「That's right.チビ達分かってるじゃないか。今回は何としてでも逃げ切る総力戦さ。あっちの戦力も全力で叩きに来る可能性が高い。基地のイージスも総動員で向かい撃って逃げるッ!」


 「そうかい。こりゃあ前みたいに一人で頑張らなくても済みそうだネェ…嬉しい限りさ。」


 「ほらヘン姉ェ出撃だよ!いくよいくよ!」


 「奴らが圏内に来たみたいだな。」


 「それじゃ、人暴れと行きましょうかネェ!」


 301CC、/A、/B、バナナヘッドがそれぞれのカタパルトへと並び、発射姿勢を取る。オペレーターの合図と共にネオンの如き閃光が左右を駆け抜け、青白い火花が散る。頭上の出撃用信号は赤から青へと変わり、戦場への入口であることを告げる。


 「モハメッド301CCリーゼー!」


 「ヘンリー028Rクレセント!」


 「アリシア/Aビバンダム!」


 「ペンテア/Bビバンダム!」


 「「「「出撃!!!!」」」」


 四色の光が戦場と化す地へと放たれる。これは敵を倒す戦いではない。しかし敗北して良い戦いでもない。逃亡という名の勝利。逃げて生きるという勝利を求める戦いである。逃げる事は卑怯であるかという意見は彼らに通用しない。何故なら彼らは正義の位置にある者では無いからだ。







 開けた場所に出ると敵側の部隊も見えてきた。艦船が3隻は見える。イージスの数が前に交戦した時と比べ物にならない数なのは言うまでもない。レイが言っていた本部所属の機体もちらほら確認でき、動きからして練度の違いが見て取れる。イージスのマニューバは素人目でも練度が分かるほどに熟練度の違いが出る。軍用機の特に高機動型はあからさまに予測不可な動きをする。僕も軍用機に乗って気付いたが、簡単なようで細かな動きをするには高度なテクニックが必要になる。反射神経、手元の操作、磁波の把握と予測、コンマ一秒の操作の狂いも許されないイージスの操縦は心身ともに疲弊する。それをやってのけるエースパイロットはまさしくバケモノと言えよう。


 「この辺りから地下通路だ。表から行けばバイクでドッグまで戻れるが敵がいる以上危険だ。バイクは捨ててここから明星号まで戻るぞ。」


 「捨てていいんですか?」


 「まだ代わりが何台かある。乗れるのは僕とキミくらいだからな。」


 「そうですか…ところでこの人そのまま明星号に入れていいんですか?」


 「…特例だ、変なことしたら牢にでも突っ込めばいい。というか名前聞き忘れてたな。名前は?」


 「俺はウィルソンです!ウィルソン・ホーネット!」


 「じゃあウィルだ。着いて来い。」


 「ハイッス!」


 バイクを捨て、長い階段を駆け降りてどこまでも続くような真っ直ぐの薄暗い地下通路を駆け抜ける。先の光も見えぬほど長く途方もない距離にも見えたが、案外少し走るだけで済んだ。どうやら出た先の電気が消えてただけのようだ。

 警戒状態の基地を駆け抜け、レイがキーカードで隔壁を開けつつドッグへと向かう。

 レイが基地内なら通信が効くとのことでアダンへの通信を試みた。通信が繋がると流れ石の面々はこちらの安全に一安心した事と、敵機を察知して四機を先行させたことを伝えてくれた。アダンは状況把握と基地内部の人々を避難させた上で明星号を出航し、基地を放棄して離脱しつつ自身もイージスで出撃して防衛するとのことだ。

 イヴは既に出撃準備をしていて僕が着き次第出撃らしい。


 「こっちだ。ドッグに着いたぞ。」


 急いで明星号へと乗り、僕は今すぐにでもアニマの方に向かいたい気持ちを抑えてパイロットスーツへと着替えに行く。緊急事態こそしっかり体勢を整えなければならない。急がば回れ。焦りとは死へ最も近いものだ。そう言っていたのはヘンリー姉さんかモハメッドさんだったか。


 「ごめんイヴ!待たせた!」


 「ううん。無事でよかった。」


 「XSA-0アニマ、出れます!」


 実戦は初めてだ。前のは戦ってはいない。ただ逃げただけだ。今度は逃げるだけじゃいけない。最重要なのは明星号の防衛と避難が完了しきるまでの基地の防衛。今回は護る戦いということだ。

 いつも乗るコクピットだがいつもとは違う空気が流れる。鼓動はいつもより早まる。


 「大丈夫。シエルは強いから。」


 「ありがとうイヴ。僕は明星号もアニマも君も落とさせはしない。」


 …なんだかサラッと気持ち悪いこと行っちゃった気がする。イヴが何事もなかったかのように受け流してそのまま通信切るから余計に恥ずかしい。と思ったところでなんだか気が和らいだ。いくぞ…行けるぞ!


「XSA-0、発進どうぞ!」


 「シエル・アドロック!アニマ、出ます!」


 明星号のカタパルトから勢いよく射出され、艦から基地へ基地から外へと景色は目まぐるしく変わる。押し込まれるようなGの感覚にも慣れた。練習を何度も繰り返してアニマに乗るのも慣れてきた。シエル・アドロック、男を見せる時だろう。


 「あっ!イヴお姉ちゃんとゲロの兄ちゃんだ!」


 ビバンダム/Bに乗るペンテアが出撃した僕らに声をかけつつ、腕の狙撃レールガンを敵艦向けてぶっ放す。光の如き速さの弾丸が空を切り、衝撃波はコクピットに居ても伝わるほどに強い。


 「Yo!ペンテア!よそ見しながら撃つんじゃねえ!危ねえじゃねえか!アリシアと違ってこっちはテレパスなんてねえんだぞ!」


 「無駄口叩かず働きな!ペンテア、そっちに一機行ってるよ!気を付けて!」


 「ありがとうヘン姉!」


 ビバンダム/Bは遠距離狙撃特化機。近接格闘なんてものは専門外だろうから僕らの援護が確実に必要だ。大剣一本の清々しいほど近接一筋なアニマの出番と言える。


 「援護するよ!ペンテアの機体じゃ401を相手するのは無理だ!」


 「心配無用♪」


 ペンテアがそう言って腕の大型レールガンを構えると側面からレーザーガンやらガトリングやらマルチミサイルやらが露出し、まるでサーカスの様に敵機向けて各々射撃を始める。圧倒的な手数と物量を前に単騎で立ち向かった401は機体を穴だらけにされ、制御を失い地へとおちていった。


 「レールガンしかないのをゴネてたら今回の改修で色々つけてもらったんだーい!これで私も前線で暴れるぞ〜!」


 「やめてよペンテア!前線荒らすのは私の仕事!私の方がお姉ちゃんなんだから当たり前でしょ!」


 「アリシアは私に後方支援だけしてろって言うの〜!?つまんないよ〜!」


 「ゴチャゴチャうるさいよ!死にたいの!?」


 「ごめ〜ん!」


 「ヘン姉怖い〜!」


 無邪気に敵を散らすレンチアームのビバンダム/Aに無駄口を叩きつつも着実に敵機を狙撃するビバンダム/B。相手をしている敵もまさかあの恐ろしいイージスの中に乗るのが年端も行かない少女達だなんて思いもしないだろう。そんな事を考えてしまうくらいに彼女達に底知れぬ恐ろしさを感じる。無邪気な暴力とは何よりも恐ろしい。


 「シエル!/Bの後ろにもう一機401!」


 「っ!危ないッ!」


 背後がガラ空きだった/Bに肉薄しようした敵の401に対して機体を急加速させ、大剣を降って敵機を袈裟斬りにする。ドールごと両断された401は断末魔の様にアサルトライフルを明日の方向へと撃ちながら墜落していく。


 「助かった〜!やるじゃんゲロ兄ちゃん!」


 「認めてくれるならその呼び方を直して貰いたいな!」


 「もうちょっと足りないかなぁ〜?」


 「シエル、私達も前線に合流するよ。11時の方向に前の雷鳥型と北斗型が二隻。イージスは…ちょっと数えるの大変。」


 「その感想でイメージは充分だよイヴ。この辺りの防衛はペンテアだけで大丈夫?」


 「心配無用〜…とはいかないけどアダンの601が出れるみたいだからそっちにお願いするよ。」


 「分かったよ。死んじゃダメだよ!」


 「それこっちのセリフだと思うなぁ。」


 




「shit!多すぎてキリがねえ!基地のイージスはもうじき出るんだよな!?」


 「子供居るんだから汚い言葉使うんじゃないよモハメッド!基地のイージスはあと一分だってサ!でもそこからここに着くまでの時間はそこからさらに一、ニ分はかかるだろうネェ!」


 「うひぁ…困るなぁ。もうすぐ来るゲロ兄ちゃんも合わせて四機でこの防衛ライン守るの?ところでshitって何?」


 「大べ…」


 「良いからやるよ!モハメッドはしばらく黙ってな!」


 三機が散開し、高速機動で敵の射線を乱し、隊列を崩す。圧倒的な攻撃力を持つ/Aがレンチアームを振り回し、次々に眼前のイージスをスクラップにしていく。獣の如き猛々しい暴れっぷりは見ていて清々しいほどであるが、敵からすればそれは猛虎に狙いを付けられた子鹿の様な恐ろしさであろう。


 「Good!ノってキテるね!俺もヤるぜ!」


 モハメッドはコクピットの横にあるコンソールを片手間にいじり、大音量のポップ・ミュージックをコクピット内にかけ流す。音楽に合わせ肩のレーザーキャノンを撃ち、その大出力で重装甲の敵機ビバンダムの三枚抜きにする。反動で体勢を崩しつつも、そのまま空中で一回転し、隙を突こうと肉薄した敵機にそれを許さずサーベルを腰から引き抜いて足を切り落とす。


 「hey hey hey、母星に人間がいた頃の音楽!音楽ってのは人間の心に刻まれ魂だ!住む星が変わろうと何万年経とうとこのビートは魂を揺さぶり、奮い立てる!音楽は最高だ!心臓の鼓動のような音がガンガン響くぜ!」


 「音がデカいんだモハメッド!通信越しにここまで音が漏れてる!訳わからんこと言ってないで音量下げろバカ!あと言動がいちいち汚い!」


 「オイオイバカなねえだろバカは!ケチつけるのもいい加減にしてくれヘンリー!」


 無駄口を叩く癖の強い面々を諌めながらも高い機動力で場を荒らしつつ、確実にレーザーライフルを直撃させ撃墜していく果物頭(バナナヘッド)はそのコミカルでファンキーな見た目とは裏腹に着実に敵を落とし、場を混乱させていく。

 その時、同じく高速機である敵のKG-014(リヒト)のタックルを受け軽いバナナヘッドは吹き飛ばされるものの常人離れしたそのマニューバ技術で落下して地面に叩きつけられる直前で反発力を最大まで引き上げ、左のマニピュレータに持った盾を叩きつけて怯ませる。その一瞬の隙を許す事なくライフルを撃ち込み、行動停止させる。流れるような美しい動きに反してその動作は身体への恐ろしい負担を強いる。しかしそれは彼女ならば成せる技である。


 「ヘン姉大丈夫〜?」


「ああ、久しぶりに脳みそがシェイクされた気分を味わったよ。」


 「アンタも下品な言葉は大概じゃねえか?」


 たった四機だがそれぞれが一騎当千。並の戦力とは比べ物にならぬ流れ石の面々に向かうは本部所属のペイントがなされたシルバーの太ましい機体。

 ビバンダムのような重装甲だと見て取れるがあちらと違いマッシブな体型をしていて、名により特徴的なのは()()()()()()()()()()。両足に二基ずつ乗ったエンジンが作るその異様なプロポーションは水泳のフィン、或いは田下駄。


 「What is it!見たことねえ奴だぞ!」


 「新型だ!しかも複数機!ビバンダムに似てるがアイツより早いネェ!」


 「遅れました!」


 「アダン!もうアンタはイージスに乗ってるかい?アニマと合流した!そっちは?」


 「ヘンリーか!基地の避難は完了した!ウチに乗ったか地下鉄道で本国に逃げてそのまま爆破封鎖してる!隠蔽工作まで完璧だ!明星号はいつでも出れる!」


 「で、どこに逃げるんですか?」


 「北部だ!北部のテラ教系ゲリラと合流する!このまま巻きつつ撤退!以上だ!」


 「「「「「了解!」」」」」


 「と…行儀よく返事したが…」


 「あの新型と本部所属の連中、随分とfuckな野郎達だぞ…?」


 401や、ビバンダム、リヒトは大方三機で撃破したが、本部所属のペイントがある機体達の動きは明らかに先程とは違う。苦戦が強いられるだろう。


 「とりあえず散開!まずはあの比較的トロそうな新型から潰すよ!」


 四機は散開し、それぞれの方面から新型機への攻撃を試みる。アリシアはその高い機動力から肉薄し、レンチアームでボディを強く叩きつけるがビクともせず、両腕の仕込み銃のゼロ距離射撃を受け後ろへ弾き飛ばされる。しかし、弾き飛ばされる寸前に仕込んだレンチアームのワイヤハンドは敵機をガッチリと掴んでおり、ワイヤを引き戻して再び肉薄する寸前で新型機は胴体部の少し右にレールガンの射撃を食らう。

 近接戦闘を仲間と行う最中の敵機への狙撃は危険極まりない。しかし、アリシアはペンテアとテレパスでお互いの心が読め合う状態にある。らしい。感覚が分かりにくいので伝えにくいが。

 この芸当は彼女達コンビだからこその技でモハメッドさんがさっきキレてたことに理解した。

 モハメッドさんは301CCの機動力で距離を取りつつ、巧みな動きで亜光速のレーザーキャノンを交わしていく。やむを得ず近接戦闘へと持ち込みサーベルを抜くもののその刃は当たらない。

 

 「シエル!後ろ!」


 「ッ!よく見たら前にも!」


 しまった!ちょっと隙を見て敵に囲まれた!敵は恐らくエリート、相手の動きでまだこの機体に乗る者の熟練度はそう高くないと見抜けたのだろうか。そうこう考える暇などない。アニマの高い機動性で包囲網をくぐり抜けようとするものの、イージスに乗って一ヶ月そこらの僕の腕ではそんなもの読めて当然と言わんばかりに囲みこまれ、絶体絶命に陥った。


 「何やってんだバカ!」


 ヘンリー姉さんが交戦中の敵を強引に突き放し、Uターンして僕の元へと急行する。


 「クソッ!離れろ…!"離れろ"!!!」


 "突き放す"。僕の力。それは奇跡でも何でもない。僕が星に打たれ持った力。人に使えるならば、機械に行使するなんて容易くて当然な訳であって。

 考えずとも僕がそう思った途端に敵のイージスは僕を中心として吹き飛ばされた。


 「Yo Yo Yo、マジかよ。アイツやりやがったぞ。俺でも()()()()()ワープなんて出来やしないのに。」


 巻き込まれるように突き放されたヘンリーは唖然としながらも、再加速し、敵機へと向かう。


 「何?今のは…」


 「オイヘンリー!アレなんだ!」


 「イージス越しに能力を使った!?バケモノか何かか?」


 「シエル、アニマが驚いてる。」


 「それが君の力?」


 「僕だって何が起きたかわからない。どうしてこんな事ができるかなんて分からない。何もわからないんだ。何もわからないけれどこの力を使う事は出来る…!」


 包囲網を解いた僕は新型機に向かい、持っていた大剣を回転するように投げつける。新型機は簡単にそれを回避し、武器の無くなったアニマに向けて両肩のレーザーキャノンを僕へと向ける。


 「So Crazy!何してんだ!そんな攻撃いなすに決まってるだろうよ!」


 「いや!交わされて正解なんだッ!」


 あの新型機、まるで全面からの攻撃しか想定していないかのように全面に装甲が集中している代わりに直線的な動きと旋回だけに特化した異様な機体だ。だから背部の装甲はちょっと見ただけでもかなり薄い。だから後ろから攻撃出来れば!

 新型機の背後から戻ってきた…いや、()()()()()()()大剣に腰をへし折られ、大勢を大きく崩して落下する敵機から剣を引き抜き大破させる。


 「投げたバスターソードを引き寄せた!僕だってやるんですよ!」








 「ハンプティーが一機撃墜!?アレは本部の最新機じゃなかったのか!?」


 「非常に残念です。ですがご安心して下さいゾルフ大尉。我々の一番の任務であった流れ石の補給拠点破壊は成すことができました。やはり物量は裏切りませんね。発信機を付けてくれたあなたのおかげですよ。」


 雷鳥号艦内。モニター越しに北斗型三番艦「神威号」に乗るニール・ツヴァイク特務大佐と会話する。中年将校ゾルフ・ゴルバチョフは顔を真っ赤にして憤りつつも年下の上司の言葉に冷静さを取り戻し、答える。


 「そ…そうですか。ありがとうございます大佐。」


 彼の脳内では今何故こんな若造に頭をペコペコ下げなきゃいけないのだと不満を募らせていた。七星災害も経験した連邦設立前からの軍人が元老院のお気に入りだという若造に頭を下げて媚を売らねばならぬ事実はさぞかし屈辱的であろう。


 「最近は実戦が少ないですから。兵士も腕が鈍っている。城下町のエリートですら流れ石に対してあのザマ。笑えませんねぇ。」


 「そっ…それは!我々のイージス兵もあまり他所の事は言えません故…」


 周りのオペレーターやら何やらからはお前が一番鈍ってるんだ加齢臭デブだなんて目線を浴びせられる彼だが、ニール特務大佐は不気味なほどに笑顔で返す。


 「いやいや、それは平和の証です。誇りに思っていいんですよ。私達もこれで新型機ASA-19ハンプティーのデータも取れましたし、今回の作戦は満足できる内容ですよ。」


 「ありがとうございます特務大佐。我々が参加出来たのも貴方のおかげです。」


 「そう頭を下げないで下さい。大尉は七星災害も経験した猛者。経歴が廃れてしまいますよ。」


 とっくに廃れているだろうと言わんばかりの雰囲気が雷鳥号艦内に流れるがそんな事を無視するが如く大尉は答える。


 「追撃戦も我々がっ…」


 「待って下さい。」


 「彼らは追いません。()()()からの補給を絶っただけでかなり成果は出てますし、いずれ我々の眼前に現れます。私が連れた「大空号」と「神威号」は北部所属の艦ですから私はこのまま本部派遣の指揮官として北部の過激派ガイアニズム組織への攻撃を試みます。」


 「そ…そうですか…ならば我々も同行を!」


 「いけませんよ大尉。」


それまでの優しい微笑みの様なニール大佐の目が凍てつくような眼差しへと変わる。一瞬で雰囲気を変えるその瞳から恐ろしさをモニター越しですら感じ得るのならば、生で見たならどうなるのか兵たちは想像したくもなかった。


 「大尉が持つ執念はあの難き流れ石に向けたもの。貴方は私の推薦で本部所属の…それも私が持つ艦隊に組み込んでもらいましょう。雷鳥号の大規模改修プランやイージスの整備も協力しましょう。今の貴方にないものは力。これで分かったのではないですか?力が足りない。その執念を果たす事に私は全力を尽くして欲しいと考えます。」


 「それは…そのとおりでございます特務大佐。失礼致しました。」


 「いえ、積極的に前に出る姿勢は素晴らしいです。何故貴方が大尉止まりなのか。私には分かりません。」


 「お褒めの言葉、ありがとうございます。」


 十人中十人に皮肉だと指摘されそうであったが中年将校はピュアだった。力だけでなく頭も足りなかったからである。


 「それでは艦隊を撤退させましょう。余計な犠牲を生むのは良くありません。私は今度城下町に戻ります。またそこで会いましょう。」


 「はっ!……………なんていい男だ!この若造!見くびってたが利用出来るぞ!ついに俺も本部所属だ!素晴らしいな!素晴らしいぞ!」


 利用されているの間違いではないだろうか。なんて初歩的な事を指摘する善良な兵士は彼の前に残念ながら居なかったのであった。





 「…さて、良くは無かったが悪くは無かったな。」


 「ととさま、あんなクズ野郎にわざわざ敬語などお使いになる必要無いのでは?」


 神威号艦内。艦橋が二つに分かれており、片方の艦橋にはニール・ツヴァイク特務大佐とブロンドの頭髪が美しい14歳程度の軍服を着た少女が立っていた。


 「ああいうタイプは敬意を示されれば馬鹿正直に受け取って喜ぶタイプだよ。愚かしいね。」


 「それはそれは、さすがととさま!」


 「さて、と。」


 彼の机の上にはシャングリラの世界地図。作戦図に大量の書類。

 その書類に書かれた文字は【惑星正常化計画】。


 「ストロベリー。そろそろ君たちの出番だよ。」


 「本当ですか!やったあ!」


 「『ダスター部隊』を集めろ。」


 不気味に嗤う。今ある事は全て自分の盤上にあると言わんばかりに。


 「テラ教を叩く。」


 

私用が落ち着いたので解説追記


・KG-301CCリーゼー

モハメッドの乗機。リーゼーの第三世代型。

301型がベースだが魔改造が行われており、機体そのものの仕様は高機動型に近いが重装型の二連装レーザーキャノンが搭載されている特異な機体。中距離の支援が主な役割となるが高い機動性を活かした近接戦闘も可能とする少数部隊の流れ石にうれしい仕様。


・/Bの改修内容

超長距離狙撃レールガンしか武装が無い事をずっとペンテアがゴネていた為レムセイ基地にて改修。

レールガンを総合射撃システムに改修、レーザーガン、ガトリングガン、マルチミサイル、グレネードランチャーなどを追加。重量バランスの悪化する為左肩に大型のシールドを装備。全体的な重量は増している為機動性が落ちているが、ペンテアの戦闘データを鑑みて機動戦闘を好んでいない為こういった仕様になった。なおこれでもビバンダムより遥かに速い。


・KG-014リヒト

高速戦闘を視野に入れたKG社製の大型なイージス。他のイージスと比べて特異なスタイリングをしており、機動力を極限まで高める為人型とはかけ離れた蝶のような外見をしており、底部と両腕(羽?)の部分にエンジンを搭載されている。見た目はかなり大型だが使われているドールは胸部まで出来ている中型がメイン。

航空力学に基づいた設計がされているので空力により磁波が弱くても飛行可能。直線的な加速においては他の追従を許さない。

しかし、その特性から整備性が悪い上に他のKG社製イージスのパーツ流用も効かず、汎用性は壊滅的に無い。また、ドールが「人型での活用が最も効率が良くなる構造をしている」ことを無視した設計をしているのでイージスとして作る必要があったかという議論が繰り広げられ結果少数の生産に留まった。

主な役割は敵の撹乱や突撃。高速で敵の中枢へと侵攻し、両羽に仕込まれたレーザー砲やスパイクシールドでのタックルを使って戦場を荒らしていく。なお地上での作戦行動は不可能(ランディングギアが無いため)。

パイロットへの負担も通常のイージスより大きく、本機のパイロットにはGへの耐性が高い人間のみが選ばれる。

不遇な経緯とは裏腹に高い戦果を持つ機体でもある。(そもそも乗り手を選ぶ為熟練度の高いパイロットが選ばれやすいからでもある)


・ASA-19ハンプティー先行量産型

名前の通りのずんぐりむっくり感が特徴の新型。ASA-18ビバンダムの改良型。

新兵でも重装甲の為生存率が高く、豊富な武装で使いやすいビバンダムだが、その重量からほぼ地上をホバー移動する程度にしか浮くことが出来ず、空中戦闘を行えない欠点を解消する事を目的とした機体。

ビバンダム譲りの重装甲を前面に限定させ、背部エンジンを廃止した上で両脚に二基ずつの四基のセッティングに変更。前後左右の動きに特化させて立体的な動きを制限させた代わりに、ビバンダムには出来ない空中戦闘と機動性をもたらした。盾を構えて突進する騎士のような運用が想定されている為劇中のような単機での戦闘はビバンダムよりも向いてない。その上他のイージスよりも多くエンジンを使用する関係上ビバンダムのような優れた生産性も失った。

銀の装甲を纏って登場したが実はニール特務大佐が急遽配備した為に塗装する時間が無かったというのが事の真相。


・キタジマ重工

東部都市国家のイージス生産を担う企業。/Bのレールガンの原型を作ったのはここ。


・北斗型重巡洋艦

北部所属の軍艦。一番艦「北斗号」、二番艦「大空号」、三番艦「神威号」の三隻建造されている。

同型艦ではあるがそれぞれ建造時期に開きがあり細部の仕様や近代化の有無に違いがある。最も新しく建造された神威号は基本設計こそ北斗型だがほぼ別の艦船とされるほどの違いがある。

全艦共通している仕様としては艦橋が二つある事と寒冷地の運用が可能となっているということ。

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