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少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 1
4/32

燃ゆる者たちは

やりたいことやったら長くなった。すまない。

「あのクソガキと『流れ石』を絶対にとっ捕まえてやるッ!!!」


俺の名前はゾルフ・ゴルバチョフ!46歳!中年になって太りだした妻と生意気な態度で除け者扱いする18歳の一人娘がいる七星連邦の軍人だ!

かつては『城下町』でエリート街道に乗り、このまま出世すれば佐官以上になってノアの内地で悠々自適に暮らせるはずだった!はずだったんだ!クソガキ共がいなければッ!

狂い始めたのは明星号強奪事件だッ!あれは行方不明になったんじゃあない!盗まれた!それも若造の青年将校に!

あの時基地にいた人間は全員左遷された!俺もだ!何もしてなかったのにただあの基地にいたからこんな西部のカバナなんてド田舎に左遷されたんだ!

何もかもあの『流れ石』が悪い!!!俺がエリートコースから外れ、こんなド田舎の基地で未だに大尉から階級も上がれず、嫁が太って昔の見る影もなくなってのも、娘や嫁からは無視される日々なのも全部全部全部アイツらのせいなんだ!!!

そんな奴らが西部に現れた!!!ついでにノアから探せと言われてる『スター・ミュータント』も発見された!!!

ゾルフ・ゴルバチョフ人生最大のチャンスだッ!ここで武勲を上げてまたエリートコースに戻ってやるッッッ!!!!!


「待ってろ『流れ石』!!!待ってろエリートコース!!!もう大尉止まりなんぞ言わせぬからなァ!!!!ナァァアアアアッッッハッッハッッハッッッッハッッッ!!!!!!!!!!」


不平不満を吐き捨てる小太りな中年軍人は高らかに連邦軍艦の中で叫び、笑う。彼の熱意は誰にも止められない。誰にだって止める事は出来ない。その目に燃えた復讐の炎は少年少女を葬ることでしか、消す事は出来ない。







「あ!ゲロ兄ちゃん!やっほー!」


「ゲロ兄ちゃん!今日訓練だけどエチケット袋要らない?大丈夫?」


「やかましいなぁ!もう!やめてくれよ!」


僕が流れ石に合流して、このメンバーの一員となって、アダンさんや、レイさん、それからイヴと一緒に過ごし始め………ゲロを吐いてからしばらく経った。

イヴはアニマに乗って僕を助けに来ていたから、アニマのメインパイロットだと思っていたが、イヴはイージスの操縦があまり得意ではないらしい。実際今のレベルでようやく"まとも"になった程度らしく、姿勢制御すら少し前までままならなかったとか。

それでも彼女をアニマに乗せているのは何故かアニマがイヴを乗せていないと起動しないかららしい。それはアニマ自体がかなり特殊か機体である事が関連してるとか。

なんともあの見たことないイージス、『XSA-0 アニマ』は世界で初めて開発されたイージスであり、すべてのイージスを開発する上での原型とされている機体だったらしい。それを聞いたときはびっくりしたけど。最初期の機体だからドールを制御するシステムが無いらしく、その関係でイヴが必要らしいけれど、整備のガガさんもよく分からないんだとか。

で、僕が乗った時に出た謎の光に関してはもっとよく分からないらしくて、ガガさんとモハメッドさん曰く、「ドールに直接反応させて機能停止させてると思う」とのこと。何でそれができるのかは一切不明。アニマには以前イヴの他に前方ハッチにアダンさんが乗ってた事があるらしいんだけども、過去にそんな事が起きた事例は無いんだとか。

そんな訳でイヴよりも操縦がマシらしい僕がアニマのメインパイロットに任命されて、今日は訓練で出るんだけども…


「ゲロ兄ちゃんアニマで吐いてたらバナナヘッドなんて絶対乗れなさそうだよね」


「あたしのビバンダム/でも吐きそーう!」


「「アハハハハハハハハ!!!」」


「もう吐かないからな!というかアレから吐いてないから!」


この生意気にも程がある10歳過ぎくらいの兄弟はお互いにテレパシーが使えるシュタイナー姉妹のアリシアとペンテア。幼い子供だけれども立派なイージス乗りで、連邦のビバンダムを2つにバラして作った『ビバンダム/A』と『ビバンダム/B』に乗っている。

ビバンダム/Aは左腕が大型のレンチハンマーになってて、近接特化。/Bは右腕が大型の狙撃用レールガンになってて支援特化。どちらも反対の腕は作業用アームのような突貫工事感アリアリで装甲も半々だからビバンダムの堅牢さが失われているけれど、その分本来のビバンダムよりも圧倒的にスピードが出る。

正直、こんな幼い子がイージスに乗っているのかと驚いたが、これも彼女達の意思なのだという。僕の方が大人なんだからもっと"らしく"しないといけないだろう。しかし現実はこうだ。


「ゲロったらイヴお姉ちゃんに嫌われちゃうかもねー!」


「わー!ゲロくさぁ〜いコクピット乗りたくなぁ〜い!」


「うっさい!あっち行けクソガキ!」


尊敬の念とは。

ゲロった事に関してはこの子以外からもそこそこにイジられてて、アダンさんに関してはしばらくこのネタで大爆笑してた。年の割に感性が子供じゃないかな。年より若く見えるけどあの人今年で西暦年齢21歳とか言ってなかったっけ。


「こら。あんまりシエルを困らせないの。」


「ギェー!イヴお姉ちゃん真顔でゲンコツ怖い〜!」


「痛ァ〜!お菓子抜きは勘弁シテ〜!お慈悲お慈悲〜!」


イヴが後ろから注意してゲンコツ。確かに真顔はめっちゃ怖いと思うよ。

イヴは他のメンバーみたいに能力を持っていない…オペレーターの二人とかガガさんみたいに能力持ちじゃない人も普通にいる訳だからとりわけ珍しいことでもなんでもないんだけど、彼女が"普通の人間"って言われるとそれにも強い違和感を感じる。それは彼女の風貌が人形みたいで人間らしくないとか、感情が薄くてよく分からない子だって以前になんというか人とは異なるナニカを感じる。それを言葉にするのはとてつもなく難しいことなんだけれども、僕には彼女が至って普通の少女であると断言して紹介する事は出来なかった。

所で彼女の服装。なんというかそれも人間離れしてる印象を与える要因がある。

首の青緑色のチョーカー、斜めに青緑のラインが入った薄緑の短いワンピースに白い連邦軍仕様ジャケットをボタンを止めて着ている。ジャケットを着ているから最初はミニスカートだと思ったけどこの前たまたま脱いでいた時に見てワンピースだと知った。真っ白なタイツを着用しているが、短いスカートで動き回られるのはなんとも、こう、よろしくない。

彼女の髪色も薄紅色で瞳は薄っすらと青い深い紺色であるから余計に人外感を持つ。地毛らしい。


「イヴ、いつもその服着てない?」


「ううん。同じ服、いっぱい持ってるだけ」


さいですか。なんで?怖っ。


「たまには他の服着てお洒落とかするのも…悪くないんじゃ…無いかな?」


「この服しか着方、分からない。」


「エッ」


なんというか、変な子だ。彼女も随分と特殊な環境に育ったんじゃないだろうか。同じ服しか着方のわからない少女なんて聞いたことが無い。僕みたいにスラム出身じゃなさそうだけども、スラムのような開けきった何もない世界というよりも、閉じ込められた世界に居たような気がする。憶測に過ぎないけれど。


「じゃあ、今度補給で降りる街で服でも買おうよ!…あっ僕じゃ女性物の服は分からないからヘンリーさんとかリセットさんでも呼ぼう!もっといろんな服着たほうがいいよ!」


「どうしてシエルは私にそんな色んな服を着てほしいと思うの?」


「アッ、エッ…それはッ………ッ…」


マズイ、調子に乗りすぎた!あんまりガツガツし過ぎて怪しまれてるぞシエル・アドロック!焦るな、焦るな焦るなシエル・アドロック。ここで好意を見せること自体は悪くない。たとえば「キミのもっと可愛い姿が見たいんだ…」とか「キミにはもっと似合う服があるんだ…」とか言ってキメてやれば…ってそんなの言えるかっていうの!ここはなんとかごまかしを利かしつつ…


「あー!ゲロ兄顔赤ーーーい!!!沸かしゲロだァーーーー!!!」


「真っ赤っ赤♪真っ赤っ赤♪真っ赤っ赤の赤ー!!!!!ギャハハハハハハハ!!!!!」


「うるっっっっさぁぁああああああああい!!!!!黙ってろクソガキィィイイイイイイ!!!!!!」


「シエル」


「は、はひぃ!」


あっ駄目だこれ。なんか言われる。駄目だなぁ僕は…女の子相手に舞い上がっちゃて、嫌われたらどうし…


「時間。スーツ着替えてアニマに乗って。」


「あっ、ゴメン」





イージス用のスーツ、着づらいし脱ぎにくいし、慣れない。けれどもこれがあるだけで生還率はとても変わってくるとか。僕が吐かなくなったのもスーツそのものに備わっている対G軽減があるからとか。

今日からは慣熟運転から戦闘訓練に切り替わる。といってもインファイトをするってよりかは、追って追われる空中戦闘での立ち回りについて教えてもらうって感じ。

教官役はバナナヘッド…『KG-028R クレセント』に乗るヘンリーさん。バナナヘッドことクレセントはそのあだ名の通り、母星の三日月もといバナナのような頭部が特徴的な小型イージスで、元々はレース競技用であるものに申し訳程度の装甲を付け、手持ちのレーザーライフルとナイフを装備した機体だ。元々が競技用である事や、独自のチューンによって目視不可なレベルまで加速できる。"人命を考えなければ"。元が民間用であるからコクピット周りの対G装備は無いに等しいし、装甲に関しては追加した僅かな文しかない。そんなピーキー過ぎる機体だからこそ、ヘンリーさんが乗っている。

ヘンリーさんの能力。『再生』1.3秒で脳か心臓が無事なら身体が再生する能力。この能力を生かして加速で身体がやられても即座に再生させることでパイロットの人命を保っている。最初に聞いたときは軽く引いてしまったが、おかげで圧倒的に総合スペックで連邦の機体に劣るバナナヘッドが活躍出来ている。痛くないのか聞いたとこもあったが、「過去に色々あって痛みに鈍感でね」と流された。

正式名称はクレセントだが専らバナナヘッドとしか呼ばれない。そもそも市場に流通する時もその名前でしか呼ばれないらしく、この機体を購入した時もバナナヘッドという名前で買ったんだとか。確かに三日月ってよりかはバナナ。バナナも三日月も写真でしか見たことないけど。

アニマのコンソールにも慣れてきた。最初期のイージスなだけあって意外と単純だ。覚えさえすれば作業用と大差ないくらいには簡単だった。ただ、時折機体制御が難しくなり、表現しにくいのだが"勝手に暴れ出すように動く"事が稀にある。それはイヴの言うようにまるでアニマに意思が存在しているかのようにも感じさせて、かつてアダンが乗っていたけれど降りたということはこの事かと思った。なぜかイヴが操縦桿を持つ時は素直。よくわからない子。


「アニマ、シエル、イヴ、出ます!」


イージス用カタパルト。両端に電気が流れるレールを配置して、そこに電気を流すことで磁力を発生させてレールガンを撃ち出す要領で射出する装備。連邦のにも一部の新型艦と近代化改修を終えた艦しかないんだとか。


西部でも西南部、『西部』と呼ばれるエリアの角にある峡谷地帯。この辺りは磁波が強めで、比較的飛びやすい。東部に向かう途中の通過点ではあったが、訓練をするには丁度いい地帯とのことでこの辺りで一旦航行を止めて訓練する事になった。今日の磁波状況は良好。荒れたり弱まったりはしておらず、とても楽な日とも言える。

しかし、自分に取って楽という事は相手に取っても楽であるという事。実際安定した磁場であるほど撃墜される機体は多いとヘンリーさんは語っていた。


「軍用機の特徴は両足のエンジンの他に背部にエンジンがある事!コレのおかげでトリッキーな動きが出来る。ただ単調に飛ぶだけじゃあ飛行機で十分。イージスの利点を生かしながらアタシのペイント弾をひたすら交わすのが今回の訓練!いいね?」


「はい!」


アニマの運動性能はバナナヘッドとは比にならないレベルで高い。ドールの大きさが運動性能のモノを言うからだ。運動性能が高ければ高いほどトリッキーで錯乱させられる動きが出来る。しかし、バナナヘッドよりもアニマは大型なので弾には当たりやすい。加えてスピードだけならアニマはボロ負けしている。それをどう運動性能でカバーできるかって所。


バナナヘッドはこちらを狙いながら高速で後ろを追いかけ、ペイント弾を撃つ。動きながらの射撃というのは非常に難しい。それを狙ってくるのだから彼女の相当な腕が見て取れる。

アニマの機動力で縦横無尽に交わしていくが、数発脚部に掠る。最大限に加速するものの、バナナヘッドの加速の方が圧倒的に早く、すぐに差を縮められてしまう。

近づく距離、近づけば近づくほどに命中率は上がる。ただ逃げるだけでは追いつかれ、ゼロ距離で射撃される。


「どうしろって…」


逃げるのが無理なら交戦するというのが初めてアニマに乗った時の教訓だ。しかし、今回は唯一の武器であるバスターブレイドが無い。イージスによる徒手空拳での戦いを迫られる。

徒手空拳の戦闘がアニマには不可能ではない。アニマはフレームが大型で人型に近い。その為、可動範囲が圧倒的に広く、器用な動きができる。それを活かすのが非常に難しいのだが。


「あぶっ!」


そうこう考えてる間にも距離を詰められ、射撃を掠りながら交す。この距離がギリギリ交わせる精一杯の距離だ。


「逃げてばっかじゃ何も出来ないよ!」


上下左右、不規則に動きながら逃げる。逃げる…


「シエル、バナナヘッドは速いだけ。」


「見れば分かるよ!アニマじゃ振り切れない!」


「でも、速いだけ。」


「そうだよ!速いんだ!」


速いだけ?そうだ、運動性能はアニマの足元に及ばない。関節なんかそれぞれ一つ少ない上に、小型で確かに小回りは効くが最大加速した状態での急旋回と急停止は出来ない!


「逃げてだめならぁ!止まるんだよぉぉおおおお!!!!!」


その場でアニマは急停止して宙返り。背を空に向け、その状態から足を一気に振り下ろして背後のバナナヘッドを蹴り落とす。


「よっしゃ!ありがとうイヴ!」


「私は思ったこと言っただけ…」


「そこ!気抜かない!」


歓喜も束の間。頭部に向かってペイント弾がクリーンヒット。

加速しつつ下に蹴り落とされて斜めに落下しつつあったバナナヘッドを強引に上方向に加速させてUの字に復帰。正面からアニマの頭部にペイント弾を数発ヒットさせた。


「今のは効いたナァ。首の骨が一回折れた気がするヨォ。」


「すみません、無茶苦茶しちゃって…」


「良いよ、アタシなら死なないからサァ。でも、勝ったと思ったからって気抜くと命なんて簡単に落っことすよ!実戦は1vs1(いったいいち)じゃないんだからね!」


「すみません…気をつけます」


そもそもあんな勢いで落とされたら普通身体がやられるか、意識が飛びそうなモノだからこれはこれでヘンリーさんの特殊ケースな気もする。だけれど指摘された通り、戦場は一対多が基本になる。常に気を払わないと簡単に命を落としてしまうだろうと僕は思った。

その感想は思ったよりもかなり早く、電撃的に生かされることとなる。


「シエル!ヘンリー!9時の方角から連邦軍艦とイージス!イージスは数八!」


イヴの報告とほぼ同じタイミングでレーザーが飛んでくる。間一髪、回避し、バナナヘッドと共に岩陰へと回避する。


「チッ…追われてたか…通信は…ダメだ、ここは磁波が強すぎて通信が出来ない。ここから明星号側に1kmは戻らないと救援は厳しいし、信号弾は裏の崖が邪魔な上に天気が悪くて期待出来ない。ついでに言うと隠れてるこっちの場所もバレるしなァ。」


「どうするんですか?ヘンリーさん。まともな武器も無いですよ?」


「相手は巡洋艦一隻と…KG(カーゲー)-501が3機…残りは輸送リフトに乗っけたビバンダムか。陸上機を無理やり航空戦に持ってくるだなんて相当あの基地ケチられてるぞ。」


『KG-501 リーゼー』キーデルレン&ゲイラー社開発の汎用イージス。リーゼーという機体名はKG社の1型汎用イージスに代々付けられている名前なので区別する意味合いで本機は型番で呼ぶ事のほうが多い。

501はリーゼーの中でも五代目、最新型の一つ型落ちに当たる機体。KG社の機体は民間用、軍用どちらにも一部の仕様が異なるがほとんど共通のものを売っており、民間用は改造されて各都市国家の自治団体や、反政府団体の手に渡っている。バナナヘッドもKGのイージスだ。特にリーゼー系は改造、コピーが容易なので扱いはさながらイージス界のAK47。お祖父ちゃんが一番修理で見ていた機体は間違いなくリーゼー系だろう。同社製イージス同士の戦いも珍しくはない。

遠くからでよく見る事ができなかったが恐らくあの3機は重装型のKG-501S。鈍足だがビバンダムよりは速く、単独で航空戦が出来る重量だ。


「アニマよりバナナヘッドの方が速い…ヘンリーさんが明星号に急行してる間に僕がッ…!」


「ダメだ、実戦経験が薄いヤツなんかに一対多なんてさせられない。あの光だってまた出るとは限らない。イヴとシエルが戻れ。アタシは支援が来るまでここを引っ掻き回す。」


「でもッ!その機体の装甲と武装じゃあ…」


「武装に関しちゃ人の事言えないっショ。いいから任せな。合図したら信号弾撃つから急いで明星号に救援要請をして。分かった?」


「そんな…」


「大丈夫、ヘンリーは帰ってこなかったことなんて無い。」


「その通ーり!アタシは死なないのが取り柄だ!どんなになったって五体満足で帰ってくるよ!」


いいのか?まるで仲間を見捨てて逃げ出すようなことをして?

このままヘンリーさんがやられたらどうする?僕が逃げたのが悪くなるんじゃないのか?ここは戦場だ。人が死ぬ場所だ。ヘンリーさんだって"絶対に死ぬことの無い肉体"じゃない。


「新入りが人の心配してどうするッ!新入りってのは迷惑かけて先輩におんぶにだっこしてもらいながらすくすく育つモンなんだよ!自分のことを考えろ!アタシやみんなは心配されるほどヤワじゃねえんだ!!!さっさと行け!」


その言葉は強く自信に満ちていて、ぶっきらぼうで乱雑だけども優しくて、僕はヘンリーさんに強い敬意を示して気付かないうちにこう返答していた。


「頼みます!ヘンリー姉さん!」






姉さん…ね、悪くない。うん、悪くないサ。いい気分だ。


「さあ祭の時間だよ!とびっきりのサーカス単独公演だ!目ン玉付いてるうちにしっかり焼き付けときな!」


信号弾を放ち、アニマはそのまま後退し撤退。バナナヘッドは位置を気付かれ前に陣取るビバンダムとKG-501にレーザーとマシンガンの集中射撃をされるものの、即座に加速し回避。


「重装型なら到底追いつけないだろネェ!」


急速に加速しつつ不規則にジグザグと動くことで予測射撃もままならなくさせていく。しかし、殺人的な加速をしつつ勢いを殺さないまま急転換、急旋回するというのはさらなるGがパイロットにかかり、フレームや機械部にも軋みを起こして悲鳴を上げる。もはや機体かパイロットどちらが根を上げるか張り合うような状態。そんな殺人的な加速力の中、骨を折らし血を吹き出しても即座に再生させて再びそれを繰り返す。


「本当に丸腰で来てたと思うかい?そりゃあ大間違いサッ!」


手持ちのペイントライフルを支援機に乗ったビバンダムに投げつけ、支援機から谷の底に突き落とすと、腰から小型のナイフを取り出し、右のマニピュレータで保持する。そこから爆発的な加速でKG-501がする射撃の二射目をさせる前に肉薄してライフルを保持する手首を切り落とす。


「二つ!」


残りのKG-501やビバンダムは距離を置いた上でミサイルポッドや、肩部レーザーキャノン砲での射撃を試みる。装甲の薄いバナナヘッドがミサイルや、高出力のレーザーを喰らえばコクピット内部への損傷、ドール本体への損傷もありかねない。


「銃っての便利だよなァ。でも味方の艦と居るときは案外不便なモンなんだ。」


イージス達が構えたことを視認すると即座に敵艦側へと急加速。


「雷鳥級は砲門が少なくてね、こっちも助かるんダッ!」


雷鳥号の砲撃を簡単に交わしていき、後部へと回り込む。敵機は射撃を即座にやめ、左右から囲みこむように再び展開を始める。

射撃武器は便利な半面、味方への誤射も多発する兵器であるため、自陣側への発砲はご法度である。相手に母艦を挟んで回り込まれた状態での射撃や、背後に母艦がある状態での射撃は相当に高い熟練度を以てしても危険であり、貫通力のあるレーザーなら余計に危険である。

そもそも巡洋艦に単騎で肉薄すること自体が至難の業であるが、それを出来れば敵の射撃攻撃はほぼ無効化できると言っても過言ではない。


「ナイフだけで艦は斬れないけど、砲門はこれが斬れるんだ。」


敵艦直上に陣取り、砲門を交わしつつ、ナイフで円形に括り取って破壊していく。その数は一門、二門、三門と増していく。その直後、支援機から艦の上に降りたビバンダムが大型のサーベルを取り出してバナナヘッドへと斬りかかり、間一髪回避する。

斬りかかった勢いで自軍の艦にサーベルを突き刺してしまった間抜けな連邦兵はその隙に背後からコクピットだけをナイフで突き刺され、沈黙。


「緊急用のナイフだ…歯こぼれがヤバいぞこりゃ。早く援軍来てくれッ…」






「どうなってる!?たかが旧式で民間用のイージス一機になんで手も足も出ないんだッ!!!」


雷鳥号のブリッジ。艦長…というにはなんだか階級が足りていない気もするゾルフ大尉は艦長席で声を荒らげる。

オペレーター兵は自分と大して階級が変わらないのに、辺境であるために大尉で艦長を行えてしまうようなカバナのクソ環境に苛立ちながらも答える。


「加速力が一般的なKG-028とは段違いです!レーダーでも目視でも確認はほぼ不可能です!」


「そんな訳あるかっ!そもそも俺が見つけたあの形式不明(エックスゼロ)はどこに行った!」


「それがさっきバナナヘッドが暴れたのと同時に逃げられたみたいで…援護を呼ばれたら厄介です。ここは一時撤退して戦力の練り直しを…」


「馬鹿言うな!このまま俺がイージスで取り損ねて軍艦を出してまでして追ったが逃しただなんて報告出来るか!クソッ!なら俺が出撃してやる!専用機のKG-401は整備されてるか!?」


「大尉、お辞めください。大尉は艦長です。司令を失ってはより現場では混乱が…(大尉はイージスの操縦がヘタクソなのでやめてください。)」


「そうです大尉!今この場で万が一のことがあればカバナ基地そのものの存続に関わります!大尉はここでじっくり構えるべきです!(大尉は貴重な機体のイージスをバンバン壊して整備班からめちゃくちゃ文句を言われるので辞めて頂きたい。)」


「む…そうか…ならば仕方ない…」


「(あっぶね)」


「(整備からの愚痴が減って助かった…)」


「だが奴らは絶対に捕まえるぞ!敵の増援が来るまでは交戦しろ!増援が来たら一時撤退して今度は敵の補給拠点を叩いてやる!奴らは俺の出世街道を汚した上に俺をイージスで叩きのめして二度も辱めた野郎達だ!なんとしてでも潰せ!分かったらまずはあのバナナ頭をぶっ叩け!」


「はっ!(考えてるようで最後やたら適当になるんだよなこの人)」


「では付近の磁波観測に戻ります!(出世街道なくなったのよく知らないけど絶対自分のせいだと思うんだよな)」


その男に燃える炎は決して消えない。固執する理由は自己満足にも等しいがその行動は奇妙にも彼の躍進の始まりでもあった。








「悲しい仔よなぁ…IV(イヴ)。」


ノア内部、七星都市国家連邦自治軍本部のとある一室で豪勢な椅子に座り、一人思いに耽る軍人の男。

歳はまだ30もいっていない男の階級は『特務大佐』。特務認定は2階級上の権限が与えられる特別な階級である。


「ニール大佐、西部カバナ基地付近で『流れ石』の母艦が確認された模様、直に補給拠点を叩けるかと。」


男の名前はニール・ツヴァイク。

彼もまた革命を志す誰かと


「始まりか。」


同じ瞳をしていた。

分割しようか迷ったけど切る場所思いつかんかったしそろそろ戦闘描写入れたかったから長くなった。本当にすまない。


今週の解説

・電磁波、磁波、磁場

そろそろ気づいてきたと思いますが、本作の磁力はミ○フスキー粒子並に便利な要素です。真面目に考証したら負ける。別の星だし特殊なんだと思うよ。


・ビバンダム/

シュタイナー姉妹の機体、ビバンダム/は改造機なので形式番号はビバンダムと共通

/は分割を示し、A、Bは仕様を示しています。

その為、正式名は『ASA-18 / type A』『ASA-18 / type B』です。/はスラッシュとちゃんと読みます。

格闘戦仕様の方が元のビバンダムのドールを流用しています。


・西暦年齢

シャングリラは地球と自転の周期も公転の周期も全く異なるので、今までの1年365日1日24時間が流用出来ません。生活時間としてはシャングリラに合わせた1日16時間1年424日の新星歴を使いますが、年齢に関しては地球で用いた数字を使うので西暦年齢と言われます。作中の年齢表現は特筆されない限り西暦年齢です。西暦年齢を出す計算法は確立されてるとか。新星歴での年齢表現は数え年に近い表現として存在していますが、例外的に誕生日に関しては新星歴で祝う習慣が基本的です。


・KG社製イージス

KG社は民間のイージス製造においてナンバーワンのシェアを誇る企業で、ドール採掘を行える唯一の民間企業でもあります。ドール採掘に関する利権はノアが独占しているので半官半民とも言えるでしょう。

ここの形式番号の命名規則は基本的に

KG-(世代)(開発順ナンバー)です。ちなみに第0世代もあります。。KGはドイツ読みでカーゲーと読みます。

例えばKG-501リーゼーは第五世代の一番型という意味。バナナヘッドのKG-028Rは0世代の28番型という意味合い。Rはレース仕様のR。不敗神話のRではない。後ろに何か文字が付いていたらその機体の仕様を示すという事です。連邦も採用している理由としては民間も使う=敵となる存在も使ってる=共通規格なら現地改修がブンドリ出来て楽という経緯。KG製イージスは他にも沢山出す予定です。


・流れ石の補給拠点が叩けない理由

流れ石のメイン活動拠点が東部で、東部は特に連邦との対立が激しい地域。連邦の軍艦、イージスが東部都市国家が主張する国境に近づこうなんてことをすれば衝突も置きかねないのでうかつに近づけないのです。


・KG-028R(AAA-28) クレセント

この先本機がクレセントと呼ばれる事は無いです。

元は小型民間用イージス。スラッとした人型のアニマと比べ、3.5等身くらいで腕関節は一つのみ。バナナのような頭部が目立ちますが、目立ち過ぎて軍用には向いてなさそう。

しかし元がレース用なだけあって加速力はピカイチ。しかもリミッターが外されてるので文字通り殺人的な加速が得られます。ヘンリー以外が乗るとリミッターつけない限り普通に死にます。

装甲に関してはほぼ付け焼き刃で一話の作業用イージスに毛が生えた程度。当たらなければどうということはないを地で行く機体。

ちなみに元々は別の会社が開発してた機体なのでドイツ語読みしない。元々の形式番号はAAA-28。この設定は使う予定ないです。


・雷鳥号

西部カバナ基地に所属する巡洋艦。旧型で足の速さは明星号の足元にも及ばない上に、近代化改修がされていなくてカタパルトが少なかったり、砲門が足りてなかったりする。でもド田舎で軍艦なんてそうそう必要なかったからこんなボロでも良かった。


・ゾルフ大尉

なんだこのオッサン!?

一話でエンジン泥棒もみ消そうとしてシエルを殺そうとしたおっさん。ビバンダムに乗ってアニマと交戦してぶった斬られたけど生きてた。

大尉だが辺境の基地で佐官すらそんなに居ないので彼でも艦長になれる。ちなみにあんまり平和で使うことが無かったので、雷鳥号クルーはほとんど訓練以外で本艦のオペレーションに着くのは初めてらしい。大丈夫か?


・ヘンリー

脳か心臓が無事なら1.3秒で全回復するチート。殺し切るには1.3秒以内に脳と心臓を破壊する必要があります。

キレイに斬られた場合は体積が大きい方から再生します。取れた方は砂のようになって消えます。

病気とか内側からやられるタイプでも回復します。癌細胞も回復。上記の条件以外だと老衰でしか死にません。おかしい。

痛覚はちゃんとありますが"色々あって"鈍くなってます。"色々"に関してはまた。


次回はこんなに気合が入らないと思うのでこの落差を楽しんでくれたら幸いです。

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