大蝙蝠
次回は2/5です
ただ一人居なくなったと割り切れるのならば簡単だった。
レイの裏切りは流れ石に長く居る人ほどショックを受けていた。なにせ彼は創設時からアダンと共に活動し、今の流れ石を作り出すきっかけを作った人の一人だからだ。
それも彼はかなり前から連邦と内通していた。ずっと共に歩んでいたと思っていた仲間が最初から裏切っていただなんて考えれば考えるほどに酷な事実で目を背けたくなる。
ショックを受けていたのはイヴも例外では無かった。連邦に居た頃から面識があった彼女は「信じられない。分からない。」としばらく部屋から籠もって出てこなかった。とりわけレイはイヴの面倒見が良かったこともあって余計にショックだったのかもしれない。
そんな中、もっと長く深い付き合いをしていたアダンはこの事実に対して不自然なほどにドライだった。ペンテアの時もそうだったがこんな時の彼は驚くほどに人間味が無い。感情が薄いイヴとはまた異なり、ただ目的を達する為の情熱に感情の全てを注ぎ切っているようでそれ以外は全てそこにある事実だけで捉えている。戦場向きの性格だろうけど、理解出来ないししたくはない。
けれどアダンが迷わずにいる事は組織としてはいい面もある。レイが抜けようと、僕らが活動を止めることはない。トップがこんなだから組織の方向性を見失わずに居れる。
今度は本当に北部のラグナロク戦線へと支援に向かう事になった。その前に秘密裏に繋がっているK&Gの工廠へと向かった。すぐそこにノアのお膝元、四つの城下町最大の都市にして内地への門が唯一存在する街、「セント・クライスト」がある僕らが居るにはとても危険な街に思えるが「まさかこんな場所のすぐ近くにテロリストの協力者が居るとは思わまい」という裏をついた拠点でもあるとアダンは語っていた。実際問題、セント・クライストは方舟内地への入口という重要拠点ではあるものの軍事的にはあまり重要な基地は無い。そもそもこの聖地への入口であるこの街を攻め込むだなんてことがタブーに近いので過去にここが襲われた事は一度もない。シャングリラでは内地に次いで平和ボケしている街だから案外警備も薄いのだ。
まあ、一番の問題はこの街に近づく事が一番難しいことなのだが…
「Shit!だからあのルートを使うのはやめたほうがいいって言ったんだ!最短ルートで突っ切ったら連邦に会うに決まってんだろうが!」
「アダンは会うのは想定内って言ってるよ!アタシらなら露払いしながら進めるって算段みたいだね!」
「Fuck'n holy shit!601がロクに動かせねえくらいにぶっ壊されてて戦力が足りねえのになんて無茶をさせやがる!」
セント・クライストには警備を置く必要がない。なぜならその周囲が徹底的に守られているからだ。
アダンは最短ルートを選んだ。曰くどこから行っても絶対出くわすんだから最短ルートでいいとの事。頭おかしい。
「501があと五機!後ろに大きい反応があるからまだ艦船の増援来ますよ!」
「キリがないね!全滅よりも進むことだけ考えないと埒が明かない!」
どの機体も整備はまだ最低限レベルだ。前回の戦闘で破損してから完璧の状態で出撃している機体は一機もいない。バナナヘッドは片腕が作業用アームだし、301はハイレーザーキャノン一門動かない。一番マシなのが五体満足な僕らのアニマだけど、装甲が半分以上無くなっている。ICARUSの翼がシールド替わりになら無ければ相当に不味かった。
ロックオンされた事を知らせるアラートに合わせ、敵機へと振り向いて翼でボディをレーザーからガード、そのままロケットで敵へと直進して斬りかかる。
電磁エンジンじゃこんな動きは出来ない。胡散臭い爺さんだったけど、本当に凄い人だ。
「凄い。アニマ、どこよりも自由。空を翔けてるみたい。」
「僕もいつも以上に敵を落としてびっくりだよ…」
無尽蔵に連邦機が湧いてくるのもそうだが、もう十数機は撃墜してる。戦いっぱなしでいい加減で疲れてきたけどイヴの隣でこうやって戦えると戦闘中なのに何でか安心する。
「もうすぐ区域を離脱します!全機帰艦お願いします!」
通信が聞こえてくる。確かに最短ルートではあるが拠点はクライスト郊外。こちらが中心地に向かわず離れることを連邦が確認すればそれ以上は追ってこない。強襲から撤退したと見せかけることが一番の狙いだったのか。それにしたって無理があるが。
「あぁ〜俺はもう疲れたよ〜帰ったらしばらく寝させてくれ。」
「モハメッド、戻ったら一時間半でクライスト工廠だから寝る時間なんてないよ。」
「そんなぁ〜…」
クライスト工廠まではほとんど障害なくたどり着くことが出来た。連邦御用達のK&Gの工廠に堂々と入っていられるのは何だか不思議な感覚だ。
601はもう動かせる状態にないらしく、辛うじて生きていたエンジンを外した上で解体処分となった。その他の機体は工廠で修理が行われたがドールごと持っていかれたバナナヘッドの右マニピュレータはレーザーライフル直結型のものに変更になった。おかげで重量が増してしまうらしい。特記して大幅な改修などになったのはその二機くらいだ。
「…あれ、見たことない機体だ。ここのイージスなのかな。」
灰色の背にICARUSのような大型の翼を備えた灰色の見たことが無いイージスが僕らのイージスと並んで立っていた。ブースターのようなものも見え、両腕には直結型のレーザー砲が各二門、両肩に大型のレーザーキャノンが一門ずつ備えられている。射撃特化機だろうか。
何より一番驚いたのはちらりと見えたそのコクピットだ。明らかにユニバーサル規格ではない特殊な構造。なにかと接続するようなケーブルが大量にシートから出てきており、周囲には異様な測定器…?のようなものが囲んでいる。それは明らかに旧式なパーツも用いられていて新しめの機体には思えない。
「こいつが気になるか?」
「アダン?」
謎のイージスを見つめていた僕にアダンが気付き、薄ら笑いを浮かべながら話しかけてきた。まさかこの得体の知れないものは僕らのものなのか。
「奥の手だ。601がダメになったら出そうと思ってたが思ったよりも早くなった。調整がまだちょっと足りてなくってね。」
「これは?」
「KG-X001F RIESE通称フルークフーデ。イージス開発黎明期の産物にして悪魔と呼ばれた機体の一つ。まだ人が未知の巨人を御することが出来なかった時代、強引な方法で人と結び付けた悪夢のようなシロモノだよ。」
「X…試作機?X001ってどこかで聞いたような…。」
型番にXと付くモノは試作機と相場が決まっている。原初のイージス"アニマ"の型番も『"X"SA-0』だ。K&G系イージスの末尾1はリーゼー系統。その0型ということは相当に古い機体だと予想できる。そしてこの型番。どこかで聞いたことがある。いや間違いなく聞いた。どこで聞いた?そう昔の話じゃない、なんてことない話の中で聞いている。思い出せない。
「正解。そしてこれ、X001型はまだイージスの標準化装置が開発される前。人の神経とドールの感覚を繋げてお互いにフィードバックさせるシステム、DFSを採用した最初で最後の機体群だ。クスリ飲まないと乗れないようなこいつを作ったダリア・ビーイングは最高の天才であり最悪の悪魔とか言われてるね。」
「ダリア・ビーイング…?あああーーーー!!!!」
思い出した!あのアニマの改修を大喜びで請け負った胡散臭い爺さん!あの時にガガさんが盛り上がって「X001型」という単語も口走っていた。その時に聞いたこと言葉だったのか。
「何だいきなり大声出して、驚かせるなよ。」
「ああ、ごめん、ちょっと引っかかってたこと思い出して。」
しかしそのシステムは聞いただけでもかなり危険だと分かる。神経に直接イージスが視覚情報、聴覚、ドールの感覚をフィードバックさせるというのは度が過ぎれば人を廃人にしかねない。文字通り身を削って乗っているヘンリー姉さんのバナナヘッドよりも直接的な分遥かに危険だ。
「こんな危ないのに誰が乗るんですか。」
ただでさえ命が無くなっている。これ以上の犠牲を増やすような行動をリーダーにされるのは御免だ。それはどうにも看過できない。ましてやイヴに危害が及ぶようならば誰を敵にしようと僕は歯向かう。
「ん?俺だ。」
「え?」
「こんなの乗れるのは俺くらいだ。なに、ヤク漬けには慣れてる。」
「何驚いてやがる。こんな危ないの他に乗せられるか。」
「…。」
拍子抜けした。彼にもまだ人らしい慈悲はあったのかと。こんな危ない隠し玉を用意していたのは驚きだが自分用であるのならば止めることはない。
「何かを成すためには圧倒的な力だ必要だ。一時であれ必ず必要になる。それから先に必要のない世界が訪れたとしても、そこに至るまでには瞬間的なエネルギーが要るのさ。俺だってこんなのにずっとは乗らない。安心しろよ。」
「誰もアンタの心配なんてしてないですよ。」
「酷いこと言いやがる。」
そう言ってアダンは去った。こんなものを用意しだしたんだ。彼が言う革命はもうすぐそこにあるのか。
僕は何か悪い予感がして仕方がない。
「そうだ。その力はもうじき必要になる。星は胎動を始めた。時は近い。もうすぐさ。」
ひっそりと、若き男は、笑う。
・KG-X001F【FdK】リーゼー"フルークフーデ"
イージス開発黎明期。アニマをモデルに発掘されたドールを用いた大型パワードスーツの開発が進められた。アニマの発掘から数百年経ってもアニマ以外のドールはロクに動かず、K&Gが頭を抱えていたところに突如現れた天才エンジニア、「ダリア・ビーイング」が開発したダイレクト・フィードバック・システム(通称DFS)を導入したことでついにイージスの量産化に成功した。
しかし、まだイージスの活用が機動兵器よりも開拓用の作業車に近かった為にデメリットが大きすぎる本システムを採用した機体の開発は十機前後に収まった。本格的なイージスの量産化には数年後の標準化装置開発を待つ必要がある。
本気はそのX001系機体のF型に相当。大型の翼とロケットエンジンを搭載することで磁場の影響を受けずに飛行を行えるという利点を発揮したが人型というのがそもそも航空力学において無駄だらけだったり、別に輸送用の航空機を用意すればいいのではないか、飛行に特化させるなら最初から飛ぶのに相応しい形にすればいいのではないかという考えからこのような構造を持った機体の後継機が現れることは無かった。ただ、そのコンセプトは高速突入、高速離脱のリヒトへと受け継がれている。アニマのICARUSの原型は本機のフライトシステムである。
元々飛行のための試験機だったので装甲も武器も無かったが、流れ石の手に渡ったのちに大規模な改修を受けて実戦配備用の装備に変更されている。FdKは実戦配備型の意。
DFSは旧式のシステムであるが標準化装置が付いているイージスではできない動きを可能とする。現代においてもその利点は大いに発揮できる。
忌まわしき技術として封印されてきていたがカルマ開発によって再びDFSは搭載された。本機はアニマ、カルマ、どちらから見てもルーツと言える機体かもしれない。




