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少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 1
3/32

さすが

「エヴォリューション・レイ、論文でしか見たことなかったよ」


立派な椅子に座る青年は目前に広がる神秘が起こした光景に対し、そう口にする。


「カバナの子はだいぶ僕らよりも"進んでる"みたいですね。」


その隣に立つ、中性的な外見の髪をお下げにした青年は淡々と話す。


「ステージ2ってとこだな。何にせよ、IVの成長と俺の目的…"革命"には必要だ。」






明星号、6年前の練習航海で事故を起こし行方不明になった新型艦艇と公式では言われている。手に入れた経緯はイヴも知らないらしいが、『流れ石』のリーダーが持って来たらしい。

『流れ石』は僕のように星が落ちてきた事によって超能力を得た少年少女と反連邦系の都市国家(ポリス)の私設軍によって構成された組織で、東部の独立臭を強めている地域や、シャングリラの土壌を信仰するガイアニズム系教徒の支援も受ける組織だ。

西部には基地も反連邦も少なかったから知らなかったが、東部は七星連邦が出来る前、ノアやその麓の街に次ぐ大都市国家があり、七星災害から最も早く復興した地域でもあったらしい。

災害後も自治を保てる状態でありながら、半ば強制的に連邦に実効支配された事を酷く不満に感じていて、東部は反連邦系の力がとても強い。

ガイアニズム系教徒は西部にも居たけれど、異常な電磁波とイージスを作る為の"骨格"、『ドール』が発掘出来るシャングリラの大地そのものを信仰する人達で、連邦は人間をこの星に運んだノアを信仰する『方舟信仰』を推してるから酷くこの人達が邪魔みたいで、迫害を受けている。

そんなガイアニズムにも祝福派と贖罪派があって、祝福派はシャングリラがもたらす資源や富は神からの祝福と考える人達で、贖罪派はシャングリラの富を勝手に使う人類は罰されるべきと考える人達に分かれてる。後者はあまり仲良くないとか。

支援を受けてると言ったけど公的には絡んでない事になってるらしい。テロリストだからとイヴは真顔で言ってたけど、僕にはそう言うイヴが悪い人には見えなかった。

そんな話を僕は明星号に乗り込んでからイヴに聞いた。彼女は何だか浮世離れした雰囲気だったり、少し天然っぽくて感情も分かりにくいけれど、とても博識だった。おじいちゃんが整備をしてたからエンジンだったりイージスの知識は少しあったけれど、ドールのような機密事項は知らなかった。もしかしたらこれがここの人達の基礎知識なのかも知れないけれど。

僕が過ごしたスラムは『カバナ地区』というらしい。恥ずかしい話だが、自分が住んでいたスラムの名前すら知らなかった。長らく、西部を転々としていてここが何処であるかなんて着にもせずに暮らしていたからそんなこと知る必要も無かった。

明星号はカバナ地区から東部のレムセイ地区に向かっているらしく、その近辺で補給を受けるとかなんとか。基本的には飛びっぱなしで買い出しなんかで街に降りるらしい。


「これから『流れ石』のリーダー、アダンに会いに行くよ」


「リーダー、って事は一番偉い人?」


「一応、そう。でもそんなに気構える必要は無い。みんな気軽に話してる。」


「へぇ…そっかぁ」


そういう事を言われるとなんだかむしろ緊張する。なんてったって連邦に反抗するレジスタンスのリーダーだ。強烈な人物でもおかしくは無いだろう。怖い人じゃないといいなぁ。優しい人だと嬉しいなぁ。

そんな不安は杞憂に終わった。


「おい!ティーネ!お前俺が冷蔵庫入れてたお菓子勝手に食っただろ!すっくねえ金で買ったんだぞ!なんてことしてくれんだ!」


「アダンだって"能力"でちょくちょく他の人の飯取って食ってんじゃん。だいたい予算カツカツなんだからそんなの買うなよ」


「うっるせえ使えるの使って何悪いんだ!ダメだと思うなら食うなよ!」


「そりゃあ食うよ。食うための物って書いて食い物だし。アタシにゃ買うとこから"見え"てたしねぇ」


「言うじゃねえか不眠症野郎、そのボサボサツインテールボッコボコに…」


「やめろ見苦しい。今日は客が来てるんだぞ。」


立派な椅子から殴り込みに行きそうだった青年と、オペレーターのような椅子で非常に眠そうに喋るボサボサのツインテールの少女はおさげの青年が目を向けた途端に石のように身体を固められる。なんとも幼稚な喧嘩をしていたという事は伝わる上になんだか随分と和やかだと思った。


「え?客?ああ…そうだそうだ………とりあえずそれ切ってくれ、レイ」


「ならその振り上げた拳を下ろせアダン。」


あの随分と着崩した連邦制服を着た人がアダンさん…そんなに歳が離れていない?それに他の人たちも全体的にとても若く見える。まるで少年兵…にしてはみんな要職に付いているし随分と不思議な集団だ。


「…見苦しいのを見せたな。俺が『流れ石』のリーダー、アダンだ。俺はこの地区の『スター・チルドレン』を探してここに来て、お前をスカウトする事にした。」


「『スター・チルドレン』?」


「連邦が『スター・ミュータント』と呼ぶ"俺たち"の事だ。星に射たれ、超能力を授かった者たち。俺たちはミュータントなんて呼び方は嫌いだからその呼び方はしない。」


「待って、待って下さい。僕以外にも能力を持ってる人が居るんですか!?」


「ああもちろん。ここにいる奴はほとんどそうだ。」


…思考が追いつかない。そんな人が僕以外にも居るだなんて。『流れ石』なんて名前もそれが由来だったのか。


「もしかしてイヴも!?」


「私は違う。」


「イヴは違うけど他は大体能力持ちだ。俺は自在に空間を繋げる能力、GATE。」


アダンは亜空間のようなものを手のひらをかざして開き、そこに手に持っていた小さい端末のような物を投げ込むと投げた方向とは反対側から亜空間が出現して端末が投げ込まれる。まるでテレポートだ。


「生き物は通せないけど大抵はコイツを通して別の場所に繋げる。あんまり遠くはムリだけどな。んで、このマジメそ〜〜〜〜な黄色人(エイジア)のおさげ野郎がレイ。」


「また固められたいか?」


「おー怖い。コイツは見たやつの動きを止める能力だ。さっきは俺とティーネに使われた。」


「ティーネさんはどんな能力なんですか?」


「アタシは未来視。常に30秒後の"基本的な"未来が、"見えてる"。」


「ティーネは常に未来が見えたままになってしまうからいつも不眠症なんだ。僕も能力のせいで目が乾きそうだけども。誰かさんのせいで。」


「おーおーこっち見んなー。後そこの黒人系(ブラッキー)のお姉さんがヘンリー。頭か心臓が無事なら無限に自己再生する。」


「突貫役ばっかやらされて困るよ〜確かに人より頑丈だけどサァ〜」


なんだか僕よりも超人な人達がたくさん出て来た気がする。こんな凄い力を持つ人達の中僕の能力は「寄せることと突き放すこと」だけである。なんだか酷く足を引っ張ってしまいそうだ。


「あとは今整備に行っててデッキに居ないけど瞬間移動出来るモハメッドと、テレパシーが相互で使えるシュタイナー姉妹がいる。アイツらはどっかで遊んでるんじゃねえかな。」


「あれ?落ちた星の数は七つなのに僕合わせて能力者は八人居るんですか?」


「いや、シュタイナーは二人で一つ分の能力なんだ。あの子達だけは一つの星から二つ能力を貰ってる。まあその辺りはよく分からねえんだがなぁ。」


「はぁ…」


「メンバーはあと医務室のメアリーさん、整備をやってるガガさん、オペレーターのリゼットとエリー。こんな広い艦船にゃ随分と人が少ないかもしれねえが以上だ。」


オペレーターの二人が僕に手を振る。彼女らは能力が無いと思われるが、他のメンバーと同じようにとても若かった。まるで過激な活動をしている団体とは思えない。そこらのストリートダンスやパフォーマンスグループのようだ。実際それぞれの服装のラフさ加減もそれを思わせる。アダンさんはやたら着崩した連邦制服だし、ヘンリーさんはキャップにヘソ出しルックでショーパンのだいぶ露出度の激しいファッション。リゼットさんは本当にそこらにいそうな人の服装だし、エリーさんは何故かメイド服着てる。なんで…?ティーネさんに至ってはパジャマ。枕がモニターやキーボードの前にあるしもしかしてここでたまに寝てるのだろうか。カチッとした服装をしてるのは連邦士官制服のレイさんだけだ。


「俺たちの目的はこの腐った世界を変えること。そのために革新出来る可能性を持った力がある俺達が動くってことだ。」


「勿論嫌なら辞退しても構わない。僕たちの行動はゲリラだ。戦闘もあるし君をイージスに乗せて戦わせなきゃいけないかもしれない。だからこそ僕達も無理に引き込む気はない。君の生活を東部の自治団体に保証してもらう事も出来る。半端な覚悟なら辞めたほうが懸命だ。」


「レイ、そんな脅すなよ。実際そんなに積極的な戦闘はしてないからなぁ。イージスには乗るかもしれないが…」


アダンさんとレイさんは僕の前で口論をし始めた。僕は考える間も無く口が開いた。そんな事を考える必要もなかった。退屈な日常から逃れられる。僕らの退屈な世界を変えられる。そして何よりイヴがいる。放たれた言葉は勿論…


「わかりました!僕を明星号に乗せてください!」


アダンは爽やかに笑みを浮かべ、僕と強く握手をした。


「ようこそ『流れ石』へ!!!」




「…ごめんなさい。トイレ何処ですか?」


「「「「「「はい???」」」」」」


「いや…その急に…吐き気が………」


…そうだった。

さっきのアニマの強烈なマニューバに完全に目を回してしまい、究極に気持ち悪かったのだ。さっきまでは気が引き締まってた関係で抑えられていたけれどそれが急になくなったから一気にキタ。僕に強烈な吐き気を身体が与えてくる。


「ゴミ袋!!!!ゴミ袋持ってこい!」


「今切らしてるって!!!倉庫から持ってこないと無いよ!」


「眠い…」


「僕が"止めてる"から!!!早く倉庫まで取りに行って!!!」


「トイレ行った方が早くない?」


「モハメッドのバカがうんこしてるせいで埋まってんだヨォ!」


「俺のGATEで外に繋げてゲロを逃すか…」


「余計なこと考えるなら動けアホリーダー!!!僕のはずっと止められる訳じゃないんだぞ!」


ああ…退屈な日常はもう…オサラバだ…

設定整理


・七星都市国家連邦自治軍

強烈な統制による治安維持でヘイト溜めてる。ノアの中に本部がある。


・流れ石

その連邦に反発する集団。バックに東部の都市国家がある。


・東部都市国家

シャングリラの人間生活圏における東部に星が落ちる前から存在した国家。ノア以外じゃ一番デカかったけど星が落ちたり、連邦に侵攻されたりして潰れ気味。連邦の統制にキレてる。


・西部

田舎。何もないし連邦基地も少ない。スラムが多いが放置され気味で治安が悪い。磁場の悪い地帯が多い。


・明星号

SSUS-86A 明星が正式名

元々連邦の新型巡洋艦として建造されたが、練習航海にて大規模な電磁嵐に襲われて以降行方不明と公式上はなっている。現在『流れ石』が母艦にしている。


・イージス

シャングリラの地中から発掘される人の脊椎や、手足のないダルマのような形をした『ドール』と呼ばれる超電導フレームに手足を付け、人によって操縦できるようにして造られる機動兵器。規格化されているが、ドールの個体差により機体ごとに性能が微妙に違う。ドールは軽く頑丈な為、大型のドールであるほど機械部が減らせて高性能になる。


・電磁エンジン

シャングリラには強い異常な磁波が常に発生しており、それを利用して大地と反発させて浮遊、移動する機関。イージスには基本的に足の裏と背中の3箇所に搭載するのが基本。他にもバイクや車に使われている。


・七星災害

七つの星が落下した事による災害の総称。落ちた街の住人がほぼ全員"消えた"他、二次災害として火災やパニック、更には異常磁波による地殻変動が発生し、ノア外部の人工が1/3に減るという大惨事となった。


・神隠し

落ちた星の付近で人が突如消えるという都市伝説。

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