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少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 3
24/32

帰艦

 まず僕は明星号に帰って、何をするよりも先に頭を下げた。随分と身勝手な理由で出ていったから自分が出来る言い訳なんてものは何もなかったし、どんな罰も受ける覚悟の上だったけれども流れ石の面々は僕の気持ちを汲み取りあえて何かすることはなかった。みんなにとってもあんなことは初めてだった。だからこの件はお互い様だって。

 アリシアはあれから精神喪失を起こしたまま病室から出れていない。介護がなければ食事や排泄も出来ないほどの廃人になってしまっていて回復の兆しは無く、東部に戻れた暁には国立病院に送ることが決まっている。

 IVもみんなに頭を下げた。無理をして散々な目に合わせたことを謝ったが、ヘンリー姉さんの「命があるだけこっちは万々歳だよ」の一言で終わった。僕たちはとても優しい人に囲まれてる。そう思えた。


 けれども一番素直に頭を下げたくなかった人物も居た。アダンだ。

 僕は確かに衝動的に無茶なことをして、一時的に明星号をめちゃくちゃにしてしまった。けれどその原因であったペンテアの死の責任はアダンだってあるはずだ。僕はあの時の一件を許してはいない。

 アダンと僕は二人だけで話し合う時間を設けた。それはお互いが望んだことだ。僕だけじゃなくてあちら側としても一つの折り合いを付けるために。


「何言ったって俺のことあんまり信頼する気無いんだろ?」


 アダンは苦笑を浮かべながら言う。


「僕が甘かったのはその通りさ。でもペンテアは死んだ。その揺るぎない事実だけで僕はアダンを心の底から信用なんてできない。」


「ふうん、でもここには居たいと?」


「勘違いしないでほしいんだ。僕がここにいるのは彼女…イヴを守りたいからってだけだ。それが出来なくなるなら例えみんなを敵にしても僕は彼女を守る。それだけの覚悟の上でここにいるんだ。」


「利用できるもんは利用させてもらう…ってか…ちょっとの間で随分と肝が据わったみてえだな。連邦のお偉いさんからIVのことでも聞いたか?」


 僕はあえて何も答えない。それを彼に言うことはどうでもいいことだと思うからだ。彼女の為になると思えない。


「いいねその覚悟、それでこそだよ。いいさ、やってみな。どっかの半端者よりそう面と向かって自分の意志決めてぶつかってくれる方がよっぽどありがたいからね。大いに歓迎するよ。でもよ、」


 アダンは立ち上がり、部屋を去ろうとする。半端者とは誰のことなのだろうか。そのまま通りすがる耳元で彼は僕に小さな声で、けれども強い言葉を投げた。


「お前が守ろうとしているものは俺が何年も守り続けた遥かに大きなものだってのを覚えておけよ。」


 アダンはそう言って去った。そんなこと言われたって僕の決意は揺らがないさ。そもそもアダンですら、イヴを「モノ」と見ていたその事実に僕は失望したと同時にいつか彼から離れて彼女を守る時が来ると悟った。やってやるさ。僕は男だ。






「さて、シエルが帰ってきたからお祝いのパーティーでもしたいとこだがそうにもいかねえ。明星号はあれから帰還許可が下りずに放浪のままだったがようやく許可が出た。だが今回の件で政府側…特にジムがかなり正規軍のように俺らを扱うことを嫌がっててね。これからは活動の際にあまり東部からのバックアップは期待出来なくなる。まあ失敗したわけじゃないんだけどなあ。」


「あのビームス首相はペンテアとアリシアを相当気にしてましたし…恐らくそれ関連ですよね。」


「多分な、帰還条件もアリシアを引き渡すのが条件だ。」


「で、今後だが東部で補給とイージスの補修、改修をした後に北部の反政府組織の支援活動に向かう。」


「北部の反政府組織?アダンさん!それってラグナロク戦線のことッスか!?」


 掃除中のウィルが反応した。ラグナロク戦線は聞いたことがある。北部は七星連邦設立前から開拓が盛んな地域で東部の次に産業が栄え、軍事にはかなり力の入った地域でもある。現に僕らが何度も対敵した北斗型重巡洋艦は北部で開発された艦船で年式は古いものの当時最強と呼ばれた艦船の一つである。その北部は七星連邦設立時に開拓者たちが纏まって反対運動を起こし、一つの私設軍隊のようになった。それが今のラグナロク戦線だ。北部のテラ教徒壊滅によってより力を増している勢力で、東部と違ってはっきりとした国家を持たない為に外交が通じず、血気盛んな集団であることも相まって一際過激な反政府組織として有名だった。


「ラグナロク戦線って…流石に東部もあそこへの介入は勧めないだろうよ。なんてったって今シャングリラで一番ドンパチしてるとこだよ。」


「だから今回は俺らだけの単独の作戦だ。東部にも内緒で支援に行く。情報を出来る限り漏らさないように俺らとラグナロク戦線のトップにしか伝えていない。」


「で?上手く行ったときはラグナロクと東部を取り持つ役割になって北部の資源を受け取るって考えか?Rockでいいじゃねえか、

 俺は乗るぜ。」


 モハメッドさんはかなり乗り気だ。汚名返上の為の策でもある。これ以上失敗はできない故緊張感の高まる作戦であるがこのままでは東部に居れなくなるのは時間の問題だ。


「まあ選択肢は無い。俺らが進むにはこうしなきゃあ行けないんだ。とりあえず東部についたらつかの間の休息を楽しんでくれ。それじゃみんな位置に戻ってくれ。」


 デッキでの報告が終わり、各々がいつもの位置へと戻っていく。そんな中、レイが最初から居なかったことに気付いた。アダンからもう聞いているから来なくても良かったのだろうか?


「アダン、レイはどこに?」


「ん?アイツならいつものように部屋で金勘定の管理やらデータ作成やらを忙しくやってるよ。俺はそこまでやらなくていいって言ってるのに働き屋な奴だよ。」


「はぁ…もう聞いてるの?」


「ああ、言ってあるから多分大丈夫だ。」


「多分って…」


「レイだろ?問題ネェだろ」


「そうだね。しっかりしてるし。」


 モハメッドさんやヘンリー姉さんも彼なら大丈夫だと答える。そう言うなら大丈夫なのだろう。会議を途中抜けしたり報告やら何やらに途中でいなくなるのはレイによくある話だったけれど最初から居ないのはちょっと珍しかったから体調でも悪いのかと思って聞いておいた。元気なら良かった。


 明星号はようやく東部へ戻る。ここからも気を抜けない日々が続く。それでも僕はこの場所で進み続けるんだ。








「おお!これが!あの雷鳥号なのか!?」


「連邦の最新技術の賜物です。近代化改修に加え、城下町の最新鋭戦艦"木霊型"の技術も取り入れてます。」


 ゾルフ・ゴルバチョフはこれが自分の艦かと驚いていた。まるで最新型の戦艦のように姿を変えた雷鳥号を見て彼は本当にこの艦の艦長となるのかと気持ちの高揚を隠せなかった。


「これはもう雷鳥号ではない…!スーパー雷鳥号…いや、サンダーバード号だッッッ!!!!!」


「サンダーバード、いい名前ではないですか。」


 彼を連れてきたニールは雷鳥の英訳はPtarmiganであり、決してthunder birdではない事を知っでいたが指摘することは無かった。が、背後の作業員には彼が笑いを堪えようと必死なのが見えている。


「一つ、私にワガママを言わせてほしいのですが。」


「これだけやってくれたんだ!何だって答えるさ!キミは私の救世主だ!!!」


「北部の対ラグナロク戦線の支援をして欲しいのと、私が管理している新型機とそのパイロットをここに乗せてほしいのです。」


「そんなことならお構いないさ!どんな人物だ?訓練を重ね強くなった私の部下たちに遅れを取らない人物なのだろう?」


「それは勿論。ちょいと、扱いの難しい娘ではありますが。」


「娘?」


「ええ、でも強いですよ。彼女ら(ダスター部隊)以上です。」


「あのゼロタイプを倒す為の機体とパイロットですから。」







 黒い影が舞う。まるで踊るように優雅に空を"滑る"その姿には誰もが見惚れてしまう。しかし、見惚れていれば命は無い。


「なんだあのイージスは…!!!まるで()()()()()()器用に動きやがる…!ッ!グワァーッッッ!!!」


 城下町の末端。小規模な反政府組織との小競り合いが何度も繰り広げられるこの場所で一際目立った活躍を残す連邦のイージスが居た。

 流れるように一機、また一機落としていく。両腕に直結したトンファーサーベルがイージスのコクピットを確実に串刺し、胴体を寸断する。


「…歯応え無いわ。研究員(ここの人たち)はこんなことしかやらせてくれないの?もっともっと、楽しくなることを私はしたいのに…」


 四肢が機体に飲み込まれているかのような独特のインターフェイスを持つコクピットには華奢な少女、Vが乗っていた。ぴっちりとしたスーツは幼いながら発育の良い彼女の肉体がはっきりとあらわになる。搭乗姿勢も相まって人によっては目を向けにくい姿だろう。


「隙だッ!落ちろ!!!」


 全て落としたと思い気を緩めていた黒いイージスへ細長いサーベルで一機のリーゼーが斬りかかる。確実に奇襲に上手くいったと思っていた。

 次の瞬間、振り返ると同時に宙返りでサーベルを交わし、そのまま足先に突き出したヒールバンカーで蹴り飛ばす。


「ムカつく…!!!死ねェッ!!!」


 飛ばされたリーゼーに両肩から4門ずつの砲門を出してホーミングレーザーをオーバーキルと言わんばかりに全て向けて飛ばす。

 曲線を描き飛ぶ前面からのレーザーの雨に機体は沢山の穴を空けられ沈黙し大地へと落ちていく。


「お疲れ様。今日の実戦での稼動試験は終わりだよ。」


 Vの乗ったコクピットの全天周囲モニターにウインドウが映し出され、その中に白衣を着た男が話しかける。と同時に噛み付く子犬のように彼女は返した。


「そこのモブ!!!もっと面白いものは無い訳!?まさか私をこの程度で楽しませられるとでも思ってるの!?」


「あ…ああ…落ち着いてくれV…」


「落ち着ける!?ニールは外は面白いことでいっぱい!って言ってたのよ!?みんなモブとザコばっかでつまらないじゃない!」


「…V」


「何よモブ!」


 彼女にとってニール以外の人間はモブ以外にしか映らない。どこでそんな単語を覚えたのかは定かでないが学習中に勝手に覚えて以降は彼女から見てどうでもいい存在、ぞんざいに扱ってもいい存在は全て"モブ"と定義された。研究員の彼もモブの一人である。


「ニールから連絡が来てる。今度はもっと歯ごたえある相手さ。ゼロタイプ、仮想演習で戦ったアレだよ。北部で試験じゃない実戦が行えるって。」


「あの白い…白いイージスね!」


 まるで花が咲くようにぱあっと笑顔になる彼女。感情の起伏が激しく、研究員は気疲れする。こんな面倒な娘がどうしてニールにはあそこまで懐くのか不思議でならないと彼は思った。


「楽しみだわ…楽しみだわ!ホンモノと戦えるのね!ウズウズしちゃう!仮想演習で何回も…何回も何回も何回も何回ッも叩き潰したけれどアレを倒せると思うと…!!!」


「待っててね、カルマのそっくりさん!」


 白と黒、二つのイージスが出会うその日は刻一刻と近付いている。

・サンダーバード号(雷鳥号改)

近代化改修と大幅な改造が施され最新鋭の艦船に勝るとも劣らない性能へと強化された雷鳥号。カタパルトの増設と格納庫の増設により総重量は増したもののイージス運用性能が格段に上がっており、砲門も軽量な光学兵器を中心に増設されている。それでも元がボロでかなり足が遅かった為に機関部の強化によって最高速度は改修前よりも圧倒的に速くなっている。スピード勝負では流石に俊足自慢の明星号には手も足も出ないが、北斗型などの艦船と足並みを揃えることが出来るようにはなった。

登録上は雷鳥号のままだがゾルフによってサンダーバード号と改名された。

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