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少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 2
14/32

ミッドナイト・イニシャル

 鋼鉄の壁に包まれる摩天楼。

 華やかで活気溢れる都市はまるで騎士が鎧を纏うようにビルは鉄の壁に覆われ、カラフルなネオンは無骨な灰色の鉄へと変わる。

 ヴァーミリオン。朱色を意味するその街の名は人工的に作られる化合物の名前でもある。この街はただの商業都市ではない。

 東部の玄関にして防衛の最重要拠点。要塞都市ヴァーミリオン。その街で繰り広げられるのは戦争ではないが闘いである。

 その戦いとは誰もが求める浪漫、速さを競う本能の闘い。

 レースだ。






「無理言うな、遊びで来たんじゃないんだぞ。」


 はしゃぐアリシアとペンテアに押される形でレースに参加しないかアダンに提案したが勿論その答えはNOであった。

 東部に用意してもらったホテルのロビーに一同集まり、二人の話を皆聞いていたが、あまり積極的にやろうと提言する者もいなかった。興味がありそうな者は居たが現実を考えると参加する旨味も意味も薄い。


「イージスレース、規定の範囲内なら何でもあり。妨害、破壊何でもありの世界一危険なレース。今週末の夜って…ウチのイージスが傷付いたらどうするよ?」


「それは…うん…」


 子ども二人をしょんぼりさせてしまうのはあまり良い気持ちではないが、仕方が無い。ダメージを負う危険性があるようなものにやすやすと参加する事はできない。それは二人も説明すれば分かるだろう。羽を伸ばせとは言われたが、何事も限度がある。それはみんな分かっているのだ。


「なになに?優勝景品…キタジマG05?ってなんです?」


「「「キタジマG05!?!?!!??」」」


 ウィルがふと読み上げたチラシの言葉に僕とアダンとモハメッドは合わせて声を上げた。


「へ?なんかすごいやつなんですかぁ?」


「凄いどころじゃねえ!レムセイで受領するはずだったキタジマA03の上位機体でその最新機だ!普通に買えば300万NCは下らない!やるぞ!レース!全力でやるぞ!」


 高速で掌を返したアダンに皆目を丸くし、意見の通った双子は喜ぶ。キタジマG05と聞けばメカニックにかじった人間のテンションが上がらない訳がない。東部のイージスメーカー、キタジマ重工のGシリーズは最上位機体で05はその最新。東部軍でも一部エリートしか支給されないレアな機体で高価。性能もお墨付きでキタジマG05とKG-501Sのキルレシオは39:2と言われている。恐らく景品のイージスは民間仕様だがキタジマ製イージスは簡単な改造で軍事仕様に改装できる。もし手に入れば大きな戦力になるだろう。


「なあアダン、作戦も近いのにレースなんてしてていいのか?あのビームスってオッサンに怒られたりしないか?」


 変に盛り上がる中、ヘンリー姉さんがぴしゃりとその場に冷静な一言を放つ。確かにさっきまでアダンが言っていたように今はそんな事をしている場合ではないが…


「なに、オッサンは何も言わないさ。イージスだって一機の参加に済ませればこっちの戦力は削らないままレースに挑める。」


「で、出るとしたらどの機体で誰が出るかじゃないですか。僕とイヴのアニマはちょっといじればレギュレーション守れそうですけど…」


 イージスレースのレギュレーションは出力制限と大きさの制限、ジェットやロケットのような加速器の禁止にレーザー、マシンガン等の射撃兵器の使用禁止である。

 出力制限はまずバナナヘッドが引っかかる。リミッターではダメらしいので機関部の交換が必要になり、手間がかかるの無理。

 射撃兵器に関してはモハメッドの301CCとアダンの601Eの肩部レーザーキャノンがアウト。ただ、これは簡単に外せるのでOK。ビバンダム/Bのレールガンは腕と一体型なのでちょっと外すのは難しい。ちなみに/Aのレンチメイスはチェーンソー部が引っかかるらしい。危険な割には明確に人命に関わるものは禁止されてるのでなんだか人命軽視なのか安全第一なのか分からないレギュレーションだ。

 大きさに関してはリヒトのような超大型機でもない限り大丈夫だから大きめのアニマもOK。

 こうした事をまとめていくとほぼ無改造で出れるのはアニマという結論にみんな至った。ただ、イヴが乗らなきゃ動かない上に複座機が許されるのか怪しい。一応601Eも出せるようにキャノンを外す事になった。多分大丈夫だと思うけど。


「まあ基本アニマで行くとして…イヴと誰が乗るかだな。順当に行けばシエルだけど…なぁ?」


「…なんですか。僕でなにか問題が!?」


 静まり返るロビー。認めよう。僕は力不足である。そんなの自分が一番分かってるんだからもう何も言わない。言っても悲しくなるだけである。


「なぁウィル。元レーサーなんだって?イージスは行けるのか?」


 そういえばウィルは元々電磁バイクのレーサーである。レースなのだから経験者がやるのが一番好ましい。こんな所で掃除係が役に立つとは。


「いやぁ…それがですねぇ…イージスのシミュレーション機ちょっと触ったんですけどこれっぽっちも適正が無くって…バイクと要領が違うもんで俺にゃあできねえんす…」


「…じゃあシエルか?俺も乗れなくはないが…アニマは久しぶりで乗れるか不安でなぁ…」


「アタシもあのじゃじゃ馬にはちょっと乗りたく無いねぇ…バナナヘッドとは別の意味で乗りにくそうだし」


「ah…俺もパス。」


 何とも微妙な空気が流れる。僕に任せざるを得ないが何とも納得が行っていない状態。そんなに僕じゃ信用ならないか。いやこの中でイージスの腕が悪い方なのは認めるが。認めるがなんとも納得行かないぞこの空気感。


「やっぱり601E改造して俺が出るか?」


「出ます!僕がやります!いや僕にやらせてください!」


 何だかここで折れるのは自分のプライドが許さなくて名乗り出た。キタジマG05が掛かった重役を僕なんかに背負わせることに納得行かない人も居るだろうがここまで気合が入られてしまえば何とも言えまい。何よりアダンに立場を奪われたくない。


「…そこまで言うなら行ってこい!…ただし俺も601Eで行く。」


「…出すのは一機って言わなかったか。」


「誤差だ誤差!何かあったら"アレ"を引っ張り出せばいい!」


 適当ですぐに掌を返すアダンにレイは軽く舌打ちをし、勝手にしろとロビーからエレベーターに乗り自分の部屋へと戻っていった。


「そうとかかれば俺は作業だ。イージスの整備に行ってるよ。」


「ああガガさん、僕もやりますよ。ガガさん一人で二機分は大変でしょうし…簡単と言ってもレーザーキャノン外すのは色々やらなきゃいけませんから…」


「レーサーはしっかり休養しな!レースは今週末だろ?それより、ルートの視察とかした方がいいんじゃねえか?」


「heyシエル!おやっさんの手伝いは俺がやるから心配いらねえぜ!」


「ありがとうございますガガさん、モハメッドさん!」


 二人に会釈をして見送り、各々部屋へと戻ったりレースに向けた準備を始める中、端で僕らの話を聞いていたイヴが目に映る。

 そういえばイヴも乗るんだってのに何も聞かないで話を進めてしまった。


「イヴ、ごめん勝手に色々進めちゃって…アニマにはイヴも乗るのに…嫌だったら今から断ってもいいんだ。あの時は場の雰囲気で何とも言えなかったかもしれないけど…」


「ううん。私も楽しみ。速さを競う…でしょ?凄く面白いと思う。」


「自分勝手でごめん…イヴは乗ってるだけでいいからさ!僕が頑張るから!」


「シエル、自分の心が思うままに動くのって大事。だから嘘でもそんなこと言うの駄目。本気でやらないと。それじゃないと心は動かない。」


「…そうだよね。本気でやらないと。勝つよ、イヴ。」


「…うん。」






 その日は訪れた。

 ダウンタウン・イージスレース in ヴァーミリオン。通称DAV(ダヴ)杯。摩天楼を高速で武器妨害アリのイージスが駆け回って被害とかは大丈夫なのかと心の隅で思っていたのだが、このレースはイージスレース最大のレースであると同時にヴァーミリオンの要塞としての都市機能を示すイベントでもあるらしい。

 東部の玄関口であるヴァーミリオンは最大にして最強の防衛拠点でもある。入り口であるこの街は有事に最強の要塞都市へと変貌し、ここで全てを食い止める。摩天楼は全て地面からビクトリウム合金の巨大なシェルターに囲まれ、地下街への入り口は全て封鎖された上でここもビクトリウム合金で覆われる。

 非常に高価で希少だが最強の硬度、耐熱性、耐衝撃性を備えるビクトリウム合金をこれだけ沢山使っている辺り、その本気さが伺える。

 連邦が戦力を総動員しても傷一つ付かないと自称する要塞都市ヴァーミリオンならばイージスがちょっと暴れた程度でどうということも無いだろう。つくづく、規模の大きさに驚く街である。

 外からの参加者で連邦へのレジスタンス活動をしている僕らが参加することはとても注目度が高かったらしく、会場に向かう途中には人気者になったかのように見物客が集まっていた。外じゃ悪い意味で有名人なのでちょっと嬉しい。ただ、コース内には人は居ないらしい。どうやら安全確保の為、レースのエリアには人を入れないようにしているとか。不正防止の為でもある。

 複座のアニマは許可され、バスターソードは手持ちしてもOKとなった。チェーンソーはダメだがこれは許されるあたり、レギュレーションがよく分からない。アダンの601Eはキャノンを外し、急ごしらえでトンファーを二つ装備させた。周りを見るともはや人型とはかけ離れたイージス、継ぎ接ぎや改造がされ過ぎて原型機が分からないイージス、極限まで装備やパーツを削ったイージスなど多種多様なイージスが並んでいる。どこもかしこもヘンテコなイージスがたくさんだ。


「おい!前回優勝のファーター・タトゥイーンが来たぞ!」


「タトゥイーンだ!スカイウォーク号で来てるぞ!」


 ファーター・タトゥイーン。前回DAV杯で他のレーサーと圧倒的な差を見せつけた上に前年度のイージスレースタイトルを総ナメにしたイージスレーサー。専用にカスタムしたキタジマG04に乗っており、スカイブルーの塗装と歩く靴のマーキングからスカイウォーク号と名付けている。特に砂漠で行われるレースで強いことから砂漠のタトゥイーンと呼ばれていたらしい。


「調べてはいたが予想以上だな。キタジマG04ってだけで基礎性能は満点以上だってのに変なチューンやら仕込み武器やらいろんな噂がありやがる。」


 アニマのモニターからアダンの声が届く。大会について調べている中で最も強敵になりうるレーサーと分かった。優勝を狙うのならば彼に勝てなければならない。


「…アダン、レギュレーションに協力や協定の禁止は無かったよね。」


「分かってるじゃねえかシエル。ここは複数人参加の強みを見せてやろうじゃねえか。」


「イヴは状況報告と危険察知をお願い。いつもみたいに明星号からのオペレートは無いからイヴの索敵が重要になる。」


「うん。分かってる。」


「「がんばれぇ〜〜!!!」」


 モニター越しにアリシアとペンテアの声の応援する声が聞こえてくる。元はといえば二人がやりたいと言った事だ。小さい子の応援には答えないといけないだろう。ちょっとしたプレッシャーだ。


「獲るぞ…キタジマG05!」


 …大人からも強烈なプレッシャーが来る。




「皆さんこんばんは!今年もDAV杯がやってまいりました!新星暦で早10年!今年は節目の年であります!申し遅れました、ワタクシDAV杯主催にしてヴァーミリオン市長『キャッピー・デシリジク・ティウレ』でございます。今年もこの世界一危険なレースをどうぞお楽しみ下さいませ!」


 ヴァーミリオン一高いタワー、『クレナイ・ヒル』の展望デッキから市長が大会の挨拶を始める。街のネオンは鋼鉄で覆われてしまったが、ライトアップは色とりどりで派手さや祭りのイメージを与える。

 参加者はおおよそ100人で100機。ここを勝ち抜かなければならない。タトゥイーン以外にも強敵は居るだろう。

 全長73.6km、摩天楼の間を塗っていくようなコースが続き、誰かの妨害が無くともビルに機体を叩きつけてしまいそうな道が続く。

 沢山の急カーブ、それに加え道には多くのギミックがレーサーを苦しめる。一歩間違えればスクラップになりかねないものばかりだがDAV杯は過去死者0人を唱っている。本当だろうか。

 そう考えるうちにカウントが始まる。緊張が高まる瞬間。スタートダッシュは時に全てを左右するとレーサーのウィルは言っていた。最初が重要だ。


 ランプが赤から青へ代わる。大会の始まるけたたましいブザーの音と共に、沢山の電磁エンジンの音が鳴り響き、イージス達がスタートする。

 圧倒的な加速で後ろからごぼう抜きにしてきたのは最初に見かけたガリガリのイージス。極限まで装甲や重量を省いたその構造ならば加速は凄まじいだろう。アニマや601Eもいつもより少し装甲を減らしたが、あそこまでストイックにされるとちょっと敵わない。

 その瞬間、軽い金属音と共にガリガリイージスが吹っ飛んだ。前を走る腕の大きなイージスが上半身を回転させ、背後から一気に加速するガリガリイージスを弾き飛ばしたのだ。軽いのだからボールのように飛ばされても仕方がないだろう。


「これがDAV杯だぁぁぁああああ!!!!!」


 マッチョイージスに乗る野太い声の男がイージスの拡声機越しに雄叫び声を上げる。

 が、その後ろからタトゥイーンが股下をくぐり抜けて抜き去り、バランスの悪そうな胴体を後ろに蹴飛ばして大きくクラッシュさせる。巻き込まれるように後続のイージスが巻き込まれていき、開幕でおおよそ30機のイージスが脱落した。

 これがDAV杯。それは場が僕らに現実を知らしめた。

 勝てるのか?こんな奴らに…

 いや勝つんだ。みんなの為に、、アリシアとペンテアの為に、僕のプライドの為に、

 キタジマG05の為に!

色んなレースの色んな名前が使われてます。


・ビクトリウム合金

シャングリラで発見されたビクトリウムから作られる合金。ビクトリウム元素を発見したのが東部都市国家の前身で、これで戦争に勝てるという意味合いでビクトリウムと名付けられた。既存のあらゆる金属よりも剛性、耐熱性、耐衝撃性に優れているが、入手が難しい上に生成が困難。東部が生成技術とプラントを独占しており、軍事利用しているのは東部のみ。キタジマG05には装甲の一部に使用され、東部の制式イージスの盾にも一部が使われている。技術面で唯一の東部側のアドバンテージとも。


・キタジマG05

東部都市国家のイージス製造を行う会社、キタジマ重工のフラッグシップ機。アニマに匹敵する準大型ドールを使用、装甲の間接部やコクピットブロックにビクトリウム合金を使用。最新型のエンジンを四基搭載し、マルチロック対応、アダプターでKG社イージス用の装備が使用可能。パンドラバッテリー二基の為、追加ジェネレーター無しで高出力レーザー兵器の使用が可能。全てにおいて高い性能とバランスを備える器用万能。

弱点はコストのみ。

キタジマGシリーズはとりわけ高性能だがG05は特にぶっ飛んだ高性能機である。

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