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少年少女革命  作者: 四ノ宮凛
phase 2
12/32

悪魔の子どもたち

華やかな繁華街の裏で今日も銃声がこだまする。

方舟の城下町、シャングリラで一のダウンタウン。高いビルが立ち並び、荒廃した他の地域と同じ星と思わせぬような都市の光景が広がっていく。眩しいほどの電飾と活気あふれる人々、そんな街の裏、路地の間ではビルの隙間に巣食うドブネズミの如く街の世界から堕ちた人間が闊歩する。

喰った喰われた。奪い合う日々。それは金か、あるいは食べ物か、はたまた命か。鮮やかな色に染まる街とは対象的な灰色の世界がそこにはあった。

銃声の主は二人。


「アリシア!当たったよ!」


「やったあ!今日は色々持ってるぞ!」






「ビームス主席、この際単刀直入に言います。入国許可を頂きたい。」


「図々しい男だ。こちらの資材提供等のバックアップでは飽き足らず本格的な軍部への編入を求めるか。」


「話が早いじゃないですか。よくお分かりで。」


ビームス主席はアダンの言葉だけで真意を理解した。頭のキレる人か、情勢をよく理解しているのか、どちらにせよ一筋縄でいく人物には見えない。しかし、アダンの事を「アダムス」と読んでいたことが気にかかる。


「そちらにもう情報は来てると思いますが、東部都市国家(イースト・ポリス)北部のテラ教徒に実効支配されていた地域が壊滅しました。大規模な災害の影響で連邦もしばらくはこの地域に手を出せません。入国許可を頂ければ、強奪されていたキタジマA03試作型等の返還もしましょう。テラと繋がりが切れ、支配地域の壊滅に貢献した我々を迎え入れない理由は?」


「なるほど、そういうことか。ハッハッハッハッ面白い。」


「ええ、美味い話ではあるでしょう?」


ビームス主席は手を叩いて笑い、上手く行った雰囲気が流れる。こちらの目論見通りだ。しかし、主席は突如笑いを止め、再び厳格な表情を見せて話し出す。


「却下だ。我々は流れ石を招き入れる事で連邦との複雑な関係にヒビを入れたくは無い。こちらにも事情がある。秘密裏の支援ならば続けよう。」


交渉は決裂した。これだけの条件で飲む人物では無かったのだ。だが、その言葉を受けてもアダンは動揺する素振りを一切見せず、寧ろかすかに口角を上げこう呟いた。


「シュタイナー機関…」


「…今何と言った。」


「アリシア・シュタイナーとペンテア・シュタイナーだ。」


アダンがこの言葉を口にした瞬間、最初から常に動じることなく厳格にこちらと対話を続けてきた彼の表情が崩れた。


「どこで知った…!」


「アリシアとペンテアは生きている。」


「人質のつもりかッ…!」


「人質じゃないですよ。二人は仲間です。まあ我々が元々はタカ派だった貴方が進めたとある計画を世に広める事は造作も無いですが。」


「脅しか!?」


「私が聞きたいのは入国許可を頂けるか頂けないか。それだけです。」


キリキリと歯軋りを立て、手元を震わせ怒りを露にする。彼の冷静な態度はどこへ行ったか、たった一つのワードで彼は感情を乱されてしまった。二人にそれほどまでの効力があるのだろうか。


「…いいだろう。特別に許可する。但しだ、アリシアとペンテアの引き渡しが条件だ。」


「二人が了承すれば、構いませんよ。」


「フン…」


腑に落ちぬような表情であったが、折れて彼は再び冷静に話した。不満そうな咳払いと共に通信は切れ、アダンは椅子へとぐったりして一息つく。


「ふぅ〜なんとかなったか…奥の手を使っちまったがあ…仕方ないな…」


「なあアダン、あのkidsって城下町の路地裏にいたただのスター・チルドレンじゃなかったのか?」


「あ〜その話もしなきゃいけねえな…何から話すか…」


頬杖を付き、彼が考え始めたとき、僕によって一度乱雑に開けられたドアが再び音を立て手荒に開かれる。そこから出てきたのは二つの小さな影。アリシアとペンテア。シュタイナー姉妹だ。


「なになに?あたしたちの話?おしえておしえて!」


「ペンテアも混ぜて混ぜて〜!」


「あ〜………悪い、また今度話そう。」


子供の前で辛気臭い話はしたくない。それはみんな同じだ。彼女達の無邪気な表情を見るとそんな事はしたくても出来ない。小さい子はそういう所、得してると思う。




アニマのメンテナンスがてら、僕は格納庫にいた。

だだっ広く感じるのは格納できる機体数に対して明星号に入っている機体が少ないからだろう。走り回れるような場所は艦内にはここくらいしか無く、シュタイナー姉妹はよくここで騒いでいる。今も二人が僕の前を騒いでは走り去っていき、鬱陶しくて堪らないが子どもなのだからそれくらい許してあげるのが年長者としての心持ちだろう。

思えば不思議だった。

こんなにも無邪気で戦いの世界とは無縁にも思える双子の少女が鋼鉄の巨人へと乗り込み、武器を持って戦いへと身を投げている。その精神からして既に不思議だが、この年齢でイージスを操り、重火器の使用にも長けていることが不思議でならなかった。以前に重火器の扱いを少し聞いたから彼女達も扱えるのは間違い無い。僕らの間では子どもとして扱われながらも何処かそういったところだけは子ども離れしていて、そのおかしさも誰も指摘することは無かった。


「ねえアリシア、ペンテア。二人って何処からここに?」


「あはははぎゃはははは!!ん?ゲロ…シエル兄ちゃん、あたしたちの故郷のお話?」


「ゲロはやめろってのゲロは…そうそう、聞いたことなかったなって。」


「あたしたちは東部出身。マーブルシティってところ!」


マーブルシティ、昔おじいちゃんから聞いたことがある。七星災害より前では城下町以外で一番発展していた都市で、ノアの城下町にも劣らない摩天楼がそびえ立っていたという。そしてこれは後からここで聞いた話だが、災害の影響が最も大きく、最も犠牲者の出た街でもあった。


「マーブル…それじゃだいぶ酷かったんだろうね…」


「うん…あたしたちのお兄ちゃん達とかお姉ちゃん達もみんな居なくなっちゃったの。」


「ん?お兄ちゃんとかお姉ちゃん居たの?」


「うん!百人?くらい!」


「………えっ?」







マーブルシティ。方舟の城下町にも負けずとも劣らぬその摩天楼の地下。『シュタイナー機関』。二人が生まれた場所はそこの()()()()()だった。

『悪魔の子どもたち』と呼ばれた彼ら彼女らは当時軍拡とノアの利権の一部獲得を目論んでいた東部都市国家の前身である都市国家ののタカ派が推し進めた遺伝子操作した人間に兵士としての英才教育を幼児から受けさせ、最強の兵士を作り出す計画の中で生まれたうちの二人だった。

彼女達が二歳の時、物心ついて間もなかった時であった。星が落ち、彼女たちは落とされ、二人を残して街は全て消え去った。

多くの東部タカ派が本拠地にしていたマーブルシティに落ちた為にかの勢力は凄まじい勢いで衰え、軍事を連邦からの防衛へとシフトすることになった。奇跡的に生還した二人は僅かに生き残っていたタカ派の軍人に秘密裏に回収され、別の施設にて超人兵士プログラムを受ける事となる。


「そいつが、『ジム・ビームス』だ。」


「あの二人、アタシとヘンリーくらい壮絶な人生。子どもの頃にそんな体験したら生きてける自信ないねー。」


「俺も東部でこれを知った時ビックリしたよ。双子をここに招いた時は知らなかったからな…」


「ん?heyアダン、じゃあなんでアイツら城下町の路地裏なんかに居たんだ?」


「ん?ああ、それはな…」


しかし、東部も一枚岩では無かった。軍事政権が市民による革命で倒れ、今の東部都市国家が樹立する。その時にこの施設にも火が放たれ、特別なプログラムを受けた少年少女は散り散りになり、シュタイナー機関や超人兵士プログラムの存在を隠匿した上に自身が元タカ派の軍人として暗躍していた過去を隠し通したジム・ビームスはハト派の政治家として表舞台へと上がり、国家主席となった。


「それで二人は各地を転々としつつ自給自足で生きてきた最中、俺達に会って合流したってわけかい?」


「まあ、そうだな。最もその辺りは本人たちが一番覚えてるだろうけどよ…」









「ペンテアはね!すっごく狙撃が得意なの!」


「そう!あたしは"おしろ"にいた頃から遠くを撃つのが得意だったから旅をしてた時にスナイパーライフルが手に入った時はすっごく嬉しかったんだ!」


「あの時のペンテアすっごく嬉しそうだったね!」


「うん!」


楽しげに、幼い頃誰かと夕方まで遊び笑顔で帰った何気ない思い出話の様に語られる血生臭い物語がそこにあった。常人ならば絶句しかねない人を殺し、奪い、盗んで生きてきた少女の物語は僕がスラムで生きた数年とは比べ物にならない程にハードだった。

そして一番恐ろしいのは彼女達がこの話をなんの躊躇もなく、笑顔で話し続けていることだ。


「おじさんたちはあたしたちなーんの害もない子だと思い込んで優しく接したり無理やり物を盗ったりしようとしてたけど後ろから頭割っちゃったときのびっくり顔面白かったよね〜!」


「最近自分で銃とか触ってないからなんか手が鈍りそうだよ〜ペンテアはいつもイージスで銃持ってるからいいなぁ〜」








「まあ最初からこれは思ってたんだが…二人には壊滅的に倫理観が抜け落ちていた。」


「初めて会った時は挨拶代わりのアサルトライフルだ。GATEが無ければ即死だったよ。生まれつき人を殺す事しか教わらなかった子たちで人を殺して生きるしか道を選べなかった子たちだ。こうなっても仕方ないっちゃ仕方ないんだけどな。」


アダンは遠くを見つめ、複雑な表情で双子の過去を語った。彼女達の壮絶な過去は彼でさえも語る事を躊躇する程度であったが、彼女達が武器を持ち戦えることを不思議に思っていたクルーは多く、これは彼が説明せねばならない事だった。


「あの…アダンさん。それならなおさら二人に武器を与えては行けなかったのでは…」


エリーが申し訳なさげにアダンへと言う。申し訳なさ気なのは彼女と流れ石の戦力不足を重々承知しており、二人が戦力として出ることが必要なのは分かりきっているからである。それでも彼女の中の良心がその言葉を言いたくてたまらなかった。


「まあ…その通りだ…俺も与える気は無かったんだけどな…」








「アリシア、ペンテア、もう二人が武器を持つ理由なんてないじゃないか!」


広い格納庫に響く僕の声。声を荒らげそう叫んだのは僕の心がそう叫びたがったからだ。これほどまでに残酷でどうしようもなくて、大人達や運命に踊らされ続けて無意識のままにそんな生き方をさせられてきたのだからもう救われたっていいと、僕は強く思っていた。


「どうして?」


「…どうしてって…!ここは僕や皆がいて、もう二人が戦わなきゃ生きていけないような場所じゃないんだよ!?」


「あたしたちお兄ちゃんよりイージス動かすの得意だよ?」


「あああもうそうだけど!そうではあるけどそうじゃなくて!自分たちは子どもで!守られる存在で!そんな血生臭い所にいる必要が無いんだって、分からないのかよ…!」


僕の心からの叫びも、双子はきょとんとした顔で何も感じないようにこちらを見つめる。どうしてだろう。なぜだろう。なんで人はこんなにも酷く育てられてしまうのだろう。心があってもこれじゃあないようなものじゃないか。


「ねえ兄ちゃん。」


涙を流しそうになりながらぐっと堪え俯く僕の肩を優しく叩くペンテア。彼女はただ純粋に、無垢に、心が思ったままにその言葉を発した。


「あたしたち、人を殺す以外、何をしたらいいか分からないの。」


「遊びも、ご飯を持ってくることも、ものが欲しくなったときも、それしか分からないの。だから、武器を持ったらだめって言われたら、あたしたちが生きる意味が無くなっちゃう。」








「って言われたんだ。酷い話さ。東部も良いもんじゃねえな。」


アダンの話にデッキにいた流れ石の面々は絶句し、アダンは椅子から立ち上がってデッキから去っていった。なんとも言えぬやるせない空気が漂い、誰も二人を救う事ができない事に強い悔しさを感じる。


「…あってたまるかい…!こんな話ッ!」


「悪夢より悪夢だね。」


誰も何もする事は出来ない。しかも二人はそれが酷いことだという自覚すらしていない。何が幸せなのか誰かが決めつける事はそれこそ"エゴ"なのだろうが、誰もが二人が本当に幸せな子どもとして生きていけた未来を見ていただろう。その幸せな像すらも知らない双子に自分達はそれを見せてやれるほどの存在で有りたいと、各々は思ったが戦いに見を投じる自分達にそれは出来ないと心の中で思っていた。


「アダン、二人を東部で穏やかに生きさせてあげたくはないかい?」


「そのつもりだ。ビームスに勝手な事されるかも知れないが。」


「なんにせよ、東部の入国許可が欲しかったのはあの子達に"普通に生きれる場所"を与えたかったからだ。これで少しは良くなると思いたいよ。」


明星号は東部へと向かう。堂々と港へと入り、都市国家に入国する。東部都市国家は方舟に反する者のユートピア。そう皆は考えていたものだが、流れ石の少年少女はそれをそうと素直に思う事は出来ずに、ただ複雑な心境で国境を渡る。








「君達も、だったんだね。」


背後から声が聞こえた。透き通るような綺麗な声音。僕の好きな人の声だった。


「イヴお姉ちゃん!元気になったの?」


「うん、もう大丈夫。」


「イヴ!?身体は!?」


「心配しないでシエル。もう元気だから。気使ってくれて、ありがとう。」


病み上がりで少しいつもよりも気だるげに見えたが、いつも抑揚の薄い話し方をするのでそれほど辛そうではなかった。けれど、あれだけ苦しんでいた後だから心配になる。


「私もね、人を殺して生きてきたから。分かるんだ。武器を持つ事しか自分の存在を保てない感覚。」


「でもそれは行けないこと。流れ石の人達はみんな優しくて、心の温かみがある。私にはそれがない。今みたいにさ、シエルもとても優しくて、凄くなんだか…豊かで、暖かだけど、私はそうなれない。」


「だからね、二人はもっと暖かい人になって欲しいって。みんな思ってるんじゃないかな。」


イヴも戦いに見を投じて生きたヒトだった。だからこそ二人の気持ちも分かるのだろう。こんな事が分かって何も幸せにはなれないだろうけど、二人にそう言える彼女はきっとみんなのような暖かさがあるんだと思った。彼女はずっと分からないと言うけれど、きっとそれは"分かっていることを理解(分か)っていない"んだ。イヴは二人と少し違う気がするけれども、二人よりも遥かに人間らしくなれてると僕は思う。

戦い続ける世界の中で、その真っ只中にいる人間が人らしく有る事はきっと難しい。だからこそ、この暖かさを大事にして二人やイヴのような人にそれを分からせてあげたい。それが僕のエゴだとしても、僕はこの子達に幸せを見せたいと強く思った。

もうじき東部へ付く。次の戦いは何か分からない。メディアンや、二人のこと、イヴのことや色々な事で頭が混濁しそうになる。だからこそ僕は強く、強く、前を向いた。

東部主席の名前、東部から来たテネシー兄弟の名前には明確な共通点があります。気になる人は調べてみましょう。

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