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 大学が再び始まって二週間も経つと、すっかり夏休みの余韻は消えていた。夕方になると温度が下がることもあって、キャンパス内で半袖姿の人を見かけることもめっきりと減っていて、あたしもこの頃はパーカーを一枚持ち歩くようになっていた。


あの日以来アキとは講義で一緒になったり四人でお昼を食べたりすることはあっても、二人きりで話すことはなかった。皆でいるときには前と変わらずにことばを交わすし、別段居心地の悪さを感じることはなくて、少し安心した。


四限の講義が終わると友だちに簡単に挨拶をして、急いで教室を出る。今日はこの後二十三時半までバイトがある。早めにバイト先に着いておかないと賄いを食べるかメイクを直すかのどちらかができなくなる。


地下鉄に乗ってS駅まで向かう。今日は金曜日だから忙しくなるだろう。そう考えると途端に疲労と眠気を感じる。だけどバイトが終わったらリョウが迎えに来てくれることになっていて、そのまま泊まりに行く予定だ。


今までに数えきれないほどの破局の危機があったけれど、なんだかんだ来週で付き合い始めて二年になる。当日はお互いの用事が合わなくてゆっくりできそうもなかったから、今日明日と一緒に過ごすことになっている。


 想像通りこの辺りで一番大きな繁華街の端にあるカフェ・バーは近くにオフィス街があることも相まって、店先に空席待ちの列ができるくらいに混雑した。


ハワイをイメージしたこの店で提供されるアルコール類はすべて背の高いグラスに入っている上に、トップに紙でできたパラソルだったりフルーツだったりが刺さっているせいでバランスが取りづらい。働き始めたころは欲張って一度にたくさん運ぼうとして、何回かぶちまけたことがあった。平日からの解放感とアルコールで上機嫌になった客の間を忙しなく動き回る。だけどこれだけ忙しいと疲れたと思ったり時計を確認したりする暇さえなくなって、時間が過ぎるのがあっという間に感じる。


「マリアちゃん」


バイトリーダーのマキさんが視線で合図をする先を見ると、人通りが少なくなった店の前にリョウが立っていた。これまでにも何度か迎えに来てもらったことがあるけれど、バイト仲間には恋人同士であることを告げていない。遠目で見れば小柄な男性にも見えるリョウとあたしのことをどう思っているのだろう。

レジの脇にあるラップトップで時刻を確認するとちょうど二十三時三十分だった。店の混雑もだいぶ落ち着いてきたし、いつも営業が終わる一時までは車通勤のフリーターと社員組が残ることになっている。


「お先に失礼します」


スタッフに挨拶をしてロッカーで着替える。制服代わりのアロハシャツを脱いでもアルコールと煙草と油の匂いがして、ファブリーズとボディミストを全身に振りかけた。ポニーテールにしていた髪を下ろして手櫛で簡単に整えてメイクを直す。最後にリップを引いて、店を出た。


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