閑話:光得た少年
side:Y
僕の世界は、父さんと母さんで終わっていた。
もちろん、周りに居るのは両親以外にもいっぱいいた。闇堂家という名家に生まれたおかげで、人より多いくらいに。
でも、それはやっぱり父さんと母さんの子供で、闇堂家だから。
幼稚園の同じクラスの子達は、僕を同じ存在として見ない。1回だけ、理由を盗み聞きしてしまったことがある。
『お母さんがね、ゆきなりくんは、えらい人の子どもだから、あそんでケガさせたら怒られるっていってたよ』
『僕のお母さんもいってたよ』
ひどい、と思った。偉くなんかないよ、そんな事で怒ったりなんか、しない。
そう、思ってはいても自分から話しかける勇気も、進んでみんなと仲良くしようとする気持ちも、どんどんしおれて、本を読むようになると、勉強に興味が湧いて、部屋に置いてあった本を読んだり、教材を使って勉強していたら、いつの間にか話しかける人も、こっちをきにするひともいなかった。
そんな時だった。父さんが、親戚の一つ上の女の子を紹介してくれたのは。
その女の子は、父さんと母さん以外で初めて目を合わせて話してくれた人だった。
一気に『夕姉様』が大好きになった瞬間だった。
僕は楽しかった。嬉しかった。
夕姉様は、勉強も出来て、護身術も習っているらしい。一つ上なだけなのに、凄い、と純粋に思えた。それに、精霊については、『闇堂家』というものが、僕の思っていた以上に重要な家らしいことが分かった。知らない事が沢山あった。それも姉様が教えてくれると知って、僕が来年から通うことになる学舎で、もう姉様は友達がいて、迷惑じゃないかと思ったけど、そんなことは無かった。姉様も友達が少ないみたい。
姉様には悪いけど、僕にとっては嬉しい知らせだった。
楽しい時間はあっという間で、姉様が帰る時間になる。
もう終わりなんだ、と思っていたけど、また明日来てくれると聞いて、嘘なんじゃないかと思った。でも姉様は約束をしてくれた。約束をするなんて初めてだったけど、とても嬉しかった。
姉様が乗る車を見送って、寂しさがこみ上げたけど、『約束』という言葉を思い出す度、胸が暖かくなって、明日が楽しみになった。
全部全部姉様のおかげだ。「幸くん」と、姉様だけの僕の名前を呼びながら、ふわ、と笑う姉様が好きだ。抱きしめてくれた姉様の手が好きだ。他の子より、少し低い姉様の落ち着いた声が好きだ。
全部全部が好きだった。
いつか、僕が姉様を守れるようになりたい。救えるように、なんて高望みはしない。でも、姉様が泣かないようにしたい、そう思った。自分の世界に閉じこもっていた僕を、姉様が救ってくれた。いつか、なれるだろうか、姉様のような強いひとに。
__そのためには、まず何が足りないのだろう。それから始めてみよう。姉様を守れる強いひとに、いつか自分自身がなるために。
一つずれた歯車
連鎖を続けるイレギュラー
もう物語とは言えない
筋書きは消失した
どこへ向かうも
止める者はいない
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ここから貪欲に知識を吸収し始める幸成くんのバキューム物語が...始まらないからね?