第2話:対の相棒(?)
ふよふよと浮いている刀を前に、私は完全に停止していた。
「なんか出た」
唖然としながら刀を改めて眺めてみる。
全体的には白い。兜金から柄覆輪、覆輪、鏢は金、柄に付いた目貫は、八重桜を模していて、私好みではあるが、如何せん私は2歳児。身長と同じくらいの大きさの刀など扱えない。しかし、
「いちおう、もってみよう。持つだけ持つだけ」
そこは置いといて、興味がないでは無いので、もってみることにしたのだが
『軽い...?』
これだけの大きさにも関わらず、普通に持ててしまった。その気になれば片手で振り回せそうな程、印象も、軽いというより、扱いやすい重さと言った感じ。どうなっているのか分からなかったので、事情を知ってそうなケサランパサラン(精霊)に聞いてみようとしたとき、頭に直接聞こえるような声が聞こえた。
___......聞こえているか?_新たな鍵守__
「え?どこから?」
キョロキョロと見回すが、当然何もいない
___聞こえているなら、現れた武器を地面に突き立てるといい。__
「どういう?...まあ、指示には従いましょう。」
__早くした方がいい。
「そうですかッ」
混乱してちょっとだけヤケ気味に勢いよく刀を地面に突き立てる、と、地面に突き立てた部分から波紋が広がり、1メートルほどに広がったとき、とぷん、と私は沈んだ。
相当混乱していたのか、固まっていた私はなす術なく吸い込まれた。
『そろそろ起きてもいいと思うのだが、』
「ッはっ?!」
起きたそこは真っ白な空間だった。
『ほうほう、ここに来た鍵守の中では一等幼いようだ。』
はっと目が覚めると、そこには黒いガーデンテーブルと白と黒のガーデンチェア、黒いガーデンチェアには、対比するように私とそっくりな男の子が座っていた。私はいつの間にか白い方のガーデンチェアに座っていたようで、自然と目の前に座る男の子と目が合った。
「あなたは、誰?」
『誰、か。我等はこの空間を管理し、記録を取り、継ぎの鍵守を、ここの守護者と成らせんがために存在する者』
「どういうこと?」
『我等は初代の鍵守の頃より存在し、彼等彼女等が役目を継ぎ、役目を終えるまで寄り添い、歴代の鍵守達の辿った道のりを記録し、次代の鍵守がその力に目覚めた時、ここに呼び寄せ教え、導いてきた。』
「私にそっくりなのはどうして?」
『我等は鍵守がその力に目覚めた時、鍵守と対の姿を取る。』
「我等ってどういう意味?」
『記録はあるが、歴代と共にあったものとは、我と似て非なるもの。故に一個体としての《我》ではなく《我等》というのが相応しいのだ』
「そういうこと...分かった。ということは、これからはあなたが先生役をしてくれるの?」
『大まかには相違ない。』
「あなたの名前はなんというの?」
『歴代は各々、対に名前を与えていた。』
「私が、あなたに名前をつけるのね?」
『そうなる。』
最初は驚いたけど、どうやら彼は私のサポートをしてけれる存在のようだ。それにほとんど表情がないけれど、名前と聞いた時少しだけ嬉しそうな雰囲気になっていた。責任重大だ、でも、実は一目見た時からイメージは固まっていたのだ。
「じゃあ、あなたは『夕凪』。私はあなたと出会った時、どこかホッとする気持ちになれた。だからあなたは夕凪。」
『夕凪、夕凪、うむ、いい名前のようだ。対の感情を込めた名前は、なかなかに力がこもっている。』
どういうこと?
『歴代の中にはその場のノリとういうやつでつける者もいたが、力のある名前を持つものと持たないものでは、大分扱える事柄に幅があるようなのだ。特に感情がこもった名前は力を持つ』
ほえー、そんなことがあるんだー
と感心していたが、
『要するに、技術・武術その他もろもろ最大限に詰め込むことが出来るという事だ。』
ビキッとアホヅラのまま固まった私は悪くないはず。だって今まで無表情だったのに、いきなり意地悪そうに、ニヤニヤ笑い始めたのだから。ダラダラと止まらない脂汗と徐々にひきつる私の顔。対照的に凶悪なイイ笑顔を浮かべる夕凪は、とても、とても愉しそうだった...
とぷん、と白い空間...夕凪曰く『白領』と言うらしい...から、行った時と同じように帰ってきた時、私は詰め込まれた情報の多さに真顔になっていた。
午後の稽古を終わらせたあと、今日1日の濃ゆさに疲れきった私は、お風呂や夕食を済ませると早々に寝てしまった。
ゲームの中とは、ここから少しずつズレていきます