第1話:白の鍵守
朝日が目にしみてむくりと起きる。
「ふ、ぁああぁ、ねむい...です...ねぇ」
目を擦りつつ起きる。
突然ですが二年たちました。
長かったですよ。ええ、あれはある意味試練でした。赤ちゃん特有のアレです。乙女に皆まで言わせてんじゃねーです。
所で突然ですがこの世界、『精霊』がいましたでしょう?最初はびっくりしました。それはもう固まって息も止めてました
だっていきなり目の前にふわふわなんか飛んでる、虫かな、と思っていたらそれからクスクス声がしたんですよ?驚かない人がいたらむしろ連れてこいってんです。という訳で窓を開けると
「おはようございます、今日も漂ってますね。元気そうで何よりです」
___おはよう__おはよう
___今日はどうするの?
___ 稽古?
「ああ、はい 稽古をしますよ」
___てつだう?_てつだおうか?
「いいえ 大丈夫ですよ、もう最初ほど疲れませんから」
___そう?いつでも言って
___いつでもてつだう_だいすきなひと
「ありがとうございます、ではまた」
ばたりと窓を締める
「また、いた」
そう、この部屋で寝起きしてはや2年いつの間にか朝起きると窓の外にケサランパサランのような精霊がわんさか見えるようになったのだ。
しかも精霊が見える、ましてや声が聞こえる人間はいない、はずだった。それはまだいい問題は他にある。
「やっべー、自分でドン引き 何て厨二」
そう、私の外見が、まるで厨二病患者のような髪と目なのだ。白銀の髪は一度も切っていないので方の下あたり、そして右目が蒼左目が紅色やっべー、マジやっべー自分で自分がイタイッ
......コホン、これは全て自前のものである。でも、それでもイタいモンはイタい。この世界では髪色がかなり豊富だが、それでも白銀は無いし、オッドアイはもっと無い。
ということで普段はお母さんが隠してくれている。
2歳児になって行動範囲が増えた私が変な目で見られることがないように、との事である。
でも、私には野望がある。
完璧に、偽装するのだ。隠してるからいいんじゃない?ノンノン、隠すのが完璧すぎて
ボッチ...なのだ。
ボッチ、しかもたまーに精霊がふよふよやって来てそれと喋ったりすれば虚空に向かって話しかける幼女のいっちょ上がりである
怪しさ満点すぎてこの広い家のお手伝いさんがドンる引きしていたのを私は見た。
だからこそ、小学校に上がるまでに、自力で偽装する術を見つけるのだ!とこころにきめている。
___コンコン、スゥー
「お嬢様、朝ごはんの準備が出来ております、お父様もお母様もお揃いです。」
「はぁい、わかりましたぁー」
誰お前、とか思っちゃダメです、泣きますよ?
2歳児が流暢に会話ができる?そんなのいたらむしろホラーだよ←コイツ
そして今スライド式のドアを開けて呼びに来たのは警備の波崎さんである。なぜ警備か?うちは警備会社である。お手伝いさんもいることはいるけれど、専属で雇っている訳では無いので、朝起こしに来るのは警備の人なのだ。
___コンコン、スゥー
「奥様、社長、お連れしました。では失礼します」
「ああ、ありがとう。夕、おはよう」
「おかーさま、おとーさま、おはようございます!」
「おはよう、夕」
食卓に少しだけ苦労して着く
「揃ったから食べようか」
「そうね」
「はーい」
「「「いただきます」」」
ということで朝食をいただく。出来立ては美味しいですね、しかもオカズがチーハンじゃないっすか、うまうま。
「ところで、確か今日は午後から夕は長距離訓練だったろう?」
「そうですよ、この前体力は問題ないとお墨付きをもらいましたから、今日は歩くだけですけど」
おっふぅ、
そう、稽古とはこの事である。最初は体力づくりに始まり、短距離走をやって走る訓練をしていたのだ。つらいけれど、外に出るとなると、一応私はいい所のお嬢さんであるからして、そういう悪意から逃げる力をつけるように、という方針(母)の元、私の体もなかなか性能が良いのかついて行っているけれど、ただただ走ったり歩いたりという行程が面倒くささ全開にさせていた。
「確か初回だから1.5kmだといっていたね」
「だんだん伸ばしていくそうだから、あなたがデスクワークばかりだとついていけなくなるわよ」
「なん...だと...?」
コントかよ、と思った私は悪くない
毎回最終的に弄られるのは父である所から夫婦関係がわかる。
夫婦仲はいいけれど、基本父は母の尻に敷かれているポジションは変わらない。警備会社も、デスクワークは父、指導に当たるのは母である。物理も母が強いとはこれ如何に。
食事が終わったら習いごとの時間だ。お茶と、何故かパソコンの操作を習っている。この後はといえば、例の稽古があるまで自由に遊んでよし
なので私は庭に出て遊ぶことにした。
この家は広い。警備会社ではあるけど、一応名家というものに当たるので、作りは純和風でちょっとした庭園も付いている。警備上の問題で部屋の造りは洋風にいくつか改装してあるけど、大部分が和風な造りのままだ。私は家の裏手にある縁側に座る
「順調に、暗躍少女への道を進んでいる......」
今更だけど、ホンットーに今更だけど、私には前世の記憶がまんま残っている。そしてこの世界が乙女ゲームを模した世界だというのもあらかた検討が付いている。ヒロインの死ぬエンドが無かったから、ぬるゲーと一部の人に言われる『スピ恋』。
まさにその中の重要人物になると流石に笑えない。そのゲームの登場人物の努力を自分が実行しないと、ある才能も腐ってしまうのだから責任は重大だと思う。
そして、『スピ恋』の中での私『朝日奈 夕』は、悪役ではない。不思議ちゃん、もしくは暗躍する、謎の人物である。
どう努力しろと?
不思議ちゃんは置いといて、暗躍する、というのは私のもつ精霊の加護とは少し違う異能によって実現する。私は精霊と会話も出来るし、姿も見える。これは異能の末端の能力、いわゆるLv.1の初期魔法と同じあつかいで、見える喋れるが当たり前なのだ。この『朝日奈 夕』のゲームの描写では、これ以上をやってのけていた。それを参考に一応頑張ってはいる。
しかし、習いごとにあるパソコン、これはどういう訳かゲーム内での『朝日奈 夕』は、電子機器オンチだったはずだけど、前世の『私』は趣味がネットサーフィンだったからなのか、結構楽しくプログラミングとか、パソコンへの侵入、ウィルス作成、カウンターシステムの構築とかヤバげな所まで楽しくやっている。...憧れてたCIAの職員のような動きが、現実に!と思ったら衝動が止まんねーっす。
先生もひきった笑顔で「将来が楽しみデスネ」と言ってくれたから俄然やる気も上がって絶好調だ。ぐへへへとか思ってない。
とりあえず目下課題は異能にある。
深呼吸して胸に手を当て目をつぶる。精霊と話していて判明した事によれば、それは心の形を模した〝 鍵〟らしいけど、いまいち これ!という反応が無かった頃に比べれば、今は若干ふわふわと淡い光が漏れる位には反応がある。
そこで突然_桜_という単語が浮かんだ。___漏れていた光が少し強くなった気がする
そうだ、〝 桜〟だ、忘れていた、『スピ恋』の舞台である『桜花学園』は初代白の鍵守が創設した___と公式にも載っていたじゃないか!
改めて〝 桜〟〝白の鍵守 〟という単語を強く思い描く。
にわかに強い光を放ち出すと、光が手をすり抜けた。唖然として見つめていると、光は形を変え始めた。
光りながら形を変え、模す姿はまるで剣、しかしよく見れば西洋のそれではなく、刀と呼ばれる類のもの。鏢の辺りから光が解けると、現れたのは真っ白な太刀、見る人が見れば鎌倉太刀という、2歳児には、少しばかり余るものになった。
目の前に、『さあ、取れ!』と言わんばかりにふよふよしている刀を見ながら固まった。
『どうしろと?』
切実に、取扱説明書が欲しいと思った。
やっと、ここまで...ガクッ←はえーよ