第10話:望まない接近
朝、昨夜運動したお陰で気持ちよく起きた。すっきり爽快な目覚めで、朝ごはんが美味しかった。迎えに来た幸くんとの会話も弾んで上機嫌で別れた。
だと言うのに、どうしてこうも上手くいかないのか。神は死んだ。
「...聞いていますか、朝日奈さん」
「はい、聞いてますけど」
ちっ、流してたのに気づきやがった。
目の前に立つ御仁は既に悟った人も多かろう、水瀬氏である。
曰く、水瀬氏のおばあ様のお誕生日パーティーが近々あるらしく、取り敢えず誰か知り合いでもいいから、女性同伴で来い、と課題を出されたらしい。
そこで何をトチ狂ったか、私をご指名であらせられる。
声を大にして言いたい。巻き込むな、と。
曰く、自分は女性の知り合いが少ない
曰く、そして勘違いしそうな女を連れていく趣味もない
曰く、家格もそれなりがいい
曰く、該当する知り合いが私くらいしかいなかった
......知らねーよッ!勝手にオトモダチ認定してんじゃねぇー!...おっと、口が悪かった。
だとしても嫌だ。せっかく昨日スッキリしたばっかりなのにっ、でも、でもだ。
何でももう確定事項らしい。
目ん玉飛び出るかと思った。聞き返した。3回。
そしてもう名前とか言っちゃったらしい。
そして御両親もそれなら、ということで会場の警備も、わざわざ我が家の警備会社に依頼したとか。
外堀は既に埋められていた。神はむしろ居なかった。
「...わ、分かりましたよ、い、行けばいいんですよね?行くだけですよね?」
「いえ、少しおばあ様へ挨拶と、私の学園での様子を聞きたいらしいので、当たり障りないことを適当に喋っていただきたいです。」
「...ぅげー」(小声)
「日程と、衣装については、こちらから送りますから、ご心配なく」
ンなこと当たり前だろ
「では、宜しくお願いします」
「...宜しく(不本意ですが)お願いします」
放課後、予感はしてた。
「姉様、聞きました。何でも水瀬の方とパーティーに行くとか。」
幸くんである。
「うん、らしいね」
私が行くって言い出したわけじゃないし
「...話を聞いた時はまさかと思いましたが、事実のようですね...」
不本意だけどね
「嫌そうですね、ならいいですけど。」
何がいいのよ...
「いえ、なんでもありません。警備はおじさん達なんですよね?」
みたいだよ?恥ずかしさが倍だけどね
「なら、間違いも起きませんね」
間違いってナニよ
「...取り敢えず頑張ってくださいね」
何を?小首を傾げれば重々しく口を開く
「話によると、水瀬前当主夫人は、少々厳しいお方らしいので」
「!?」
初耳すぎる!?
「まあ、大丈夫でしょうけど。」
不安しかないんだけど!?
「頑張ってくださいね」
2回言った!?プレッシャーかけないでよ!?
こうして私は不本意ながらパーティーに出席することになった。
この時私は思いもしなかった。不幸はまだ始まったばかりだということを。
この後は想像つきますかね?
次回、パーティー準備