第6話:『魔』の路地裏
時系列は、飛びます、9年ほど。
精霊とは、この世界を巡るエネルギーが、6つの属性に分かれ、なおかつ意志を持ったものである。位が上がるほどに、その意志は確固たるものとなる。
そして、『魔』とは、ヒトの負の感情によって堕ちた精霊の成れの果てであり、精霊(元同族)の力を喰らうことで力を得る。また、人を喰らうことでも力を増した。精霊単体では変質した元同族を止めることは叶わず、数を減らした。
しかし、精霊を堕としたのもヒトなら、救ったのもヒトの力だった。
皮肉にも、ヒトの感情で変質した彼ら『魔』は、ヒトの心が形をとったものの前に、呆気なく沈んだ。現在では、この心が具現化した武器を、『心象武器』と呼ぶ。
しかし、都合良く扱えるものではなく、形をとる以上、それを扱う技量が必要となる。しかし、一般人にそのような訓練が積めるか?否である。
だからこそ、逃げるというのが取れるほぼ唯一の抵抗手段であった。
しかし、逃げるとは言っても所詮は人の足。大抵は目をつけられたが最後、目をつけられたのが運の尽き。
彼女もまた、その一人だった。
side:??
その日、私の運勢は最悪だった。しかし、一番ついてなかったのは、終電間近で急いでいて、間違って路地裏に入り込んだこと。これに尽きる。
だって路地裏にさえ入らなければ『魔』に出会うことなんか無かった。
「っはッ、はッ、ぅくッ、なんでッ、こんなことにッ!」
『魔』に気づいた瞬間逃げることが出来たのは奇跡だ。未だ捕まらないのはただの偶然、限界は見えている。
《......》
振り返れば先程より近くなった『魔』と目が合う。
「ッッ!?」
ニヤ、と笑ったような気がして心臓がさらに跳ねた。獲物をただ狩る捕食者のような目だった。この場合の獲物は私だ。
限界でチカチカする視界に絶望するが、止まるわけには行かない。タダでさえない可能性を捨てるほど落ちぶれてはいないが、向こうが上手だった。
「ウソ、でしょ!?、、行き、止まり!?」
追い込まれた、誘導された、と気づくも遅い。『魔』はすぐ後ろだ。忌々しい壁に張り付き振り返れば、ソレは大口を開けて私を喰おうとしていた。咄嗟に目をつぶり、身を固くする。しかしいくら待っても痛みはやってこない。
不思議に思って目を開ければ、不自然に硬直し、徐々にその身を砂のように崩して消える『魔』。
「怪我はありませんか?」
かけられた声にビクリとするが、それがこちらを案じた声だということに気づいて声の主に目を向け、驚愕で固まった。まさかとは思ったが、自分を助けたのは、20歳にも満たない少女だったのだ。
そんな少女が、妙に手慣れて刀を扱うさまに半ば放心していると、
「大丈夫ですか?もしや頭を打ちましたか?」
「いっ、いや、大丈夫デス!」
頭はおかしくなってないはずだ。
「そうですか、しかし一応は病院へ行きましょう。『魔』に追われて気づかないうちに怪我をしているかも知れません。」
「は、はい...」
確かに疲れてはいる。目の前の少女など実は幻覚ではなかろうか?
改めてその少女を観察してみる。黒髪は後ろを一括りにし、両脇は肩につかない程度に切りそろえられている。前髪は目にかからないようにピンで留められていて、黒い目は切れ長、まつ毛が長くてうらやま...じゃなくて、顔の造作は整っている。服装は...何故かアーミーブーツを履いてTシャツにジャージとダサいけど、メリハリの効いた体で身長も女性としては高めだ。
結局、そのジャージの美少女に連れられて病院に行くと、足を捻挫していて、しばらくの安静を言い渡された他は特に何もなし。強いていえば、事情聴取に来ていた若い警察官が、何故かジャージの彼女に畏まっていたほかは、何も無かった。
彼女は結局何者だったんだろうか?
side:?? end
side:夕
いや、まさか夜の見回りしててガチで逃走中な人見つけるとは思ってなかった。『魔』はその人に夢中になってた所を後ろからグサリとやったら一発だったけど、その人明らかに社会人で私より年上なのに敬語使われた。なにゆえ?
とりあえず病院まで送ったけど、私を上から下までしっかり見ていて、動きやすさだけでジャージとTシャツを選んだことを少し後悔した。
病院へ着いた後、事情聴取に来た警官は、父さんの警備会社で幹部をしている人の、確か弟さん?だった。スムーズに済んで良かったよ。
しっかり私がいた事の口止めはした。それはもうしっかりと。よって、私が徘徊していた事実は葬った。万事解決だね☆
さあ帰ってひと眠りすんべー
___朝比奈 夕 15歳、花も恥じらう乙女(笑)は、逞しく(無駄に)元気に(無駄に)過ごしていた。
次回、高等部編、始動?するかも