いつかの日
白い、空間があった。距離感が狂いそうな広い、白い空間
そこには、たくさんの『扉』があった。和風の門扉、どこかの洋城の門扉、玄関の扉、部屋の扉、草の絡まった扉、多種多様な『扉』。
その扉たちの間を行く人影がある。
___コツリ、コツリ、
編み上げブーツのヒールが、白い地面に当たって音がする。
___コツリ、コツリ、
音は、ある扉の前で止まる。
はあ、と息をゆっくりと吐くや、両開きの扉に手をかける。
___キィィーー
僅かなこすれる音と共に全開に開いた扉、その向こうは、穏やかな草原。
サクリ、と踏み出した足は柔らかい草の感覚をつたえる。
___パタリと背後で扉が閉まる。
ふわりと吹いた風が、草原に堂々と鎮座する見上げるほどのしだれ桜の枝を揺らした。見上げれば、かなり近くにあった桜の枝の隙間からキラキラと光が漏れる。
その根本に座り、目を細めて頬を撫でる風を感じているとどこからか、チリ...チリ...と音が聞こえた。
___チリチリ......チリン
「__ああ、久しぶり、...うん...そう。」
___チリチリ...リンリリ
「ごめんね、新しい一族の者が誕生したから、挨拶を、と言って聞かなかったんだ。近いうち、また呼ばれるからまた暫く来れない。安心して、すぐ来れるようになるから。」
___リリ...チリチリ...リン...
「うん。また来れるよ、大丈夫、君を忘れたりしないから。じゃあ、また。」
___チリンチリン...___
すう、と薄暗くなった周囲に、苦笑を滲ませ立ち上がると、草の間からおぼろげな光が無数に立ちのぼる。その一つ一つから、嬉しい、楽しいなどの声が聞こえ、戯れるようにあたりを飛び始めた。
「見送ってくれるの?ふふ、ありがとう」
___...チリ...チリ
「うん、次はお土産を持ってこよう。君も気に入ると思うから。」
そう言うとスッと手を持ち上げ何も無い空間に触れる。途端に水面のような波紋が広がり、扉が滲むように現れる。開いた扉は静かに閉じると、端から光の粒になって消えた
___リン...リン...また...来て...ね...渡りの...守...___
僅かに聞こえた声は少し、嬉しそうだった_