第6話 座学
投稿遅れました。
これから不定期更新になって行きますが、よろしくお願いします
今日は座学だ。
けど座学ってなんだ?
座るのを学ぶって座禅なのか?別に学ばなくても出来るし、やる意味ないだろ。
明がそんなことを考えている間に、今日も兵士が呼び出しにきて、城の離れにある聖堂にきた。城が石の灰色がベースなのに対し、聖堂は白い壁にカラフルなステンドグラスが付いている。流石に十字架やガーゴイルまでは付いていないが、どことなくカトリックを思い浮かべるような大きな聖堂だった。
「うへぇ、もしかして座学ってキリスト教を学ぶのか?」
「座学は座って学ぶって印象があるからな、もしかしたら明の言う通りかもな。」
聖堂の中に入って適当な席に座りながら、ふとこぼすと、すかさず隣に来た零が応えてくれた。
「その口ぶりだと、零は違うやつだと思ってんのか?」
「そうだな。俺たちは戦争の為に呼び出された人間だし、まだマナーやこの世界の常識も教えられずに訓練を初めさせられた。ということは、ここで教えられるのは常識、特に戦闘寄りの内容になるんじゃないかな。」
「ならなんで教会なんかに──」
「2人とも難しい顔してどうしたの?」
後ろから声が降ってきた。振り向くと、ちょうど陽子が咲と一緒にきて席に座ったところだった。
「いや、座学って何すんのかなって。零が言うにはこれから常識を教えられるってことだけど、それならなんで教会に来たんだろって。」
「確かに変だねー。教会にしかないものとかあるのかなー?」
「恐らく、教会にしかないものというより、教会でしか学ぶ事が出来ないんじゃないでしょうか?」
「へっ?咲ちゃんどういうこと?」
「ここの城や教会を見ると、どことなく中世を思い浮かべるような場所ですよね。確か中世って勉強といえば教会ってなってたはずなんですよ。」
「あぁ、なるほど、まさにヨーロッパ版寺子屋か」
「言い得て妙ですね」
「なぁ、陽子、何言ってるか分かるか?」
「明くんには分かんないよねー、きっと教会は凄いってことだよ!」
「いや、流石にそれはちげぇだろ」
咲と零が知的な話を始めるなかで、頭の出来が普通な俺と陽子はよく分からん。完全に置いてけぼりだ。
「静粛に、今から座学を開始します。私はこの教会の司祭を勤める、フェルドナンド・ロール・フェルグランドです。」
黒服に身を包んだふくよかな中年男性が見た目通りの暖かく、よく通る声で自己紹介をした。
「今日、皆さんに学んでもらう内容はこの世界の常識、特に研究が進んでいる魔物や聖霊と対比して考えることによって我々とは何なのかを理解して頂きましょう。」
「うわぁ、なんかすげぇ難しそうだな。」
「激しく同意するわ。」
「まぁ、人間が何なのかは後回しでいいと思うぞ」
「そうね。人間どうこうは建前で、要は魔物と対抗する知識を付けさせたいってことよ。」
「「零と咲は凄いな(ね)!」」
明と陽子はもはや投げやりに零と咲を賞賛するしかなかった。
「まず、魔物とそう出ないものとの違いについて御説明しましょう。大まかな分け方として、魔物は肉体と魔石を持ち、聖霊は肉体も魔石も持たず、人間やその他の動物はその中間、肉体のみをもつというのが通説であります。ここまではよろしいですか?」
「はい!魔石のみを持つ生物は居ますか!」
目立ちたがり屋の陽子が素早く立ち上がって、小学生並の元気の良さで質問する。決して褒め言葉ではないけども。
「とてもよい質問ですね。基本的にそのような生物はいません。魔石だけでは普通は動けませんからね。けれども、スライム種だけはその限りではありません。一見すると魔石がないように見えますが、動物とは違い、魔法で生命維持をしており、動物ではありません。ですが物理的な感触があるため聖霊でもない。それらを踏まえると『体全体が魔石である魔物』というふうに定義されております。私もこの定義には疑問を覚えますけどね。物理攻撃が効かないので初心者ハンターだとか、強い個体に囲まれるとなると前衛だけのパーティなどでは簡単に押しつぶされますね。アッハッハ」
何が『アッハッハ』だよ!異世界ジョーク分かんねぇぇ!
つーかなんだよ、スライムって雑魚じゃねぇのかよ。スライム怖い、異世界怖い。
帰ってオフトゥンで眠りてぇぇ。
「は、はい、、、」
質問した陽子はけむに撒かれたような。なんとも言えない返事をしてそのまま着席した。たが、急に俺の肩を叩いてきたから振り向くと。
「いい質問したよ!!」
渾身のドヤ顔である。こいつウゼェ。
「これは後で説明するつもりでしたが、今いってしまいましょう。生物には様々な弱点があります。基本的に、人間は心臓や脳が弱点であり、そこにダメージを負うと回復魔法では治せず、即死となります。魔物はアンデット種、スライム種を除いて脳と心臓、魔石が弱点です。アンデット種は魔石に加えて光魔法での浄化が弱点ですね。では、スライム種は何が弱点だと思いますか?それでは、さっきの子の前、君はどう思う?」
「えっ、俺ですか!?えぇーと、全身が魔石で出来てるならとりあえず切りつける?」
さっきの陽子には負けたくはない。けど必死に考えてみて出たのはその程度の答えだった。
「素晴らしい!まさに私が求めていた通りの回答だ!」
まじで?俺やれば出来る?
「ただし、それでは不正解だ。スライム種は全身が魔石ではありますが、基本的に不定形で真っ二つに切られても2体のスライムとなるだけなのです。その方法だと囲まれて死んでしまいますね。アッハッハ!」
「「「「ブハハハハハ!」」」」
あんの野郎!
人が失敗したって時に上げて落とすとか外道かよ。周りの奴らも笑いすぎだろ。
チックショー、あいつらも分からなかっただろ絶対。
くっそ、後ろからめっちゃ視線を感じる。
恐る恐る後ろを振り向くと。
「凄いね!先生に褒められるなんて!」
目をキラキラと輝かせて俺を見る咲だった。
うーん、なんかこいつが可愛く思えてきた。さっきはウザイと思ってごめんな。馬鹿は馬鹿でもいい馬鹿だよ、おまえは。
「正解は魔法攻撃です。スライム種の中には周囲の鉱物を取り込んで、ストーンスライムやアイアンスライム、ごく稀にアダマンタイトスライムなどが居てひたすら硬いですが、そもそもスライム種に物理攻撃をする冒険者は居ませんので、魔法で倒されて上質の素材となります。他にも、少ないですがミスリルスライム、ダークゴールドスライムそれと、オリハルコンスライムなどもいる。それらの鉱石は魔力をよく通すため防具にすれば魔法耐性として素晴らしいのだが、スライムの場合は全身に魔法が通りやすいために、さらに魔法に弱くなりますね。」
なにそのマヌケスライム。
やっぱスライムって最弱種だよな。魔法使える人が1人でも居れば楽勝なモンスターなんだな。
「なるほど、雷に対して車の中に入るようなものなのですね。。。」
咲は何かボソボソ言っている
「次に、聖霊は実態がなく、魔法や魔力のこもった武器で攻撃するしかありませんが、急所はありません。それどころか、魔法で攻撃し続けて消滅させたつもりでも、何年も時間をかければいつの間にか復活してきます。有名どころの話では、過去にあった魔導大国が土地開発の為にデーモン種に大量大規模魔法を駆使して倒したところ、約500年後に同デーモンがその国にやって来てその国を一夜にして滅ぼしたと言われています。それと、敵対することはあまりないとは思いますが、ドラゴン種だけは特別です。彼らは肉体と退化した魔石を持ち、心臓や脳を傷付けられても、魔力が持つ限り再生し、逆に魔石を潰されても魔力と再生能力が弱まるだけで即死はしません。時間が経てば魔石も回復します。出会ったらまずは逃げることを考えなさい。」
ヤベェ、何そのチートモンスター。デーモン種強すぎだろ。いや、聖霊って言ったからにはデーモン種だけじゃねぇってことだし、ドラゴン種も聖霊ほどじゃねぇけど立派なチートだ。
ヤベェ、やっぱ異世界こえぇ。スライムが雑魚だと安心した瞬間にこれだよ。
すんげぇ帰りたくなってきた。暖かいオフトゥンが恋しい。
その後、警戒しながら話を聞いていたが、ゴブリン種、オーク種、ウルフ種、魔虫種…etc、など、案外普通な者ばかりだった。
キーンコーンカーンコーン
「あれ?なんでチャイム?」
「気にしたら負けなやつだ。」
「でも協会にチャイムはないでしょ。」
「だから気にしちゃ負けなんだって。」
「「あっはい...」」
「面白い授業だったね!明くん!」
「そうだな。俺はスライムやドラゴンの恐ろしさを知った。」
なんだかんだでここまで集中して授業を聞いたのは初めてかもしれない。俺と咲に授業を聞かせるとは、、、あやつめ、やりおる。
「魔力とは電流と似たような性質をもつ者なのでしょうか?」
「あー、確かにそうだな。けど、様々な属性を帯びる事が出来るだとか肉体の回復を早めるだとか、地球にはない性質をだよな。」
「そうよね。確かに謎だわ。」
天才ども(咲&零)がなんか言ってるがさっぱり分からん。
その後は昼食の時も、午後からの休憩時間も、零と咲はずっと意見を交わして、俺と陽子は他愛もない話を続けて。頭の出来の良さを感じる1日が終わった。