第4話:零の覚醒
「これから訓練予定の説明を行う。これから半年の間は探索者としての基礎的な技能である、剣術、魔術、座学を学んでもらう。その後、更に半年かけて各々の適正に応じた専門的な技能を磨いてもらう。そして、これからは剣術、魔術、座学の順で、それぞれ1日かけて学んでもらう。では、今日は剣術の訓練を行うので各々武器、防具を持ち整列しろ!」
そうして兵士達から支給されたのは木刀と皮の小手、胸当て、膝当てだった。
「では今から1:1の試合を始めてもらう!自分が考える戦い方を考えて戦ってくれ!それを見て私たちが指導する!まずはそこのお前と、、、そこのお前!出ろ!」
そして迷いなく選ばれたのは零で、その隣にいた明もついでのように選ばれた。
「手加減してくれよ?」
「零の方こそ、チートなんだから手加減してくれよ」
2人は木刀を構える。
「では...始め!」
先に動き出したのは明だった。
零は反撃に動き出そうとするが、明は予想以上に早く防ぐのがギリギリだった。
カンッ!
すぐさま零はその木刀を跳ね除けて、後ろに飛び退いた。
「明、やるじゃん。」
「零も流石の反応だな。」
お互いを褒めあったあと、今度は先に零が動き出す。
横に立ち回り腹に木刀を打とうとする。
すると、明も後ろにバックステップをして回避する。
「やっぱ互角か。」
「みたいだな。」
すると間を崩すように明が動いた。
零は少し油断した所に早さのみを考えた一撃。流石に零も避けきれず。
ビシッ!
軽い一撃が零の肩を打つ
「勝者、相模 明!」
「っ、本気で来ただろ」
「零のチートに勝つには躊躇なくやるしかないのだよ」
明が得意げに言ってくる。
「チクショー!次は勝つ!もう一回だ!」
「黒崎 零!お前は構えに隙があるもっと脇を締め重心を低く構えるのを意識しないと再び泥を被るぞ」
「分かりました。気をつけます。」
「両者構えろ!…始め!」
カンッ!カンカンカンッ!
今度の明は最初から連撃を加えてきた。右から首筋を狙ってきたかと思えば次は左から脇腹を突いてくる。辛うじて対応はしているが反撃がしづらいように絶え間なく狙ってくる。
「くそっ、さっきは手を抜いてやがったな!」
「はははっ勝てばよかろうなのだ!」
なんとか距離を取って仕切り直さないと、このままじゃ押し切られる!
「くっ、!『聖光斬』!」
明からの袈裟懸けに振り下ろされたのを弾いてダメ元でスキルを叫ぶと木刀が光を発して、そのまま袈裟懸けに切り返す。
「っ!」
弾かれて体勢を崩した明は体を起こさぬまま半歩足をずらして躱す。
「「隙あり!!」」
無茶な体勢から明の木刀が零の脇下へスローモーションで近づいてくる。だが零もつんのめったような体勢で切り返す。
(くっ、切り返しが間に合わない、後ちょっと、ちょっとでも早かったら、、、!)
零は負けを覚悟しつつも明に一糸報おうと顔を歪めるほど願う。
バシッ!(
「ぐぁっ!」
しかし声を上げて倒れたのは明の方だった。
一瞬の沈黙が流れる。
「今、零の木刀ブレなかったか?」
「てか、あの体勢からの一撃で明が倒れたぞ?」
徐々にざわめきが起こる。
「しょ、勝者 黒崎 零!」
驚愕から立ち直った兵士がようやく宣言する。
「嘘だろ...?今のはなんだ?」
「...俺今何をした?」
「...零すげぇ!」
「何?ねぇねぇ!今何したの?!」
「いや、特に何も...」
「それであれってすげぇな!」
零が生徒の中に戻ると興奮したクラスメイト達が問いかけてくる。
「黒崎 零!相模 明!付いてこい!引き継ぎの者の言うことを聞き訓練を続けよ!」
審判をしていた兵士に呼ばれた零と明はそのまま連れていかれた。
「全員2人1組となりさっきのように模擬戦を行なえ!」
背中の方からそう号令が聞こえてくる。
「お前ら、、さっきの試合は少しやりすぎだ」
城に入るなり突然振り返り言われた。
「まずは相模、お前は魔力を使って戦ってただろ。当たる瞬間だけは解除していたみたいだがあくまでこれは剣術の訓練だ。魔力の使用はひとまず禁じる。そして無理な体勢での戦闘も避けるようにしろ。」
「...わかりました。」
「そもそも、お前は魔力制御や身体強化系のスキルはなかったはずだが?」
「今朝起きた時から変な感覚があったのと、戦闘の途中から力が漲って来たような、、、それかもしれません。」
「ほう、、、まぁいい。次に黒崎、スキルを制御の訓練もなしに使うのは危険だ。さっきの一撃が明に当たっていれば木刀であってもどうなるかは容易に想像がつくだろ。」
「はい、すみません、、、」
「それだけならまだいいが、最後の一撃はなんのスキルだ?」
「え、いや、俺にも何が何だか、、、」
「ったく、お前らはまずは自分の能力をしっかり理解し、制御して、それが出来てから行動しろ!」
「「はい、、、分かりました。」」
「それから、今日の行動で体に異変があるかもしれん。2人とも自室で待機、異常があれば外にいる兵士に報告しろ。いいな?」
「「分かりました。」」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「明、お前ちょっとやりすぎだっただろあれ!最初は手を抜いておくとかひでぇぞ!」
部屋に帰るなりすぐに明に問いただす。
「悪い悪い、けど、手を抜いてた訳じゃないんだぞ?1戦目の途中から出来るようになっただけで。とゆーか、そっちこそ最後のアレなんだよ!まさにチートじゃねぇか!どんなスキルなんだ?」
飄々と答えた明は、逆にキラキラした目で質問してきた。
「俺の方も良く分かんないんだよ。ただ明の木刀が届きそうになって、それより先に当てようと必死になったら、、出来た?」
「なんだよそれ、あー、分かんねぇー。チクショー、勝てると思ったのになぁー。」
そのまま明は愚痴をひたすらこぼすだけの機械になっていた。
その後、昼前までダラダラしていると。部屋に昼食が運ばれてきた。
トレーの上には固くて黒いツブツブが入っているパン、薄味のスープ、アスパラの添えてあるステーキだった。
「このパン固いんだが、食いもんなのか?零にやるよ。」
「要らね。それはたぶんスープに浸して食べるパンだと思うよ。ヨーロッパとかではそうだった気がする。」
「あー、なるほど、異世界間初のカルチャーショックだな。」
「明は結構余裕そうだな」
退屈しのぎに無駄口を叩きながら食べ、昨日寝れなかった分昼寝をした。