その3
あれから現在までの1月で色々な事が分かった。2回目の出来事は1週間程経った辺りだった。
自分は実験のつもりでコンプレックスの一部だった目を選んだ。今の自分の開いてるのか閉じているかよくわからない小さくて細い目を大きく、人受けの良さそうな目に変えて見た。案の定、夢から覚め鏡の中の自分を見ると、明るそうな雰囲気の男が自分を見つめていた。根暗そうな自分は控えめに言っても人が寄り付くかどうか怪しいような見た目をしていたが、身長と目を弄ると心なしか人から声をかけられる事も出てきた。そして自分は自分から変わって行く様を楽しむようになり始めた。タバコや酒のような中毒性、もっと言えば薬物の依存性のような感覚に近いのかもしれない。
例の場所に行き着く方法は願いながら眠るだけの簡単な作業だった。そうすれば夢の中ではすぐにあの自販機の前にいた。
見た目の変化については上書きされるのではなく、時間を経て変化し完成した状態として認識されるようだ。例えるならば錆びついた銀を長い時間かけて擦り続けると元の光沢が現れると言った所か。教授が16センチも伸びた自分を何とも思わなかったのはそう言う事なのかもしれない。しかし、その銀も擦り続ければ磨り減って行く事を忘れてはいけない。
そして自分は現在、過去の自分とは比べ物にならない程変わっていた。
顔のパーツや肌質、色味、筋肉、骨格、頭脳、魅力、悪いと思った物は全て取り替えた。その結果誰もが眺め、人を惹きつける魅力を持ち、話す物は悪い印象を持たないであろう好青年が完成した。女性で言うところの才色兼備とも言える姿だった。その造形物の中にもかつての自分が気に入っていた部分は残していた。卑屈で捻くれた性格だけは自分のアイデンティティだと思っているからだ。そして自分の全てが跡形も無く変わってしまうのは何となく嫌だったからだ。
かつては寄り付きもしなかった大学の生徒も今では積極的に話しかけてくるようになった。今までは女性から声をかけられる事もなかったが、今では当たり前の事になりつつある。見た目が変わるだけでこうも周りの目も変わるのかと思うと清々しさと気持ちの悪さを覚えた。故に人との関わりを持ちたいとは思わなかった。飽くまでスタンスは今までと変わらなかった。変えたいとも思わなかった。