その2
天井から枕元の時計に視線を向けると時刻は11時を告げる所だった。別に行きたくも無い大学へ向かわなければいけない用事があったが、冷静になって見れば出発予定の時刻まで後2分と言う所だ。冷静な頭で考えている暇もない。そんな暇があるなら飛び起きて支度をしなければならない。普通ならばそんな所だが
電車には間に合うわけもなく、教授との面会予定時刻にも間に合うわけもなかった。しかし急いでるふりをしておかなければいけないので教授の部屋の前の廊下は全力で走り、ドアを開け、形ばかりの謝罪を述べるシュミレーションの通りに教授室へ入る。しかしシュミレーション通りには行かなかった。ドアを通り抜ける際に頭を強打してしまった。頭を強打するシュミレーションまではしていなかった。そして昨夜の夢が頭の中でフラッシュバックする。「身長+16cm」のボタンを押した所で映像が停止する。そして教授の声で現実に引き戻される。
「30分近くも人を待たせておきながら来たと思ったらすぐに私の元に来る訳でもなく、扉を眺めているようだがその扉に何か興味を惹かれるものでもあったのか?」
「いや、すみませんでした。遅刻したばかりに教授のお怒りが建物にも伝わっているようでして、今しがた殴られた所です。」
「そうか。だが今殴ったのは私では無い、この建物だ。出来れば私も殴っておきたいところだがそんな事が通じない世の中なのは分かっている。変わりとして君の論文に目を通さないと言う手を取らせてもらってもよろしいかな?」
「いやぁ、それは中々効果的且つ最も打撃的ですね。」
「減らず口を叩き終えたらでいいんだが、早めに論文を出してもらえないだろうか。空腹時にはどうも苛立ちやす性分でね、前の生徒が長引いた挙句に食事も取れていないのだよ。早めに終わらせたいぐらいなんだがそうする事も出来ないのでね。」
「食事しながらでも僕は構いませんよ。丁度今叩き終えた所です。お願いします。」
それ以降の教授の話は殆ど頭に入って来なかった。頭の強打がどうも引っかかる。床と顔を合わせて見ても距離感を感じられる。目線は心なしか高くなっているようにも感じられる。
あの自販機は望む物を買う事が出来る自販機なのか。面白い。