その1
それは一月程前の話だっただろうか。ある夢の中の話だ。
その時自分は急激な喉の渇きに耐え切れず、飲料を買いに近くの自販機まで歩いていた。
自販機の元へ歩きながら今までは味わったことのないある種の気持ち悪さを感じていた。見慣れた風景の中に見慣れた自販機が並んでいるだけだがこの違和感は何だろうか、そんなことを考えながら近付くと違和感の正体が分かったような気がする。何気なく感じた「自販機が並んでいるだけ」、そこが決定的に違っていた。普段は一台しかないはずの自販機が数十台ほど並んでいる。しかし商品やメーカーの数が増えれば選択肢が増える程度の考えでその違和感を払拭した。
何気なく財布を取り出し、商品のラインナップを眺める。つい今しがた払拭した違和感が舞い戻る。
目の前の自販機のラインナップの中には飲料が取り扱われていないようだ。たまに目にする食料を取り扱う類の自販機でもない。眠いのだろうか。目を擦って見ても何も変わらない。目、耳、鼻、口、肌、顔のパーツが並んでいる。隣、また隣と自販機を確認していく。体のパーツや性格などよく分からないものが顔を揃えている。全て価格設定などの表記はされていないが、それが書いてあるべき場所には代りとして「1」、「2」、「3」などの数字が表記されている。そして硬貨や紙幣の投入口は無い。
一体どう言う意味なのか見当が付かないが、数十分程品定めした所で興味本位で「身長+16cm」と言うボタンを押した。いかんせん自分の身長にコンプレックスを抱えていた自分は180cm越えと言う身長に憧れていた。どうも自分の周りにいる人間は身長と言うものに恵まれていたようで、170後半以上の面子が揃っていた。その中で生活をしていると尚更ネガティヴな部分が浮き彫りになっていた。逆に他の部位にコンプレックスが無かったわけでは無いが。
そんなこんなでとても魅力的且つ興味を惹きつけられる身長と言う商品を選択して見たが、商品が出てくるわけでもなく、身に感じられる変化もなかった。
意地の悪い悪戯に弄ばれたもんだと諦める頃には喉の乾きも潤っていた。帰路に着くとしよう。そう考えると意識は大分クリアになった。