私の主は悪役令嬢らしいが、とても良い人なのでそんなことはないと思う。
主様大好きな侍女のお話です
「お願いします、ルディー様…これ以上、彼を傷つけないで差し上げて」
夕日が綺麗に見える教室で、ピンクブロンドの髪を揺らし、可愛らしい少女が立ち向かう…様に周りからは見えるのだろうか。
今、教室には3人しかいない。先ほど言葉を発したマーラ·ガイヤ男爵令嬢と、彼女に話しかけられたルディー·マシュア伯爵令嬢、そして…
『失礼ですが、ルディー様の何を知っているのですか?』
ルディー様の召し使いであるリーデ。…つまり私である。
「リーデ、やめなさい」
『…申し訳ありません』
むっ、叱られてしまった。それは反省するが…どうもこのご令嬢は苦手だ。
彼女が言う"彼"とはルディー様の婚約者であるフランツ第一王子の事であろう。言わせてもらうなら、今もルディー様の瞳を見つめて返事を待つ彼女が持ち合わせているのは"勇敢さ"なんてものではなく、身分を弁えない"無礼さ"だろう。主にこんな態度を取られた身としては憤りを感じる。
少し、ここまでの成り行きとマーラ·ガイヤ、そして私の主であるルディー·マシュア様について話そう。
まずは私の大切な主、ルディー様。長く綺麗な黒い髪に、大きな紫色の瞳が特徴の美しいお方だ。マシュア伯爵家の一人娘で、心優しくて誰にでも気を使えるまさに王妃に相応しいお方。第一王子·フランツ様と婚約をしており楽しそうにお話をしたりしている。仲は順調のようだ。
そしてルディー様は私の命の恩人と言っても過言ではない。私は孤児院の生まれで、育っても就職先が見つからずに追い出された時に優しく手を差しのべて下さった方だ。大変、感謝している。
次にマーラ·ガイヤ。元は庶子で平民の子だったが、訳ありで男爵家に引き取られたようだ。私やルディー様、そしてフランツ王子も通っている王立学園につい2ヶ月前転入してきた。ピンクブロンドのふわふわな髪に、綺麗な黄色い瞳。…私は良くわからないが、庇護欲がわくらしい。
そして、ルディー様にやたら構ってくる。今まで彼女が言っていた不思議な発言をいくつかあげよう。
"フランツ様にしつこく構わないで、彼を解放してあげて!"だとか、"まるで悪役みたいだって気づかないの!?"と叫んだり。あなたこそ気づいて下さい、随分と妄想癖があるようで?
彼女はとにかく現実を見ない。
ルディー様がいつ、フランツ王子にしつこく構ったりした?昼食をよく一緒に食べるだけじゃないか。私は後ろから見ているが、とても微笑ましいだけだ。悪役っぽいことなんてしてないし、ルディー様は言ってすらない。
つまり、この状況はまたマーラ嬢が妄想癖を発揮しているだけなのだ。イライラするが、おとなしくルディー様の後ろで静かに待っておこう。
「マーラ様。私はフランツ様を縛り付けたりなど、しておりませんわ」
「嘘です。…ルディー様は気づいてないのです。あなたの後ろにいる侍女だって!!そうでしょ!?」
「…リーデがなにか?」
おおう、私が急に話題に出された。驚いていれば、近くまでマーラ嬢が来ていた。
『な、なにかご用でしょうか?』
「リーデさん。私なら、あなたとこんな関係は築かない。リーデさんだって友達が欲しいはずよ!」
『は、はい?』
…このご令嬢は何を言い出すんだ。私に友達がいないみたいに言うんじゃない!私の手を両手で包み、ね?と首を傾げる。
『そのようなことは……』
「ルディー様に縛られているのよ、あなたは。もっと自由の権利が本当はあるのに…」
ああ、可哀想…と涙流しながらマーラ嬢が私に抱きつく。…まてまてまて。どうした一体。
最初のように強気に出ようとした時だった。
「……リーデを、私が…」
『ルディー様?』
「私が、自由を……」
呆然としたように、ルディー様が私と私に抱きつくマーラ嬢を見つめる。
『ルディー様、そのようなことは決してありません!』
「でも…」
『私のお命はルディー様の物です!』
「ダメよ、そんなこと言っちゃ!!」
マーラ嬢、お願いだから参戦してこないで!?ややこしくなるでしょうが!
「リーデさん!本当のことを言って!!」
「リーデ………そうなの?」
鬼のように迫ってくるマーラ嬢と悲しそうに眉を下げるルディー様。
私に言えるのは…一つだけ。
『わ、私の大切な主様をバカにするなぁぁぁぁぁ!!』
薄汚い私に手を差しのべて下さったルディー様。姉妹みたいね、と言って"リーデ"という名前を下さったルディー様。いつも笑っているルディー様。
『あなたがルディー様の何を知っているんだ!!!』
私のバカデカい声に驚いたのか、マーラ嬢がきゃっ!?と声をあげる。
「リーデ………」
ルディー様はじっと私を見つめてる。私の気持ちは、伝わっただろうか?
「…なんで?リーデはサポートキャラのはずなのに…なんでルディー·マシュアの味方なんか………」
「リーデ!…………ルディー!!」
『…やあっと来た』
ふう、とため息をつきながら座り込む。ブツブツ言ってるマーラ嬢、怖いですよ。
「大丈夫か、ルディー!?」
「え、ええ。それより……なぜ、フランツ様がここに?」
動揺しているルディー様の頬に触れて心配そうに窺うのは…紛れもない、フランツ王子で。
「リーデの声が中庭まで聞こえてきたんだ。…何があった?」
『…そちらのご令嬢にお聞きください』
そう言ってマーラ嬢を横目で見れば、フランツ王子がめんどくさそうに顔を歪めた。
「………わかった。リーデ、ルディーを頼む」
『言われなくとも!』
「それは立ち上がってから言え」
『…ハイ』
よっこらせ、と立ち上がってから私はルディー様に近寄る。ルディー様は状況を飲み込めてないようだ。
『ゆっくりでいいですよ、ルディー様』
「リー、デ…………私が、嫌いじゃないの?」
『そんな訳、ありませんよ』
まったくマーラ嬢め…ルディー様はか弱いから人からの影響を受けやすいから傷つけないで欲しい。
『たとえ、私は殺されそうになっても遺言は絶対に!…ルディー様に宛てたことにしますからね』
そう言って微笑めば、ルディー様は涙を流す。…今まで、ずっとマーラ嬢に言い掛かりをつけられていたから心身共に限界なのだろう。
『ルディー様、私に色々なことを教えて下さってありがとうございます。…ずっと、ずっとお守りします』
私は、これからも…ルディー様がフランツ王子と結婚してもついていくのだろう。
楽しんで頂けたでしょうか?