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夏の芽には太陽

作者: 花迫 奈緒

改行などの仕方がわからず、読み辛い点がありますがご了承ください。

初めて書いた第1作です(^◇^;)

  まだ衣替えには早い九月の半ば、ぼくは汗を流しながら坂を上がる。

  ぼくの通う私立坂上学園は名前のごとく坂の上に位置している。創設者が坂上さんということではないらしい。立地条件から名前を考えとか…。安易である。

  「はぁ〜」

  月曜日の朝からため息をつくのは一体何回めなのだろう。

  「太陽、朝からため息なんかよくないよ」

  肩を叩かれうしろを振り返る。

  そこにはポニーテールのよく似合う少女がいた。

  小麦色に焼けた肌は野球部のマネージャーだったからだろうか。明るい声のトーンから活発な印象を与えてくれる。ぼくはこの声になんど励まされたことだろうか。

  右手にしている派手なピンクのシュシュの下にはボールのあざが痛々しく残っている。

  ぼくはこの傷を見ると申し訳ない気持ちになる。



最後の甲子園予選の前日の練習のことだ。

真夏の日差しは坊主頭に容赦なく降り注ぐ。一年生の何人かはダウンしてしまったようだ。

マネージャーの夏の芽は一年生のケアをしながらノックの補助の準備をしている。よく働いてくれるなと思いながら彼女の姿を眺めていた。

「お前、夏の芽のこと見すぎだから!」

キャッチャーミットで頭を殴られた。ゴツゴツとした顔に真っ黒に焼けた肌。ぼくより頭一つ分大きい男には貫禄という言葉が板についてきた感じがする。

その男、大堂は我がチームの主将である。

「痛えよ、てか、見てねえし」

いや、見ていたけれど、そこを認めてしまうとまた鉄槌を落とされるような気がした。

「たるんでるぞ!明日は最後の大会なんだから集中しろ」

野太い声で注意されるとこちらも、おう、としか返事をすることができない。


ぼくはライトだから守備練習の際は外野ノックを受ける。小学生から外野を守っているから肩には自信があった。そこがいけなかったと思う。

金属音とともに上がった白球は夏の青空を支配している。助走をつけてフライを捕球し、体をひねり思いっ切り投げる。

手元から離れた白球はシューと音を出して今日もボール取りのグローブに収まる……はずだった。

ライナー性の送球は、ボール渡しの夏の芽の右手に直撃した。

ーーーバチッッッーーー

グラウンドに響きわたった高い音はいたずらに選手の興味をひかせた。ぼくの人生の中でこんな嫌な音は聞いたことがなかった。

目の前が真っ暗になるということは本当にあると、この時思い知らされた。

「夏の芽!大丈夫か!!」

監督の声がぼくをこの世界に呼び戻す。

「内野はボールまわしをしとれ、マネは急いで氷を」

普段は無口な監督もこの時ばかりはキビキビしている。

ぼくは、その場に立ち尽くすことしかできなかった。世界でたった一人になった。ぼくの隣をチームメイトは走り抜けていく。大丈夫だと声をかけてくれる奴もいたが白々しいと思ってしまう。

夏の芽の腕は紫色に腫れあがっていた。もしかしたら折れているのではないだろうか…。

夏の芽は額に汗をかいていたが、明るい声で

「大丈夫だから、心配しないで、太陽が悪いわけじゃないから」と言ってくれた。



それからのことはあまり思い出したくない。

病院から帰ってきた夏の芽の右腕はギブスに包まれていた。小麦色の肌に白の三角巾はあまりに白すぎた。

夏の芽は右利きだったためスコアーをつけることができなくなった。最後の大会ではベンチに入る予定だった。しかし、怪我の状況からベンチに入ることは許されなかった。

「ヒット打ったら許してあげる」

いつもの調子で笑ってくれたことでさらに罪悪感が湧く。

ぼくは、どうしたら良いかわからなくなってしまった。謝っても、謝っても足りないのではとさえ思う。



結果から述べると、ぼくら坂上学園は三年連続一回戦負けを記した。

ぼくはヒットを打つことはできなかった。

あの大堂でさえ試合後は泣き崩れていた。

ぼくの第一声は夏の芽に対する"ごめん"という言葉。

目の前は涙が滲んでよく見えない。

「ごめんじゃないよ、ごめんじゃ…」

ポンポンと叩く夏の芽の拳を体で受け止める。

いつもの明るい夏の芽はここにはいない。

あの笑顔でさえも必死に創り出した虚勢だったのかもしれない。

「本当にごめん…」

ぼくは声を振り絞って言葉を紡ぎ出した。

夏の芽は叩くのをやめた。

すると精いっぱいの笑顔をつくり

「ごめんじゃなくて、ありがとうだよ」

そこにはいつも助けてくれた夏の芽の声があった。

こうしてぼくらの夏の大会が幕を下ろした。



学校の予鈴がぼくを呼び戻す。

時計の長針は六を指していた。授業開始まで残り五分だ。

「ほら!太陽!早く行くよ!」

夏の芽は傷ついた右手でぼくの腕を引っ張る。

またぼくは、このように感傷的になってしまうのだろう。しかし、夏の芽がまた手を引いてくれる。


「わかってるよ!」

ぼくは彼女の手を振りほどき走り出す。

夏の芽はため息をついて後ろから追いかけてくる。


九月の空にはまだ夏の名残りがある。

ぼくのキズも彼女の傷もまだ癒えはしないだろう。

桜が咲く頃にはこの話を笑って話せたら嬉しい。

風がぼくらの背中を目一杯押した九月の話。





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