8話 この先のことを考えて
遺跡の中にあった宝箱を手に入れて、町へ帰ったハルト達
「とりあえず、ルーレンのところでギャスパーから箱を出してもらうことにしない?」
「…そうだな。外だと誰かに見られるかもしれないしな」
一度ルーレンのもとへ訪ねることにした
「おかえり。成果はどうだった?」
「結構大きい宝箱見つけれたよ」
ルーレンの質問にハルトが答えた
「それはよかった。それで、その宝箱は?もう換金したのかい?」
「その事についてなんだけど、ギャスパー出てきて」
ローブのポケットからギャスパーを出す
ギャスパーは出てきて床に着地すると、最初に会った時のの大きさになる
「これは…?どういう仕掛けなんだ…?」
「…なぁ、ハルト。こいつものすごい目で俺見てきてんだけど」
「…!?しゃべった…!?」
ギャスパーがしゃべったことに驚く
「やっぱり驚くよね…。遺跡の中で出会った魔物なんだけど、付いて来てくれるようになってね。」
「ギャスパーだ。よろしくな」
「あ、あぁ、よろしく…。僕はルーレンだ」
ルーレンがギャスパーをまじまじと見ながら、つぶやいた
「それにしても…しゃべれる魔物を相手に、よく二人とも無事でいられたね」
「それどういう意味?」
「しゃべることができる魔物なんて、その辺で見かける魔物と桁違いの力を持っているから、大きな怪我もしないで帰れるのは奇跡的なことだよ」
「あー…そういえば、気絶してもすぐ起きてぴんぴんしてたから普通とは違うなと思ってたけどそこまで強かったなんて…」
「昔はそれぐらいの力は持っていたけど、今はあんまり強くないぞ、俺」
「え…?」
ギャスパーの自分はもう強くないという発言に全員視線をギャスパーに向ける
「どういうこと?」
「昔、人とか食ってたりしてたんだけど箱に封印されて、力が弱くなっちまってな」
「人を食ってた、か…」
ハルトが軽く後ずさる
「…もうお前を食ったりしねぇから」
「それでも人とか食ってたと怖いんだけど…遺跡の中の魔物の死体もあんたがやったんだろうし。
あー、思い出しただけで気分悪くなってきたー…」
「おいおい…大丈夫か?」
気分を悪くしたハルトにグレンがため息つきながらも頭をなでる
「…そこまでしなくていいから」
ハルトが撫でている手を払う
「…話を戻すぞ。封印されてから何とか閉じ込められた箱から出ようと強引に封印を破ろうとしたら失敗して、今の状態になったってわけだよ」
「…それじゃあんたは、以前は箱の中に完全に閉じ込められてたの?」
「封印破ろうとする前は本来の体で箱の中にいたんだよ」
「…それってなんだか自業自得というか。…人を食っていた時点であれだけど」
「本来はどんな姿だったんだ?」
ルーレンがギャスパーに質問する
「四足でお前らを見下ろせたぐらいの大きさっていえばいいかな」
「…そんなの相手にしてたら一体どうなってただろ」
「少なくとも無事でいられなかったかもしれないな…」
「それも昔の話だけどな」
「そんなあんたを封じ込めてるその箱っていったいなんなの…」
「少し調べてみるよ」
ルーレンが近づいて箱を調べる
「…なるほど」
「何か分かったの?」
「この箱はずいぶんと古いものだけど、もともと倉庫みたいなことができる魔道具といった感じだね。
大きいものやたくさんのものを箱の中にある空間にしまっていくようにしてね」
「じゃあ、あの宝箱を中に入れることができたのはもともとそういう機能が備わっていたからなんだ…」
「そういうことになるな」
「そんなのがついて来てくれるとかなんだかすごくない?ありがたいけれど…」
「気にすんなって、ずっとあの遺跡にいるのも退屈してたから、お前たちについていけば面白そうだなって思ってついて来てるんだし」
「いいのなら別にいいけどさ…」
ギャスパーのことについてのことはそれ以上何も言わずに、手に入れたお宝の換金をすることにした
宝箱を持って図書館から出ようとするグレンにハルトもついて行こうとした
それをルーレンが呼び止める
「ハルト、渡したいものがあるから残ってくれないか?」
「え?わかった。悪いけど俺は残るからグレンとギャスパーで行ってきて」
「わかった。宝箱の方はこっちでやっておく」
グレンとギャスパーは図書館から出ていった
「それで、何をくれるの?」
「これだよ」
ルーレンの方へ近寄ると、腕輪を手渡される
「…これは?」
「以前、身軽に動けたらって言ってたのを聞いて作ってみた物だよ。これを身に着けたまま、魔法を使うように意識を集中して動けば短い間だけど体が身軽になるよ」
「へぇ…」
渡された腕輪は、繋ぎ目の部分を強く引っ張ると開いて合わせなおすとくっつくようになっていた。早速それを腕に着けてみるが
「…腕より大きいから逆に邪魔だ」
輪が大きいせいで腕を動かすたびに動き回るので鬱陶しく感じる
「腕にあわなかったか…。後で腕に会うもので作り直すよ」
「いいって。それにこうすれば問題ないし」
そう言って腕輪を足にはめる
足に着けられた腕輪はぴったりと合っているおかげで、問題なくつけることができた
「そっか、よかった」
「早速試してみたいんだけどいい?」
「そう言うだろうと思って既に用意しているよ」
この前までやっていた特訓の時と同じように本棚の配置は囲いのようになっていた
ルーレンが魔法を使うと本棚の一つがずれて入口ができる。そこにハルトが入った
「確か、魔法を使うときみたいな感じで意識すればいいんだっけ」
言われたことを確認してから、自分の体が身軽に動けるのを意識してジャンプしてみる
軽くジャンプしたつもりだったが自分が飛んだ高さに驚く。自分の身長と同じぐらいの高さを飛んだからだ
そしてそのまま落下する。足輪で落下の衝撃を受けても平気でいられないだろうかと思いながら着地をする
床に着地した時、高く落ちたのにトン、と軽い音が立った程度だった。着地した時の衝撃は軽くそのまま立っていられた
「付けただけでこんなことができるなんて、もう少し無茶な動きしてもいけるかな」
そう言って、後方回転、俗にいうバク転をを連続でやってみる
やったことは今まで一度もないが、動作だけはうろ覚えで知っていた。
腕の振りと地面の蹴りで、後方に勢いよく跳び、ブリッジから身体の反りと手による地面の突き放しを利用して回転する。
そして、そのまままた後方に勢いよく跳ぶ。
何回もやっていると目が回ってきたが、失敗せずにできた。
「ここまで動き回れるなんてすごい…。もう一回連続バク転やろうかな…」
目が回ってきたのが落ち着いてもう一度やろうとするハルトをルーレンが止める。
「待って。そこまで動き回ったんだと、腕輪の魔力がなくなってもう効果を発揮していないと思うよ」
それを聞く前にバク転をするが、先ほどのように連続でできずに一回目から派手に頭をぶつけた
「…これにも魔力切れがあるのー。早く言ってよ…」
ハルトががっかりして、頭を押さえながらため息をつく
「魔力の無駄遣いしなければ、長く持つと思うから。これでも効果の時間を短くして長持ちできるようにしたんだから」
「あんまり頼りすぎてると痛い目見るってことが十分に分かったから」
「わかってくれたならいいよ」
「そう言えば、服を着替えるのができるアクセサリ作るって言ってたけどそっちの方はどうなってるの?」
「それだったら、懐中時計で作っているよ。でも、針を動かして特定の時刻になったら魔法が作動する仕掛けにしているんだけど、それがなかなかうまくいかなくてね…。
時計の構造が複雑だからなかなかうまく作動してくれなくてまだ時間がかかりそうでね」
「時計の構造とかそこまで難しいことやってんの?…お疲れ様。…出来上がるの一応楽しみにしてるんだから完成させてよね」
「わかったよ。出来たらすぐに渡すから」
話しているところで、グレンとギャスパーが戻ってきた
「戻ったぞ。そっちの方は終わったか?」
「ああ、うん。ちょうど今終わったところ。それじゃルーレン、俺はもう帰るから」
「また用があれば来てくれるといいよ」
「うん。それと、腕輪ありがと」
「どういたしまして」
ルーレンと別れて、ハルトはグレンたちと家に帰った
そしてその夜
「うめぇ!魔物の肉なんかよりもすげぇうめぇ!!」
グレンが作った晩飯を三人で食べていたが、ギャスパーが大声を上げながら称賛した
「それあの時の思い出して、食欲減るから黙っててくれない…?」
ハルトがため息を入れながら文句を言う
「まぁ、少しは大目に見てやれよ。これからは協力してくれるんだからな」
「グレンも最初はすごい警戒して、いろいろ言ってたでしょ。…料理褒められたから?」
「別にそういうわけじゃないからな!?」
「別に大声で反論しなくてもいいでしょー!」
しゃべりながら食事をするハルト達。食事が終わるまで騒がしいほどの声で会話した
ギャスパーが来て、グレンの家はよりにぎやかになっていった
食べ終わってから静かになって、ゆっくりしているグレンにハルトが話しかける
「そう言えば、かばってくれた時に腕噛まれたけど大丈夫?」
「…ああ、それなら大丈夫だ。大した傷じゃなかったからな」
「それならよかった…」
安心してホッとするハルトを見て、グレンが少し笑う
「何?笑ったりなんかして」
「最初に会ったときのハルトは、自分のことばかりしか考えてなくて楽ばかりしようとしていたのに、こうして心配してくれるなんてな」
「…だって、元の世界にすぐ帰りたかったし。あの時、こっちがしっかりしてなかったらグレンの腕が噛まれたりなんかしなかったのにって思ったから」
「気にするな、今回が初めての探索だったんだからうまくいかなかったのは仕方ないさ」
「…うん。助けてくれて本当にありがとう」
「いいって、礼なんて」
「一応言っておきたかったから」
「そっか」
「…話変わるんだけどさ」
「ん?」
「結局あれどれくらいになった?」
「あれ?ああ、宝箱か。あれだったら実はな…」
「じ、実は…?」
「10万も換金できたんだよ」
「そんなに!?すごいじゃん!!」
「だろう?お前がいたからこんなに手に入ることができたよ」
「そんな大したことしてないって…だって結局ビビッてそのあとやけくそに魔法使ったぐらいだし。グレン一人だったら簡単に手に入ったんじゃない?」
「そんなことはないさ。ギャスパーから宝の場所をお前が聞き出してくれたおかげでこうして持って帰ることができたんだし」
「グレンだったら聞かずにそのまま帰ってたかもね」
「ビビってたくせに言ってくれるな」
「それ、気にしてるんだから。…帰る手掛かりはまだ見つからないけどこうやってグレンとお宝を探していったら見つかるかもしれないし、
…これからも一緒に探していきたい」
「それで、帰る方法が見つかるかもしれないならおれも手伝うよ」
互いに顔を見合わせてこれからも一緒に頑張っていこう、と二人は心に決めた