6話 初めての冒険をして
図書館での特訓をしてから数日後
ハルトは戦うことにも慣れて、ある程度の体力もついてきた
「やっと戦っても疲れなくなってきた…」
「これなら、外に出ても途中で疲れて倒れることはないだろうな」
今日の特訓が終わりハルトとグレンが話す
ハルトは初めて特訓をした日からずっと、大量の魔物と戦いそこからさらに大型の魔物と戦わされるのを繰り返してきた
「全く、最初の魔物の数が徐々に増えてくるし、大型の相手する時にはそれでもうばててきてるっていうのに、でっかい狼とか大木の魔物とか強い奴呼んでくるんだから…。
今日なんかでっかい鳥で攻撃当てるの大変だったんだけど!!」
「まぁまぁ、落ち着けって…」
特訓の内容への不満を大声で叫ぶハルトにグレンが宥める
「それにしても、もう数日たってるからほかの人にお宝手に入れられてない?」
ふと思い出してグレンに尋ねる
「それについてだけど、この情報自体はだいぶ前からあって取りに行こうとした奴もたくさんいたんだけど、誰も手に入れられなかったらしい。
今じゃ諦められて、取ろうとしてる奴はいないな」
「…何で誰も手に入れられなかったんだろ」
「何でも、遺跡の中に強力な魔物がいるらしい。そいつのせいで手に入れられないって話だ」
「ふーん…。でも、大型の魔物の相手なんてもう慣れて来たし、どんなのでもやっていけると思ってるけどね」
「油断するなよ。誰も手に入れられなかったんだから、これまでと格が違うかもしれないんだからな」
「はいはい、分かったから」
会話しつつ、ローブを上に来ているハルト
戦闘時にはローブを着ていると動き回りにくいので、脱いでから戦うことにしている
「…はぁ、脱いだり着たりするの面倒くさいし魔法でどうにかならないかな」
「それぐらいは自分でしろ…。それにそんな都合のいい魔法あるわけないだろ」
「戦闘の時とかいちいち脱がなきゃいけないんだし。ないってわかっていても、やっぱり欲しいし…」
「いや、あるよ」
突然ルーレンが会話に入ってきた
「あるんだ。それでどうすればそれが使えるの?」
「それが、研究している時に作ってみたんだけど、魔導書に書かれてない魔法だから簡単には使えないんだよ」
「本に書かれていないんじゃ、魔力がない俺には無理な話じゃん…」
「そうでもないよ。魔導書みたいに魔力を宿したものを使って発動すればできるはずだよ」
「魔力を宿したもの…」
「簡単に言えばアクセサリみたいに身に着けるものでも、魔力を与えればできるはずだよ。
そうすれば今まで使ってきた魔導書のように魔法が使えるはずだよ」
「そんなのでいいのね…。でもそんなもの持ってないし…」
「こっちで用意しておくよ。出来たら渡すから」
「いいのか…?」
「魔法とアクセサリの実験台になると考えれば安いものだから」
「あんたそういう所は本当に魔法のことばかりだよね…」
ルーレンと話を終えた後、帰宅するハルトとグレン
夜になって、グレンが明日のことについて話す
「明日は何があるかわからないから十分に気をつけた方がいい」
「わかってるって」
「大けがをしないように十分気をつけろよ」
「…大丈夫だって、そんなに何度も言われなくてもわかってるから」
うんざりした顔で返事をする
「それならいいが…」
「そう言えば、帰る手段を探す手伝いはするってこの前言ってくれたけど、どうして手伝ってくれるの…?」
「…ああ、あれか。あんな場所で見たことない格好をしたのが一人でいたんだからどうしても放っておけなかったからな」
「そうは言うけどさ、種族のこととか気にしてなかったの…?」
「最初はそのことは気にしてたけれど、お前の言葉を聞いて気にしなくなったよ」
「…え?」
「お前に人間と獣人の関係のことを話して町に入りづらいことを話したら、お前は獣人の方じゃなくて人間の方に文句を言っただろ」
「あ、ああ。そういえば言ったね…。その時グレン笑ってたのをよく覚えてる」
「話を聞いたうえでお前は人間と獣人のことを、種族のことを気にしていなかったから大丈夫だろうと思ったからな」
「あんたも種族のこととかあまり気にしてなさそうに思えるんだけど…」
「ああ、俺もそういうのはあまり気にしてはいないんだが、やっぱりいろいろ言われるからな…」
「ここはそういうのが本当に面倒だなー…。お陰で町中を堂々と歩けれないし」
「窮屈な生活を強いらせてすまないな…」
「別にそういう風に思ってないから!グレンのおかげで窮屈だって思ったことはあんまりないし…!」
「…あんまりってことは少しは思ってるのか」
「…あー、うん」
おいおい…と言いながらグレンが失笑する
つられてハルトも軽く笑う
笑いあった後、二人は寝た。明日の探検で何があっても大丈夫だろう、そう思いながら眠りにつく。
翌日、ハルトは図書館で魔導書を借りに行った
「何かいいのはない?」
「遺跡の中だと中はやはり暗いだろうからこの魔導書を持っていくといいよ」
そう言いながら表紙に六芒星が描かれた魔導書を渡す
「これは?」
「光の魔法が書かれている魔導書だよ。これで暗い遺跡の中を明るくすることができると思う。
攻撃にも使うことができるけれど、魔力切れにならないように明かりとして使った方がいいよ」
「ありがとう。後は、これとこれ借りるね」
風の魔導書と火の魔導書をローブのポケットに突っ込む。
「何か見つかるといいね。それじゃ頑張って」
図書館から出ていくハルトを見送りながら言った。
図書館に出た後ハルトは、グレンと一緒に目的の移籍へと歩いて行った
最初にこの世界に来た時より体力がついたおかげで、森の中で少し歩いただけで疲れた時とは違い疲れることなく遺跡まで自分の足で歩いていくことができた
「ここまで歩いて疲れなかったなんて自分のことなのに信じられない…」
「…普段はどれだけ歩いていないんだ」
「べ、別にいいでしょ。今はそういうの」
強引に話を切り上げてそのまま遺跡の中に進んでいった
「やっぱり暗い…。えーと、確かルーレンからもらったので明るくするのが…あった!早速やってみようっと
『ライト』!」
魔法を使ってみると本から小さな光の球が出現して辺りを照らし出す。
「なかなか便利な魔法だな。これで周りがよく見えるな」
「それじゃ、進もう」
中に魔物がいるだろうと二人は警戒していたが、遺跡の中には魔物が出てこなかった
魔物のしたいと思われるものがときどき見かけたが、どれも体を噛み千切られた跡があった
「なんなの…これ?先に入ってきたやつがやったにしてもこんな風にするとは思えないし…。なんかわからない?」
「…俺にもわからないな。何かがやったのは確かだが一体…」
奇妙な魔物の死体を気にしつつも奥に進む。先駆者たちがすでに仕掛けを解いていたおかげで何事もなく進むことができた
そして、遺跡の最奥と思われる部屋にたどり着いた。部屋の奥には宝箱が置かれていた
「あっ。見て、あったよ!」
「…噂の魔物はいないようだな。早い所、出てくる前に回収するぞ」
ハルトが宝箱に地下好き、中を確かめる。しかし箱の中は、なぜか魔法の光で照らしても仲が良く見えなかった
「…あれ?中がよく見えなくて何が入ってるのかわかんないんだけど」
「光で照らしているのに箱の中が見えない…?」
「おっかしいなー…」
そう言いながら光を強くしたり箱に近づける等してみるが、それでも中身が見えない。
光を照らすたび箱が動いているような気がしたが、ハルトはさすがにありえないだろうと気にしていなかった
「結局、外れだったのかな…?」
「わざわざ奥に置かれているのだから何もないってわけではないだろう。一度持ち帰ってみよう」
「それで中身空っぽだったら、魔導書とかの荷物入れの箱にしようかな」
「…へぇ、この俺様を荷物入れにするってか?できるものならなやってみな」
突然、ハルトとグレン以外の者の声が部屋に響く
「…ねぇ、今声が聞こえたよね。…しかも箱の方から」
「…俺にも、確かに聞こえた」
「まさかとは思うけど、今の声あの箱から…」
思わず箱から距離を取ろうとするハルト
「その、まさかさ!」
箱が大声を上げて、牙を向けてハルトの方へと噛みつこうと飛び掛かってくる。
箱が動き出すことを予想していなかったハルトは驚いて動けなかった
そこへ急いでグレンが手に持っている斧を振って、牙が生えた箱を殴り飛ばしてハルトを守る
「無事か、ハルト」
「なんなの…一体…」
まだ気が動転してその場で固まっているハルト
吹っ飛ばした箱は何事もなかったように再び動き出す
「久しぶりの獲物だ!二人まとめて食ってやるぜ!!」
箱の大声が移籍中に響き渡る