5話 斬ったり吹っ飛ばしたりして
大量の犬のような姿をした魔物を目の前にして剣を右手に、左手には風の魔導書を持つハルト
犬たちは素早く動きハルトを囲む
「…囲まれるのは面倒だなー」
そう言いながらも前方へ突っ込み剣を振るう
振られた剣の先の犬に大きな切り傷をつける そのダメージが大きかったのだろうか斬られた犬は倒れる
そして倒れた犬の下から魔方陣が現れて、光りだす。そして犬は消えていった
「うわ…ここまで出来るなんて、この剣すご…」
剣の切れ味に呆気にとられながらも、魔導書を開く
「えーと、とりあえずサンダーと同じ要領でできる魔法は…」
魔導書を読んでいる間に、犬が飛び掛かる
「げげっ、やばい!」
転びかけながらも急いでかわす
「あーもー…できるならもう少し身軽に動けるようにしたいんだけど」
今まで戦ったことのないハルトには、かわす事など慣れないことだった。その上、両手に物を持ちながらとっさに動くのは難しいものだった。
「そういう魔法とかあったら助かるけど…。とりあえずこれでも喰らっとけ!ウィンドエッジ!」
前方に緑色の風が吹いて目の前の犬を切り裂く。風に色がついて見えるのはおそらく魔力によって起こしたものだからだろう
二対倒してもあまり減っていないようだった
「…もう少し強力なのとかやってみよう」
そういってページを一枚めくる
「…これなら何とかなったりして」
魔導書には初級魔法同様、集中することと詠唱することと書いてあった。しかし複雑でない魔法であれば命令に近い内容でよいと書いてあった
「詠唱ってそんなのでいいのー…。それなら簡単でいいけど…切り裂け!エアブレイド!!」
ハルトの詠唱にこたえるように、巨大な風の刃が現れ前方の犬たちをまとめて切り裂いていく
おかげで残りは片手で数えるほどの数になった
「さてと…、このままこの魔導書のままでもいいけどもう片方も試すか」
そういって魔導書を持ち替える
「次はどいつが来る!?」
一気に倒せたことで少し調子に乗る
残りがまとめてかかってきた 魔導書で魔法を確認して、そして発動する
「…吹っ飛ばせ!スプラッシャー!!」
詠唱し魔法を発動する 今度は床から水が噴射される。身時の流れに巻き込まれた犬が上に打ち上げられる
しかし、それだけでは倒れなかったようで起き上がる
「さすがに全部まとめて簡単にとはいかないか…」
残りの犬との距離をゆっくり詰めていく。犬たちも飛び掛かる機会をうかがいながら距離を計る
剣が届く間合いにまで届いて、すぐに斬りかかる。
急いで何度も斬りつけて、そしてスプラッシャーを発動する。ハルトの斬りの後に、今度は目の前に魔方陣が現れてそこから水流が勢いよく飛び出す
近くにいたのも巻き込んで一気に吹っ飛ばす
そこから駆け出して、さらに切りつける。そこから風の魔導書を取り出しウィンドエッジでとどめを刺す
気が付くと全て倒していた
「…はぁ、はぁ。これで終わりだよね…」
疲れて息が乱れながら終わったのを確認する
そこへ上からルーレンの声が
「まさかここまでやるとはね…。ならもっと手ごたえのある魔物を用意しようか」
「…え」
その言葉の直後に、犬が現れた時よりも巨大な魔方陣が出現する
そしてそこから出てきたのは巨大なゴーレムだった
ゴーレムは本棚一つでは軽くはみ出てしまうため、壁になっていた本棚が二つ追加された
「…まったく冗談じゃないって。こいつでほんとに最後で頼むから!」
再び戦闘態勢を取る
巨大な体から繰り出されるこぶしは当たったらまずいだろうというのが、言わなくてもわかる
しかしあまり素早くないようで、力を込めて出したこぶしを出した後の動作は隙だらけだった
力を溜めている構えから、どう殴りかかってくるのかを読めるはずだろう
剣を強く握り、集中する。どう動くのかを見極めないと、と自分に言い聞かせ様子を伺う
ゴーレムがこぶしを握り構える。上に振り落とそうとしているのが腕を振り上げた動作からすぐに分かった
そして、ゴーレムが腕を振り下ろす
急いで懐に潜り込んでかわす。
そして、片足に集中して攻撃をする
剣を振り、魔法を放つ
そして、スプラッシャーによる水の勢いによってバランスを崩して倒れる
「…今だ!」
倒れている隙に顔の方へ駆け出す。
再び、剣を振るう。普段から物を振り回さないせいでもう、腕を動かすのも疲れたがそれでも振るのをやめなかった
かなりのダメージを与えているようで、ゴーレムが苦しそうなうめき声をあげる
「これで終わらせる」
そう言って魔導書を構える
「切り裂け!エアブレイド!!」
顔面へ何度もエアブレイドを魔力切れになるまで放つ
最早、ゴーレムの顔はめちゃくちゃに削られてしまった
「…なかなかいかした顔になったじゃん」
息も絶え絶えになる程疲労しながらもがら冗談を飛ばす
ゴーレムはさすがに耐えきれなかったようでそのまま動かなくなった
そして、魔法陣が現れて、犬と同じように消えていった
やっと終わったと思って、立つのも疲れて横になった
「はぁ…はぁ…。どう…?これで満足…?」
ばてていながらもなんとか声を出す
「あっさりと倒してしまうなんて、驚いたよ…」
本棚の向こうからルーレンの声が聞こえた
「これの…どこが、そう見える…」
本棚の壁が動き出し、出口ができる。しかしもう体を動かそうにも疲れていて起き上がるのもままならない
「ハルト、よく頑張ったな」
出口からグレンがやって来る
「…グレン」
「俺も、ここまでやるとは思ってなかったよ。最初のあたりでやられると思っていたよ」
「…ちょっと、それはないでしょ」
「悪い悪い。…本当によく頑張ったよ」
「…うん」
「今日はもう疲れてるだろ。帰ろうか」
「…帰るならさー、ちょっと頼みたいんだけど」
「どうした?」
「…おぶって」
「一昨日は恥ずかしいから降ろしてほしいとか、言ってなかったか?」
「う…、あ、あの時はあの時だし!おぶれって言ってんだから、さっさとおぶってよ!!」
「はいはい、わかったわかった」
そう言いながらハルトを背負って図書館から出ていく
剣を振るのや、本を一々持ち替えたりするので疲れた腕をだらりとぶら下げて、そのままグレンの背中に身を委ねてぼーっとするハルト。
敵と戦っているうちに走り回った足も、もう動かそうという気にならなかった
そのうち意識がぼんやりとして、眠くなる
眠りに入る前にハルトは思った
(グレンにならおぶられてもいいかな…)
ハルト達が出て行ったあと、ルーレンはつぶやく
「もっと強力なのを呼んでもよかったかな」