3話 町の中を散策して
グレンに背負われて、森の中を進んで数分後
鬱蒼と生えていた木も出口にの近くになるとあまり生えていなかった
遠くを見ると町が見えた
「それで、これからどうやって町に入るの?」
町が見えると歩くのをやめたグレンの背中から降りたハルトが質問する
「ああ、それなんだが。いったん俺が町に戻ってお前の姿を町の連中から見られないようにするものを取りに行く。
取れたら、ここに戻ってお前に渡す。それを使って町に入る」
「なるほどね。とりあえず待ってるからさっさと取りに行って」
「わかった。おとなしく待ってるんだぞ」
「言われなくても大丈夫だって」
ハルトはグレンを見送りその場で座った
「…はぁ、起きてからわけわかんないことだらけで嫌になる。
変な本拾ってみたら、よくわかんない字にそれを読めてしまうわ、変な生き物に襲われるわ、獣人とかいう種族とか、どうなってんのここは」
誰もいなくなってすることもなく愚痴を言う
言いたいことを言って、ほかにすることもなくしばらくボーっとする
「…今のところは、グレンに頼っていけば何とかなってるからいいんだけどね。
このまま全部グレンが何とかしてくれて、こっちは何もしないで済めばいいんだけどねー…」
「さすがにそこまで面倒見れないぞ」
そう言いながらグレンが戻ってきた
「あ、やっと戻ってきたの。それで、何かいいものはあった?」
「とりあえず今はこれで我慢してくれ」
ハルトに皮のマントを手渡す
「へぇ、フードがついてるし、サイズが大きいからこれなら顔とか隠せて便利ね」
さっそくマントを身に着ける
深くかぶったフードのおかげで顔はよく見えないようになり、サイズが大きいから裾で手足が隠れて人間だとは簡単に気づかれないだろう
「それじゃ、町の中に連れてって」
「おぶらなくてもいいか?」
「それはもういいから!」
そんな調子で歩いていく二人。そのまま何事もなく町についた
町は石畳で整えられた街道、洋式の住宅が並んで建っていた。
「なかなかいい町じゃない」
「そうだろ?とりあえず俺の家で今後どうするか話し合おうか」
「そうだね。案内して」
グレンに案内されて、町の中を歩く。町を見渡すと人が行き交い、活気がある様子が見れた。
グレンの家は、他の住宅から離れていて一軒家となっていた。
「なんで、こんな他のと離れたところに…」
「酒場に近いからこっちのほうが都合がいいんだよ」
グレンが指差したほうには、住宅より少し大きな建物があった。おそらくあれが酒場だろう
「ふーん…。まぁ、こっちは酒とか飲めないからそういうのどうでもいいけど」
「とりあえず中に入れ。話の続きは座ってしよう」
グレンに促されて中に入る
椅子に座って、向き合う形で話を再開する二人
「さてと、これからどうするか考えようか」
グレンが話を切り出す
「そうだね。獣人に見つかるとまずいし、帰る方法とかも全部グレンが捜してこっちは家でおとなしくとか…」
「帰る方法を探すのは自分でしろ」
「やっぱり…?」
「当たり前だ。そこまでの面倒は見きれない」
「えー…今まで外とかろくに出てなかったから無理なんだけど」
「おいおい…、それだとこの先大丈夫か…?」
「それにさ、靴ないから裸足で歩くのもきついし…」
「靴と替えの服なら買ってやるから、それでいいだろ」
「…やっぱり自分がやらなきゃだめなのね」
「一人でしろっていうのはきつそうだし、俺も付いて行ってやるから」
「…ありがと」
「いいって、あんな所に一人でいたんだから放っておけないしな」
話がまとまったところで、グレンが靴などを買いに行かないか提案する
「裸足でいるのも嫌だったし、そうしよっかな」
とハルトは答えた
二人で町の中を歩き、靴や服を買っていった
「…いろいろ買っちゃったけど、いいの?」
「心配するな。今度稼げばいいからな」
「稼ぐってどうやって?」
「普段は酒場とかで依頼を受けてその報酬をもらったり、お宝を探して手に入れたりしてる」
「トレジャーハントってやつ?」
「そうだな」
へー、と言いながら相槌打つハルト
買う物を大体買って帰る途中、路地裏のほうに古びた大きな図書館を見つける
「…あれは、図書館?」
「ん…?ああ、あれか。あれは人が来なくなったせいで潰れたんだが、今は図書館ではなく人が住んでいる」
「ふーん…。どんな人なのか知ってる?」
「魔法の研究をしてる奴ってぐらいで、あんまり知らないな」
「魔法の、研究…」
もしかしたら自分が持ってる本がなぜ白紙になったのか知ってるのではないか、と興味を持ったハルトは図書館だった建物に近づき入る
「おい!一人で行くな!」
グレンもあわてて追いかける
建物の中は、本棚が並びその奥に山積みなった本が乗っている机で本を読んでいるものが見えた。
「…あんたが、魔法の研究をしてるって奴?」
顔が見えてないか気にしつつ、近づいて声をかける
あとから追いかけてきたグレンもハルトの後を追い、その様子を見る
「…客なんて珍しいな。僕がそうだけど君は?」
ローブを身にまとい、顔が少ししか見えていないがトカゲの獣人だということはわかるその男性が質問を返す
「…俺は吉野陽人。あんたに見てほしいものがある」
そういって、持っていた白紙の本を机の上に置く
「…これは?」
「これは、俺がさっきまで雷の魔法を使うのに使ってた本。突然白紙になったからあんたなら知ってるかと」
「魔導書が白紙に…。聞いたことがない話だけど少し見せてもらおうか」
そう言って白紙の本を手に取る
「…これは、魔力がない?」
「…どういうこと?」
「魔導書は、字を入れるのに魔法でしている為魔力が宿っているんだけれど、この本にはその魔力がないんだ。
恐らくだけど、魔力がなくなったせいで書かれていた白紙になったんだろうね」
「なるほど…」
「しかし、魔導書の魔力がなくなるなんて一体どうしてなんだろうか…?」
「…あ」
心当たりがあった。魔法を使ったときに本から力が放たれていたが、あれは本の魔力を使っていたからだったのだろう。
トカゲ獣人のほうも何か考えた後に、突然手をハルトのほうへ向ける
その直後、手からハルトに向けて風が起きる
「え!?何いきなり!」
突然のことでハルトが驚く
そして気づく、風によってマントが取れて顔を晒してしまったことを
「あ…やば」
「まさか人間だったとは…」
「ま、待ってくれ!これには事情が・・!…」
二人はなんて言えばいいのかわからず焦る 人間とばれてしまったからには、何か言われるのではないかそう覚悟した
「その服装…見たことないけどどこから…?」
「へ…?」
何か言われるだろうとわかってはいたが、その言葉や声が好奇心に満ちたものだったので間が抜ける
「え、えっと…こっちは一応人間なのになんとも思わないの…?」
思わず質問するハルト
「魔法以外には関心がないからね。君が何者であってもなんとも思わないよ」
「そ、そう…」
「それより、どこから来たの?」
「え、えっと…」
ハルトは自分が気が付いたら近くの森にいたこと、元の住んでいたについてなどを話した
「…こっちじゃ魔法なんてものもなかったよ」
「魔法がない…。けれど魔法を使えたんだよね?」
「ここに来るまでに何度も使ったけれど、その結果あんな白紙の本になったんだよね…」
「…魔法がないってことは、当然魔力がないだろう。
魔力を持っていない状態で魔法を発動しようとした結果、魔導書の魔力を消費する形で発動できたんだろうな…。」
突然早口で考察をするトカゲ獣人
「えっと、もしもし?…あー、えっと」
「おっと、すまない。あと僕のことは、ルーレンと呼んでくれ」
「ルーレンね。…とりあえず考えるのはもう十分?」
「もう十分だよ。あとは実際に白紙になるところを見て見たいけれど、ここまでにするよ」
「…そういえば、なんで風でマント吹き飛ばしたの」
「魔導書を白紙にさせるなんてどんな人なのか気になって、ついね」
「本当に、魔法のことで頭いっぱいなのね…」
「さっきの格好だと、顔を見ようとするものがまた現れるかもしれないから、簡単に顔をのぞかれない格好を用意してあげるよ」
「そんなものがあるの…?」
「ちょっと待っててくれ」
ルーレンがそう言って物置と思われる部屋に入る
しばらくすると黒い服を持って戻ってくる
「あったよ。これを着てみてごらん」
ルーレンに言われるまま着てみるハルト
服を着てみると、どことなく近寄りがたい雰囲気も持った気がする
「えっと…この服、何?」
ハルトが恐る恐る質問する
「呪術師が着るローブだよ。これを着てれば顔をのぞこうとする人はいないと思うよ」
「…そんなローブ、町中で着てられるかー!」
ハルトの声が図書館内に木霊する
新たな獣人、ルーレンと出会ったハルト この先どんなことが待ち受けているのだろうか
そして、元の世界へ帰る道は見つかるのか、物語はまだ始まったばかりであった