11話 北へ目指して
魔物討伐の依頼を受けて倒しに行く日を続けて数日
グレンがハルトに話を持ち出す
「ハルト。これまでの討伐は近くでの討伐をしてきたが、今度からは遠くの場所の討伐依頼を受けようと思う。」
「なんでわざわざ遠くに。」
「…最近の俺たちがやってることはお前がどうしてここに来たのかとか戻る方法といった手掛かりが見つからないまま、魔物を討伐しているばかりだから、少しでも情報を得るために遠出してみるべきだと思ったんだ。」
グレンの意見を聞いてハルトはうなずく
「確かに最近は討伐ばかりで戻るための手がかり見つからなかったから、賛成だね。それで、今回はどこに行く予定なんだ?」
「ここガルダから遠く北にある樹氷の森と呼ばれる場所がある。その奥にある洞窟から巨大な鳥の魔物が出てくるらしい。そいつは凶暴で吹雪を起こす力を持っていて近隣の住民に被害が出ているから討伐してくれという依頼だ。」
グレンから依頼の説明を聞いてハルトは嫌な顔をする
「樹氷とか吹雪とか、なんで寒いとこ行く依頼受けたの…」
「他が近くのものしかなかったんだから仕方ないだろ。」
「あと、防寒とかどうする?この辺で今そんな服売ってると思えないし。」
「それに関しては樹氷の森の近くに、小さいが街があるからそこで調達しよう。」
「わかった。後は準備して出かけるだけか。ギャスパー、出かけるからポケットの中に入って」
ハルトはギャスパーを連れて、ルーレンのところに向かった
ハルトが図書館を訪ねるとルーレンが出迎えた
「ああ、ちょうどよかった。ついさっき服を変化させる道具を完成させたんだよ」
「そうなんだ。でも今回行く先は寒い所だから変化させたら困るから使わないと思うけど……」
「まぁ、試してみてよ」
そう言ってハルトに懐中時計を持たせる
開くと、針は分針の一本しかなく、12を指していた
「使い方は?」
「針を1に合わせてみて。直接触って動かせられるから」
言われたとおりに針を1に動かす。カチッという音が鳴った直後、ハルトの服が全身を覆うローブから上着やシャツにズボンと全く別の服になった。
「一瞬で別の服になるなんてすごいな…。でもローブに戻すのどうするの?さすがにこの恰好のままだと町に戻れないし」
「針を12に戻してみて」
針を12に戻すと、ハルトの服装はローブ姿に戻った
「針を戻すことで元の服装になるようにしているよ」
「へぇ…、これってあらかじめ用意された服以外は無理なの?」
「別の数字に合わせた時に変化するように記録させることができるけど…、そういうのが必要になったら一応僕に言ってくれ。記録させる方法は僕しか知らないんだし」
「新しい服でも手に入ったら、あんたに頼めば追加することができるってことか」
「そう思ってくれたらいいよ。ちなみにローブじゃない服の時に、ローブに着替えるなら11に合わせればいつでもローブになるよ」
「今のところ、顔を隠す服はローブしかないから助かるよ」
服が変化するのを何度も試してから、改まってルーレンの方へ向き直す
「こんなことまでしてもらってありがたいけど、いいの?別に返せるものなんてないし」
ルーレンの顔を伺いながらハルトが尋ねる
「別にいいよ。僕がここで引きこもって研究しているのは、こういった便利な魔法を自分が最初に開発するのを目標にしてきたから構わないよ。その成果がちゃんと役立ってくれればそれでいい」
「そうなんだ。…こんな図書館跡を住居にして一人でそんな目標もって研究しているのかっていう経緯がまだ気になってるけど、聞かない方がいいのかな…。」
「それについてはまた今度ゆっくり話すよ。今日は出かける準備しに来たんだろう?持って行く魔導書選んでグレンのところに行った方がいいんじゃないかな」
「まあ、確かに今聞かなくてもいいし、さっさと準備するか」
本棚の魔導書を何冊か選んでギャスパーに放り込んだ後は先ほどの懐中時計をローブに入れる
「持って行くのは構わないけど、変化したら困るって言ってなかったかい?」
「折角作ってもらったんだし、一応持って行く」
「そっか。それじゃ、いってらっしゃい」
ルーレンに見送られながら図書館に出た
図書館の外ではグレンが待っていた
「もう準備は終わったのか?」
「うん、行こう」
ガルダから出て歩いて数分後、グレンがこれから向かう目的地についての説明を始める
「まず最初に向かう場所だが樹氷の森に入る前に近くの街、ノールに向かうぞ」
「わかった。…ところで聞きたいんだけど」
「どうした」
「そのノールって街までの距離って歩き続けていればつくような距離なの?」
「流石にそこまで短い距離じゃない。途中で他の街によれれば泊まって行く予定だが、見当たらなかったら野宿になるだろうな」
「野宿は勘弁してほしいな…」
そのあとも話をしながら歩いて行った。
道中、魔物が襲い掛かってくることがあったが、冒険者がよく通る道らしく魔物は大した強さではなく大した危険もなくやり過ごすことができた。
北に目指して数時間後になり、日が暮れ始めるが目的の場所へはまだ遠いらしい。
ガルダの近辺は地面が草が生えていない荒れ地だったが、今歩いている道は、多くの人が通った後であろう獣道以外は短い草が生え茂っていて野原のようになっていた。
「そろそろお腹すいてきたけど、この辺に町とかないの…?」
「この辺なら王都があるはずだ」
「王都…?」
「ああ。イグリアという、この国を治めている王族が住む城のある街だ」
「獣人の国の王様がいる街か…。」
不安そうな顔をするハルトにグレンが声をかける
「心配するな。ただ宿屋に泊って、朝になったら出かけるだけだ」
「何もなければいいんだけど」
そう呟きながら、遠くからでも城が目立って見える街イグリアに向かった
イグリアの町並みは、白くきれいな住宅街に、夕暮れで暗くなった街に照らす街灯が美しく感じさせた。
ガルダとは違ってちゃんと整備されているのだろうと思った。
宿屋に入って部屋を取っている間はローブのフードをかぶって気づかれないように必死になっていたが、結局特に何も言われずそのまま朝になって出かけた
街から離れてほっとしているハルトを見てグレンが笑う
「心配しなくても何もなかっただろう。イグリアでも冒険者が移動中に利用するって事が多いから、フードを深くかぶってたこととか気にしてないと思うぞ」
「冷静に考えてみたら、今までガルダの街でも何事もなく歩けていたんだしほんとに気にしなくてもよかったの思い出した…」
「とりあえずこうして進みつければノールの街に着くのも、昼ごろになるだろう。そこで樹氷の森へ行く準備をするぞ」
「わかった」
ノールの街へ目指してハルト達は、徐々に寒さが増し、緑が減っていく道を進んでいった