1話 異世界に飛ばされて
どこにでもあるごく普通の家の中で部屋に引きこもり、一日のほとんどをそこで過ごすものがいた
名前は陽人
彼がいつも部屋に出るのは食事をする時や風呂に入る時ぐらいだった
いつもジャージしか着ないで、部屋でゲームやパソコンをいじってばかりだった
そんな毎日を繰り返して過ごし、明日はどのゲームをしようかなんて考えながら今夜も眠った
そして翌日、目を覚ました時には自分のいる場所が自室でなかった
屋内ではなく見覚えのない森の中にいた
すぐに体を起こし、スマートフォンを持ってなかったか確認する。ポケットの中を探っても何もなかった
仮にあったとしても森の中では電波は通じないだろう
「まったくなんなのここは…。いつも通りに目を覚ましたら森の中!?どうなってんの!しかもスマホはないし、どうすればいいっていうの!!」
今の状況への不満を叫ぶハルト
「…ちっ、面倒だけど歩くしかないか」
寝た時の格好そのままだったため裸足で歩くことに。歩くたびに感じる足の痛みにイラつきながらも森の中を進む
しばらく歩いていると、表紙に稲妻の絵が大きく描かれた本を見つける
誰かの落とし物なのか、近づいて拾ってみる
触れてみると、何となく痺れるような感覚を本から感じた
「なんだろ…この本」
そういいながらパラパラとページをめくる。
本には見たことがない文字が書かれていたが、なぜかその文字が読めた
「…何で読めるんだろ。見たことないはずなのに」
自分でも疑問に思いながら読み始める
本には、ゲームに出てくる技のような名前とそれについての説明が書かれていた
「…まさかこの本の通りにやればその技ができるとか?…試しにやってみよっと」
自分がよくやっていたゲームの魔法使いが魔法を放つ動作を真似するように、手を突出す
本には精神を集中することで発動することができる初級魔術、なんて解説文があったので集中してみる
「『サンダー』!」
そして技名を叫ぶ 本にはそうしろとまでは書いてなかったが、勢いで叫んでみただけだ
叫んだ直後、本から黄色い光を放ったかと思ったら前方に小さな雷が落ちる
「手からじゃなくて本からかよ…」
イメージしていたのと違っていたのが少し残念だったのかがっかりしたような声でつぶやく
「とりあえず、これ持っておいたほうがいいかな。こんなのがあるんだと何があるのかわかんないし」
再び森の中を進むことにする
奥に進むとまた本を見つける
今度の本は表紙に描かれているのは炎だった
「また本?二冊も落とすなんて持ち主はなにしてんの」
そう言いながら拾ってみる
さっきの稲妻が書かれた本を触れた時のように、炎の本を触れると今度は本が熱い感じがした
その感覚はすぐになくなった。気にしないで二冊の本を持って更に進む
だいぶ歩くと、広い野原のようなところに着いた
辺りには山犬のような生き物や、ぬめぬめとした液体のようで、まるでスライムのような生き物がたくさんいた
「…広そうな場所についたのはいいけど、なんかやばそうな雰囲気?」
予想通りハルトに向かって襲いかかってきた
「いきなり襲ってきた!?さっき拾ったあれを使えば…サンダー!」
襲ってくる生き物へ雷を落としていく 雷にあたった生き物は倒れて、そのまま動かなくなった
「…ここまでよかったかな、これ」
倒したのを気にしつつ、次の目標へ雷を落とす
そのままあと3体にまで減らしていった
「この調子なら残りも…!サンダー!!」
サンダーを放とうとするが何も起きない
「…え!?なんで何も起きないの!なんで!!」
本を見てみると、雷の本は何も書かれていない白紙の本になっていた
「…え、もしかして、もう使えない…?」
動揺しているすきにまだ残っている犬が噛みつこうと飛び掛かる
本しか持っていない陽人にはそれを防ぐすべを持っていない
噛みつかれることをどうにかするのをあきらめたその時、茂みから何者かが飛び出す
そしてハルトの前に立ち、手に持っている斧で殴り飛ばす
殴り飛ばされた犬は地面に落ちた時にはもう動かなくなった
ハルトには突然のことで頭が追い付かなかった
「…えっと、何が起きたの」
状況を整理する。残りの犬共は二体で、雷の本は使えなくなっている。
…そして、目の前には赤い竜のような姿をした者が
「無事か?怪我は無いか…?」
竜がハルトに声をかける
「…お陰で」
「そうか。お前は下がっていろ、俺が相手をする」
そういって前に出て、斧を構える
その様子に呆然としつつもあることを思い出す
「そういえば…、この本はまだ使えるんだった」
もう一冊の本、表紙に炎が描かれたこの本なら雷の時と同じように何かできるはずだ。
そう思ってページをめくって読み上げる
サンダーと同じように集中するだけで放てる技が書かれていた
あとはその通りにするだけ
「『ファイアボール』!」
スライムに向かって、本から炎の球を放つ
スライムにあたった球は爆発する。そしてスライムは蒸発する
「…魔力切れしてなかったのかよ」
竜が驚いて声を出す。既にもう片方は片付いたようだ
魔力切れ、その言葉の意味は分からないが技が使えない状態のことを言ってるのだろう
「…あんた、何者なの」
突然現れた竜に警戒して、質問する
「俺はグレンだ。ここには依頼で来ていたんだ。お前は?なんで人間がこんな所に…」
「…知らない。起きたらなぜかここにいたんだから…。足がもう痛くなって疲れたからどこかに休める場所はない?」
休んだらさっさと帰るための情報を探さないと、そう考えながら質問する
しかし、帰ってきた返事は
「…あるにはあるんだが」
言い淀んだものだった
(もしかして、面倒な展開なんじゃ…)
その返事に悪い予感を感じ、不安になるハルトだった