第六話:ギルド
身体の感覚が戻り、目を開けると、俺は草原で寝転んでいた。
どうやらう上手く、転移できたようだ。魔王と会うなんてことは今後は勘弁してほしいものだ。少なくとも俺が立派な勇者に成長するまでは魔王など二度と会いたくないものだ。
転移は出来た。どうせなら、最初に召喚されたリズバーグの王城を期待していたのだがそんな事は無かったようだ。まぁリズバーグは国の名前なわけだし、この国のどこに転移するかはランダムって事なんだろう。やはりそんなに甘くはないみたいだ。王都の名前で転移をすればよかったと思ったが、聞いた気はするが覚えていない。もう少し記憶力があれば違ったのだろうか。
だが、しかし、俺には魔王城で手に入れた宝具があるのだから、そんじょそこらの相手には負ける事は無いだろう。そう例えレベルが2だったとしても!!……早く街を見つけて王都に向かうとしよう。こんな人気のないとこにいたら何に襲われるかわかったもんじゃない。人族の王城にいたのに、なぜか魔王に襲われることだってあるのだから!!
その前にと、自分の状態を一通り見直す。転移のネックレスは琥珀の宝石部分が6つ繋がっているネックレスであったが、転移前は2つひび割れていたのが今は3つにひびが入っていた。転移の残り回数とまともな琥珀の数がいっしょという事だろう。左腕を見るとやはり身代わりのブレスレットはなくなっていた、転移前に役目を終えて床に落ちていたからだ。それ以外の装備品は特に変わりは無いようである。
だが、いや、やはりと言うべきか最も変わっていた部分は別の場所にあった。
川越優 Lv:2
状態異常:[呪]血脈封印(解呪不可)
スキル
紋章術
契約術
破棄術
鑑定
索敵術
称号
魔王の卵・勇者の卵・召喚されし者・美貌の持ち主・正義の欠片・色男・八方美人・女泣かせ
自分のステータスに今までなかった状態異常の項目が出来ていたのだ。それも明らかに呪いっぽいものまでついてである。さらには解呪不可とまできたもんだ、流石は魔王様である。転移前に魔王がなにかしたのは恐らくこれの事だろう。今のところ体調には問題は無いようだが、殺されるようなものでなくて良かったと思うべきか、もうちょっと早く脱出するべきだったと悔やむところか。
まぁ、なんにせよ今のところどうもないのなら考えても仕方がないだろう。今はなんとか人がいる街を目指すことにしよう。
意気揚々と出発したが、その時には既に夕日が沈もうとしていた。あぁ、これやばくないですか。なんで異世界に召喚されたその日に野宿をしなければいけないんだ。いやいや、こういうのって夜になったら急に強いモンスターや盗賊とかが出てくるのではないのだろうか。魔王から逃げ出せてその辺のモンスターにやられるとか格好悪すぎないか。
そんなネガティブな事を考えながらも走り気味に歩いたところ1時間、目の前の丘を越えたところでようやく人が住んであるであろう外壁を拝むことが出来た。どうやら日が沈みきる前には街に入る事が出来そうだ。グッバイ野宿、そんな選択肢は二度と出て欲しくない限りだ。ありがとう神様、人の街に近い所に転移させてくれて。だが、神よ、召喚初日に魔王と会うとか馬鹿げた事をした事だけは絶対に許さないからな。
などとふざけていたら街門にたどり着いた。とりあえず、人は少ないが列が出来ていたので、最後尾に並ぶ。あまり待たないうちに俺の番になり門番のオッチャンがやってきた。
「身分証の提示と入街税として銀貨5枚だ」
金取るのかよ、身分証も魔力板は魔王に取られて持っていないな。
「……悪い、魔力板をなくしてしまったんだが」
「あああぁ、あんちゃん冒険者かい」
「ああ、冒険者だ。この街に来る途中襲われてしまってその時魔力板をなくしてしまったようでな」
あぁ、襲われたさ魔王にな!!
「ほう、そりゃ災難だったな、じゃぁ仮の入館証作っておくから早めにどっかのギルドで新しい魔力板買っておくんだな、っとその前に念のため確認するからこの魔力板を読み込ませてくれ」
「……これ前の人物のが読み込まれたままなんだが」
「あん?一回折ればいいだけの話じゃねえか。いくら安もんの名前とレベルしか読み込まないやつでも早々壊れはしねーよ」
「あぁ、だったなすっかり度忘れしてたようだ」
「えーと、川越優か。ちょっと待っててくれ今確認するから」
「ちなみに冒険者ギルドってのはどのあたりにあるんだろうか」
「あーどうだったかな、探せばどっかにあるだろ。っと、大丈夫そうだな。後は銀貨5枚だ」
「今手持ちにこの金貨しかないんだが大丈夫だろうか」
「あー、こりゃどこの国の金貨だ。ちっ、両替商をよぶしかねえなぁ、ちょっと時間かかるから端に行ってまっとけ」
「いや、手間取らせるのも悪いから、釣りはいらない。気持ちとしてもらっておいてくれ」
「おう、気前がいいなぁあんちゃん。もう行っていいぜ。ちなみに冒険者ギルドはこの道をまっすぐ行って左手で両替商はさらに奥を右手にあるぜ」
「……(調子がいいなこいつ)、分かった。ありがとう」
仮の入館証とやらを受け取り街に入っていく。
さて、この世界には冒険者という職業があり、俺みたいな刀をもっている物騒な奴はそう思われるような職業と言うわけか。魔力板は一度折る事でリセットする事が出来ると。
確かに触るたびに上書きされていたら人に見せる事は出来ないな。だからと言って上書きできないようにすると自分のレベルやスキルが変わった時に更新する事が出来ない訳か。良く出来てるじゃないか。
名前を見て調べていた用紙は手配書かなにかのリストだろうな。後は国によって発行している貨幣が違うぽいってところか。国をまたぐ際はめんどうくさそうだな。
門番との会話から読み取れるのこんなところだろう。
その日は両替商に行って、金貨が明らかに魔王からくすねてきた金貨の方が大きいのにこの国の金貨と一対一の交換しかできないと言われ不満があったが、いくら鑑定スキルでも物価や相場までは分からないのでしぶしぶ両替を行った。今日はいろいろありすぎてもう何も考えたくなかったので、適当な宿屋を見つけすぐに寝る事にした。
一夜明け、俺は冒険者ギルドへやってきていた。
朝は宿屋で朝食を取ったが、こちらに来て初めての食事だという事にその時気付いた。黒いパンにスープ、何かの肉切れが少しといったメニューだったが、異世界の食事は案外悪くなくそこそこに美味しくいただけたのは有難かった。
その際に宿屋のおばちゃんにある程度話を聞いてみたとこここはメルシュードという街であり、王都の近隣にある街の中では一番でかい街である。王都までは馬車で2日といったところらしい。思った以上に王都に近く安心した。一泊朝食付きで銀貨四枚、相場がまだ良くわからないが昨日手に入れたこの国の金貨で払うことにした。
「いらっしゃいませ。クエスト依頼、受領、報告どちらになりますでしょうか」
ギルドへ入り、興味本位に周りを見回していると、すぐ目の前の受付のおねえさんに声を掛けられた。
「新しく冒険者になりたいんだが」
「新規のご登録ですね。では5番窓口の方へお進み下さい」
役所仕事かよ!!と心の中で突っ込みを入れた俺だったが、冒険者ギルドは国営で行っているのでなんら間違っていなかったことをこの時の俺はまだ知らない。
「新規登録ですね。身分証はお持ちでしょうか」
とりあえず、仮の入館証とやらを渡してみた。魔力板は持っていないのかと聞かれたので、持っていないと答えておく。
「では、まずは魔力板の購入をお願い致します。魔力板は高い方からA,B,C,Dの4種類御座います。お値段もそれぞれ金貨1枚、大銀貨5枚、大銀貨1枚、銀貨5枚となっていますが、いかがなさいますか」
「……何が違うか教えてもらっても良いだろうか」
話によるとAはすべてのスキル、称号を読み込むことができ、Bはそれぞれ二十個、C,Dとそれぞれ十個に五個と読み込む数が減っていくらしい。全てのスキルを読み込ませる必要があるのか聞いてみると、就職や仕事の依頼等の時に人を見る判断基準としてスキルや称号はあればあるだけ良いとされているらしく、その人が信用できるか信頼できるかの物差しになっているとの事。それこそレベルよりスキルや称号に重きを置いている人たちは多くいるらしい。他にも名前とレベルだけを読み込む魔力板もあるがそれは身分証としては成り立っていないとの事だ。
「スキル5個以上持っている人がDの魔力板を持っているときはどのスキルが読み込まれるのだろうか」
「基本的にはどのスキルを読み込ませるか考えながら触れば、大丈夫です。何も考えなければランダムで読み込まれます。称号も同様のものとなっております」
また、盗賊や泥棒といった称号もあり、わざと自分に不都合なスキルや称号を読み込ませないという方法がDの魔力板においては出来るので、あまり信用はされにくいのでおすすめ出来ませんとも言っていた。それでも最初の方はお金が足らずDの魔力板を買っていかれる方も少なからずいますがと最後に付け足した。
「では、Dの魔力板を下さい」
「わかりました。銀貨5枚となります。自分の情報を読み込ませた後、こちらに提出をお願い致します」
Dの魔力板しか俺には選択肢がなかった。不本意だが魔王の卵なんて称号が見つかった時には大騒ぎになるんじゃないかと思ったからである。それと同様に勇者の卵と召喚されし者の称号も念のために読み込まないようにしておこう。魔力板に自分の情報を読み込ませ、担当のお姉さんに渡す。
俺の魔力板を見たお姉さんは、俺の顔と魔力板を見比べて少々お待ちくださいと言った後、おもてになるんですねと一言つけたし、小悪魔気味に微笑んで席を外した。
うるせーよ、さっさと仕事しろやと思いつつ。予想はしていたが『色男』と『女泣かせ』の称号はあまり褒められたものじゃないのだろうと実感し、早く新しい称号を手に入れて見えないようにしようと誓った。
「こちらは、お返しします」
お姉さんが戻ってくると魔力板を渡された。今までの魔力板とは違い右下の空白部分に剣と槍と弓の三つが連なったマークがあり、その上に大きくアルファベットの『E』の文字が書かれてあった。このマークについて聞くと。
「そちらは冒険者ギルドのギルド紋であり、冒険者ギルドに所属していることを示しております。ギルドにはそれぞれギルド紋があり持ち主が何のギルドに所属しているか一目でわかるようになっております。また真ん中のアルファベットは現在の貴方様のランクとなっておりクエストをこなすことでランクが上がるようになっております。受ける事が出来るクエストの上限は難易度が自分のランクの一つ上まで、下限は特にありません。ぜひ高ランクを目指して頑張って下さい」
なるほど、なるほど。ちなみにパーティーを組むことも出来、申請すればパーティー名とパーティーのランクも自分のランクの下に表示できるようになっているらしい。
まぁせっかくだ、新規登録は終わったが、この街の周辺の事、初心者冒険者におすすめな依頼、必須な装備やアイテムがあるのか、また王都に行くのにおすすめな方法はあるか等、聞きたいことはたくさんあったのでせっかくだしお姉さんに質問させてもらおう。
自分でも一気に聞きすぎたかなと感じたが、さすがはプロである。優しいお姉さんはにっこりとお客様をけっして不快にさせない笑顔で答えてくれた。
「各種ご相談は4番窓口でお受けしております」
……さいですか。