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第五話:勇者対魔王

 宝物庫へ案内された俺は思わず、目の前に広がる大量の宝具を見て思わず顔がにやけてしまった。仕方がないだろう、これでも一応思春期と呼ばれるぐらいの男の子である武器や防具に憧れを持つことだってあるものだろう。いやいや、まぁ実際はこれだけあれば自分が求める、この城から逃げるためのアイテムがあるだろうと気が緩んだだけであるが、あぁ、別に強がっているわけではない。決して。


 宝物庫へ通じる扉は先ほどまで壁であった扉だけである為か、思った以上に空気がこもっていて温く感じた。また臭いも今まで嗅いだことがない臭いがしたが、別段気にする程でもなく、湿度はどちらかと言えば乾燥しているように感じた。やはり宝物庫の管理状態とかも厳しく設定されているのだろうか。


 サキュバスと鬼ハーフも早いところ装備を決めたようで既にこの宝物庫から出て行っているようだ。


「ねぇ、キミはあの二人を案内しなくてもいいの」


「しなくていいの、ほかのひとにまかせるの」


「そう、ずっとそこにいて暇じゃない」


「ひまじゃないの、たのしいの」


「楽しいって、ずっと後ろで見てるだけじゃないか」


「みてるの、たのしいの、あときみじゃないの」


「……どういうこと」


「きみじゃないの、まりるなの、まりるってよばせてあげるの」


「……そう、わかったよ。マリル、もう少し時間掛りそうだけど大丈夫」


「だいじょうぶなの。すきなだけすきなのさがせばいいの」


 宝物庫から入って、水晶に乗った青少女マリル(髪が青い事から勝手に青少女と呼ぶことにした)はずっと後ろから俺についてきてじーっと注視している。最初は監視か何かだろうかと思っていたが、たまに欠伸はするし、俺が宝具を扱っているときにも手元ではなく顔を見ていたり、背中を見ていたりとよくわからない行動をしていたので、別に監視ではないだろうと気にしないようにした。


 先ほどからずっと宝具を物色させてもらっているが、ここは本当に宝の山である。その中でも思わず歓喜の雄叫びをあげそうになった物があった。


 転移のネックレス

 「転移」の後に地名を述べる事でその場所へ転移する事が出来る。残り4回


 これで、ここから脱出できる。説明文はアイテムをさらに凝視する事で確認する事が出来た。本当に鑑定のスキル様様である。これがなければアイテムだけ手に入れてもどうする事も出来なかっただろう。他にもいくつかとんでもアイテムが出てくる出てくる。


 収納空間の指輪、遮断の爪、身代わりブレスレット、覗き見眼鏡、霹靂へきれきの刀、など、これがRPGとかのゲームだったら序盤で絶対に手に入らないであろうアイテムばかりだ。まぁそれも魔王城の宝物庫にあるアイテムなのだから当然といえるだろう。


 転移のネックレス、収納空間の指輪、身代わりブレスレットは何が起きても対処できるようにすぐさま身に着けた。


 収納空間の指輪

 アイテムスロット5つ分までアイテムを収納する事が出来る。


 身代わりブレスレット

 装備者が一定以上の衝撃、魔術を受けるとその攻撃を吸収し、その後ブレスレットは壊れる。


 なかなかのアイテムだろう。後はひたすら物色し、どのアイテムが、今後の勇者としての活動に、人族の民の為に、世界の平和の為に役立つものかを考えていく。アイテムがどれだけあろうが指輪には5つしか入らない、持っていくべきものを勘考して選び、青少女が見ていない隙に指輪のスロットへ入れていく。無造作に落ちている金貨も一握りばれないようにパーカーのポケットに入れておくのも忘れない。お金も大事である。


 この世界の住人に変な格好と思われるのもしゃくだし、何より目立つのも嫌だったので、宝物庫にあった黒いローブを着る。右手には刀、左腕には身代わりブレスレット、言語指輪に収納指輪、首元に転移のネックレスと。準備万端である。後は個室にでも案内されてから人知れず転移するだけの簡単なお仕事だ。

 ―――そうこの声が聞こえる前までは。




「おい、小僧。お前本当に魔族か」




 はっきりいって浮かれていた。ここが誰の城で、どんな人物の物で、その人物が何者か、あらゆる魔を総べるものとしてのその実力を。知っていたはずであるのに、そのステータスの一端でも確認した俺が分からない訳がなかったのに、それでもまだ足りなかった。魔王と言う存在を語る為にはなにもかもが足りなかった。


 振り向きたくない、嫌だ、全てを投げ出して楽になりたい。その気持ちを抑えてゆっくりと振り向く。そこには魔王ルシフェルが立っていた。落ちつけ、いったいこれで何度目だ。もう慣れてもいい頃合いじゃないか。大丈夫だ俺なら何とか出来るはず。そんな欠片も思っていない事を繰り返し自分に言い聞かせて問いかけた。


「……どうして、ですか」


「いや、なに、この部屋微妙なにおいがするだろ。一応これ魔族にとって苦手なにおいなんだわ。別に命や身体に問題があるわけじゃない。ただ苦手なだけってだけだ。だからこそベルチェもサイトもすぐ出ていった。もともと宝物庫に誰かが長居するのを防ぐために付けてた匂いだ。マリルみたいに魔術で自分の周りに来ないようにする事だって出来るし、当然個人差もある。我慢すれば耐えられない訳でもない。だが、一時間経ってもお宝を見て笑ってられる奴ってのはちっと考えにくいんだわ」


 ドッドッドッドッドドドドドド、心臓がうるさい。

 

「……いつ、から、この場、所に」


 口が渇いてまともに喋れない。


「お前らが来る前からだ、ここにあるやつは使い方が分からないものも少なからずあるからな。お前らがどういう基準で選んでいくか姿を消して楽しみに見ていたんだよ、……で、お前なにもんだ」


「……て、、、、ん、、、、いり、、、、ず……」


 声をまともに発する事は出来ず、歯はガチガチとうるさくて、氷の中にいるのじゃないかと思うほど、手足の感覚は無いけれど、ありえない程震えている。いったいこんな状況になるの何度目だよと自分に悪態をつきながらも声を発していく。生き残るために。


「あぁ、何言ってんだ。チッ、仕方ねえな」


 魔王は右手を俺に突き出すように伸ばした。ローブが前にいる魔王に引き寄せられるように引っ張られる。引っ張られているのがローブではないと気付いたのはローブの隙間から引っ張られていた何かが飛ぶように魔王の右手に収まった時だ。ポッケに入れていた金貨だろうか。違う、魔力板だ。やばいあれには。


「おいおぃ、勇者の卵ってどういう事だ、あああ、お前人族か」


「……バーーグ!!」

 

 何も起きはしなかった。魔王は見たもの全てを凍えさせるような凄惨な笑みを浮かべている。

 何故だ、何故発動しない、ちゃんと転移リズバーグって言ったはずだろ!!違う、ちゃんと言えていないんだ。指輪が言葉として認識してないんだろ。あれだけ詰まりながら言っていたら訳が分からないだろ、言語として成り立たなければ意味がないに決まっている。落ち着いてもう一度だ。


 パキンッ、カチャリ。何かしらの金属音が鳴ったのに気づき足元を見ると、見たことがあるようなブレスレットが落ちていた。いや、壊れているだけで先ほどつけたはずの身代わりのブレスレットである。なぜこんなところに、ちがう壊れて俺の左腕から落ちただけだ。前を見ると魔王が右手の人差し指をこちらに指し向けていた。


「へー、今のを防ぐことができるのか。じゃぁ、次はこれだな」


 やばい、やばい、やばい、ヤバイ。考えるな、声を出せ!!


「転移!!リ『呪術:血脈封印』ズバーグ!!」


俺と魔王の声が重なり。刹那、血よりも赤い光と何色にも染まらない白い光が目を焦がすほどに眩き、川越優はその場から姿を消した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「おいおい、マリル。すげーな、たかがレベル2の人族ごときが俺と相対して逃げ切ったぞ」


「ばかーーーーーーーーーーー、なにするの、あほなの、しぬの」


「あぁ?何言ってんだ、例え、俺が魔力切れが起きてて今にも倒れそうなぐらいフラフラであったとしてもこの魔王から逃れたんだ。そこは称賛してやるべきところだろ」


「ちがうの、ばかなのは、まおーさまなの、なんでころそうとするの」


「いやいや、最初の一撃だって殺そうとはしてなかったぞ。お前がいたから、回復さえすれば死なないとふんだんだが、どうしてか防がれたんだよ。だから攻撃を切り替えたわけだし」


「さいしょはあいてむのちからなの、ゆうはなにもしていないの、みればわかるの、そんなことよりはやくさがしにいくの」


「見ればわかるってお前だからだろ。それにあいつ人族の勇者だったぜ、あいつがいなくても別に残り二人がいれば充分だろ。あいつはたぶんハズレって事だろ」


「ばかなの、しゅぞくなんてかんけいないの、かれはあたりなの、おおあたりなの、かれにくらべれば、ほかのふたりなんてみそっかすなの、それどころか、れきだいのまおーさまのだれよりも、まおーたらん、そしつがあるの、すぐにつれもどすの」


「マジか、えっ、なにそれ、あいつ俺よりも素質あるの」


「あたりまえなの、そしつだけなら、れきだいいちいなの、……いないの、またいりくにはいないの、どこにてんいしたの」


「おいおい、大陸一つに探査魔法かけるとか出来るもんなのか、どんだけえだよおめー。それにあいつは確かリズバーグって言っていたな、人族の大国のひとつだ。向こうに転移したんだろ」


「わかってるなら、はやくつかいをだすの、つれてくるの」


「いや、このご時世にそんな事出来るわけねーだろ。どんなに隠れて行こうが見つかっちまうだろうし、そうなったら、さらに戦争が本格的になっちまう。小国ならまだしも、あの大国に正面切って喧嘩を売る時期は今じゃない。へたすればこちらも手痛い損失が出てしまう。……あー、それにあいつのことは諦めろ、なっ」


「なんでなの、ばかなの」


「いや、あいつは恐らく今後、戦の場面に出てくるような事はねーよ」


「どうしてなの」


「あいつは俺の呪いを受けたからだ」


「……なんの、のろいなの」


「……血脈封印」


「ばかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 その声は宝物庫どころか城中に響き渡ったという。

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