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第四話:レベル2勇者は魔王と相対

「さあ、お前らの名前、種族、レベルと自慢のスキルがあるならそれもついでに言っていきな」


 目の前に立ったそいつは続けてそう言っていた。何だ、何が起きた、さっきから勇者がどうとか世界がどうとか色々ありすぎて、これ以上驚くことはそうないだろうとか思っていたが、そんな事は無かった。いや、そんな事すらどうでもいい、怖い、ただ怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


 身体は震え、歯がかみ合わせる事も出来ず、ガチガチと大音量を鳴らしている。背中の冷や汗どころか、身体中の汗腺から汗がにじみ出て、鳥肌が立つ。毛穴と言う毛穴は開いたまま閉じる気配がしないし、涙が今にもあふれだす寸前である。目を合わせる事すらできない。


「まおーさま、まおーさま、ちからおさえてなの。だれもしゃべれないの」


「あー、こりゃわりぃ、召喚で魔力を全て使いきっちまったからよう、どうしてもスキルの方で牽制しちまった」


 そう言った瞬間、目に見えない圧力が無くなり今までの恐怖が嘘だったかのように消え去っていた。やっと周りの様子を見渡せる程度には気持ちは落ち着いたが、いくら落ち着いたところで目の前に魔王ルシフェルと魔術師マリルの二人がいる事には変わりはなかった。


 魔王ルシフェル、その姿は全身に鎧を着こんでおり、背中にはマントをはためかせており、身長2m越えの銀髪銀眼。額の左方には大きな一本の角が生えている。勝手なイメージで言うと魔王と言うより、戦での総大将を思わせるような恰好であった。

 ここが異世界だという事を考えれば額に角が生えているだけの見た目だけで彼が魔王と判断する事は難しいだろう、そのステータスと最初の圧倒的な能力の差さえ見せつけられていなければだが。 

 

 魔王のステータスは女騎士以上の情報の洪水であった。視界全てが埋め尽くされてしまうほどでありすぐさまステータスを見る事を諦めさせられてしまった。何とか読み取る事ができたのは名前がルシフェルという事とレベルが158、ユニークスキルが5つ、称号に魔王があったという事ぐらいである。


 魔王の隣にいるのは魔術師マリル。その姿は小さな女の子であった。バランスボールよりもう一回り大きな水晶玉が宙にういてあり、その上にうつぶせで手足を大の字に広げた状態で寝転がっている。しゃべる時だけ首を上げて顔を見せるのだが、髪は淡い青色で瞳は濃いエメラルド、整いすぎたその容姿は綺麗と思わせるより怖いと思わせるほどである。

 

 魔王のステータスとは違い彼女のステータスはすっきりしていた。


 マリル Lv:89


 スキル

 詠唱術

 紋章術

 魔力感知

 

 ユニークスキル

 魔術の理


 称号

 魔王の右腕・召喚者・大魔術師・魔術を極めし者・人殺し・魔物殺し


「きみーいまなにかしたの」


 何よりその容姿以上に恐怖を感じたのは魔王ですら気付いていなかったステータスチェックに反応した事である。心臓の鼓動で鼓膜が今にも破れんほどの緊張を何とか押し殺し笑顔で首を横に振る。


「えー、おかしいの、きのせいなの?」

 

 いつの間にか音も立てずに目の前に来ていた水晶玉にのった彼女だったが、納得してなさそうな顔つきをしていたが、魔王の横にゆっくりと戻って行った。

 

 もういやだ、なんだよこいつら怖すぎる。何で俺レベル2で魔王城にいるんだよ。どんな罰ゲームだよ、世界はやっぱり俺に優しくないのか、ムリゲーにも程がある、いろんな悪態が頭の中を駆け巡っていったが無理やりそれを全てのみ込む。


 落ち着け、そんな状況ではない事は百も承知だが、落ち着け。

 俺は勇者になるんだろう、魔王を倒すんだろう、今現在は絶対倒せないであろうが、最後には魔王を滅ぼす勇者になり、世界に平和をもたらすんだろう。


 だったら今することは何だ、生き残る事だろう。どんなことが起きても、いかに生き恥をさらしても今はここから生き残る事が何よりも大事な事だろう。


 よしよし、落ち着いてきた。そうだ女騎士だってレベルは120以上あったはずだ、もしかしたら俺もそれ以上のレベルをいずれ手に入れる事も出来るかもしれない、そうすればいずれは目の前にいる魔王を打倒しうる力にもなるはずだ。よしよし今は戦略的撤退、隙をついて逃げる、これしかない。


 自分の頭の中でどうするか指針を決め終えた時、魔王の最初の質問に召喚された俺を含む三人の内の一人が返答し始めた。


「私の名前はベルチェ、種族はサキュバスよ、レベルは43、自慢のスキルは当然誘惑よ。さっきから魔王様見てるとゾクゾクしてくるんだけど、いっしょにおあそびし・ま・せ・ん・か」


「ほう、あの圧力を受けてまだそんなこと言える気力があったか、スキルを使ったら殺すが、それ以外だったら相手してやるよ、次!!」


「俺の名前はサイト、種族は一応鬼族だ、正確には鬼族とマチルダ族のハーフだがな。レベルは13、スキルはユニークスキル風角天穴ってのを持っている。よろしく頼む」


「なるほど、生意気そうなガキだな、よし、次!!」


 サキュバスを名乗った女性はいかにもといったボンッキュッボンッの、男であるならつい二度見してしまうような身体の持ち主であり、鬼族を名乗ったサイトは見た目十歳程の子供は魔王に比べると小さいがきちんと額に二つの角が生えていた。


「あぁ、どうした、お前だよ、変な服着た小僧」


 二人に意識を向けすぎた所為か自分の番に気付かなかった。大丈夫だ、いける、自信を持て、俺ならこの難関を突破できるはずだ。確かに元の世界のパーカーにジーパンってのはこの世界では変な服にカテゴライズされるかもしれないが、って、まてまて落ち着け今はそんな事はどうでもいい。生き残るために返答するべきだ、俺なら出来る!!


「すまない、俺の名前はユウ、種族は恐らく鬼族だ、詳しくは良くわからない確か爺さんが鬼のハーフだってのは教えてもらったがそれ以降は知らない。レベルは2だ、スキルは大したもんは無いがあえて言うなら紋章術だな。精一杯頑張るんで指導の程宜しくお願いする」


 ドッドッドッド、この場において何度目だろうか、鼓動が痛いぐらい鳴り響く。内心をおくびにも出さずにむしろ不敵な笑顔を見せつける。これでいいはずだ。


 明らかに人族である俺にも聞いてきたって事は魔族にも人族に似た種族の奴がいるってことだ。しかしその種族が何なのかまでは俺には分からない。しかしサイトがいっていたハーフと言う言葉からして種族間にも子供が生まれる事が分かる。


 また、魔王の角に対してサイトの角は明らかに小さい。これはハーフが関係しているからだろうと推察。であるなら、その血がかなり薄まれば角がない鬼族もいると考えられるはずだし、鬼族とどこかにいるであろう人族に似た魔族の血を受け継いでいると考えればそんなにおかしくないはずだ。


 レベルは偽るか迷ったが、こちらにも魔力板と同じものがあるのなら嘘をついてもすぐにバレルだろう。そしてサイトもそんなに高くないから大丈夫と判断。


 スキルは全く持って意味が分からないが、マリルと女騎士が確か紋章術を持っていたからそんなに悪いものではないのではと推測。鑑定は恐らくステータスチェックに使っているスキルであると考えられるが、こんなところでそんな有能であるであろうスキルを出来るならバラしたくもない。あとは魔王候補と言った言葉からこれから魔王に至る為の訓練が始まると考えれば最後の言葉をつければ完璧であろう。


 机上の空論、砂上の楼閣、そんなことは分かっている。だけど俺が生き残るために必要なものは、はったりと運以外にありえない。無理やり作っている笑みが今にも引きつりそうだ。


「ふん、よかろう。俺はもう疲れた、詳しい説明は明日にする各自休息を取れ」


 気付かれないように、静かに深いため息と拳を握りガッツポーズを取る。よし、いける。


「いや、待て……」


 !?


「明日からは訓練も始める。マリル、個室に連れて行く前に宝物庫へ連れていけ。好きな武器とアイテムを選んでおけ。それに合わせて訓練も決める。あそこには国宝級、伝説級、さらには聖神級に魔神級までいくつかあるからな。仮にも魔王候補なんだ自分にあったものを選んで見せろ」


 そう言って、魔王ルシフェルはその場を去った。


「こっち、きてなの」


 召喚の間を抜けて、そこから歩いて5分もしないうちに目的地であろう場所でマリルが止まる。なぜ断定できないかと言えば、目の前には扉ではなくただの壁しかないからである。しかしマリルが詠唱を唱えるとそこには扉が現れていた。


 これが魔法なのだろうか、と驚く以上に扉の先の光景に驚きを隠せなかった。そこには金銀財宝、武器に武具、装飾品と無造作に部屋一面に宝の山が置かれてあったからだ。これは上手くいけば何とかなるんじゃないかと。俺には鑑定のスキルがあるからどんなアイテムかは分かるはずだ。


 これだけのアイテムがあれば隙をつけば逃げれるような宝具は流石にあるんじゃないかと今まで絶望の橋渡りが永久に続くかと思える中でやっと希望が見えたような気がした。


 サキュバスは宝物庫に入って2分と経たず武器とアイテムをいくつか選び出て行った。サイトも十分ほど選んでいたのは目に入っていたがいつの間にか出て行っていたらしい。マリルは出て行った二人には別の人物をつけたのか、ずっと俺の後ろで何も言わずだけれども結構な近距離で、じーっと見ていた。


 別に見ているだけならどうってことない、そんな事より今はここのアイテムの確認をすることの方が大切だろう。召喚の間にいた時と同じように心臓の鼓動が高鳴る。今度のは命の危険性、恐怖による高鳴りではない。ここから脱出する事への算段を立てる事が出来た事へと、一縷の希望は自信へと移り、興奮へと変わる。いける、ここから無事脱出できる。




「―――おい、小僧。お前本当に魔族か」




 後ろから聞こえた声は幻聴ではないのか、現実逃避と分かっていてもそれにすがるしかなかった。恐る恐る、後ろを振り向くとそこにはいないはずの人物が立っていた。浮かれていた思いは砕け散るどころか一瞬で消え去り絶望の色へと蝕まれてゆく。


 そこには魔王ルシフェルが立っていた。

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