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第三話:急展開

 指輪をつけた後は今まで何を言っているか分からなかった言葉が理解できるようになっていた。結論から言えばここは異世界であり、俺達四人は魔王を倒すための勇者としてこの国リズバーグヘ召喚されていたとのことらしい。


 国王の説明を簡単にまとめてしまうとこういう事だった。

 この世界は大きな大陸二つから成り立っている。その一つが主に人族が暮らしている聖大陸と呼ばれている大陸であり、ここリズバーグもその聖大陸で1、2を争うほどの大きさの大国である。またもう一つの大陸は魔大陸と呼ばれており主に魔族が暮らしておりそこにも大小多数の国家があるとの事だ。


 その聖大陸と魔大陸、人族と魔族との戦争≪人魔大戦≫が現在起きており、人族側の戦況が芳しくない。もともと人魔大戦の始まりは二千年前にも遡ると言われそれから百年単位で休戦と開戦を繰り返している状況との事。この度の人魔大戦の始まりは聖大陸に属する小国家の一つである姫君が暗殺された事により開戦の火花は散り5年前から戦争を行っているとの事である。


 人族や魔族以外にも様々な種族がおり、国家も作っている所もあるらしいが、基本的には人族側か魔族側のどちらかに分かれて争っている。同じ種族でも住んでいる地域によってはそれぞれ人族と魔族に分かれて争っている事もあるらしい。

 

 基本的に全ての争いは魔族側からの一方的な虐殺から始まり、人族側からの休戦条約の申し入れにより休戦となる事がほとんどであるらしい。此度の争いは圧倒的に人族側が不利な状況となっているとの事で、それを打開するための策として行われたのが古より伝わる勇者召喚であった。


 この世界または異世界より勇者の素質があるものを呼び出し、その呼び出しの際に新たなる能力、スキルを付随しての召喚をすることにより魔族を打ち破る力を持ったものに世界の為に戦ってもらうといったものだった。その為にここリズバーグの王都ルーランドにある王城に召喚されたとの事だった。

 

 新たに手に入るスキルの中でも特に別名ギフトと呼ばれる事もあるユニークスキルはそのスキルを手に入れたもの以外は覚える事は出来ない強大な能力であり、それを持っているだけでも一騎当千の力があると言われているほどである。この大国リズバーグでもたった三名しかユニークスキルを持っているものはおらず、その者達は三勇士と呼ばれこの国の英雄でもあるらしい。


「さて、早速そなたたちの名前、レベル、スキルを教えてくれ」


 と、言われて渡されたものはスマフォぐらいの大きさの小さな板であった。それに触れると、先ほど見ていた自分のステータスがその板に映し出されていた。名前にレベル、スキルに称号と。称号だけは5つしか書かれていなかった。これは魔力版と呼ばれているもので、触れるとその人の魔力を読み取り情報を掲示するものであるらしい。この世界の身分証みたいなものであり、何かする際には提示を求められることがあるとの事だ。ちなみにと魔力が無い人はどうするのか聞いてみたところ、魔術を使えない人はいるものの魔力が全くない人はいないとの事だった。


 魔力板をみながら俺たち三人はレベルとスキルの報告を行う。ステータスを見る事が出来なかったローブの人もユニークスキルを持っていると言っていた。俺だけ持っていないのかとちょっとだけショックだったのは内緒である。王様一同も俺の報告の時だけあからさまに落胆していた気がする。

 さて、召喚されし勇者が四人いるのに、なぜ報告が三人かと言うと、例の女騎士はずっと俺の隣で泣いていたからだ。俺の左腕をつかんだまま、王様の説明から魔力板を渡された時までずっとである。


「……うぇ、ぐす、ううぅぅ、ふぇえええん、ぐすぐす」

「だいじょう……」

「うえええぇえええぇええええええ」


 少し泣き止んだかと声を掛けてみれば、俺の顔を見てまた泣き声が悪化したのを何度か繰り返していた。あきらかに俺と同じぐらいの年齢または少し上ぐらいの女性がこうも泣いているのは慣れないものである。別に悲しくて泣いているわけではないのはその整った顔が時おり笑顔を見せていることから分かるのだが、周りからの最初はどうしたものかといった眼差しはいい加減にどうにかしろよといった冷たい目線に変わってあり少し辛いものがあった。

 

 せめて名前とレベルとなんてユニークスキルがあるかだけでも教えてくれないかと優しい声色で周りの視線に負けずに訴えかけたところ他の三人が報告を終えて十五分以上は経った後にようやく答えてくれた。


「……アセリア、レベル60、ギフトは持ってない」

「……どうしt」

「ふぇえええ、ええええええええぇぇぇ、ぐす、えええええん」


 俺の問いかけはそれ以上の泣き声に消えてしまった。また、レベルが60といったのを聞いた周りのざわめきが大きくなっていた。恐らくだが、レベルが高いから驚いているのだろう。しかし、彼女の本当のレベルは122であり、ユニークスキルは持っているはずである。どうして嘘を言ったのか気になるところだが、とりあえずは泣き止んでから聞くことにしよう。


「さて召喚されし勇者たちよ。平和の為に、この世界を救って下されないか」


 一通り説明が終わったのだろう、王様が真剣な眼差しで問いかけてきた。


「はい、任せて下さい」

「ちょっと待て、こっちは勝手に呼び出されているのにただ世界を救ってくれっていうのは厚かましくないか」

「そうですね、何か報酬と元の世界に帰る術があるのか教えて欲しいですね」

「ぐすぐす」


 俺、獣耳、ローブ、女騎士とそれぞれが返答した。女騎士は泣いていただけだが。俺は元の世界でてっきり死んだものと考えていたので元の世界の事なんて考えてもいなかったが、俺以外の人は気になって当然のことだ。召喚されし者たちの返答を聞いて再び王様以外の人物たちがざわめきだっていた。何か雰囲気がおかしくなり始めた気がしたが、そのざわめきを打ち消すかのように王は声を張り上げた。


「むろん、魔王を打ち破るまでに必要な経費は極力出すことにしよう。また魔王を倒すことが出来れば一生遊んで暮らすだけの金銀財宝を渡すことを約束しよう。この世界でそのまま暮らしてもいいし、その財宝をもって元の世界に帰っても良い。当然元の世界に帰る術はある!!しかし、今そなた達に元の世界へ戻られるとこの世界は十中八九魔族の手によって滅びるだろう!!我々も生きるために必死なのだ、申し訳ないが帰る術は魔王を打倒した時の報酬という事で納得して頂けないか!!」


 言ってることも、やってることも結局は見ず知らずの人をこの世界に無理やり拉致してきて、自分たちでは打倒しうることが出来ない強大な敵へ戦わせるといった極悪非道といっても過言ではない方法だ。

 だけど、だけれども、俺は感動してしまった。この世界なら、俺はやっていけるかもしれない。どうして前の世界ではあんなにも生きるのが苦痛だったのかと、世界とのずれを感じていたのかと。それはこの世界に来るためだったのではないのかと。今までの短い人生でこれまでの感情の高ぶりを感じる事が出来たのは初めての事だった。やってやる、どんな困難も乗り越えてやる、俺は今までにないぐらいやる気に満ちていた。




 結局は前の世界もこの世界も根の部分では全く一緒なものだと、どう頑張っても世界と自分はとてつもなくズレているものだという事をこの時の俺はまだ知らない。取り返しのつかない事が起きて人はやっと気づくことが出来る、どんなに嘆いても取り返すことは出来ない、この時の俺は愚か以外の何者でもなかった。




 さてと、王様は再び同じセリフを吐いた。この世界を救ってくれるかと。


「任せて下さい」

「よし、いいだろう」

「……まぁ、今のところは乗るしかないみたいですね」

「うぇえぇえぇぇ」


 三人が同意を示し、一人は泣いたままだが、王様は笑顔で頷いた。


「では、我が国の勇者として、任命の儀式があるのじゃ、それを今から行う事とする。それぞれ別室で行うので係りの者について行ってくれ」


 目の前に来た魔術師風のローブを着たものについて行こうとしたが、左腕を引かれている事に気付く。左側にはずっと女騎士がいたわけだが、泣きながら首を横に振っていた。どうしたものかと、今から別々に行動する事を伝え、彼女の担当のローブの人についていくよう伝えるが、いやいやと首を横に振る。すごく可愛いのだが、困ったことにこれでは話が進まない。彼女は勇者として働きたくないのかと思い、それならばと俺だけは任命の儀式をしてくるので少しの間待っててくれと伝えても首を横に振る。何か言っている気がするのだが、泣きながらの声で何を言っているか分からない。流石に万能言語の指輪でも言葉にならないものは伝わらないらしい。


 勇者になろうという気持ちに溢れていても流石に懐いているであろう泣いている女性を放ったままどこかに行くことは俺には出来ない。さらにレベル差の所為なのだろうか、左腕を捕まれている事もあり、物理的にも彼女から離れる事は出来そうにない。だったらと気持ちを切り替えて彼女が落ち着くまで待って欲しいと伝えると、いささか考えた後に仕方は無いでは二人の儀式は明日行うものとする、今日はゆっくり休むがよいと王様より許可を得る事が出来た。


 その事をちゃんと聞いていたのであろう女騎士は何事もなかったかのように笑顔で俺の後についてきた。ローブの人に客室に案内されるが、同室は不味いであろうという事で別々の部屋で休むことになったのだが、そこでも一悶着があった。またいやいや攻撃があったのである。流石にこれは俺も別室であるべきだと思ったのでなかなか平行線のまま問答が繰り返されたが、結局隣同士の部屋という事でしぶしぶどうにか納得してもらう事が出来た。


 腕がやっと解放され、それぞれの部屋に入ろうかとしているときにさえ不満げな顔をした女騎士がじっとこちらを見つめていた。その瞬間床がまぶしいぐらい光輝いていた。


「……えっ」

「―――ゆうううううううううううううう!!」


 自分が立っているその場所に広間にあったような魔方陣が光輝き描かれていた。俺は何が何だか分からないまま動揺していたが、女騎士は俺の名前を叫びながら人の動きとは思えないぐらい速さでこちらに向かっていた。まぶしくて目がまともに開けていられない程であったが、あと少しで彼女と指先が触れるかと言う時に視界は全て真っ白に染まり、身体の感覚は消えていった。





 身体の感覚が戻り、光が収まったのを確認した後に目を開いてみると、そこは先ほどまでの客間の前ではなかった。どちらかと言うと先ほどまでいた大広間に似たような場所だったが、そことははっきり違う場所という事は分かった。なぜなら大広間では王様が座っていた場所に明らかに違う人物が座っていたのだ。そして彼はこちらを見渡すように立ち上がりこういった。



「ようこそ、魔王候補の諸君!!君たちは次期魔王に選ばれた!!」



 何がなんだか理解できないまま、頭の奥底で何かを得たのを感じ取った。

 称号“魔王の卵”獲得。と。

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